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運命

親友

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 メッツァ国の王様には書簡でおおよその事は伝えてあったものの、今回の縁談はお互いに望まれる事で本当に良かったと僕は内心ドキドキしていた。

 僕が帰国して父上に直交渉した際、ため息混じりに話してくれた事を頼りに、僕も今回の大胆な騙し討ちの様な事が出来たからだ。しかしメッツァ国を始めとして他の人間の国からエルフの国に、縁談の打診が頻繁に来ていたなど僕は全然知らなかった。




 『私は密かに葛藤を抱えるお前が、人間の国で自分自身を知って欲しいと思って彼方へ送り出したが、正直な所はやはり戻って来て欲しいと思っていたのだ。だが、あの事故の前にお前がこの国で皇太子と知り合っていたとは思いもしなかった。

 記憶を失ったのは、お前にとっては不幸だったかもしれないが、私達にとっては幸いだったかもしれん。少なくとも18歳迄私達の近くに居る事が出来ただろう?

 そうでなければ、きっともっと早くに彼の国へ行ってしまっただろうからな。』


 僕を見つめながら少し寂しげに言った父上の執務室を出てから、僕はそうかもしれないと耳飾りを指で撫でた。でも僕は大人になった今だからこそ、ルキアスと心を通わせあったのだと思うし、このすれ違った時間も僕には必要だった気がしていた。

 僕はふとヴァルに会って話す必要がある気がした。だから僕は明日にでもヴァルに会いに行く気でいたんだ。でもその日の夕食後、ヴァルは城にやって来て、僕らは満月に少し掛ける月明かりの中敷地を散歩する事になった。

 「帰国が急だったな。マグノリアン、何かあったのかい?」

 そう微笑むヴァルに僕は案外伝える難しさを感じていた。幼馴染で親友、情人だったヴァルに今回の事をどれくらい話すべきか迷いがあったからだ。


 「…初めての夜歩きの時、ヴァルは泣いていた僕を慰めてくれたんだよね?僕は今でもあの時の記憶が戻った訳じゃないけど、泣いていた理由はわかったんだ。

 満月の魔法が引き合わせたメッツァ国の皇太子と、あの日ヴァルの贈ってくれた腕輪を巡って喧嘩したんだ。それから事故が起きて、僕は彼のことをすっかり記憶から失ってしまった。

 今回の留学で、僕はもう一度彼に再会した。僕にとっては初めての様なものだったけど、結局僕らは再び惹かれあってしまった。まるで運命の様にね。」


 黙って聞いていたヴァルは僕の手をぎゅっと握ると、寂しそうに微笑んで言った。

「そうだったのか。結局マグノリアンは私の手の中から出ていく運命だったってことなんだね。

 …私は昔からマグノリアンが大好きだった。けれどマグノリアンは時々寂しそうな顔をする事があって、私はその隙間を埋めてあげたくて必死だった。幼い頃はそれを友情だと思っていたけれど、年頃になるとそれは恋だと分かってしまった。

 何も知らないマグノリアンを私のものにするのは簡単だった。まして事故の後のマグノリアンは記憶もあやふやで不安定だったからね。情人だなんて嘘をついてまで、私はマグノリアンを自分のものにしたんだ。狡いんだ、私は。」


 僕は首を振ってヴァルの手を引いて歩き続けた。

「結局何が正解だなんて分からないよ。僕がヴァルの側にいたのはそうしたかったからだし、ヴァルに無理強いされた訳じゃない。でしょ?実際僕はヴァルと楽しい時間を過ごした。ヴァルが居なかったら、僕はもっと色々拗らせてたかもしれないよ?

 ありがとう、ヴァル。僕らの道は離れてしまったけれど、僕はヴァルの事一生大事な親友だと思ってる。」

 しばらく黙り込んだヴァルは、掠れた声で少し笑うと僕から手を離して言った。


 「マグノリアンがあの国へ行ってしまってから、私も覚悟する時間はあったんだ。結局こうなってしまう事が分かってたからこそ、私は狡い手も使ったのかもしれない。

 情人でなくても、私もマグノリアンは大事な人だ。…ちゃんとした親友に戻るにはもう少し時間が掛かるけどね。まだ失恋で心が痛いから。でもいつか心からマグノリアンを祝福出来ると思う。

 まったく、私の失恋分も幸せになってくれよ?…今夜は先に帰るよ。今度顔を合わせる時は親友の顔が出来ると思うけど、今はちょっと無理だから。…さよなら、マグノリアン。」


 敷地を横切って歩き去る逞しいヴァルの後ろ姿を見つめながら、僕らはすっかり大人になってしまったのだとしみじみ思った。ヴァルが僕と親友を止めることも出来たはずだけど、そうは言わなかった。

 僕はそれを嬉しく思って、同時に申し訳なく感じて、夜空に浮かぶまだ少し欠ける月を見上げた。全てはこの月が始まりだったと思いながら。



 あの夜をふいに思い出した僕は、目の前の面々を改めて眺めた。

 取り替えっ子の事はルキアスも初めて聞く話だったので目を見開きながら、また書簡で伝えられていたメッツァ国の王や王妃も興味深げに父上から話を聞いている。

 僕の緑の手の力については特に話に上らなかったので、それはおいおいという所なのかもしれない。

「…人間族の取り替えっ子、まったくそんな不思議な事が起きるとは信じられないですね。エルフの王よ、ではマグノリアン王子の取り替えられたそのもう一方の赤ん坊は一体どこへ行ったのでしょうな。」


 メッツァ国の王の言葉に父上と母上は顔を見合わせた。エルフの国ではその質問はしてはいけない事になっているのが暗黙の了解だったせいだ。僕に気を遣っているせいもあるし、事実が分からないせいもある。

「…その事は僕から話しましょう。」

 僕は皆の注目が集まったのを感じながら、心配そうな表情を浮かべる両親に微笑み返すと、初めてこの事について話す事にした。


















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