エルフの国の取り替えっ子は、運命に気づかない

コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26

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接近

連れ出されて

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 僕はノコノコと餌に釣られて来てしまった。ここは王宮薬草園だ。以前訪れた時に仲良くなった薬草担当者から手紙を貰ったんだ。珍しい薬草を手に入れたので、もし知っていることがあれば教えて欲しいと。

 同封されていた挿絵を見て、僕はその薬草にピンと来た。それはエルフの国でもなかなか手に入らない珍しいものだった。それを栽培するのにはコツがあるし、この国の土壌との融合性も見てみたかった。


 王宮へ行くのは王族がいるので避けたかったけれど、自分の研究のためなら挨拶くらいはしょうがないと腹を括って、こうして足を伸ばして来たのだった。

 それでも用心して、王宮で働く従者達の出入り口である東門に薬草担当者に迎えに来てもらったので、多分悪目立ちしていないはずだ。髪色は染める事で誤魔化せても、僕の黒い目はどうしてもひと目を引く様で、目が合うとじっと見つめられる事が多いからだ。

「リアン様、これなんです。」


 興奮を隠せない担当の声に顔を上げると、目の前の作業用テーブルの上に鉢植えの薬草が置いてあった。真っ白い葉と紫色の茎の薬草は、根本に半透明な袋状のコブが見える。やはりそうだ。

「ええ。これは薬効が強い貴重な薬草ですね。葉っぱは酷い化膿を治しますし、根元に見える様なコブがいくつも土の中に出来て、それをすりおろした液を乾燥させると粉末が採取できます。

 その粉末は胸の悪い病人の症状を改善させますよ。でもこの薬草を増やすのは中々難しいです。今植えてあるこの土はここの農園のものですか?」


 すると年嵩の担当責任者であるジョージさんが笑顔を浮かべて言った。

「さすがリアン様はお詳しい。そうですか、この根塊こんかいにはその様な作用もあるのですね。これはこの鉢植えの状態で入手しました。なのでここの土と相性がどうか分からず、植え替えるのは少し躊躇しているのですが。入手困難な希少種ですから枯れさせるわけにいきません。」

 僕は鉢の中の土を摘んで手のひらに広げた。見たところそこまで変わらない普通の土に見えるが、手に触れると少しパチパチする様な感触があった。

「この土は鉄分の多く含まれる、崩れやすい崖の様な場所の土ではないでしょうか。栄養はあまりない方が成長を阻害しない気がします。」


 ジョージさんは目を見開いて、僕の手のひらの土を指で摘んだ。

「…なるほど!この全体に黒い土の正体は鉄分でしたか。普通の薬草にはあまり良くないのですが、だからこその希少種なのですね。他と同じ様に育てた場合、枯れてしまうでしょう。

 早速、その様に栽培してみますね。いやはや、リアン様はお若いのに博識ですね。教えていただきありがとうございます。」

 僕はジョージさん達が興奮した様子で薬草の植え替えについて話し合っているのを微笑んで眺めながら、他の植物の生育状況を見ようと畑の中を歩き出した。エルフの国では珍しい薬草を見つけてしゃがんで眺めていると、目の前に誰かの靴が見えた。


 明らかに上等な茶色の革のブーツを見て、僕は内心しまったと顔を顰めた。確かに僕がここに来ている事など、殿下が知ろうとするのは簡単なことだろう。

 僕は諦めて立ち上がると、縮めていた腰を伸ばして目の前に立つ皇太子の顔を見上げた。

「…殿下、こんにちは。」

 皇太子は一瞬明るい灰色の瞳をひそめて、僕に不満気な口調で呟いた。

「ルキアスと呼んでくれと言っただろう?リアンは私が手紙を出しても一向に王宮に出向いてくれないが、薬草が絡めばいそいそとやって来るのだな?」


 僕はどう誤魔化したら良いか頭を巡らせながら慌てて言った。

「あの、度々のお手紙をありがとうございました。でもあの手紙には王宮へ来いなどとはひと言も書かれていなかった様な…。」

 するとますます不機嫌さを隠そうともせずに顔を背けた。

「会いたいと書いただろう?パッキア領へ出向くと何かと大袈裟になるから、リアンから王宮に来てくれたら良いと思っていたのだが。待てど暮らせど来る気配も無く、もういっそのこと攫ってこようと思ってた所だ。」


 僕は何気に怖いことを言う皇太子の冗談に顔を引き攣らせながら、笑って誤魔化すことにした。

「その様な書き方では王宮に来る事など出来ませんね。貴方が思うよりは王宮は敷居が高いのですよ?せめて時間と日付を指定してくれないと。ね?ルキアス。」

 するとルキアスはしばらく僕をじっと見つめて考え込みながら言った。

「そうか。では今後はその様に善処する。私もリアンに強引な事をしたいわけでは無い。少し良いか?王宮の奥を案内しよう。」

 ルキアスが自ら案内を買って出てくれたのは良いとして、このまま着いていって良いのだろうか。とは言え、王族の誘いを断るのも色々面倒になりそうだ。


「…分かりました。でも家族が心配するのであまり長居は出来ませんけど。」

 ルキアスは急に機嫌を直して、見るからに明るい表情になって僕の手を掴むと颯爽と歩き出した。自分のものとは明らかに違う大きくてゴツゴツした戦士の様な手を感じて、僕はチラッと皇太子を見上げた。

 肩までの美しい金髪は美しかった。それは故郷のエルフの友人ら、特にヴァルのことを思い出させて、僕はちょっとしたホームシックを感じてしまった。大人しくなった僕の様子を訝しんだ皇太子が歩きながら僕に尋ねた。

「…どうした?大人しいな。」

 僕は前を見つめて言った。

「ルキアスの美しい金髪を見つめていたら、ちょっと故郷を思い出してしまって。ちょっとしたホームシックですけど、良い大人なのにおかしいですね。」




☆恋愛新作公開開始しました☆

 二月から始まる恋愛小説大賞のお祭りに参加しようと、急遽新作を書いていました。更新できなくてすみません!

新作 『醜いアヒルの子は漆黒の貴公子に復讐したい』
 あるきっかけで伯爵令嬢の少女の身体に転生してしまった「私」と、少女の愛憎対象である侯爵家青年との絡まった関係が、5年後の社交界デビューをきっかけに動き出すお話です。
なるべくポップにニヤニヤできる感じにキュンとワクワクを詰めて書いています!毎日8:10に更新します💕
よろしくお願いします❣️



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