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人間の国

さよならの時間※

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 すっかり慣れたヴァルの部屋を見回して、僕は棚の飾りを手に取った。それは僕らが10歳の頃に一緒に取りに行った黄水晶の欠片だった。

あの冒険はどんなにワクワクしたことだろう。一気に懐かしい記憶が蘇ってきて、今では小さく感じるごつごつとした原石の水晶を棚に戻しながら言った。

「これ、まだ飾ってあったんだね。懐かしいな。僕の原石はどうしたんだっけ。何処かにはあると思うけど…。」


 不意に後ろから抱き抱えられて、僕はヴァルが僕の首筋に唇を当てるのを感じて少し震えた。すっかり慣らされてしまった身体は、その続きを期待している。

「これを拾いに行った時、マグノリアンはキラキラした瞳をしていた。私はこの黄水晶を見る度、あの時の気持ちを思い出すよ。二人で培った思い出や経験を懐かしむのは良い事なのかな。それとも悪い事なのかな。」

ヴァルの言うことがよくわからなくて、僕はヴァルの腕の中でくるりと身体の向きを変えて、暗い目をした顔を見上げた。


 「…ヴァル?」

ヴァルはやっぱり僕をじっと見下ろして呟いた。

「昔の事ばかり話し始めたら、もうこの関係は未来がないって事だろう?ああ、きっとマグノリアンは変わってしまうんだろうね。このエルフの国を出てしまったら、マグノリアンは人間の世界に染められてしまうだろう?

私にはそれが怖い。私の知らないマグノリアンになってしまう気がして。」


 僕はヴァルの心の痛みが伝わってきた気がして、ヴァルの胸に手を置いて囁いた。

「ヴァル…。取り替えっ子の僕が違和感を感じながらも楽しく過ごせていたのは、ヴァルが側にいてくれたお陰だって分かってる。家族だけじゃ、それは叶わなかったって事も。

先の事はわからないけど、変わる事が悪い事ばかりだとは思わないよ。僕もヴァルが変わって驚くかもしれないでしょ?僕らは立ち止まっていられない、丁度その時期なんだよ。

…ね、悲しむよりも、今を楽しもうよ。僕はヴァルを感じたくてすっかり熱くなってしまったんだよ?」


 グッと腰を引き寄せられて奪う様な口づけを受けると、僕は一気に興奮を感じた。実際ヴァルと情人を解消してから、他のエルフと関係はしていなかった。

忙しかった事もあるし、何処かそんな気になれなかったせいもある。

ヴァルと少し舌を触れ合わせているだけで、欲求不満の身体はその先をせっついて張り詰めた。ヴァルはそんな僕に気がつくと、お尻に大きな手を伸ばして、指を薄い衣装の上から割れ目に沿わせると焦らす様に埋め込んだ。


 「…あぁ。ヴァル…。」

思わず甘く呻くと、ヴァルは僕の衣装を剥ぎ取りながら首や鎖骨を軽く喰んだ。ヴァルに食べられる様なその触れ合いは僕をゾクゾクさせる。少し痛い様なそれは、一体どちらの性癖なのか今となっては分からない。

「マグノリアンはこうすると喜ぶ…。」

そう言いながら、僕のあらわになって尖った胸の先端にじゅっと吸い付いたヴァルは、気持ち良さでビクビクした僕をじっと見つめながら、後ろに這わした長い指を更に食い込ませて揺さぶった。


 ああ、気持ち良い。ズキズキと股間が脈打って、少し離れてしまったヴァルのそれを直に感じたくてしょうがない。僕は重くなった瞼を必死で持ち上げて囁いた。

「…ヴァル、もう立ってられない。」

僕の言葉を合図にベッドに倒れ込んだ僕らはお互いの衣装を剥ぎ取り合いながら、嗅ぎなれた肌の匂いを楽しんだ。ヴァルの奥行きのある爽やかなハーブの様な肌の香りは、いつまでも嗅いでいたい癒しの匂いだ。


 「…マグノリアン、もしかしてあれから誰ともしていないの?」

僕の後ろに香油を塗り込め始めたヴァルが、戸惑った様子で指を止めて呟いた。

「…うん。だってそんな気になれなかったから。今更他のエルフと恋の時間を楽しむのも、僕にはハードルが高いよ。どんな顔をしてそんな事すればいいの?」

するとヴァルは僕の中を優しく撫でながら、けれど容赦なく僕を喘がせた。


 「…ああ、マグノリアンは私を罪悪感でいっぱいにさせる。私はむしろヤケになって取っ替え引っ替えしてたっていうのに…!」

僕は少し胸が痛くなりながら、ヴァルの苦しげな顔を両手で引き寄せて囁いた。

「…良いんだよ。それで。僕がヴァルを突き放したんだから、恋の時間を誰と過ごそうがヴァルの自由なんだ。でも正直、心が痛いのは僕の自業自得だね。ね、もう他の事は考えないで…。

今は僕だけを見て、ヴァル。」


 それから僕らはお互いを貪る様に愛撫し合った。ヴァルの指が僕を犯すと、僕は息を詰めて天辺へと駆け上がる。けれどもヴァルは決して弾ける事を許してくれなかった。

僕の中は指より長くて太いものを欲しがっているというのに、ヴァルはなぜか僕の願いを聞き届けない。

だから僕もまたヴァルの猛々しいその持ち物に舌を這わせて、喉の奥へ突き入れた。僕の髪を掴むヴァルの指先に力が籠って、息を堪えるのを感じながら、僕はまるで息が止まってしまっても良いという気持ちで喉奥でそれを愛撫したんだ。


 「…マグッ!ダメだ、やめてくれ!」

そう懇願するヴァルの切羽詰まった声を聞きながら、僕は懺悔の気持ちで口いっぱいのそれが張り詰めて震えるのを感じた。ヴァルの熱い飛沫が口の中に広がるのを、僕は悲しみと共に受け止めたんだ。

ヴァルの言う様に僕らは変わってしまうだろう。今度僕らが顔を合わせた時、もう一度肌を合わせることも無いかもしれない。

僕は枕元の蜜酒と共にヴァルそのものを流し込むと、僕を目で追うヴァルにのしかかって囁いた。


 「…ヴァル、僕を好きな様にして。」


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