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人間の国
高貴な来訪者
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「ようこそいらっしゃいました。」
僕は控えの間の入り口を少し開けて、玄関での緊張感のある出迎えを興味深く眺めていた。あれが第二王子?思ったより若い。そう言えば僕とそう変わらなかったかな。見かけは全然違うけどね。
以前エルフの兄弟に話を聞いた、このメッツァ王国の王族の話をぼんやりと思い出した。第三王子の僕は外交とは関わりが無いせいで、王子が二人である事くらいしか記憶がない。
…確か二人とも年は22歳のケル兄上より2、3歳年下だった筈だ。と言う事は第二王子は僕よりひとつ上の19歳って事?別に妬んでない。僕より随分逞しく見えるからって。
お付きの騎士に見劣りしない身体は、王族のオーラもあって真っ白な騎士服を引き立てていた。一人だけ騎士服の飾りが銀色なのは王族の印なのだろうか。
明るい金髪と暗い海色の瞳は、エルフの持つ冴え渡った青い瞳とは違って温かみを感じる。こうして比べると、エルフ族と言うのは美しさと無表情のせいで、冷徹な印象を与えるのだと気がついた。
僕が感じていた違和感はそれだったのだろうか。彼らが風なら僕は一瞬で燃え上がる炎の気質を持ってるから、ヴァル以外のエルフの友人達が僕に少し距離を取っていたのかもしれない。
そんな事をぼんやり思い出しながら人々の動向を窺っていると、彼らは皆で応接室の方へと移動し始めた。エンリケさんとエルフの騎士が僕のいる方をチラッと見るので、その視線を辿って王子のお付きの年嵩の騎士がこちらを見てしまった。
僕は思わず扉の後ろに隠れたけれど、バッチリ目が合った気がする。不味いな…。丁度その時ロウルがちょこちょこと足音を響かせて、少し空いた扉から顔を出して控えの部屋の中をキョロキョロと眺めた。
それから僕の足を見て顔を上げると、嬉しげに口を開いた。
「…ま…。」
僕は慌ててロウルを抱き上げると顔を寄せて囁いた。
『ロウル、秘密の遊びをしないかい?王子様に見つかったら負けちゃう遊びだよ?こっそりここを出て、皆んなの居ない部屋へ移動しよう…。いい?それと今から僕はリアンだ。ロウルも秘密の名前が欲しい?」
目を見開いてキラキラした眼差しコクコク頷くロウルに、僕はウルと名付けて床に下ろすと、手を繋いでそっと扉の外を伺った。
皆応接に入った様で、僕はホッとしてロウルとゆっくり部屋を出て階段へ向かった。
しばらくロウルの部屋で遊んでいよう。ロウルを探していた乳母にそう伝えてから、弾む様な足音を立てるロウルと手を繋ぎながら階段をゆっくり登った。
興奮してはしゃぎ始めたロウルに、僕は口元を人差し指で合図して囁いた。
「ウル、任務はまだ終わってないよ。見つからない様に静かに移動しようね。」
するとロウルはハッとした顔をして真剣な顔をしてから頷いた。
「シー、ね!」
僕の真似をして唇に短い指を押し付けるジェスチャーが可愛すぎるけど、うん、声が大きい。
何だか視線を感じて階段下を見下ろすと、王子のお付きの騎士が一人応接の扉の前に居たらしくて、こっちを静かに見上げていた。さっきとは別の騎士の様だ。
騎士には見つかっても王子に見つからなければ大丈夫な筈だ。僕は慌てて顔を逸らすと、ロウルを引っ張って部屋に飛び込んだ。
きゃっきゃとご機嫌なロウルの側にしゃがみ込むと、一気に気疲れが押し寄せてきた。
「ま、…りあ、りあん、なにちてあそぶ?」
僕は苦笑して立ち上がると、ロウルと一緒に人形のごっこ遊びに興じた。エルフの国の御伽話をアレンジした、魔物を退治するストーリーはロウルにはひどく評判が良くて、僕は今の状況を忘れて楽しんでしまった。
