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エルフの国
兄弟達のアドバイス
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盛大な15歳の誕生日の余韻が続くひと月が経って、僕は部屋に積み上がった贈り物の数々をぼんやり眺めていた。まるで僕が15歳になるのを待っていたかの様に、知り合いでもない兄の友人のエルフ達から声が掛かるようになったのは嬉しい驚きだった。
部屋の扉をノックする音にハッとして返事をすると、ケル兄様が顔を覗かせた。
「明日は満月だ。マグノリアンもようやく夜歩きが許可されることになったな。…その。…まったく私にこんな役割を押し付けて、兄上達は狡い。」
何だか言いにくそうにブツブツ言うケル兄様を見つめながら、僕はクスッと笑った。
「なぁに?一晩中踊ったり、月の魔法を浴びて少し良い気分で友達と話をするんじゃないの?でもこの贈り物についていたカードには、エスコートの打診がついてるんだよね。
ベルベット姉上が以前言っていた様に、エスコートが必要なのかな。一人で自由に歩き回るから楽しいのにね。誰かと一緒じゃ本来の意味はないんじゃない?」
僕は贈り物の箱に差し込まれていた美しいカードを、ズラリとテーブルに並べた。
ケル兄様は何気に数枚のカードを手に取って差出人を眺めると、眉を顰めた。
「あいつら、全く抜け目がない…!」
僕はケル兄様の手の中のカードを眺めながら、首を傾げた。
「ケル兄様のお友達?チラッと名前だけは聞いた事があるけど、顔と一致はしないんだよね。ね、誰かと一緒に行かなくちゃダメなの?」
僕がそう尋ねると、ケル兄様はため息をついて僕の手を引っ張ってベッドに一緒に腰掛けた。
「…満月の夜は若いエルフの恋の時間なんだ。一緒に過ごしてみたい相手を選んで、自由に過ごすんだ。勿論無理強いはダメだし、約束した相手以外と途中で変えて過ごしても良い。
このひと月マグノリアンの所へ贈り物が多かったのは、お前の初めての満月の夜を一緒に過ごしたいと思うエルフが多かったって事だよ。」
僕は初めて聞く話に驚いて、文字通り目をぱちくりさせた。そんな話は初めて聞いた。でもそう聞けば思い当たる節はある。ヴァルのあの煮え切らない態度もそうだし、ケル兄様の疲れ果てた様子とか。
でも僕は首を傾げた。
「…恋の時間というのは分かったけど、なぜケル兄様はいつもあんなに疲れ切っていたの?一緒に楽しくお話しするだけなんでしょ?恋の時間と言うからには、手を繋いだりするかもしれないけど。」
そこまで話して、僕はあの夜に満月の君と手を握り合った事を思い出した。思わず無意識に耳の飾りに手をやると、ケル兄様がそんな僕をじっと見つめて探る様に尋ねてきた。
「私の事はいいんだ。とは言え、お前にはもう意中の相手がいるのかな。ヴァルかい?その耳飾りは彼にもらったんだろう?」
ケル兄様が的はずれな事を言い出したけれど、この耳飾りをくれた満月の君の彼の事を話す訳にいかなかった。僕ははっきりとは答えなかったけれど、それが僕の返事だと思ったケル兄様は安心した顔をして立ち上がった。
「…ヴァルがエスコートしてくれるなら安心だ。彼に色々教えてもらうと良い。じゃあ、明日の夜を楽しんでおいで。」
部屋を出ていくケル兄様を見つめながら、結局恋の時間に何をどうするのかはハッキリしたことは分からないと思った。それに僕は夜歩きの前に満月の君と会わなくちゃいけないのに。
僕は沢山のカードの中から、一枚のカードを取り出した。ヴァルからのエスコートカードだ。少し緊張した表情で、誕生日に僕に贈り物をしてくれたヴァルは僕に言った。
