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エルフの国
エルフの踊り
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幻想の原っぱでヴァルに唇を押し付けられて、僕は初めての経験に一気に胸がドキドキしてしまった。柔らかに啄むような口づけをされて、僕はこれが兄様達の言った恋の時間なのだと身を持って理解したんだ。
決して無理強いされている訳ではないヴァルからの優しい口づけは、直ぐに離れて行った。突然の事に目を開けていた僕は、ヴァルの瞼がゆっくりと持ち上がるのを見つめた。
ヴァルは綺麗な緑色の目をしている。こんなに綺麗だったかな。
「落ち着いた?…口づけは、気持ちを落ち着かせる効果があるんだ。でもそれだけの事でマグノリアンに口づけた訳じゃないけど。」
そう照れくさそうに言いながら、僕の手を引っ張って歩き始めたヴァルの首が赤らんでいる。僕は普段とまるで違う空気が二人の間に横たわるのに戸惑いながら幻想の原っぱに足を踏み入れた。
いつ来ても悩みなど吹き飛ぶ美しい幻想的な夜景は、ヴァルに口づけられてすっかり動転してしまった僕には効果が無かった。僕はこの何とも言えない空気を何とかしようと口を開いた。
「満月の夜は、皆こうして口づけているの?」
自分でも誤魔化しようの無い質問をしてしまったと慌てたけれど、口から転げ落ちた言葉は回収出来ない。ヴァルはクスッと笑って僕の肩をグッと引き寄せて言った。
今まで気にも留めなかったけれど、肩に当たるヴァルの胸には厚みがある…。
「…俺たちエルフは普段感情的になる事とは縁遠い種族だろう?だから若い独身のエルフは満月の魔力に酔って、羽目を外すんだ。それは昔からの伝統で、それを重ねる事で生涯の相手を見つける意味もある。
どのみち、御神木の元で宣誓しなければ子供も授からないからね。それは流石にマグノリアンも知ってるだろう?」
確かに宣誓の話は聞いた。でも満月の夜にそういう意味で羽目を外すとは考えもしなかった。僕は恐る恐るヴァルに尋ねた。
「…ヴァルは、その、誰かと、そう言う意味で羽目を外したの?」
するとヴァルは僕を覗き込んで、感情の読み取れない表情で僕をじっと見つめて囁いた。
「…どうだろうね。マグノリアンはどう思いたい?」
エルフはシラを切るのが上手い。元々感情を出さない種族だから、何を考えているのか僕が知るのは難しいんだ。僕は口を尖らせた。
「どうせ本当事を言う気は無いくせに…。それよりヴァルが僕に、その、色々教えてくれるの?」
途端にぶわりと周囲の空気が動いた気がした。実際空中を飛び交っていた光る虫が一瞬何処かに飛ばされた気がする。僕が思わず周囲を見回していると、背の高いヴァルが僕の顎を掴んで視線を合わせた。
「ああ。この数ヶ月、俺が追い立てられる様に頑張ってきたのはマグノリアンの為だよ。来て…。」
ヴァルが何をどう頑張ってきたのかよく分からないけれど、もうそんな事を聞ける様な空気では無かった。
ヴァルに手を引かれて行くと、大きな木の根が絡まりあって、まるで屋根の様に組み上がった場所に辿り着いた。
「こんな場所があったなんて、全然気付かなかったな。前から知ってたの?」
ヴァルは何も言わずに僕とその中へ入り込むと、柔らかな草の上に座って手を引っ張った。釣られて座ったものの、これから何か起こりそうでドキドキする。
僕も全然この手の事に知識が無いわけじゃない。時々耳にする、城のエルフ達の色恋沙汰にこの手の話が紛れているからだ。けれど、それと僕が当事者になるのとでは、まるでかけ離れている。
「マグノリアン、俺たちがこうするのは自然な事だ。満月の夜のエルフの踊りは皆が必ず通る道なんだよ。」
そう言って、ヴァルは僕を抱き寄せて唇を塞いで来た。さっきよりも僕を圧倒する様なその口づけは、あっという間に僕から抵抗力を奪った。
満月の魔法のせいなのか、僕はヴァルに口づけられた事で身体の中に何か疼くものが目醒めるのを感じていた。僕自身もそれを欲していて、それが目の間にある事を本能的に知っている気がした。
僕がヴァルの首に腕を伸ばして引き寄せると、ヴァルのくれる口の中を這い回る柔らかな感触を自分からも楽しんだ。ああ、良い感じ…。もっとその続きがある?
