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運命

ルキアスside縁談

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 この騙し討ちの様な縁談に、私は奥歯を鳴らした。唐突に王から明日の顔合わせを命じられた私は、それこそリアンに連絡を取る暇さえなかった。

 リアンは数日前に実家に一時戻ると、カードに簡単なメッセージを載せて送って来ただけだった。愛に浮かれていたせいか、私はリアンの実家が何処にあるのかさえ聞いていなかった。


 あれ以来、二人で会ったのは二回ほどだったが、会えば話をする暇もなく抱き合ってお互いの体温を分け合う事に忙しくて、これからの事を話す時間も無かった。

 それだけ私はリアンに夢中だったし、今思えばリアンもまた、私に余計な事を聞かせない何かがあったように思う。

 だからカードに二週間ほどでまたパッキア領に戻りますと書いてあるのを、私は再び会える日を焦がれるばかりで、リアン自身の事をガイガー卿に尋ねることもしなかったのだ。



 「お前に特別な縁談が来た。この国にとって願ってもない縁だ。形式上お互いの相性は見るが、此方としては断るつもりはない。勿論皇太子であるお前にとっても悪い話ではないはずだ。」

 呼び出されて王の機嫌の良い顔を見た時に、嫌な予感はした。愛するリアンに出会うまで当然の様に、皇太子という立場上、国の利になる縁談で結婚を決めるものだと覚悟していたはずだった。

 けれども今の私にはリアンが居て、リアン以外の相手と縁を結ぶことなど考えることも出来ない。私の強張った顔を見て、王は何かを察したのかこう重ねて言った。


 「…お前も誰かしら心を寄せる相手が居るかもしれないが、それは相応しい相手なのか?…今回の縁談は相手方の強い要望もあって、明日にはこの国へと到着する。

 相手方の意向もあり、お互いの相性もあるだろうから大袈裟にするつもりはないが、顔合わせの後内々の晩餐会を催すつもりだ。

 私も王として、お前が今後背負う重責は理解している。私の様に二人の妃を娶る必要があるかはお前次第だが、場合によってはそうする事も出来るのだ。

 …会わないという選択肢は無いからな。皇太子としての務めを果たせよ。」


 私は強張った顔をあげて、王を睨みつけながら掠れた声で尋ねた。

「父上、一体そのお相手とはどの様な方なのですか?国に利になる相手とお聞きしましたが、先程のお話から国外でそれほどのお相手は正直言って直ぐには浮かびません。

 私が犠牲になってまで縁を結ぶ程の方なのですか?」

 私は冷静になれと自分を落ち着かせながら、この縁談を避ける方法が無いかと頭を巡らせていた。けれども私の必死の抵抗はあっさりと跳ね除けられてしまった。


 王は満面の笑みで頷きながら言った。

「この国にとっては、歴代成し遂げられなかった様なお相手だ。まったくルキアス、お前は果報者だ。どうせ明日到着するのだ。今ここで誰であるのか言う必要もあるまい。

 楽しみにしておくのだな。しかし、向こうの意向は中々変わっておるのでな、少々戸惑ったわ。ははは。」

 結局、私のこの縁談は避けられず、どんな相手かも知る事ができない様だった。しかも王が仄めかしたのは、私の想い人であるリアンを第二妃にすればいいと言う事だったのだろうか。


 私は胸が詰まる気持ちで王の執務室から辞去しながら、拳を強く握った。

 ああ、そんな事は無理だ。私は愛するリアンを悲しませる様な事は出来ない。希望があるとすれば、明日会う縁談の相手と相性を見ると言う事だったから、最悪私は相手に跪いて今回の事を流して貰う事になりそうだ。

私が出来る事は地に這ってまでやるつもりだった。リアンは私にそうさせる価値のある愛する人だ。私が本来の自分として生きていくためには彼無しではもう何も描く事も出来ない。


 私が苛立つ気分で強い酒を飲んでいると、部屋の扉がノックされた。誰とも会いたくは無かったが、顔を覗かせたのはアンディだった。

「聞きましたよ、兄上。明日縁談だとか。しかし急にも程がありませんか?さっき執事に聞いた感じでは事前にそこそこ準備はされていた様子ですね。

兄上に拒否されない様に、父上が謀ったのでしょうか。兄上がすっかりリアンに夢中なのは周知の事実なのに、こんな縁談を持ち込むなんて一体どう言う事なんでしょうかね?」


 私はアンディが勝手に自分の酒を用意してソファに座るのを、苦笑して眺めながら呟いた。

「確かに王からの話を聞いていると、作為を感じた。私に絶対拒否されない様に用意周到という感じだ。だが何処かしら抜け道はありそうだ。向こうもお互いの相性を見るという事だったからな。私を気に入らなければそれで良い。」

するとアンディがクスクス笑って、琥珀色のグラスを掲げて私に言った。

「では、もし兄上がお相手とご縁がなければ、場合によっては私にお鉢が回ってくるかもしれませんね。ただ王の言う様に得難い縁だとすると、私の様に第二王子では役不足かもしれません。」


 私はハッと顔をあげてアンディを見た。そうだ、その手があった。私は一気に酒を飲み干すと拳で口元を拭って言った。

「そうだ。今回の事が避けられない事ならば、お前に継承権を譲っても良い。リアンを娶れなければ、王になっても私に幸せなど巡ってこないからな。」

アンディの驚いた顔を面白い気持ちで見つめながら、私は少し気分が上向くのを感じた。

私の幸せはリアンと共にあるのは確かだ。それ以外では、私はまたあの日々に戻ってしまうだろう。私は二度と生きる屍にはなりたくないのだ。
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