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社交界の華
マイケルside大物過ぎる妹
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僕達家族は呆然とアンナマリーと王弟閣下が楽しげに踊る様を見ていた。はたから見ても、二人は知り合いの様だった。アンナマリーは言うなればいつもの様に輝く笑顔で話をしていたが、一方の王弟閣下は見たこともない蕩ける笑顔でマリーに囁いていた。
僕達だって仰天したんだ。ダンスホールの貴族達は興奮気味にヒソヒソと話をしながら踊り続ける二人を見つめた。それもそうだろう。王弟閣下は王が心配する程に、まじめに女性とは付き合わない事で有名だった。結婚対象でない相手とばかり浮名を流して、未婚の令嬢達の親にとっては垂涎の結婚相手だったにも関わらず、婚活市場に出てこない人物だったのだ。
均整のとれた身体はスラリとしながらも逞しく、印象的な灰色に色味を感じる瞳に王族特有の美しい金の髪は、嫌味のない柔らかな表情に華を添えていた。ダンスを終える直前、王弟閣下はマリーの額に周囲に見せつける様に口づけた。あれでは、ほかの貴族令息達がダンスを誘いに来るのを躊躇するに違いない。
ダンスを終えたマリーは王弟閣下にエスコートされて僕らの元に戻って来ると、息を弾ませて僕に飲み物を強請った。僕は使用人から飲み物を受け取るとマリーが飲むのを見ていた。王弟閣下はいつの間にか居なくなっていて、僕は隣にロナウド様が立っているのに気がついた。
少しばかり強張った表情のロナウド様は僕に囁いた。
「アンナマリー様は王弟閣下と婚約が決まったのかい?」
寝耳に水の僕は、全然そんな話はないと大いに否定すると、少し安心したようなロナウド様はマリーとダンスをしても良いかと父上に尋ねた。気を取り直した父上は笑顔で承諾すると、ロナウド様は嬉しそうに妹をホールに連れ出して踊り始めた。
楽しげな妹の笑顔と、ロナウド様の恋する若い男の表情は見てる者をほっこりさせたが、一方でデビュタントに唾をつけた王弟閣下の動向が気になるのか、チラホラと人々の視線は彷徨った。まぁ、僕もそのうちの一人だけれど。
結局、その後も熱心な求婚者であるキース様や、ロビン様を始めとする多くの独身貴族達が、アンナマリーの体力が尽きるまでダンスに誘い続けたお陰で、私たちはマリーから王弟閣下との繋がりの肝心な話を一切聞けずに帰路に着いたのだった。
そして、私達はアンナマリーの口から『貴族の令息達と口づけをする度に、王弟閣下に手紙でご報告していただけ』という、とんでもないセリフを聞く事となったんだ。
僕達だって仰天したんだ。ダンスホールの貴族達は興奮気味にヒソヒソと話をしながら踊り続ける二人を見つめた。それもそうだろう。王弟閣下は王が心配する程に、まじめに女性とは付き合わない事で有名だった。結婚対象でない相手とばかり浮名を流して、未婚の令嬢達の親にとっては垂涎の結婚相手だったにも関わらず、婚活市場に出てこない人物だったのだ。
均整のとれた身体はスラリとしながらも逞しく、印象的な灰色に色味を感じる瞳に王族特有の美しい金の髪は、嫌味のない柔らかな表情に華を添えていた。ダンスを終える直前、王弟閣下はマリーの額に周囲に見せつける様に口づけた。あれでは、ほかの貴族令息達がダンスを誘いに来るのを躊躇するに違いない。
ダンスを終えたマリーは王弟閣下にエスコートされて僕らの元に戻って来ると、息を弾ませて僕に飲み物を強請った。僕は使用人から飲み物を受け取るとマリーが飲むのを見ていた。王弟閣下はいつの間にか居なくなっていて、僕は隣にロナウド様が立っているのに気がついた。
少しばかり強張った表情のロナウド様は僕に囁いた。
「アンナマリー様は王弟閣下と婚約が決まったのかい?」
寝耳に水の僕は、全然そんな話はないと大いに否定すると、少し安心したようなロナウド様はマリーとダンスをしても良いかと父上に尋ねた。気を取り直した父上は笑顔で承諾すると、ロナウド様は嬉しそうに妹をホールに連れ出して踊り始めた。
楽しげな妹の笑顔と、ロナウド様の恋する若い男の表情は見てる者をほっこりさせたが、一方でデビュタントに唾をつけた王弟閣下の動向が気になるのか、チラホラと人々の視線は彷徨った。まぁ、僕もそのうちの一人だけれど。
結局、その後も熱心な求婚者であるキース様や、ロビン様を始めとする多くの独身貴族達が、アンナマリーの体力が尽きるまでダンスに誘い続けたお陰で、私たちはマリーから王弟閣下との繋がりの肝心な話を一切聞けずに帰路に着いたのだった。
そして、私達はアンナマリーの口から『貴族の令息達と口づけをする度に、王弟閣下に手紙でご報告していただけ』という、とんでもないセリフを聞く事となったんだ。
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