ヴァルが僕を草の上に引き倒した時、僕はヴァルが胸を開けているのに気がついた。
それは僕に満月の君の、月に照らされた逞しい胸板を思い出させた。けれどもさっき喧嘩別れしたばかりの僕は、すぐにそれを追い払って、目の前の見た事のない幼馴染のしどけない姿をまじまじと見つめた。
僕とはまるで違うその造形を見て、一体いつの間にそうなったのだろうと不思議な気がした。僕は無意識に手を伸ばして、衣装の間からそのなめらかな皮膚を撫でた。
「ヴァル、凄い…。戦士に選ばれるだけあるんだね。」
僕が気の済むまで撫でるのを、ヴァルは口元を引き締めて我慢しているみたいだった。僕はヴァルの目を見て尋ねた。
「…あ、ごめん。くすぐったかった?」
するとヴァルは少し笑って、僕の衣装を紐解きながら呟いた。
「…今度は俺の番だ。」
そう言って、止める間もなく僕の胸に手を置いた。僕の筋肉のつきにくい身体など撫でても何も面白い事などない筈なのに、ヴァルは真剣に僕の胸元を凝視して指先を動かした。
「ああ、なんてしっとりとして吸い付くきめの細かさだ。マグノリアンと手を繋ぐと感じていた事だけど、触った事のないこの感触は癖になりそうだ。ほら、ここも綺麗だ。」
そう言って僕の胸元を爪で弾いた。
痺れる様な鋭い何かが僕の身体に響いた。知らず自分でも聞いた事のない甘える様な声が出て、僕は恥ずかしさにハッとしてヴァルを見つめた。ヴァルは嬉しげに微笑むと、僕の唇に柔らかく自分の口を押し当てながら、ゆっくりとさっきの場所を指先でなぞりはじめた。
決して無理強いされている訳ではないヴァルからの優しい口づけは、直ぐに離れて行った。突然の事に目を開けていた僕は、ヴァルの瞼がゆっくりと持ち上がるのを見つめた。
ヴァルは綺麗な緑色の目をしている。こんなに綺麗だったかな。
「落ち着いた?…口づけは、気持ちを落ち着かせる効果があるんだ。でもそれだけの事でマグノリアンに口づけた訳じゃないけど。」
そう照れくさそうに言いながら、僕の手を引っ張って歩き始めたヴァルの首が赤らんでいる。僕は普段とまるで違う空気が二人の間に横たわるのに戸惑いながら幻想の原っぱに足を踏み入れた。
いつ来ても悩みなど吹き飛ぶ美しい幻想的な夜景は、ヴァルに口づけられてすっかり動転してしまった僕には効果が無かった。僕はこの何とも言えない空気を何とかしようと口を開いた。
「満月の夜は、皆こうして口づけているの?」
自分でも誤魔化しようの無い質問をしてしまったと慌てたけれど、口から転げ落ちた言葉は回収出来ない。ヴァルはクスッと笑って僕の肩をグッと引き寄せて言った。
今まで気にも留めなかったけれど、肩に当たるヴァルの胸には厚みがある…。
「…俺たちエルフは普段感情的になる事とは縁遠い種族だろう?だから若い独身のエルフは満月の魔力に酔って、羽目を外すんだ。それは昔からの伝統で、それを重ねる事で生涯の相手を見つける意味もある。
どのみち、御神木の元で宣誓しなければ子供も授からないからね。それは流石にマグノリアンも知ってるだろう?」
確かに宣誓の話は聞いた。でも満月の夜にそういう意味で羽目を外すとは考えもしなかった。僕は恐る恐るヴァルに尋ねた。
「…ヴァルは、その、誰かと、そう言う意味で羽目を外したの?」
するとヴァルは僕を覗き込んで、感情の読み取れない表情で僕をじっと見つめて囁いた。
「…どうだろうね。マグノリアンはどう思いたい?」
エルフはシラを切るのが上手い。元々感情を出さない種族だから、何を考えているのか僕が知るのは難しいんだ。僕は口を尖らせた。