「…マグノリアンは危なっかしいから、俺が一緒に行った方が良いと思うんだ。もし他に一緒に行く相手が決められなかったら俺と行こう。俺はマグノリアンと行く気で空けておくよ。」
その時は夜歩きはそんなに色々面倒な事があるのかと顔を顰めたんだけど、今となってはヴァルに頼る他はなさそうだった。深窓の皇子と揶揄われる様に、兄様達のガードが凄まじくて僕にはあまり知り合いがいない。
僕は慌ててヴァルにエスコートカードの返事を書くと、連絡用の青い鳥の籠に砂糖菓子と一緒に入れて窓に吊り下げた。明日の朝には青い鳥がヴァルにカードを届けてくれるだろう。あの子はあの砂糖菓子が大好きだから。
翌日、夜に向けるにつれ、城の皆が僕に意味深な眼差しを向けてくるのには閉口した。確かに僕は今まで色々な禁止事項に行動制限されてきたけれど、15歳になった途端いきなり自由だと手を離されると却ってどうして良いか分からないんだ。
取り敢えずケル兄様の言う事が本当なら、ヴァルがエスコート相手だとしても着飾っていくのがマナーなのかもしれない。そう言えばいつもケル兄達は出掛ける時に洒落た格好をしている。
夕食後、部屋に戻って身支度しようと歩いていると、後ろからベルベット姉様が追いかけてきた。一緒に僕の部屋に入ると、なぜか声を顰めて姉様が僕をじっと見つめて言った。
「マグノリアン、良い?嫌だと思ったら断固拒否するのよ。突き飛ばしても良いし、走って逃げても良いから。無理強いする様なエルフは居ないと思うけどね?ああ、こんな可愛いマグノリアンと一緒にいたら、どんな相手だって獣になってしまうわねぇ。
でも自分で受け入れられるって感じたら、楽しんで良いのよ。もともと私たちエルフは恋を楽しむ種族なのだし、必要な事なの。長い人生に必要な最愛のパートナーと巡り会うための、大事なレッスンの様なものなのよ。
経験がないと判断も出来ないでしょう?」
姉様の言う事はよく分からなかったけれど、今夜は何かが起きると言う事は何となく分かった。それが僕に必要そうな事も。ああ、色々不安になってきたよ…。
部屋の扉をノックする音にハッとして返事をすると、ケル兄様が顔を覗かせた。
「明日は満月だ。マグノリアンもようやく夜歩きが許可されることになったな。…その。…まったく私にこんな役割を押し付けて、兄上達は狡い。」
何だか言いにくそうにブツブツ言うケル兄様を見つめながら、僕はクスッと笑った。
「なぁに?一晩中踊ったり、月の魔法を浴びて少し良い気分で友達と話をするんじゃないの?でもこの贈り物についていたカードには、エスコートの打診がついてるんだよね。
ベルベット姉上が以前言っていた様に、エスコートが必要なのかな。一人で自由に歩き回るから楽しいのにね。誰かと一緒じゃ本来の意味はないんじゃない?」
僕は贈り物の箱に差し込まれていた美しいカードを、ズラリとテーブルに並べた。
ケル兄様は何気に数枚のカードを手に取って差出人を眺めると、眉を顰めた。
「あいつら、全く抜け目がない…!」
僕はケル兄様の手の中のカードを眺めながら、首を傾げた。
「ケル兄様のお友達?チラッと名前だけは聞いた事があるけど、顔と一致はしないんだよね。ね、誰かと一緒に行かなくちゃダメなの?」
僕がそう尋ねると、ケル兄様はため息をついて僕の手を引っ張ってベッドに一緒に腰掛けた。
「…満月の夜は若いエルフの恋の時間なんだ。一緒に過ごしてみたい相手を選んで、自由に過ごすんだ。勿論無理強いはダメだし、約束した相手以外と途中で変えて過ごしても良い。
このひと月マグノリアンの所へ贈り物が多かったのは、お前の初めての満月の夜を一緒に過ごしたいと思うエルフが多かったって事だよ。」
