エルフの国の取り替えっ子は、運命に気づかない

コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26

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接近

謝罪の行方

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 僕はルキアスの過去の後悔を受け止めて、許す事を演じる事を求められていた。ふと僕は首を傾げてルキアスに尋ねた。

「…ルキアスは似ている僕に演じて貰ってまで、どうして許しを得たいの?とっくにルキアスの中では過去の自分と折り合いをつけている気がするけど。何か他に理由があるの?」

すると繋いでいた手を離したルキアスが、少し強張った顔で僕から顔を背けて呟いた。


 「私もそろそろ身を固める年頃なんだ。幾つか縁談も入ってる。まだ父王にせっつかれている訳ではないが、そう時間もないだろう。昔の初恋を手放す必要があるんだ。この初恋は私を細い鎖で縛り付けていたからね。」

僕も王族だから、ルキアスの言う事も理解出来た。もっともエルフの父王は僕に意に染まぬ婚姻など結ばせることなどないだろうけど。

「…そっか。皇太子ってのは色々大変だね。ね、じゃあその初恋にさよならをするのに、何か必要な事があったりする?」

僕はルキアスに同情していたのだろうか。それとももしかして彼が恋したかもしれない自分から決別するのを寂しく感じたのだろうか。


 「ひとつだけ願いが叶うなら…。口づけを。」

僕を真剣な表情で見つめるルキアスの眼差しに、僕は魅入られた様にゆっくり近づいた。

「…ルキアス、僕に酷い事を言った君を許すよ。君も僕も子供だったんだ。僕も君が好きだったよ。」

そう囁いて、片手でルキアスの肩を掴むと伸び上がってその引き締まった唇に柔らかく口を押し付けた。なぜ僕は求められるまま、そこまでしたのだろう。

でもそうしたいと思ったのは確かだった。 


 少し熱い唇が見た目よりも柔らかだと感じた次の瞬間、僕はルキアスに強い力で抱きしめられて、しっかり唇を塞がれていた。その容赦のない口づけに僕は目を見開いて、ルキアスを押し除けようと手を開いた。

けれどもそのすがる様な口づけが僕をとどめて、ルキアスの胸の上で拳を握った。それから僕は乞い願う様なその口づけを抗うことなく受け入れてしまった。

ルキアスが決別する三年間の恋に、もしかすると僕への恋に、僕もまた一緒に別れを告げたのかもしれない。


 少し口の中を撫でられて、僕はルキアスの胸を叩いた。我に返ったルキアスが、目を見開いて僕を見つめた。まるで初めて見る様な眼差しで僕を見つめるルキアスに、僕は少し睨み上げて口を開いた。

「…それはやり過ぎ。でしょ?」

ルキアスはまだぼんやりと僕を見つめながら囁いた。

「…すまない。私は…。」

東屋の側に誰か来た気がして、僕たちは同時に身体を引き剥がした。躊躇いなく外に向かって歩き出したルキアスの背中に、僕は声を掛けた。


 「ルキアス。…細い鎖は外れた?」

ルキアスは僕の方を振り返ることなく、掠れた声で返事をしたんだ。

「…ああ。ありがとう。…。」

最後に何か言った気がしたけれど、聞こえなかった。それから直ぐに護衛の騎士が姿を見せて、僕に視線を投げかけたけど、僕はニコリと誤魔化すように笑って、彼らとは別の道から薬草畑へと戻って行った。もう皇太子殿の用は終わりだろうし、二度と彼に会うことはないだろう。


 自分の心のままという訳にはいかeないかもしれないけれど、彼は国のために自分で決めた道を後悔なく進むだろう。

それは僕とは関係ない事だったけれど、同じ王族としてあまりにも違うその背負うものの重さに、僕は彼のためにため息をついた。僕が回り道をしているうちに、案の定皇太子は辞去したらしかった。

「まぐのりあん?こうたいち、かえっちゃった。ちってる?」

僕の側に走り寄って来たロウルを抱き上げて、僕は腕の中で嬉しげに笑うこの可愛子ちゃんの頬にキスした。

「ああ、そうなの?知らなかった。薬草園でお話しは終わったから、多分もう此処には来ないんじゃないかな。」


 ロウルの後からやって来た夫人が、心配そうな表情で僕に尋ねた。

「皇太子は何の話だったのかしら。まさかマグノリアンの正体が発覚した訳ではないんでしょう?」

僕は夫人を安心させる様に微笑んだ。

「ええ、大丈夫です。彼はただ、僕が薬草の事に詳しかったのでその事を聞きたかっただけみたいで。本当に気が向いて寄っただけみたいですよ?僕を口実に息抜きに来たんじゃないんですか?」


 それから僕はロウルと従者と、パッキア領の街中へと出掛けた。広過ぎず、狭過ぎない街中は、ロウルと一緒に楽しむには丁度良かった。ロウルが指さすお気に入りのお菓子屋さんへ寄って、いくつか美味しそうな焼き菓子を買って、街の外れにある見晴らしの良い小高い丘に座り込んでそれを食べ始めた。

それはエルフの国での子供時代を思い出して、僕は思いの外楽しんでしまった。

「まぐのりあん、たのちい?」

僕の顔を気遣うように見上げるロウルを見て、王宮で倒れたり、皇太子が家に来て話し込んだりした事で、僕がロウルに心配されている事に気がついた。


 僕はロウルに安心させるように笑い掛けて言った。

「うん。とっても。ロウルとこうして外でおやつを食べていると、子供時代を思い出すよ。それがとても楽しいんだ。ね、ロウル。これを食べ終わったら、追いかけっこしようか?何だかとってもそうしたい気分だよ。」

嬉しげに目を見開いたロウルは、声を立てて嬉しげに笑った。

ロウルとそうしていると、昼間のあの東屋の出来事が本当にあった事なのかと分からなくなる。そう、終わった事なのだから、これ以上考えなることなんてないよね。




 











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