「どうせ本当事を言う気は無いくせに…。それよりヴァルが僕に、その、色々教えてくれるの?」
途端にぶわりと周囲の空気が動いた気がした。実際空中を飛び交っていた光る虫が一瞬何処かに飛ばされた気がする。僕が思わず周囲を見回していると、背の高いヴァルが僕の顎を掴んで視線を合わせた。
「ああ。この数ヶ月、俺が追い立てられる様に頑張ってきたのはマグノリアンの為だよ。来て…。」
ヴァルが何をどう頑張ってきたのかよく分からないけれど、もうそんな事を聞ける様な空気では無かった。
ヴァルに手を引かれて行くと、大きな木の根が絡まりあって、まるで屋根の様に組み上がった場所に辿り着いた。
「こんな場所があったなんて、全然気付かなかったな。前から知ってたの?」
ヴァルは何も言わずに僕とその中へ入り込むと、柔らかな草の上に座って手を引っ張った。釣られて座ったものの、これから何か起こりそうでドキドキする。
僕も全然この手の事に知識が無いわけじゃない。時々耳にする、城のエルフ達の色恋沙汰にこの手の話が紛れているからだ。けれど、それと僕が当事者になるのとでは、まるでかけ離れている。
「マグノリアン、俺たちがこうするのは自然な事だ。満月の夜のエルフの踊りは皆が必ず通る道なんだよ。」
そう言って、ヴァルは僕を抱き寄せて唇を塞いで来た。さっきよりも僕を圧倒する様なその口づけは、あっという間に僕から抵抗力を奪った。
満月の魔法のせいなのか、僕はヴァルに口づけられた事で身体の中に何か疼くものが目醒めるのを感じていた。僕自身もそれを欲していて、それが目の間にある事を本能的に知っている気がした。
僕がヴァルの首に腕を伸ばして引き寄せると、ヴァルのくれる口の中を這い回る柔らかな感触を自分からも楽しんだ。ああ、良い感じ…。もっとその続きがある?
ヴァルが僕を草の上に引き倒した時、僕はヴァルが胸を開けているのに気がついた。
それは僕に満月の君の、月に照らされた逞しい胸板を思い出させた。けれどもさっき喧嘩別れしたばかりの僕は、すぐにそれを追い払って、目の前の見た事のない幼馴染のしどけない姿をまじまじと見つめた。
僕とはまるで違うその造形を見て、一体いつの間にそうなったのだろうと不思議な気がした。僕は無意識に手を伸ばして、衣装の間からそのなめらかな皮膚を撫でた。
「ヴァル、凄い…。戦士に選ばれるだけあるんだね。」
僕が気の済むまで撫でるのを、ヴァルは口元を引き締めて我慢しているみたいだった。僕はヴァルの目を見て尋ねた。
「…あ、ごめん。くすぐったかった?」
するとヴァルは少し笑って、僕の衣装を紐解きながら呟いた。
「…今度は俺の番だ。」
そう言って、止める間もなく僕の胸に手を置いた。僕の筋肉のつきにくい身体など撫でても何も面白い事などない筈なのに、ヴァルは真剣に僕の胸元を凝視して指先を動かした。
「ああ、なんてしっとりとして吸い付くきめの細かさだ。マグノリアンと手を繋ぐと感じていた事だけど、触った事のないこの感触は癖になりそうだ。ほら、ここも綺麗だ。」
そう言って僕の胸元を爪で弾いた。
痺れる様な鋭い何かが僕の身体に響いた。知らず自分でも聞いた事のない甘える様な声が出て、僕は恥ずかしさにハッとしてヴァルを見つめた。ヴァルは嬉しげに微笑むと、僕の唇に柔らかく自分の口を押し当てながら、ゆっくりとさっきの場所を指先でなぞりはじめた。
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