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接近
不覚と戸惑い
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声を掛けられた気がして、僕は顔を顰めながら目を開けた。窓にかかった薄い布越しに、明るい日差しを感じる。
「良かった!マグノリアン様、目を覚ましてくれたんですね!?」
そうホッとした表情で僕を覗き込んだのはアービンだった。僕はまだ少し頭が重い気がしつつも、ゆっくりと起き上がった。
「起きて大丈夫ですか?全然目を覚さないからどうしちゃったのかと思ったんです。
お医者様は特に体調は悪い感じではないと言うし。」
少し泣きべそをかいてるアービンを見て、僕は申し訳ない気持ちになって言った。
「ああ、心配かけたよね。僕たまに有るんだ、こう言うことが。以前事故に遭って少し記憶が欠けてしまって、それを思い出そうとするとこんな風に頭が痛くなってしまうんだよ。ごめんね、びっくりしたよね。
それよりここは何処かな。僕どれくらい意識を失ってたのかな?」
アービンは誰もいない部屋の中をキョロキョロと見回して声を潜めた。
「そんなに長くは無いけど、お医者さんに見てもらう位には大ごとになったんです。皇太子に抱きかかえていただいて、ここに連れて来られたんですよ。」
僕は薬草園で顔を合わせた皇太子をぼんやりと思い出した。僕が倒れたのは彼を見て何か感じたせいだった気がする。
何か思い出せそうな気がしたけれど、結局それは滲んで消えてしまった。
「…もしかしてマグノリアン様は、皇太子の事ご存知なんですか?あの時お二人は妙な感じで見つめ合っていたんです。それから急にマグノリアン様が倒れて…。」
アービンそう言われて、僕はため息をついてつぶやいた。
「いや、彼とは初対面だよ。僕の記憶の限りではね。それより王宮でこんなことになって、どうしたらいいんだろう。
もう多分大丈夫だから、お礼だけして家に帰ろうか。」
アービンとそんな事を話していると、部屋の扉がノックされた。僕たちは顔を見合わすと、アービンが急いで扉を開けに行った。姿を現したのは皇太子と、今日ここに招待してくれた第二王子だった。
緊張した表情のアービンと僕のそばに近寄ってくる二人の王子に、思わず僕はベッドから降りて立ち上がった。さすがにもう寝込んではいられない。
少しふらついたものの、それだけだ。
「大丈夫かい?倒れたんだから無理しないほうがいい。」
第二王子が慌てて僕に手を差し出して、そう声をかけてきた。僕は思わず顔を強張らせた。
さっさとここから逃げ出したい。下手をすると、自分がエルフの国の第三王子だと発覚してしまいそうな気がした。
「もうすっかり大丈夫です。ずいぶんご心配おかけしました。時々こんな事があるんです。」
僕がそう説明すると、黙っていた皇太子が唐突に僕に尋ねた。
「君がエルフのエンリケと親しいのは、君の不思議な力と関係あるのか?」
思いがけないことを皇太子に尋ねられて、僕は目を見開いて、目の前の皇太子の顔を見つめた。彼は何を言っているんだろう。
するとアービンが、僕に説明してくれた。
「実は、マ…、リアンが薬草園で倒れた時、その薬草がリアンの体を包み込むように成長したんだよ。」
僕は直ぐにそれが、緑の手を持つ者に対する薬草の反応だと言う事に気がついた。けれど緑の手のような力を持っている人間はいるのだろうか。
僕にはよくわからなかったけれど、皇太子に見られたとすれば、誤魔化しようがないということだけは理解した。けれども肯定することもできないので、僕は首を振って言った。
「そんなことがあったんですか?僕は薬草のことが好きなだけで、エンリケさんとはそのことで気があっただけです。」
