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人間の国
偽装
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「そうねぇ。こうしてみると、マグノリアンってとってもエルフだったのねぇ。」
そう真っ青な瞳を見開いたベルベット姉上に、僕は苦笑した。僕は今、人間の国に潜伏するべく、人間らしい服装や髪型を模索しているんだ。もっとも、一生懸命やっているのは人間相手に薬草の商売をしている商人だけどね。
「確かに、私がエルフとして商いをするのと違って、マグノリアン様は人間としてあの国へ行くのですから、想像以上に難しいですねぇ。王妃様が用意されたこちらの衣装は、人間の世界では多分目立ち過ぎるでしょうし。あちらの王族かと間違われるに違いありません。
ベルベット様、当然マグノリアン様には護衛は付けるのでしょう?」
心配そうなエルフの商人と姉上が顔を顰めて話をしている間に、僕は念の為に商人が持って来てくれたいくつかの服を手にして、そっと衝立の向こうで衣装を取り替えた。
僕の蘇った前世の記憶を使えば、実際のところ人間らしく振る舞うのは簡単な気がしたんだ。僕は意気揚々と姉上達の前でくるりと回ってみせた。
「どうかな。さっきよりはマシじゃない?」
鏡に映る僕の姿は、エルフの様な腰までの髪以外はそこそこ人間味が出ている気がする。張り切って顔を上げると、なぜか二人が眉を顰めている。
「…ベルベット様、やはりマグノリアン様は目立ちすぎますね。あちらの国ではこんな雰囲気の若者を見たことがありません。」
商人がため息混じりにそう言うと、姉上も腕を組んで僕をじっくり見て言った。
「そうね。私も何度か公的にあの国を訪れた事があるけど、もっと皆いかついわ。エルフの国は戦士以外はどちらかと言うとスラリとしている者が多いけれど、人間は戦士でなくたってガッチリしているものねぇ。
ああ、やっぱり心配だわ。父上はそもそも護衛をつける気も無いのだもの。マグノリアンが心配じゃないのかしら。」
僕はまるで森の番人の様な若者のコスプレをしている気分で、鏡の中の自分の姿を眺めながら言った。
「父上が僕を預けるのって、人間の薬草園の農場主らしいよ?そこは人も多過ぎなくて、慣れるのには良いって話だったし。僕にぴったりの仕事もありそうでしょ?
人間がどんな薬草を使うのかも興味があるから、僕は人間の世界を知る云々の前にとっても楽しみなんだ。
そう言う意味じゃ、この格好はぴったりな気がするけどね?」
結局商人が似た様な服を、人間の国で買ってもう少し用意してくれる事になった。問題はこれからだ。僕は姉上と侍女たちの前で決意を込めて向き合った。
「ダメよ!マグノリアンの美しい髪を切るなんて!」
僕は顔を顰めて言った。
「姉上、こんなに長い髪だからエルフっぽさが抜けないんだ。僕の髪はただでさえ黒くて目立つんだから、もう少し面積を減らさないと!さぁ切って!?」
きっと兄上達まで参戦したら、この長い髪のまま出発する事になるだろう。それは困る。せめて綺麗に切り揃えて行きたいからね!
姉上は渋々侍女に言って、僕の髪を少し切らせた。僕は鏡越しに姉上を睨んだ。
「もっと切ってくれなきゃ一緒だよ。せめて背中の上まで切って!」
姉上の小さな悲鳴が部屋に響く中、僕は背中の真ん中まで髪を切る事に成功した。エルフは男女関係なく髪の長さが腰まで届くのが当たり前なので、僕の短めの髪は家族にとっては衝撃だったみたいだ。
もっとも僕は耳の上まで切ってもよかったんだ。まぁ人間の国で切っても良いかもね?
「…随分切ってしまったんだな?本当に行くのか?父上はああ言ったものの、マグノリアンが嫌だと言えば行く必要は無いと思っているはずだ。」
長い髪を編み込んで一本に纏めたケルサ兄上は、眉を顰めてそう言った。僕は兄上の様にこの髪も一本に纏めるべきだろうかと考えながら肩をすくめた。
「僕も人間の国に行ってみたいんだ。エルフの国では僕は常に取り替えっ子だと突き付けられてしまうでしょ?あちらではどう感じるか知りたいってのもあるし。まぁ合わなかったらすぐ戻ってくるよ。ね?」
結局夕食の時間、僕の髪の事はずっと話題になっていた。母上も僕が髪を切ってまで人間らしく偽装すると思っていなかったみたいで、しばらく悲しげな顔をして僕の顔と髪を何度も見た。そんな母上を安心させる様に手を握った父上が、僕に言った。
「…そうしていれば、そこまで違和感は無いだろう。マグノリアンを預ける男は、人間ながらこちらの事情にも詳しい。彼が若い頃、私と一緒に森歩きを共にした間柄だ。信頼のおける男だから、マグノリアンも困った時は色々助けてもらいなさい。」
するとさっき迄黙っていたカーバル兄上が蜂蜜酒を煽ると僕に尋ねた。
「マグノリアン、ヴァルにはちゃんと話したのかい?昨日私に噛みついて来たよ。護衛を自分にさせてくれって。父上の方針で護衛の様な大袈裟なものはつけないって話をしたら、流石に黙ったけどね。あれは納得してない様子だった。
ちゃんとお前から話しをした方が良いだろう。」
僕は皆の視線が集まるのを感じながら、コクリと頷いた。ああ、それが一番の関門なんだよ、本当!
