男装令嬢は溺愛許嫁から逃げ出したい!だって中の人は僕ですから!

コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26

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辺境の地で

僕の許嫁

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「お集まりの皆さん、今日は愛娘アンドレアの10歳の誕生日、及び社交界へのお披露目のめでたい日ですが、更にご報告したいことがあります。正式な婚約発表は16歳になりますが、アンドレアの許嫁を皆様にご紹介したいと思います。

…グローバンス侯爵家の嫡男、ラファエルです。彼の父親であるグローバンス侯爵は私の学生時代の親友です。侯爵たっての望みにより、この素晴らしい婚約が内定いたしました。」


大広間は途端に大きく騒めいた。ひどく興奮しているのは特に女性陣で、御令嬢達は悲鳴をあげている者もいる始末だった。僕はお父様の側に立っている少年を何処かで見たような気がしていたけれど、どうにも思い出せなかった。

眉間に皺が寄っていたのか、フレッド兄様が僕に近寄って来て囁いた。

「アル、彼のこと覚えてないかい?以前俺たち一緒に遊んだろう?ほら、アルが落ちた雛を木の上の巣へと戻した時。あの時に一緒にいたんだけどね。彼は俺の友達だよ。」


記憶の欠片が少しづつ蘇る様な気がしたけれど、あの時の木登りは思い出せても周囲の様子は思い出せなかった。それでも彼が時々僕を見つめる眼差しは、明らかに僕を知っている様だった。僕は肩をすくめて、一向に近づいて来ない形ばかりの許嫁を放って、近くにいる剣の仲間と話してばかりいた。

不意に音楽が演奏されてダンスが始まる様だった。僕が誰と最初に踊るのかと、周囲を見回すと、例の許嫁であるラファエルがゆっくり僕の方へ向かって歩いて来た。


急に辺りは静まり返って、僕の周囲にいた仲間も距離を取ってしまった。僕はラファエルをじっと見つめた。フレッド兄様の友人ならばたぶん13歳やそこらの彼は、銀色のサラリとした髪を肩まで伸ばしていた。そして切長の濃い灰色がかった瞳は印象的でさえあった。

僕より頭ひとつ背が高い彼はそっと手を差し出して言った。

「アンドレア嬢、私と一曲踊っていただけませんか?」

僕はラファエルの向こう側でヤキモキしている、両親や兄弟の圧を感じながら強張った顔で頷くと、差し出された手の上に自分の手を乗せて言った。


「ええ、喜んで踊りますわ、ラファエル様。」

ホッとした表情の家族の反応に気を良くした僕は、ラファエルにリードされるがままダンスホールの中心に立って、音楽が始まるのを待った。皆が注目する中、ラファエルは僕の耳元へ唇を寄せて囁いた。

「アル、ようやく君を手に入れたよ。決して君を逃さないからそのつもりでね。」

僕はラファエルの言った言葉の意味するところが全然分からなかったけれど、ダンスは始まってしまったし、踊り出せば、僕の身体はダンスを楽しんでしまうしで、ラファエルの言葉は僕の記憶から薄れて行った。

幸運だったのは、ラファエルはダンスが上手だったので、随分楽しめた事だ。でも結局僕に分かったのはそれだけだ。



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