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運命

僕の告白

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 「…僕は小さな頃から、エルフの国で一人だけ見かけが違っている事に酷く不安を感じていました。父上や母上、兄弟達から充分に愛情を受けているのを感じてもなお、その点についてだけは僕を怯えさせたんです。

 結局取り替えっ子だと教えられて、僕はそんな不思議な事があるのだと安堵して、自分の中でも落とし所が出来たせいで不安を拭うことが出来ました。

 この不思議な現象に巻き込まれてしまった僕自身は、僕と対になった多分銀色の髪に、青い瞳の耳が大きな相手のことを時々考える様になりました。もっとも考えた所で何か解決するわけでもないと思ってはいたのです。」


 話をじっと聞いている皆の視線を見回した僕は、心配げに僕を見つめるルキアスの灰色の瞳が温かく感じられて、それに励まされて言葉を続けた。

「…これは僕だけが感じた事です。誰にも話した事はありません。僕が結界の事故で意識を取り戻してしばらく、僕はしばらく記憶が不安定な状況にありました。今でも一部の記憶は思い出せません。

 その事故で、僕には別の世界の記憶が少し流れ込みました。こことはまるで別のものです。今考えるとこの世界には居ないこの黒い色は、その別の世界では珍しくなかった気がします。

 だから取り替えっ子の僕と対になった赤ん坊は、そちらの世界で生きている可能性が高いです。決して会う事が出来ない別の世界で、きっとその赤ん坊も僕の様に両親に愛されて幸せでいると信じています。

 お互いに別の人生を生きながらも、因縁めいた僕らは同じ星の巡り合わせで生きている気がします。」


 僕が話し終わってもその場は静まり返っていた。エルフの両親は複雑な表情で見つめ合っていた。彼らにとってはどう考えて良いか分からないだろう。

 自分達にそっくりな見かけの赤ん坊が別の世界で産まれただろうという予想は、割り切って受け入れられるわけではない。

 僕も取り替えっ子に不安を覚えた当事者だけれど、両親もまた自分の子供が取り替えっ子になってしまった被害者でもあったと、僕が大人になった頃から感じていた事だった。


 最初に動いたのは隣に座っていた父王だった。父上は僕の手を優しく握って言った。

「…お前がそんな経験をしていたとは知らなかった。確かに事故の後のお前はよそよそしくて、不安げな表情をしていたな。記憶が入り乱れていたせいだったのか。

 だが、お前が言うのだ。対になった赤ん坊も幸せな若者になっている事だろう。それだけで私達は充分だ。」

 僕は微笑むと、父王の手にもう一方の手を重ねて言った。


 「混乱していたのは少しです。僕が別の世界から取り替えられたとしても、母上のお腹から生まれてきたのですから、この世界のエルフの国生まれの父上の子供である事に違いはありません。」

 
 「何とも不思議な事だ…。しかしそのお陰で、我が皇太子は将来を共にする素晴らしい相手を得る事が出来たのだ。そうだろう?ルキアス。」

 メッツァ国の王はそう揶揄う様にルキアスに問いかけた。ルキアスは僕を真剣に見つめて口を開いた。

「マグノリアンがその様な生い立ちである事を初めて知りました。彼の感じた心細さを考えると胸が締め付けられます。けれども今の彼にはそんな影など微塵も感じられません。

 それもひとえにエルフの国で愛されて成長した証拠なのでしょう。」

 そう言うと、やおら立ち上がって僕の座って居るソファの前まで進み出た。

 それから僕の前に跪くと、僕の手を掬って口づけて言った。


 「マグノリアン、私は君を一生幸せにすると誓おう。少しの不安も苦しみもない様に取り計らおう。君を愛しているんだ。あの満月の夜、明るく笑う君に初めて会った時から何年も、私は君に魅せられ続けている。君を忘れることなど出来なかった。

 …結婚してくれるね?」

 撫で付けられた明るい金髪が、いつもより濃く感じられるルキアスは、とても素敵だった。僕は心臓がにわかにドキドキと踊るのを感じながら、この目の前の青年を今更ながらじっくりと見つめていた。

「…ルキアスって、こんなにカッコよかったんだね。何だかドキドキして困る…。」


 僕の小さな呟きにルキアスはクスッと笑って言った。

「ではマグノリアン、そのカッコいい私からの結婚の申し出の返事を貰えるか?」

 僕は目を見開いて、慌てて早口で言った。

「します!結婚します!ルキアス、僕と結婚して!?」

 周囲がドッと笑うのが聞こえて、アンディ殿下のひと言がその場に響いた。

「まったく、見ていられないですね。兄上の溺愛ぶりもそうだし、リアンのメロメロぶりもね。話が決まったのなら、晩餐会まで二人だけにしてあげないと、私達まで当てつけられて焼かれてしまいませんか?」



 結局、夜の晩餐会迄休憩を取る事になった。勿論僕はルキアスに手を引かれて二人行動中だ。

「僕、メッツァ王の前で随分失礼しちゃったのかな。」

 さっきの事をため息混じりに反省していると、ルキアスはクスクス笑って、腰に回した手を引き寄せてこめかみに優しく唇を押し当てた。

「父上は喜び以外は見えないさ。私が愛する相手と結ばれて一番喜んでいるのは父上だからね。王である事の重圧を知っている父上は、僕がこの国の王になってもマグノリアンが側にいてくれる事で、その重圧が軽くなることをよく分かっていらっしゃるのさ。」


 僕はルキアスの言葉に喜びが湧き上がったと同時に、こめかみに感じた熱い唇に思わず甘える様にルキアスを窺い見た。さっきまでの余裕のあるルキアスの表情が一瞬で強張って、僕に掠れた声でこう言った。

「まったく、マグノリアンは直ぐにそうやって私を切羽詰まらせるんだ。そんな顔をされたら場所を選ばずに押し倒してしまいそうだ。私の部屋にたどり着くまで我慢してくれるかい?」

僕もやっぱりドキドキが酷くなって、ルキアスに触れる身体が敏感になっているのを感じて囁いた。

「…うん。キスされたらもう歩けなくなっちゃいそうだから、我慢するよ。ルキアス、愛してる。」

少し赤らんだルキアスの顔が更に強張った気がしたけれど、ルキアスはそれ以上何も言わずに更に早足になった。ああ、胸が破裂しそう!














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