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生活の変化
女の子生活
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朝、いつもの様に飛び起きてクローゼットを開けると、どこを探しても愛用のブラウスとズボンが見当たらなかった。僕はぐぬぬと歯を食いしばって呻いた。
まさか10歳の誕生日の翌日から実行されるとは、さすがの僕も読みが甘かった。それだったら、どこかにズボンを隠しておいたのに!一体どれを着て乗馬に行けばいいんだ。
僕が呆然とクローゼットの前で立ちすくんでいると、マリーが機嫌良く入って来た。僕の様子を苦笑して見つめると、装飾の少ない真っ赤なドレスを取り出して言った。
「これは奥様がアンドレア様用に用意して下さったものです。乗馬を止めるはずがないと仰って。」
言われてみれば、足元は他より短めで、スリットがあって足捌きが良く、腕や見ごろはシンプルで引っ掛かりが無かった。しかし裏を見ると可愛らしいリボンが並んでいて、それがお母様の抵抗の様に感じて思わず笑ってしまった。
「さすが、僕の愛するお母様だ。では早速行ってくるね。」
いつもの様に、愛馬のメリーと丘に向かって駆けていると後ろから二頭がやって来た。僕は思わずスピードを上げて、丘に先にたどり着いた。
「アンドレアは相変わらず速く飛ばすね。そろそろメリーも辛いかもしれないよ。」
そう言いながら、満面の笑顔で馬から降り立ったのは、フレッド兄様だった。そしてその後ろから馬を降りたのは、僕の許嫁であるラファエルだった。サラリと揺れる真っ直ぐな銀髪には、僕も思わず目が釘付けになった。なるほど、昨日ご令嬢方が騒いでいたはずだ。
「おはよう、アンドレア。素敵な乗馬ドレスがよく似合うね。」
そうラファエルが言いながら、僕の手を掬うと乗馬用の手袋越しに口付けた。僕は同世代の男の子たちに、こんな扱いを受けた事がなかった。それもそうだ。いつもは彼らと同じ様な格好をしていたのだから、女の子扱いされるわけがない。
思わず固まってしまった僕の手を握ったまま、ラファエルは僕を倒木まで連れていくと、胸元からハンカチを出して敷くと僕に座る様に促した。
僕は思わず引き攣っていたに違いない。しかも真剣なラファエルの後ろで、フレッド兄様が腰を屈めて苦しげに笑っている。フレッド兄様は笑いの滲んだ声でラファエルに尋ねた。
「ラファエルはアルのお転婆ぶりはよく知っているだろう?随分レディの様に扱うんだな。」
するとラファエルは僕の隣に腰掛けると、自分の乗馬用の手袋を外して、風で乱れた僕の髪をそっと撫でて整えてから、僕の目を覗き込んで言った。
「アンドレア、いや、アルは昔から私にとっては大切なレディだ。アル、私のことはエルと呼んでくれるかい?」
まさか10歳の誕生日の翌日から実行されるとは、さすがの僕も読みが甘かった。それだったら、どこかにズボンを隠しておいたのに!一体どれを着て乗馬に行けばいいんだ。
僕が呆然とクローゼットの前で立ちすくんでいると、マリーが機嫌良く入って来た。僕の様子を苦笑して見つめると、装飾の少ない真っ赤なドレスを取り出して言った。
「これは奥様がアンドレア様用に用意して下さったものです。乗馬を止めるはずがないと仰って。」
言われてみれば、足元は他より短めで、スリットがあって足捌きが良く、腕や見ごろはシンプルで引っ掛かりが無かった。しかし裏を見ると可愛らしいリボンが並んでいて、それがお母様の抵抗の様に感じて思わず笑ってしまった。
「さすが、僕の愛するお母様だ。では早速行ってくるね。」
いつもの様に、愛馬のメリーと丘に向かって駆けていると後ろから二頭がやって来た。僕は思わずスピードを上げて、丘に先にたどり着いた。
「アンドレアは相変わらず速く飛ばすね。そろそろメリーも辛いかもしれないよ。」
そう言いながら、満面の笑顔で馬から降り立ったのは、フレッド兄様だった。そしてその後ろから馬を降りたのは、僕の許嫁であるラファエルだった。サラリと揺れる真っ直ぐな銀髪には、僕も思わず目が釘付けになった。なるほど、昨日ご令嬢方が騒いでいたはずだ。
「おはよう、アンドレア。素敵な乗馬ドレスがよく似合うね。」
そうラファエルが言いながら、僕の手を掬うと乗馬用の手袋越しに口付けた。僕は同世代の男の子たちに、こんな扱いを受けた事がなかった。それもそうだ。いつもは彼らと同じ様な格好をしていたのだから、女の子扱いされるわけがない。
思わず固まってしまった僕の手を握ったまま、ラファエルは僕を倒木まで連れていくと、胸元からハンカチを出して敷くと僕に座る様に促した。
僕は思わず引き攣っていたに違いない。しかも真剣なラファエルの後ろで、フレッド兄様が腰を屈めて苦しげに笑っている。フレッド兄様は笑いの滲んだ声でラファエルに尋ねた。
「ラファエルはアルのお転婆ぶりはよく知っているだろう?随分レディの様に扱うんだな。」
するとラファエルは僕の隣に腰掛けると、自分の乗馬用の手袋を外して、風で乱れた僕の髪をそっと撫でて整えてから、僕の目を覗き込んで言った。
「アンドレア、いや、アルは昔から私にとっては大切なレディだ。アル、私のことはエルと呼んでくれるかい?」
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