こんな言い訳じみたことで、誤魔化されてくれるからわからなかったけれど、これで乗り切るしかない。
僕は皇太子の返事も待たずに続けて言った。
「随分とご迷惑をおかけしました。そろそろおいとましようと思います。薬草園にご招待をありがとうございました。担当者に貴重なお話を伺えて、とても有意義でした。あの方にもご心配おかけしたでしょうね。お礼が言えると良いのですが。」
実際、薬草研究の担当者は一緒に話していてキリがない位話が尽きなかったので、こんな形でお礼も言えないのは残念な気持ちだった。
すると、第二王子がにっこり微笑んで言った。
「また体調が良い時に来たらどうだい?さっき彼と少し話しをしたが、君は薬草についてとても詳しいらしいね。ベテランの担当者がまた君と話したいと言っていたよ。」
それを聞いて後ろ髪を引かれる部分はあったものの、僕は王子達と関わってしまったことに正直後悔していた。だからもう一度ここに顔を出す危険は冒せないと思っていたので、返事をせずに微笑むだけにした。
「…色々聞きたい事はあるが、君の顔色は良いとは言えない。帰った方が良いだろう。従者に送らせよう。」
そう皇太子が僕をじっと見つめながら言った。ああ、やっぱりあの灰色の眼差しは知ってる気がするのに、思い出せない。
僕は自分から目を逸らすと、王子達に見送られながら、アービンと一緒に従者の後をついて部屋から出た。部屋の扉が閉じられると何処かホッとして、アービンと視線を交わすと従者の後をついて王宮の長い回廊を歩いた。
「アービン、パッキア領と言うのは、随分王宮に影響力があるんだね。王子達が揃ってあんな風に関わってくるんだから。」
僕が冗談めいた口調でそう言うと、アービンはため息をついて言った。
「確かに薬草を一手に引き受けているうちの領地はそれなりだと思うけど、だからってあんな風に王子達が顔を揃えて配慮する程では無いよ。
…俺には他に原因があると見たけどね。」
そうなるとやっぱり僕に伸びて成長した薬草のせいだろうか。
僕は肩をすくめると、これからはパッキア領の中で大人しくしていようと決心した。
「良かった!マグノリアン様、目を覚ましてくれたんですね!?」
そうホッとした表情で僕を覗き込んだのはアービンだった。僕はまだ少し頭が重い気がしつつも、ゆっくりと起き上がった。
「起きて大丈夫ですか?全然目を覚さないからどうしちゃったのかと思ったんです。
お医者様は特に体調は悪い感じではないと言うし。」
少し泣きべそをかいてるアービンを見て、僕は申し訳ない気持ちになって言った。
「ああ、心配かけたよね。僕たまに有るんだ、こう言うことが。以前事故に遭って少し記憶が欠けてしまって、それを思い出そうとするとこんな風に頭が痛くなってしまうんだよ。ごめんね、びっくりしたよね。
それよりここは何処かな。僕どれくらい意識を失ってたのかな?」
アービンは誰もいない部屋の中をキョロキョロと見回して声を潜めた。
「そんなに長くは無いけど、お医者さんに見てもらう位には大ごとになったんです。皇太子に抱きかかえていただいて、ここに連れて来られたんですよ。」
僕は薬草園で顔を合わせた皇太子をぼんやりと思い出した。僕が倒れたのは彼を見て何か感じたせいだった気がする。
何か思い出せそうな気がしたけれど、結局それは滲んで消えてしまった。
「…もしかしてマグノリアン様は、皇太子の事ご存知なんですか?あの時お二人は妙な感じで見つめ合っていたんです。それから急にマグノリアン様が倒れて…。」
アービンそう言われて、僕はため息をついてつぶやいた。
「いや、彼とは初対面だよ。僕の記憶の限りではね。それより王宮でこんなことになって、どうしたらいいんだろう。
もう多分大丈夫だから、お礼だけして家に帰ろうか。」
アービンとそんな事を話していると、部屋の扉がノックされた。僕たちは顔を見合わすと、アービンが急いで扉を開けに行った。姿を現したのは皇太子と、今日ここに招待してくれた第二王子だった。
