ちょっと味見したかっただけですわ〜伯爵令嬢の無謀な婚活〜

マリーの実験

ジュアスside愛の言葉

私は静かに震えながら泣いている可愛いマリーを膝の上に抱き上げると、ソファに寄り掛かった。どのくらい時間が経ったのだろう。ふと腕の中のマリーが静かになったのに気がついた。マリーは恥ずかしそうにわたしから目を逸らして言った。

「…ジュアス様は、わたくしの事がお嫌いになったのではないのですか？」

私はどうしてマリーがそんな考えを持ったのか不思議に思って尋ねた。

「私は若いマリーに一ヶ月、考える時間をあげただけなのに、どうしてマリーを嫌いにならなくてはいけないんだい？」


するとマリーは一ヶ月前の私が辛い顔をしていた事。最後のキスになると言ったこと。自分が私に酷いことをしていたと自覚した事。それを色々考え込んで、私がマリーを嫌いになったと思ったと結論付けていたのだった。

私はやはりマリーはどんなに大人っぽく見えても、まだ人生経験の少ない若い女性なのだと改めて認識したのだった。


「すまなかった。私はマリーの事が好き過ぎて、はっきりと愛を伝える事を恐れてしまっていたんだ。…君は余りにも若く、私はいい歳だ。

君の愛が手に入れられなかったらきっと、死ぬよりも辛い気持ちになるのではと恐ろしかった。だから愛を伝える事よりも、君に選択を与えるという様な小賢しい真似をして、自分が傷つくのを回避していたんだ。

私はマリーに初めて会った時から、目を逸らす事が出来ずにいた。君を知れば知るほど私は君に惹かれていった。今は君の愛を手に入れられなければ、きっと心が空っぽなまま人生を送る事になるだろう。

…マリー、君は私に愛をくれるかい？」


マリーはじわじわと頬を赤く染めて、にっこりと微笑んだ。

「わたくしの愛はジュアス様のものですわっ！」

そう言うと、私の首に抱きついて甘い唇を私に押し付けた。私は天にも昇る気持ちで腕の中の柔らかなマリーを抱きしめると、その甘い唇を味わった。

少し涙で濡れたその唇は、あっという間に熱くとろけて、私たちは夢中になってお互いの寂しさと悲しみを癒した。マリーの柔らかな口の中は甘かった。私に縋る様な小さな舌は、耳に心地よい甘い吐息と共に私を熱中させた。

私はこのひと月、眠れない夜を幾晩も過ごした。私の正直な愛の言葉、それだけがマリーに必要だった事に気づきもせずに。うっとりとした眼差しで私を見つめるマリーの青い瞳を見つめながら、私はもう一度ささやいた。

「マリー、君は私のもの…。そして私は君のものだ。」