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社交界の華
ジュアスside社交界デビューの夜
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今夜はいよいよ可愛い私の生徒、アンナマリーのデビューの日だ。私は王宮に向かいながら、どの立場でマリーを迎えるか考えていた。兄君は煩く言うだろうが、母上はわたしの好きにさせてくれるだろう。勿論アンナマリーの話がジークから漏れてるならばだが。
散々アンナマリーに驚かされた身としては、今夜は反対に驚かせたい気持ちに傾いていた。私の事に気づくか、それはまた問題だけれど。
私は頷く兄上と、片眉を上げて面白がっている母上に軽く頷くと私の本来の立ち位置に収まった。舞踏会に流れている音楽がいよいよ響きわたり、辺りには興奮にも似た騒めきが聞こえて来る。そして鐘の音と共に大扉が開いて、呼びかけと共に一人づつデビュタントが入場してきた。
今年は18人の貴族令嬢が社交界デビューする。手元の爵位順の名前リストには、アンナマリー ジュリランドは6番目に載っていた。私は7番目以降の令嬢達が可哀想に思った。きっと、アンナマリーの後では誰も注目を奪わない事だろうと。
気づけば、私たちの目の前に一人づつ扉から呼称と共に進み出て、王に礼を払うと横に立ち並び始めていた。皆初々しく、華やかではあるが、いかんせん16歳の未熟な令嬢だ。可愛いけれど、私の様な人間の食指は動かない。まぁ、一部の親以外はそれも望んではいまいが。
そうこうするうちに、いよいよ6番目の令嬢の番になった。
『アンナマリー ジュリランド伯爵令嬢』
大扉から足取りも軽く入場してきた可愛い生徒に、私は言葉を失った。言葉を失ったのは私だけではなかった様で、舞踏会場には柔らかな音楽とマリーのコツコツと響く軽い足音が聞こえるだけだった。
そこには月夜姫がいた。舞踏会場に灯された蝋燭の光がマリーの身体の線を引き立てている、シンプルでいて華やかなカッテイングのドレスの生地に煌めきを与えている。装飾がほとんどないせいか、素材の良さが上品に引き立ってセンスの良さを浮き彫りにしていた。
どんな構造なのか、マリーが歩くたびに緩やかに揺れるドレスの裾は流れる様な動きを与えて、時々見え隠れする足元の青いグラデーションの靴の細いつま先が、顔の横に咲く薔薇飾りの青さを引き立てる。しかし身につけているものは所詮装飾に過ぎなかった。
私達の目を奪ったのは、アンナマリー本人の儚げでいて力強い、若い命の煌めきだった。吸い込まれそうな真っ青な瞳と、艶のある黒髪とのコントラストを通してそれは感じられて、微笑む口元の赤さはその声を響かせるのを期待させるものでしか無かったからだ。
アンナマリーは私達の前に進み出た。
散々アンナマリーに驚かされた身としては、今夜は反対に驚かせたい気持ちに傾いていた。私の事に気づくか、それはまた問題だけれど。
私は頷く兄上と、片眉を上げて面白がっている母上に軽く頷くと私の本来の立ち位置に収まった。舞踏会に流れている音楽がいよいよ響きわたり、辺りには興奮にも似た騒めきが聞こえて来る。そして鐘の音と共に大扉が開いて、呼びかけと共に一人づつデビュタントが入場してきた。
今年は18人の貴族令嬢が社交界デビューする。手元の爵位順の名前リストには、アンナマリー ジュリランドは6番目に載っていた。私は7番目以降の令嬢達が可哀想に思った。きっと、アンナマリーの後では誰も注目を奪わない事だろうと。
気づけば、私たちの目の前に一人づつ扉から呼称と共に進み出て、王に礼を払うと横に立ち並び始めていた。皆初々しく、華やかではあるが、いかんせん16歳の未熟な令嬢だ。可愛いけれど、私の様な人間の食指は動かない。まぁ、一部の親以外はそれも望んではいまいが。
そうこうするうちに、いよいよ6番目の令嬢の番になった。
『アンナマリー ジュリランド伯爵令嬢』
大扉から足取りも軽く入場してきた可愛い生徒に、私は言葉を失った。言葉を失ったのは私だけではなかった様で、舞踏会場には柔らかな音楽とマリーのコツコツと響く軽い足音が聞こえるだけだった。
そこには月夜姫がいた。舞踏会場に灯された蝋燭の光がマリーの身体の線を引き立てている、シンプルでいて華やかなカッテイングのドレスの生地に煌めきを与えている。装飾がほとんどないせいか、素材の良さが上品に引き立ってセンスの良さを浮き彫りにしていた。
どんな構造なのか、マリーが歩くたびに緩やかに揺れるドレスの裾は流れる様な動きを与えて、時々見え隠れする足元の青いグラデーションの靴の細いつま先が、顔の横に咲く薔薇飾りの青さを引き立てる。しかし身につけているものは所詮装飾に過ぎなかった。
私達の目を奪ったのは、アンナマリー本人の儚げでいて力強い、若い命の煌めきだった。吸い込まれそうな真っ青な瞳と、艶のある黒髪とのコントラストを通してそれは感じられて、微笑む口元の赤さはその声を響かせるのを期待させるものでしか無かったからだ。
アンナマリーは私達の前に進み出た。
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