緊張した表情のアービンと僕のそばに近寄ってくる二人の王子に、思わず僕はベッドから降りて立ち上がった。さすがにもう寝込んではいられない。
少しふらついたものの、それだけだ。
「大丈夫かい?倒れたんだから無理しないほうがいい。」
第二王子が慌てて僕に手を差し出して、そう声をかけてきた。僕は思わず顔を強張らせた。
さっさとここから逃げ出したい。下手をすると、自分がエルフの国の第三王子だと発覚してしまいそうな気がした。
「もうすっかり大丈夫です。ずいぶんご心配おかけしました。時々こんな事があるんです。」
僕がそう説明すると、黙っていた皇太子が唐突に僕に尋ねた。
「君がエルフのエンリケと親しいのは、君の不思議な力と関係あるのか?」
思いがけないことを皇太子に尋ねられて、僕は目を見開いて、目の前の皇太子の顔を見つめた。彼は何を言っているんだろう。
するとアービンが、僕に説明してくれた。
「実は、マ…、リアンが薬草園で倒れた時、その薬草がリアンの体を包み込むように成長したんだよ。」
僕は直ぐにそれが、緑の手を持つ者に対する薬草の反応だと言う事に気がついた。けれど緑の手のような力を持っている人間はいるのだろうか。
僕にはよくわからなかったけれど、皇太子に見られたとすれば、誤魔化しようがないということだけは理解した。けれども肯定することもできないので、僕は首を振って言った。
「そんなことがあったんですか?僕は薬草のことが好きなだけで、エンリケさんとはそのことで気があっただけです。」
こんな言い訳じみたことで、誤魔化されてくれるからわからなかったけれど、これで乗り切るしかない。
僕は皇太子の返事も待たずに続けて言った。
「随分とご迷惑をおかけしました。そろそろおいとましようと思います。薬草園にご招待をありがとうございました。担当者に貴重なお話を伺えて、とても有意義でした。あの方にもご心配おかけしたでしょうね。お礼が言えると良いのですが。」
実際、薬草研究の担当者は一緒に話していてキリがない位話が尽きなかったので、こんな形でお礼も言えないのは残念な気持ちだった。
すると、第二王子がにっこり微笑んで言った。
「また体調が良い時に来たらどうだい?さっき彼と少し話しをしたが、君は薬草についてとても詳しいらしいね。ベテランの担当者がまた君と話したいと言っていたよ。」
それを聞いて後ろ髪を引かれる部分はあったものの、僕は王子達と関わってしまったことに正直後悔していた。だからもう一度ここに顔を出す危険は冒せないと思っていたので、返事をせずに微笑むだけにした。
「…色々聞きたい事はあるが、君の顔色は良いとは言えない。帰った方が良いだろう。従者に送らせよう。」
そう皇太子が僕をじっと見つめながら言った。ああ、やっぱりあの灰色の眼差しは知ってる気がするのに、思い出せない。
僕は自分から目を逸らすと、王子達に見送られながら、アービンと一緒に従者の後をついて部屋から出た。部屋の扉が閉じられると何処かホッとして、アービンと視線を交わすと従者の後をついて王宮の長い回廊を歩いた。
「アービン、パッキア領と言うのは、随分王宮に影響力があるんだね。王子達が揃ってあんな風に関わってくるんだから。」
僕が冗談めいた口調でそう言うと、アービンはため息をついて言った。
「確かに薬草を一手に引き受けているうちの領地はそれなりだと思うけど、だからってあんな風に王子達が顔を揃えて配慮する程では無いよ。
…俺には他に原因があると見たけどね。」
そうなるとやっぱり僕に伸びて成長した薬草のせいだろうか。
僕は肩をすくめると、これからはパッキア領の中で大人しくしていようと決心した。
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