そう真っ青な瞳を見開いたベルベット姉上に、僕は苦笑した。僕は今、人間の国に潜伏するべく、人間らしい服装や髪型を模索しているんだ。もっとも、一生懸命やっているのは人間相手に薬草の商売をしている商人だけどね。
「確かに、私がエルフとして商いをするのと違って、マグノリアン様は人間としてあの国へ行くのですから、想像以上に難しいですねぇ。王妃様が用意されたこちらの衣装は、人間の世界では多分目立ち過ぎるでしょうし。あちらの王族かと間違われるに違いありません。
ベルベット様、当然マグノリアン様には護衛は付けるのでしょう?」
心配そうなエルフの商人と姉上が顔を顰めて話をしている間に、僕は念の為に商人が持って来てくれたいくつかの服を手にして、そっと衝立の向こうで衣装を取り替えた。
僕の蘇った前世の記憶を使えば、実際のところ人間らしく振る舞うのは簡単な気がしたんだ。僕は意気揚々と姉上達の前でくるりと回ってみせた。
「どうかな。さっきよりはマシじゃない?」
鏡に映る僕の姿は、エルフの様な腰までの髪以外はそこそこ人間味が出ている気がする。張り切って顔を上げると、なぜか二人が眉を顰めている。
「…ベルベット様、やはりマグノリアン様は目立ちすぎますね。あちらの国ではこんな雰囲気の若者を見たことがありません。」
商人がため息混じりにそう言うと、姉上も腕を組んで僕をじっくり見て言った。
「そうね。私も何度か公的にあの国を訪れた事があるけど、もっと皆いかついわ。エルフの国は戦士以外はどちらかと言うとスラリとしている者が多いけれど、人間は戦士でなくたってガッチリしているものねぇ。
ああ、やっぱり心配だわ。父上はそもそも護衛をつける気も無いのだもの。マグノリアンが心配じゃないのかしら。」
僕はまるで森の番人の様な若者のコスプレをしている気分で、鏡の中の自分の姿を眺めながら言った。
「父上が僕を預けるのって、人間の薬草園の農場主らしいよ?そこは人も多過ぎなくて、慣れるのには良いって話だったし。僕にぴったりの仕事もありそうでしょ?
人間がどんな薬草を使うのかも興味があるから、僕は人間の世界を知る云々の前にとっても楽しみなんだ。
そう言う意味じゃ、この格好はぴったりな気がするけどね?」
結局商人が似た様な服を、人間の国で買ってもう少し用意してくれる事になった。問題はこれからだ。僕は姉上と侍女たちの前で決意を込めて向き合った。
「ダメよ!マグノリアンの美しい髪を切るなんて!」
僕は顔を顰めて言った。
「姉上、こんなに長い髪だからエルフっぽさが抜けないんだ。僕の髪はただでさえ黒くて目立つんだから、もう少し面積を減らさないと!さぁ切って!?」
きっと兄上達まで参戦したら、この長い髪のまま出発する事になるだろう。それは困る。せめて綺麗に切り揃えて行きたいからね!
姉上は渋々侍女に言って、僕の髪を少し切らせた。僕は鏡越しに姉上を睨んだ。
「もっと切ってくれなきゃ一緒だよ。せめて背中の上まで切って!」
姉上の小さな悲鳴が部屋に響く中、僕は背中の真ん中まで髪を切る事に成功した。エルフは男女関係なく髪の長さが腰まで届くのが当たり前なので、僕の短めの髪は家族にとっては衝撃だったみたいだ。
もっとも僕は耳の上まで切ってもよかったんだ。まぁ人間の国で切っても良いかもね?
「…随分切ってしまったんだな?本当に行くのか?父上はああ言ったものの、マグノリアンが嫌だと言えば行く必要は無いと思っているはずだ。」
長い髪を編み込んで一本に纏めたケルサ兄上は、眉を顰めてそう言った。僕は兄上の様にこの髪も一本に纏めるべきだろうかと考えながら肩をすくめた。
「僕も人間の国に行ってみたいんだ。エルフの国では僕は常に取り替えっ子だと突き付けられてしまうでしょ?あちらではどう感じるか知りたいってのもあるし。まぁ合わなかったらすぐ戻ってくるよ。ね?」
結局夕食の時間、僕の髪の事はずっと話題になっていた。母上も僕が髪を切ってまで人間らしく偽装すると思っていなかったみたいで、しばらく悲しげな顔をして僕の顔と髪を何度も見た。そんな母上を安心させる様に手を握った父上が、僕に言った。
「…そうしていれば、そこまで違和感は無いだろう。マグノリアンを預ける男は、人間ながらこちらの事情にも詳しい。彼が若い頃、私と一緒に森歩きを共にした間柄だ。信頼のおける男だから、マグノリアンも困った時は色々助けてもらいなさい。」
するとさっき迄黙っていたカーバル兄上が蜂蜜酒を煽ると僕に尋ねた。
「マグノリアン、ヴァルにはちゃんと話したのかい?昨日私に噛みついて来たよ。護衛を自分にさせてくれって。父上の方針で護衛の様な大袈裟なものはつけないって話をしたら、流石に黙ったけどね。あれは納得してない様子だった。
ちゃんとお前から話しをした方が良いだろう。」
僕は皆の視線が集まるのを感じながら、コクリと頷いた。ああ、それが一番の関門なんだよ、本当!
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