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新しい関係性
征一のお節介
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私はちょっとぼんやりする身体を征一に支えられながらビルの駐車場までエレベーターで降りた。途中幾人かの社員からチラチラ見られたけれど、私の顔色の悪さを見ると皆ギョッとしたように、お大事にと優しく声を掛けてくれた。
「私の友人で精神科医がいるから、そいつのところに連れて行くよ。まだ若いが腕は良いから安心してくれ。」
征一はそう言うと私をそっと助手席へ乗せ、シートベルトを付けると運転席へと乗り込んだ。私は多分直ぐに眠ってしまった様で、気がつけば閑静な住宅街の一見素敵な洋館に見える病院へと征一に抱き上げられながら入っていくところだった。
「…征一さん、降ります…。」
征一は私をチラッと見ると言った。
「まだ顔色が良くない。今歩いたらまた倒れそうだ。このままで。」
そう言うと病院の中へ入っていった。事前に連絡してあったのか、時間外だったのか、待合室には誰もいなかった。征一は迷う事なく診察室へ入っていった。
南フランスの部屋を思わせる明るい診察室で、征一と同じような年頃のドクターらしき人物はにっこり微笑むと言った。
「君が征一の大事な患者さんか。簡単に事情は聞いたよ。さて、そこの安楽椅子に。そう。征一はどうしようかな。えっと、君たちはどうゆう関係かな?」
征一は私を見つめると、ため息をついて言った。
「美那が自由に話せた方がいいだろう。私は席を外す。頃合いを見て呼んでくれ。」
私は部屋の扉が閉まるのを見送ると、目の前の優しげなドクターを見つめた。ドクターは自分は征一の高校時代の友人だと言った。それ以来の腐れ縁だと。そしてここでの話は医者と患者の話で誰にも話さないから自由に話して良いと言われた。
私はあの事件の時の女性の無表情な眼差しを、静かな部屋、夜眠る時に思い出してしまって怖いこと、眠りが浅い事、裕樹さんに会うのが怖いなど、思いつくままに話した。
ドクターは話しやすい様に時々合いの手や、質問するだけで、ほとんど私が喋っていた。でも、誰にも言えない色々な気持ちを話したおかげで、私はゆっくり息が出来る気がした。久しぶりに感じる安らぎとでも言うのだろうか。
初対面で秘密を守れる人に何でも話すと言うのは、こんなに話せるものなのかと少し驚きも感じるほどだった。ドクターは話し終えた私に悪戯っぽい視線を送って言った。
「ちょっと聞いても良いかな。ここだけの話、田辺さんと征一はどういう関係なんだい?」
征一の友人という精神科医に彼との関係を聞かれたけれど、私は何と答えていいか分からなかった。その時、以前征一に言われた言葉を思い出した。
「…私と征一さんの関係は親密な知人です。」
ドクターはニヤリと面白そうな顔をして私を見た。
「これは治療とは関係がなくて、単なる僕の好奇心だから無理に答えなくても良いんだけどね。僕は征一があんなに必死な様子を初めて見たから、ちょっと驚いたんだ。あいつはそつがない分、昔から他人に深入りしないように気をつけているからね。
それは女性に対してもそうで、大学時代の彼女たちは結局あいつの気持ちが分からないって離れていったんだ。あいつはそれでもそうかって具合でね。だから君のことを随分と気にかけてるのが、本当珍しいっていうか。
付き合ってるのかと思ったけど、今の話や、君の様子からしてみたらそうじゃないみたいだね。そっか。」
私は、征一が今まで女性に対してそんな感じだったことに驚きを感じた。私には随分でしゃばってくるし、グイグイくるのに…。
「ごめん、ごめん。余計なこと言ったよ。この事はあいつには内緒にしてね。怒られそうだから。ははは。…じゃあ、取り敢えずゆっくり休養が必要かな。出来れば一人にならない方がいいと思うんだけど。ちょっとあいつ呼んで来るから待っててくれるかい?」
そう言ってドクターは部屋から出て行った。私は、窓から見える中庭の美しい薔薇を眺めるともなしに見つめていた。私は自分の事を強いと思っていたけれど、案外そうでもないんだと少しガッカリしていた。それとも慣れない恋愛事情に巻き込まれたせいだろうか。
ドアの開く音にそちらを振り返ると、ドクターと征一が何か話しながら入ってきた。ドクターは私の顔を見るとウィンクをして言った。
「今、征一にも話していたんだけど、田辺さん一人で過ごさない方が良いと思うんだ。せめて1週間でも良いから、誰か一緒にシェアハウスで良いから過ごしてほしいと思って。誰か都合つきそうかい?