僕は初めて聞く話に驚いて、文字通り目をぱちくりさせた。そんな話は初めて聞いた。でもそう聞けば思い当たる節はある。ヴァルのあの煮え切らない態度もそうだし、ケル兄様の疲れ果てた様子とか。
でも僕は首を傾げた。
「…恋の時間というのは分かったけど、なぜケル兄様はいつもあんなに疲れ切っていたの?一緒に楽しくお話しするだけなんでしょ?恋の時間と言うからには、手を繋いだりするかもしれないけど。」
そこまで話して、僕はあの夜に満月の君と手を握り合った事を思い出した。思わず無意識に耳の飾りに手をやると、ケル兄様がそんな僕をじっと見つめて探る様に尋ねてきた。
「私の事はいいんだ。とは言え、お前にはもう意中の相手がいるのかな。ヴァルかい?その耳飾りは彼にもらったんだろう?」
ケル兄様が的はずれな事を言い出したけれど、この耳飾りをくれた満月の君の彼の事を話す訳にいかなかった。僕ははっきりとは答えなかったけれど、それが僕の返事だと思ったケル兄様は安心した顔をして立ち上がった。
「…ヴァルがエスコートしてくれるなら安心だ。彼に色々教えてもらうと良い。じゃあ、明日の夜を楽しんでおいで。」
部屋を出ていくケル兄様を見つめながら、結局恋の時間に何をどうするのかはハッキリしたことは分からないと思った。それに僕は夜歩きの前に満月の君と会わなくちゃいけないのに。
僕は沢山のカードの中から、一枚のカードを取り出した。ヴァルからのエスコートカードだ。少し緊張した表情で、誕生日に僕に贈り物をしてくれたヴァルは僕に言った。
「…マグノリアンは危なっかしいから、俺が一緒に行った方が良いと思うんだ。もし他に一緒に行く相手が決められなかったら俺と行こう。俺はマグノリアンと行く気で空けておくよ。」
その時は夜歩きはそんなに色々面倒な事があるのかと顔を顰めたんだけど、今となってはヴァルに頼る他はなさそうだった。深窓の皇子と揶揄われる様に、兄様達のガードが凄まじくて僕にはあまり知り合いがいない。
僕は慌ててヴァルにエスコートカードの返事を書くと、連絡用の青い鳥の籠に砂糖菓子と一緒に入れて窓に吊り下げた。明日の朝には青い鳥がヴァルにカードを届けてくれるだろう。あの子はあの砂糖菓子が大好きだから。
翌日、夜に向けるにつれ、城の皆が僕に意味深な眼差しを向けてくるのには閉口した。確かに僕は今まで色々な禁止事項に行動制限されてきたけれど、15歳になった途端いきなり自由だと手を離されると却ってどうして良いか分からないんだ。
取り敢えずケル兄様の言う事が本当なら、ヴァルがエスコート相手だとしても着飾っていくのがマナーなのかもしれない。そう言えばいつもケル兄達は出掛ける時に洒落た格好をしている。
夕食後、部屋に戻って身支度しようと歩いていると、後ろからベルベット姉様が追いかけてきた。一緒に僕の部屋に入ると、なぜか声を顰めて姉様が僕をじっと見つめて言った。
「マグノリアン、良い?嫌だと思ったら断固拒否するのよ。突き飛ばしても良いし、走って逃げても良いから。無理強いする様なエルフは居ないと思うけどね?ああ、こんな可愛いマグノリアンと一緒にいたら、どんな相手だって獣になってしまうわねぇ。
でも自分で受け入れられるって感じたら、楽しんで良いのよ。もともと私たちエルフは恋を楽しむ種族なのだし、必要な事なの。長い人生に必要な最愛のパートナーと巡り会うための、大事なレッスンの様なものなのよ。
経験がないと判断も出来ないでしょう?」
姉様の言う事はよく分からなかったけれど、今夜は何かが起きると言う事は何となく分かった。それが僕に必要そうな事も。ああ、色々不安になってきたよ…。
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