エルフの国の取り替えっ子は、運命に気づかない

コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26

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人間の国

可愛い兄弟

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 食事が終わるとエンリケさんは農場主であるガイガーさんと仕事の話をしに行ってしまったし、エルフの戦士はいつもこの付近の騎士達と手合わせの約束があるらしく、やはり消えてしまった。

僕は夫人と執事に伴われて、テラスから美しい庭を臨める豪勢な客間へと案内された。

「気に入っていただけると嬉しいのですけど。エルフの国の様式がどの様なものか分からなかったので、もし必要なものがあればエンリケさんと相談して取り寄せますわ。」


 夫人の心遣いに感謝して、僕はにっこり笑って言った。

「ありがとうございます。でもそんなに気を遣わないで下さいね。エルフの国は自然に親しむ事を重視するので、この様な凝った美しい部屋は少し緊張してしまいますね。

僕は王族ですが、緑の手を使って薬草の研究も皆さんと一緒に出来たら嬉しいと思っているんです。可愛いロウルとはすっかり仲良くなれましたが、アービンはあまり目も合わせてもらえなくて…。

彼には色々人間の国のことを教えてもらおうと思ってるんですが。」


 パッキア夫人は楽しげに声を立てて笑った。

「ホホホ、アービンはマグノリアン様があまりにも可愛らしいので、どうして良いのかわからないのです。私たちもそれは嬉しい驚きでしたもの。戦士の様な方がいらっしゃるのかと考えてましたから。

流石にロウルはめざといですわ。直ぐにマグノリアン様がお優しい方だと言う事に気づいてしまったのですもの。しばらくあの子の機嫌が良いでしょうから、こちらとしても大助かりですわね?」


 パッキア夫人は美しいだけでなく、とても気さくな人柄の様だった。僕はホッとして一緒に応接に戻ると、待ち侘びていたロウルとアービンに案内を頼んで、屋敷の前に広がる庭園を一緒に散策した。

何処からか匂ってくる、慣れ親しんだ薬草の香りが僕の嗅覚を刺激して、僕は思わずいつもの様に近くに生えていた果実に手を触れた。

まだ青いその果実は僕の手の中でゆっくりと色づいて、十分食べ頃になった。


 目を丸くしているアービンにウインクして、キラキラした目で僕を見上げているロウルを抱き上げてそれをもぎ取らせた。

「きっと甘いと思うよ。おやつに切ってもらおうか。」

僕がそう言ってロウルの柔らかな頬っぺたに思わず唇を押し当てると、ロウルは手の中いっぱいの果実を大事そうに抱えながら、きゃっきゃとはしゃいで身をよじった。

「…凄い!エルフの国の人たちは誰でもそんな事が出来るのですか?」


 まだ驚きが収まらない様子のアービンに、僕は微笑んだ。

「適性があるエルフだとしても、ここまで速く熟成させる事は難しいかもしれないね。僕はほら、王族だから力が強いみたいだよ。」

アービンは僕と果実の木を交互に見て呟いた。

「…父上から、エルフの国から特別な若いお客様を受け入れるって聞いてから、あまりはっきりした事は教えてもらってなかったんです。ただ、屋敷の者以外には秘密にしろって言われて。

だから王族の方だとか、貴方みたいな方だなんて今日知ったばかりで、俺どう考えて良いか整理がつかなくて。…あの、貴方はエルフ、いや、人間…、すみません。」


 僕はアービンの混乱ももっともだと思って、ロウルを腕から下ろすと少し先のベンチに皆で座った。座ってられないロウルが、ちょこちょこ歩くたびに足元の薬草が甘く香って気持ちが良い。

「君にはこの国の色々な事を教えてもらいたいから、交換条件に僕のことを少し教えておくよ。僕は取り替えっ子なんだ。この国ではそんな現象は聞いたことが無いのかな。エルフの国で時々起きるその現象は、生まれた赤ん坊がエルフじゃなくて人間族だったってこと。

だから僕は王族なのにエルフの見かけではなくて、人間でしょ?」


 そう言って僕は髪をかきあげて丸い耳を見せた。僕が小さい頃に切望した尖った大きな耳は、僕には手に入れられなかったものだ。アービンが微動だにしないのでチラッと顔を見ると、ハッとした様に少し頬を赤らめて視線を逸らした。

「確かにマグノリアン様の耳は俺たちと一緒ですね。でも何て言うか、マグノリアン様は俺たちとは雰囲気が違うって言うか…。俺より年上の方にこんな言い方はアレですけど、可愛くて美しいです…。」

僕は目を見開いてクスッと笑って、綺麗なお花を摘んで僕に渡しに来たロウルを膝に抱き上げた。


 「ロウルだって、もうすっかり貴方に魅せられてる。こいつは結構人を選ぶたちなんです。ロウル、マグノリアン様が好きになっちゃったのか?」

お兄ちゃんにそう問いかけられて、ロウルは僕を下から見上げてにっこり笑って言った。

「うん!ろうる、まぐろりあんさま、すき!」

僕はロウルが可愛すぎて、綺麗なふわふわの人参色の髪に口付けた。

「僕もロウルが大好きになっちゃったよ。一緒だね?」

そう言って膝に座ったロウルを後ろからギュッと抱きしめると、ロウルの楽しげな笑い声が空気に弾けた。僕はすっかりここの生活が楽しみになったんだ。明日何が起きるかなんて想像もつかなかったからね?
 







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