…あと、その例の彼、野村さんとは一定期間会わないでもらいたいんだ。彼には僕の方からメールを流しておくから、連絡先だけ教えてもらって良いかな。
野村さんは田辺さんの家は知っているのかな?…そうか、どうしようかな。やっぱり今の家で過ごさない方が良いんだけど…。」
すると私たちの話を聞いていた征一が言った。
「私の家に来れば良い。マンションは広いし、客間が有るから。私も普段帰宅は遅いけれど、人の気配があった方が良いんだろう?」
「私の友人で精神科医がいるから、そいつのところに連れて行くよ。まだ若いが腕は良いから安心してくれ。」
征一はそう言うと私をそっと助手席へ乗せ、シートベルトを付けると運転席へと乗り込んだ。私は多分直ぐに眠ってしまった様で、気がつけば閑静な住宅街の一見素敵な洋館に見える病院へと征一に抱き上げられながら入っていくところだった。
「…征一さん、降ります…。」
征一は私をチラッと見ると言った。
「まだ顔色が良くない。今歩いたらまた倒れそうだ。このままで。」
そう言うと病院の中へ入っていった。事前に連絡してあったのか、時間外だったのか、待合室には誰もいなかった。征一は迷う事なく診察室へ入っていった。
南フランスの部屋を思わせる明るい診察室で、征一と同じような年頃のドクターらしき人物はにっこり微笑むと言った。
「君が征一の大事な患者さんか。簡単に事情は聞いたよ。さて、そこの安楽椅子に。そう。征一はどうしようかな。えっと、君たちはどうゆう関係かな?」
征一は私を見つめると、ため息をついて言った。
「美那が自由に話せた方がいいだろう。私は席を外す。頃合いを見て呼んでくれ。」
私は部屋の扉が閉まるのを見送ると、目の前の優しげなドクターを見つめた。ドクターは自分は征一の高校時代の友人だと言った。それ以来の腐れ縁だと。そしてここでの話は医者と患者の話で誰にも話さないから自由に話して良いと言われた。
私はあの事件の時の女性の無表情な眼差しを、静かな部屋、夜眠る時に思い出してしまって怖いこと、眠りが浅い事、裕樹さんに会うのが怖いなど、思いつくままに話した。
ドクターは話しやすい様に時々合いの手や、質問するだけで、ほとんど私が喋っていた。でも、誰にも言えない色々な気持ちを話したおかげで、私はゆっくり息が出来る気がした。久しぶりに感じる安らぎとでも言うのだろうか。
初対面で秘密を守れる人に何でも話すと言うのは、こんなに話せるものなのかと少し驚きも感じるほどだった。ドクターは話し終えた私に悪戯っぽい視線を送って言った。
「ちょっと聞いても良いかな。ここだけの話、田辺さんと征一はどういう関係なんだい?」
征一の友人という精神科医に彼との関係を聞かれたけれど、私は何と答えていいか分からなかった。その時、以前征一に言われた言葉を思い出した。
「…私と征一さんの関係は親密な知人です。」
ドクターはニヤリと面白そうな顔をして私を見た。
「これは治療とは関係がなくて、単なる僕の好奇心だから無理に答えなくても良いんだけどね。僕は征一があんなに必死な様子を初めて見たから、ちょっと驚いたんだ。あいつはそつがない分、昔から他人に深入りしないように気をつけているからね。
それは女性に対してもそうで、大学時代の彼女たちは結局あいつの気持ちが分からないって離れていったんだ。あいつはそれでもそうかって具合でね。だから君のことを随分と気にかけてるのが、本当珍しいっていうか。
付き合ってるのかと思ったけど、今の話や、君の様子からしてみたらそうじゃないみたいだね。そっか。」
私は、征一が今まで女性に対してそんな感じだったことに驚きを感じた。私には随分でしゃばってくるし、グイグイくるのに…。
「ごめん、ごめん。余計なこと言ったよ。この事はあいつには内緒にしてね。怒られそうだから。ははは。…じゃあ、取り敢えずゆっくり休養が必要かな。出来れば一人にならない方がいいと思うんだけど。ちょっとあいつ呼んで来るから待っててくれるかい?」
そう言ってドクターは部屋から出て行った。私は、窓から見える中庭の美しい薔薇を眺めるともなしに見つめていた。私は自分の事を強いと思っていたけれど、案外そうでもないんだと少しガッカリしていた。それとも慣れない恋愛事情に巻き込まれたせいだろうか。
ドアの開く音にそちらを振り返ると、ドクターと征一が何か話しながら入ってきた。ドクターは私の顔を見るとウィンクをして言った。
「今、征一にも話していたんだけど、田辺さん一人で過ごさない方が良いと思うんだ。せめて1週間でも良いから、誰か一緒にシェアハウスで良いから過ごしてほしいと思って。誰か都合つきそうかい?
…あと、その例の彼、野村さんとは一定期間会わないでもらいたいんだ。彼には僕の方からメールを流しておくから、連絡先だけ教えてもらって良いかな。
野村さんは田辺さんの家は知っているのかな?…そうか、どうしようかな。やっぱり今の家で過ごさない方が良いんだけど…。」
すると私たちの話を聞いていた征一が言った。
「私の家に来れば良い。マンションは広いし、客間が有るから。私も普段帰宅は遅いけれど、人の気配があった方が良いんだろう?」
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