ふとロウルが部屋の扉の方を見ているので釣られて目をやると、そこには執事が困った様に僕を呼ぶために顔を覗かせていた。
「マグノリアン様、申し訳ありません。実はアンディ殿下が馬車に同乗していた者と会いたいと強く仰っていて、先程騎士の方もマグノリアン様をお見かけした事もあって誤魔化しきれなくなってしまいました。
一緒に殿下にご挨拶だけ宜しいですか?もちろんマグノリアン様の素性などは、主人の縁戚と言う事だけお伝えしております。」
僕はやれやれと立ち上がると、僕と執事を交互に見るロウルを見下ろしていい事を思いついた。
「ね、僕はロウルの子守って事にしない?ロウル、僕の名前は?」
ロウルは手の中の魔物に見立てた縫いぐるみを抱えながら、ニカっと笑うと元気よく答えた。
「りあん!」
執事が戸惑った表情を浮かべるので、僕はウインクして言った。
「ね?僕はロウルの子守の縁戚、リアンだよ。」
「…リアン様をお連れしました。」
執事に続いて応接に入ると、僕らの方に皆の視線が注がれているのに気がついた。僕はうつむき加減で殿下の方を向くと、胸に手を交差した覚えたての人間の礼を取って言った。
「リアンと申します。…本日はご挨拶できて嬉しく存じます。」
そう言って少し顔を上げたけれど、目を合わせない様に視線を落としていた。一緒に部屋に入ったロウルが部屋の雰囲気に呑まれて僕の手を不安そうにギュッと握ったので、僕は微笑んでロウルを抱き上げた。
「…りあん、このひとたち、だれ?」
僕はなんと答えるべきか分からずに、思わずガイガーさんの方を見た。ガイガーさんが口を開こうとしたその時、殿下がガタリと椅子から立ち上がって僕の方を見て驚いた様子で呟いた。
「嘆きのマダー?いや、まさかな。…でも似ている。いや、でも髪の色が違う。だが、しかし…。」
明らかに動揺している目の前の男に、私は面白い気持ちで思わず真っ直ぐに見つめてしまった。嘆きのマダーって言った?あれって死霊だよね。僕ってアレに似てるの?
意外な呼びかけに思わずクスクス笑ってしまったのは仕方がないよね?
僕は控えの間の入り口を少し開けて、玄関での緊張感のある出迎えを興味深く眺めていた。あれが第二王子?思ったより若い。そう言えば僕とそう変わらなかったかな。見かけは全然違うけどね。
以前エルフの兄弟に話を聞いた、このメッツァ王国の王族の話をぼんやりと思い出した。第三王子の僕は外交とは関わりが無いせいで、王子が二人である事くらいしか記憶がない。
…確か二人とも年は22歳のケル兄上より2、3歳年下だった筈だ。と言う事は第二王子は僕よりひとつ上の19歳って事?別に妬んでない。僕より随分逞しく見えるからって。
お付きの騎士に見劣りしない身体は、王族のオーラもあって真っ白な騎士服を引き立てていた。一人だけ騎士服の飾りが銀色なのは王族の印なのだろうか。
明るい金髪と暗い海色の瞳は、エルフの持つ冴え渡った青い瞳とは違って温かみを感じる。こうして比べると、エルフ族と言うのは美しさと無表情のせいで、冷徹な印象を与えるのだと気がついた。
僕が感じていた違和感はそれだったのだろうか。彼らが風なら僕は一瞬で燃え上がる炎の気質を持ってるから、ヴァル以外のエルフの友人達が僕に少し距離を取っていたのかもしれない。
そんな事をぼんやり思い出しながら人々の動向を窺っていると、彼らは皆で応接室の方へと移動し始めた。エンリケさんとエルフの騎士が僕のいる方をチラッと見るので、その視線を辿って王子のお付きの年嵩の騎士がこちらを見てしまった。
僕は思わず扉の後ろに隠れたけれど、バッチリ目が合った気がする。不味いな…。丁度その時ロウルがちょこちょこと足音を響かせて、少し空いた扉から顔を出して控えの部屋の中をキョロキョロと眺めた。
それから僕の足を見て顔を上げると、嬉しげに口を開いた。
「…ま…。」
僕は慌ててロウルを抱き上げると顔を寄せて囁いた。
『ロウル、秘密の遊びをしないかい?王子様に見つかったら負けちゃう遊びだよ?こっそりここを出て、皆んなの居ない部屋へ移動しよう…。いい?それと今から僕はリアンだ。ロウルも秘密の名前が欲しい?」
目を見開いてキラキラした眼差しコクコク頷くロウルに、僕はウルと名付けて床に下ろすと、手を繋いでそっと扉の外を伺った。
皆応接に入った様で、僕はホッとしてロウルとゆっくり部屋を出て階段へ向かった。
しばらくロウルの部屋で遊んでいよう。ロウルを探していた乳母にそう伝えてから、弾む様な足音を立てるロウルと手を繋ぎながら階段をゆっくり登った。
興奮してはしゃぎ始めたロウルに、僕は口元を人差し指で合図して囁いた。
「ウル、任務はまだ終わってないよ。見つからない様に静かに移動しようね。」
するとロウルはハッとした顔をして真剣な顔をしてから頷いた。
「シー、ね!」
僕の真似をして唇に短い指を押し付けるジェスチャーが可愛すぎるけど、うん、声が大きい。
何だか視線を感じて階段下を見下ろすと、王子のお付きの騎士が一人応接の扉の前に居たらしくて、こっちを静かに見上げていた。さっきとは別の騎士の様だ。
騎士には見つかっても王子に見つからなければ大丈夫な筈だ。僕は慌てて顔を逸らすと、ロウルを引っ張って部屋に飛び込んだ。
きゃっきゃとご機嫌なロウルの側にしゃがみ込むと、一気に気疲れが押し寄せてきた。
「ま、…りあ、りあん、なにちてあそぶ?」
僕は苦笑して立ち上がると、ロウルと一緒に人形のごっこ遊びに興じた。エルフの国の御伽話をアレンジした、魔物を退治するストーリーはロウルにはひどく評判が良くて、僕は今の状況を忘れて楽しんでしまった。
ふとロウルが部屋の扉の方を見ているので釣られて目をやると、そこには執事が困った様に僕を呼ぶために顔を覗かせていた。
「マグノリアン様、申し訳ありません。実はアンディ殿下が馬車に同乗していた者と会いたいと強く仰っていて、先程騎士の方もマグノリアン様をお見かけした事もあって誤魔化しきれなくなってしまいました。
一緒に殿下にご挨拶だけ宜しいですか?もちろんマグノリアン様の素性などは、主人の縁戚と言う事だけお伝えしております。」
僕はやれやれと立ち上がると、僕と執事を交互に見るロウルを見下ろしていい事を思いついた。
「ね、僕はロウルの子守って事にしない?ロウル、僕の名前は?」
ロウルは手の中の魔物に見立てた縫いぐるみを抱えながら、ニカっと笑うと元気よく答えた。
「りあん!」
執事が戸惑った表情を浮かべるので、僕はウインクして言った。
「ね?僕はロウルの子守の縁戚、リアンだよ。」
「…リアン様をお連れしました。」
執事に続いて応接に入ると、僕らの方に皆の視線が注がれているのに気がついた。僕はうつむき加減で殿下の方を向くと、胸に手を交差した覚えたての人間の礼を取って言った。
「リアンと申します。…本日はご挨拶できて嬉しく存じます。」
そう言って少し顔を上げたけれど、目を合わせない様に視線を落としていた。一緒に部屋に入ったロウルが部屋の雰囲気に呑まれて僕の手を不安そうにギュッと握ったので、僕は微笑んでロウルを抱き上げた。
「…りあん、このひとたち、だれ?」
僕はなんと答えるべきか分からずに、思わずガイガーさんの方を見た。ガイガーさんが口を開こうとしたその時、殿下がガタリと椅子から立ち上がって僕の方を見て驚いた様子で呟いた。
「嘆きのマダー?いや、まさかな。…でも似ている。いや、でも髪の色が違う。だが、しかし…。」
明らかに動揺している目の前の男に、私は面白い気持ちで思わず真っ直ぐに見つめてしまった。嘆きのマダーって言った?あれって死霊だよね。僕ってアレに似てるの?
意外な呼びかけに思わずクスクス笑ってしまったのは仕方がないよね?
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