57 / 197
バースの世界
孤独
しおりを挟む
俺はスマホを閉じた。あれから変異Ωについての都市伝説的な噂話がひとしきり流れて、俺はまたトークに戻る気も失せてしまって、挨拶もせずに退出した。
結局バース界でも異端な俺は、どこにも受け皿がない。桂木先生に相談するしか手がないんだ。俺は凹んでいてもしょうがないと、スマホを放り出して目を閉じた。
こんな時は山駆けに行くに限るんだけど。俺は目覚ましを5時にセットすると、カーテンが開いた窓越しに見える白路山を眺めた。今夜は月明かりでぼんやりと山の木々が鬱蒼と見える。こうして見ると怖いくらいのその存在は、一歩足を踏み入れると懐深く俺たち山伏をいざなう。
俺は何だかくさくさした気分が、解ける様な気持ちになって目を閉じた。
スマホの目覚ましが鳴る直前に目を覚ました俺は、アラームを解除してスマホに光る着信を見た。叶斗と高井から、それぞれおやすみと俺の眠った後にメッセを送ってきてあった。
こんな事されると俺があいつらの彼氏みたいだと少し笑えて、俺は水を一杯だけ飲むと玄関を出た。夏が近いせいか5時過ぎでも空は白々と明るさを感じて、気持ちが良かった。
そうは言っても早朝に一人山を駆けるのは危険なので、俺は観光客が使う初心者用の整備されたコースを息を整えながら走り出した。このコースを走るのは久し振りだった。
少し行くと、丁度眩しい朝日が朝露に濡れた地面を照らして、俺は少し神妙な気分になって立ち止まった。オレンジ色の太陽が薄紫色の空を照らして、じわじわと世界を支配するのは何とも厳かで身が引き締まる思いだった。
俺の抱えている悩みなど、この世界ではちっぽけなものだとそう言われている気がして、俺はニヤリと笑うとまた足早に地面を蹴った。
1時間ほど山駆けして家に戻ると、キッチンから父さんが玄関へ顔を出した。
「岳、どこに行くかくらいメモ置いていけ。」
俺は肩をすくめると、浴室へ向かってシャワーを頭から浴びた。渦巻く感情や疲弊した精神をデトックスするにはまだ足りない気がするけれど、取り敢えずあいつらに今日顔を合わせるくらいの気力は出た気がする。
父さんの用意してくれた潰れた目玉焼きを、文句を言いながら口に放り込むいつもと変わらない朝を、俺はじっくりと噛み締めた。俺自身はβの時と何も変わっていない。少しだけ、そう、少しだけ身体が…。
これ以上は考えない。俺はおかわりをしに椅子から立ち上がった。今日も頑張っていきましょう!
結局バース界でも異端な俺は、どこにも受け皿がない。桂木先生に相談するしか手がないんだ。俺は凹んでいてもしょうがないと、スマホを放り出して目を閉じた。
こんな時は山駆けに行くに限るんだけど。俺は目覚ましを5時にセットすると、カーテンが開いた窓越しに見える白路山を眺めた。今夜は月明かりでぼんやりと山の木々が鬱蒼と見える。こうして見ると怖いくらいのその存在は、一歩足を踏み入れると懐深く俺たち山伏をいざなう。
俺は何だかくさくさした気分が、解ける様な気持ちになって目を閉じた。
スマホの目覚ましが鳴る直前に目を覚ました俺は、アラームを解除してスマホに光る着信を見た。叶斗と高井から、それぞれおやすみと俺の眠った後にメッセを送ってきてあった。
こんな事されると俺があいつらの彼氏みたいだと少し笑えて、俺は水を一杯だけ飲むと玄関を出た。夏が近いせいか5時過ぎでも空は白々と明るさを感じて、気持ちが良かった。
そうは言っても早朝に一人山を駆けるのは危険なので、俺は観光客が使う初心者用の整備されたコースを息を整えながら走り出した。このコースを走るのは久し振りだった。
少し行くと、丁度眩しい朝日が朝露に濡れた地面を照らして、俺は少し神妙な気分になって立ち止まった。オレンジ色の太陽が薄紫色の空を照らして、じわじわと世界を支配するのは何とも厳かで身が引き締まる思いだった。
俺の抱えている悩みなど、この世界ではちっぽけなものだとそう言われている気がして、俺はニヤリと笑うとまた足早に地面を蹴った。
1時間ほど山駆けして家に戻ると、キッチンから父さんが玄関へ顔を出した。
「岳、どこに行くかくらいメモ置いていけ。」
俺は肩をすくめると、浴室へ向かってシャワーを頭から浴びた。渦巻く感情や疲弊した精神をデトックスするにはまだ足りない気がするけれど、取り敢えずあいつらに今日顔を合わせるくらいの気力は出た気がする。
父さんの用意してくれた潰れた目玉焼きを、文句を言いながら口に放り込むいつもと変わらない朝を、俺はじっくりと噛み締めた。俺自身はβの時と何も変わっていない。少しだけ、そう、少しだけ身体が…。
これ以上は考えない。俺はおかわりをしに椅子から立ち上がった。今日も頑張っていきましょう!
47
お気に入りに追加
1,380
あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
猫ばっかり構ってるからと宮廷を追放された聖女のあたし。戻ってきてと言われてももう遅いのです。守護結界用の魔力はもう別のところで使ってます!
友坂 悠
ファンタジー
あたし、レティーナ。
聖女だけど何もお仕事してないって追放されました。。
ほんとはすっごく大事なお仕事してたのに。
孤児だったあたしは大聖女サンドラ様に拾われ聖女として育てられました。そして特別な能力があったあたしは聖獣カイヤの中に眠る魔法結晶に祈りを捧げることでこの国の聖都全体を覆う結界をはっていたのです。
でも、その大聖女様がお亡くなりになった時、あたしは王宮の中にあった聖女宮から追い出されることになったのです。
住むところもなく身寄りもないあたしはなんとか街で雇ってもらおうとしますが、そこにも意地悪な聖女長さま達の手が伸びて居ました。
聖都に居場所の無くなったあたしはカイヤを連れて森を彷徨うのでした……。
そこで出会った龍神族のレヴィアさん。
彼女から貰った魔ギア、ドラゴンオプスニルと龍のシズクを得たレティーナは、最強の能力を発揮する!
追放された聖女の冒険物語の開幕デス!

嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....
廃妃の再婚
束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの
父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。
ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。
それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。
身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。
あの時助けた青年は、国王になっていたのである。
「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは
結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。
帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。
カトルはイルサナを寵愛しはじめる。
王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。
ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。
引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。
ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。
だがユリシアスは何かを隠しているようだ。
それはカトルの抱える、真実だった──。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される

当たり前の幸せ
ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。
初投稿なので色々矛盾などご容赦を。
ゆっくり更新します。
すみません名前変えました。
【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜
ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。
そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。
幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。
もう二度と同じ轍は踏まない。
そう決心したアリスの戦いが始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる