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社交界の華

ジュアスside伯爵令嬢アンナマリー

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アンナマリーは真っ直ぐに王へと目を向けると少しの間の後、目線をふせて言った。

「アンナマリー ジュリランド伯爵令嬢でございます。本日社交界デビュー致しました。王様へのお目通りが叶い嬉しく存じます。」

良く通る美しい声で型通りの挨拶の後、マリーは美しい所作で礼を取ると王からの返礼を受けたのち、他の令嬢と一緒に中央横に並んだ。


私は、らしく無いドキドキと鼓動を打ち続ける胸の音が隣にいる皇后に聞こえるのではないかと身動きした。皇后はチラリと私の顔を見つめると、心持ち唇を緩ませて何事も無かったようなすまし顔で再び正面を見つめた。

私は、聡い皇后が知らないはずは無いかもしれないと、諦めに似た気持ちと、これからの自分の行動が巻き起こす波乱を考えて、ますます鼓動を速めていた。


全ての令嬢が、今日エスコートされて来た相手とダンスをお披露目する時間が始まった。エスコート相手は、婚約者、あるいはそれに準じた者、あるいは家族が定番だった。アンナマリーのエスコート相手は嫡男の兄、アンソニーだったので、私は事前に情報を得ていたのにも関わらず、なぜか安堵のため息をはいた。

私は、ダンスが終盤に掛かると、舞台から降りてゆっくりとアンナマリーの家族のいる場所へと足を進めた。私の後ろ姿を兄上や母君がじっと見つめている気がしたが、そんなものに構ってる場合では無かった。

今、この場で波乱が巻き起ころうとも、アンナマリーの次のダンスの相手は私でなくてはならなかった。今日のデビューで予想される、数多い求婚者を振り払うにはどんな手でも使うつもりだったのだ。


アンソニーとアンナマリーがダンスを終えて、家族の元に戻って来た所に、私は自分の権力を使って前に進み出た。
驚きを隠せないジュリランド伯爵やアンソニー達を横目に、私は手を差し出してアンナマリーに言った。

「今宵は一段と麗しい私の可愛い生徒ですね、アンナマリー様。ダンスを一曲踊って頂けますか?」

最初、私が目の前に立った際には、家族の方を見つめて困惑していたアンナマリーだったが、私の言葉にハッと私を見つめると不躾なほど私の目を見つめて言った。


「…先生?」


いつも私を動揺させるアンナマリーを驚かせることに成功した事に気を良くして、私は軽く頷くと手を差し出した。アンナマリーは面白そうな事を見つけた子供のように、活き活きとした無邪気な微笑みでそっと私の掌に美しい指先を乗せた。


私はアンナマリーの手が私の手の中に入った事に何故か非常に安堵して、ダンスホールの中央へと一緒に歩き出した。
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