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私の運命
翼side美那の結婚【完】
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美那と橘部長代理の結婚は、サクラフーズに激震を引き起こした。ただでさえ、美那は難攻不落の男性社員の垂涎の的だったのに、関連会社から出向して来た橘にそれこそ瞬きをする間に攫われたからだ。
とは言え、橘部長代理のハイスペぶりに男性社員は諦めを滲ませて悔しがるばかりだった。もっとも悔しがっているのは一部のハイスペ狙いの女子社員も同じだったけれどね。
けれども結婚式に出た関係者から、橘部長代理が親会社の社長令息だと知られてから、その悔しさはより深く、また羨望へと変わっていった。
「翼さんは知っていたの?部長代理が社長令息だって。」
そう顔を引き攣らせた美人社員達に囲まれて、私は肩をすくめた。
「いいえ、全然知らなかったわ。そもそもあの二人は、この会社で顔を合わす前からの知り合いだわ。部長代理が出向して来た時、美那が凄くびっくりしてたもの。
部長代理も婚約するまで社長令息だって言わなかったみたいよ?知ったら美那が嫌がって付き合ってくれないと思ったんじゃないかしら。あの子は面倒なことは避けたがるから。結局上辺だけでなくて、中身を見てくれた美那だから結婚相手に部長代理も選んだのでしょうね。」
私の当て擦りに、美人社員達は顔を顰めて黙り込んで立ち去ってしまった。あらら、図星だったかな。まぁ社長令息でなくても部長代理ならモテモテだったけどね。
私は結婚式の橘氏の溺愛ぶりに結構引いていた。美那が可愛くてしょうがないと言った風で、かたときも側から離そうとしなかったのだから。そのちょっとした執着ぶりに、橘側の親族が目を丸くして目配せし合っていたのが面白かった。
しかし類友と言うべきか、橘氏の友人枠は豊作だった。私のハンターとしての血潮が騒いだのだから。私は思わずアドレスの連なった名前をスクロールしながら、しばらく退屈しないとほくそ笑んだ。
美那が幸せいっぱいなのは友人として嬉しいけれど、まだまだ私は落ち着くわけにいかないのだ。うぶな美那と違って、こなれた私を虜にする相手に出会える事を心のどこかで願っているのだから。
新婚旅行で不在の美那の机をカウンターから眺めながら、私は営業先に持っていく挨拶品を庶務から受け取っていた。あの二人が出社して来たら流石に同じ部内という訳にいかないかもしれない。
どちらかが別の部署へ配置されることだろう。配属されたばかりの部長代理が呼び戻されるには期間が短過ぎるので、きっと美那が異動するだろうけど、美那の仕事ぶりは評価が高いのできっとあちこちから水面下で引き抜きの調整が行われているに違いない。
才色兼備を自で行く美那は、完璧な婿取りをして女子社員の伝説になったのかな?私はきっと出社した美那の御利益にあやかろうと彼女たちが押し寄せるのを予想して、美那の困り顔が見えるようだとほくそ笑んだ。
「清水さん、悪い顔してるわよ?」
そうすれ違いざまに美那の上司でもある、結婚後も旧姓のままの中川さんにニヤリとされて、私はおどけた顔で彼女に言った。
「美那もそうですけど、中川さんも幸せいっぱいですよね。なんかこの課って風水的に恋愛運めちゃくちゃ良いんですかね?」
すると中川さんは首を傾げて、何を考えているのか分からない表情で私をじっと見つめて言った。
「そうよ。知らなかった?清水さんもここに配属になりたい?」
そうひと言言うと、背中を見せて席に戻ってしまった。清水さんの本気か嘘か分からないその物言いに、私は戸惑ったけれど、思わずカウンター越しに清水さんに呼びかけた。
「もしそうなったら、よろしくお願いします!」
清水さんの微笑みに笑い返して、私は営業仲間と合流すべく出口へと向かった。本当か嘘か分からないけど、美那が幸せになったんだから、私も見習ってちょっとは真剣に結婚に向き合った方が良いかもしれないな。
私はスマホをスクロールして、今夜デートの約束をした橘関係の男の新しいメッセージを眺めた。
「貴方が私の運命?」
【 完 】
★★★あとがき★★★
2年前に終わらせ方に迷って完結しないまま休止していたこの作品ですが、読みやすい様に校正や加筆してついに完結させました!
案外ボリュームもしっかりあって、よくぞこの最後の最後で止まってたなぁ😅と反省しきりです。
あと数作似た様な状況のものがあるので、時間を見て完結させたいと思います!
いわゆるスパダリものですが、楽しんで頂けたら嬉しいです❣️
とは言え、橘部長代理のハイスペぶりに男性社員は諦めを滲ませて悔しがるばかりだった。もっとも悔しがっているのは一部のハイスペ狙いの女子社員も同じだったけれどね。
けれども結婚式に出た関係者から、橘部長代理が親会社の社長令息だと知られてから、その悔しさはより深く、また羨望へと変わっていった。
「翼さんは知っていたの?部長代理が社長令息だって。」
そう顔を引き攣らせた美人社員達に囲まれて、私は肩をすくめた。
「いいえ、全然知らなかったわ。そもそもあの二人は、この会社で顔を合わす前からの知り合いだわ。部長代理が出向して来た時、美那が凄くびっくりしてたもの。
部長代理も婚約するまで社長令息だって言わなかったみたいよ?知ったら美那が嫌がって付き合ってくれないと思ったんじゃないかしら。あの子は面倒なことは避けたがるから。結局上辺だけでなくて、中身を見てくれた美那だから結婚相手に部長代理も選んだのでしょうね。」
私の当て擦りに、美人社員達は顔を顰めて黙り込んで立ち去ってしまった。あらら、図星だったかな。まぁ社長令息でなくても部長代理ならモテモテだったけどね。
私は結婚式の橘氏の溺愛ぶりに結構引いていた。美那が可愛くてしょうがないと言った風で、かたときも側から離そうとしなかったのだから。そのちょっとした執着ぶりに、橘側の親族が目を丸くして目配せし合っていたのが面白かった。
しかし類友と言うべきか、橘氏の友人枠は豊作だった。私のハンターとしての血潮が騒いだのだから。私は思わずアドレスの連なった名前をスクロールしながら、しばらく退屈しないとほくそ笑んだ。
美那が幸せいっぱいなのは友人として嬉しいけれど、まだまだ私は落ち着くわけにいかないのだ。うぶな美那と違って、こなれた私を虜にする相手に出会える事を心のどこかで願っているのだから。
新婚旅行で不在の美那の机をカウンターから眺めながら、私は営業先に持っていく挨拶品を庶務から受け取っていた。あの二人が出社して来たら流石に同じ部内という訳にいかないかもしれない。
どちらかが別の部署へ配置されることだろう。配属されたばかりの部長代理が呼び戻されるには期間が短過ぎるので、きっと美那が異動するだろうけど、美那の仕事ぶりは評価が高いのできっとあちこちから水面下で引き抜きの調整が行われているに違いない。
才色兼備を自で行く美那は、完璧な婿取りをして女子社員の伝説になったのかな?私はきっと出社した美那の御利益にあやかろうと彼女たちが押し寄せるのを予想して、美那の困り顔が見えるようだとほくそ笑んだ。
「清水さん、悪い顔してるわよ?」
そうすれ違いざまに美那の上司でもある、結婚後も旧姓のままの中川さんにニヤリとされて、私はおどけた顔で彼女に言った。
「美那もそうですけど、中川さんも幸せいっぱいですよね。なんかこの課って風水的に恋愛運めちゃくちゃ良いんですかね?」
すると中川さんは首を傾げて、何を考えているのか分からない表情で私をじっと見つめて言った。
「そうよ。知らなかった?清水さんもここに配属になりたい?」
そうひと言言うと、背中を見せて席に戻ってしまった。清水さんの本気か嘘か分からないその物言いに、私は戸惑ったけれど、思わずカウンター越しに清水さんに呼びかけた。
「もしそうなったら、よろしくお願いします!」
清水さんの微笑みに笑い返して、私は営業仲間と合流すべく出口へと向かった。本当か嘘か分からないけど、美那が幸せになったんだから、私も見習ってちょっとは真剣に結婚に向き合った方が良いかもしれないな。
私はスマホをスクロールして、今夜デートの約束をした橘関係の男の新しいメッセージを眺めた。
「貴方が私の運命?」
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2年前に終わらせ方に迷って完結しないまま休止していたこの作品ですが、読みやすい様に校正や加筆してついに完結させました!
案外ボリュームもしっかりあって、よくぞこの最後の最後で止まってたなぁ😅と反省しきりです。
あと数作似た様な状況のものがあるので、時間を見て完結させたいと思います!
いわゆるスパダリものですが、楽しんで頂けたら嬉しいです❣️
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