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辺境の地で

10歳の誕生日会の始まり

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大広間から聞こえてくる優美な音楽に、僕はもしかしたらダンスをお披露目する事になるのかと少し楽しくなった。僕にとってはダンスは運動の一環で、あれはスッテプという名の剣舞だ。そう考えてウキウキしていると、控えの間にお父様が現れた。

お父様は僕を見るなり、口をパカンと開けて何も言えない様だった。しかし直ぐに気を取り直して、僕の側にやって来ると、お母様と抱き合った。あれ…僕かと思ったのに、なんだか想像した光景じゃないな。すると二人は僕を見つめながら、これまでの僕の色々な男の子っぽいやらかしを話し出した。ああ、苦労を労わりあってるって訳ね?

僕はいつまでも終わりそうもない両親の慰め合いを止めるべく口を開いた。

「お父様、良い加減に広間に行かないとセバスチャンがお迎えに来てしまいませんこと?それに少しは、私の忍耐にお声を掛けてくださってもバチは当たりませんわ。」


すると満面の笑みで、何故か目元を光らせて言った。

「ああ、すまなかった。あまりにも私達の娘が美しく可憐だったのでね、感動してしまった。本当に幼い頃から山猿の様に転げ回っていたとは想像もつかないよ。やっと私達の手の中に娘が帰ってきた。」

僕は随分両親を苦労させたのだと反省はしたものの、そうは言っても可憐なアンドレアの中に、僕が居るのはしょうがない事なので、上手く折り合って行くしかないとますます考えこむ事になってしまった。


お父様にエスコートされながら大広間の会場に進むと、大きなどよめきが波の様に広がっていくのが感じられた。いつも剣の相手をしてくれている、年の近い辺境付近の貴族令息たちや騎士の子息達が、目を見開いているのが面白かった。

もしかしてこの中に僕の許嫁が居るのだろうかと、少し睨む様に見てしまったのはご愛嬌だ。そしてメインテーブルにはフレッド兄様、シモン兄様、そして長男のオリバー兄様が待っていた。

絶対頭が上がらない18歳のオリバー兄様が満足気に僕を見つめるのを、少しイライラしながら見つめ返すと片眉を上げたので、思わず取り繕う様に微笑んでしまったのは、すっかり負けた気分だ。


お父様が集まってくれた沢山のお客様に僕のことを紹介すると、華やかな誕生日会が始まった。僕の婚約も噂になっているのか、誰がそうなのかとあちこちから噂が聞こえてきた。

御令嬢達も来てくれていたけれど、普段ほとんど接点が無いので当たり障りのない挨拶と、妙に値踏みされる視線を投げかけられるのがオチで、やっぱり僕は女の子が苦手だと感じてしまった。


唯一の女の子の友達は、仲良しの令息シドの妹、マチルダだったけれど、9歳の彼女は、他の10歳以上の御令嬢に遠慮して僕に近寄って来なかった。僕はマチルダと目を合わせて手を振ったけれど、せいぜい出来たのはそれくらいだった。

というのも、次々にダンスの申し込みが来て、流石の僕もダンスリストがいっぱいになってしまって、それに対応している間に、他の事をする余裕が無かったのもある。いよいよダンスタイムになろうかという時、お父様がグラスを叩いて皆の注目を惹いた。






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