最初から可愛いって思ってた?

コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26

文字の大きさ
7 / 26

壬生side浮かれた気持ち

しおりを挟む
 駅前で、はにかんだ様子で別れる悠太を見送ってから、俺は自転車を走らせた。今日は本屋でアルバイトだ。

俺の腕の太さを見て、即採用となったのは、本屋の意外な重労働さにスタッフが辟易としていたせいなのかは分からない。でも俺はこの静かな環境のバイトを案外気に入っていた。

けれども今日は、昨夜の悠太の痴態が頭の中にちらついて、失敗ばかりだ。しかも朝出掛けに触れ合わせた舌の感触まで生々しい。


 「どうした?壬生君、ちょっと心ここに在らずだね。」

そうバイトの先輩の清水さんに言われて、俺は思わず謝った。

「ふふ、ぼんやりしちゃって。切り替えて集中!ね?」

スラリとしたクールビューティーとバイト仲間で評される清水さんは、三年の終わりにさっさと内定を貰って、すっかり余裕の四年生だ。就活の一斉スタートが無くなったせいで、夏のインターンシップという名目の就活が始まる大学三年生の俺たちにとっては羨望の的だ。


 俺らは一緒に新刊を手早く並べながら、チラッと清水さんを見た。清水さんは綺麗に見栄え良く積みながら呟いた。

「何。何か聞きたそう。」

俺は就活の不安を口にしながら、台車を押してバックヤードへと向かった。清水さんに就活のやり方聞いた方がいいかな。全然企業研究もしてないから、何を聞いていいかも分からないな。悠太はどんな企業を選ぶんだろう。

そんな事を考えていると、のんびりと二人で笑って過ごせる時間はあまり無い気がしてくる。はぁ、就活めんど。


 「まだ6月だからさ、就活の事なんて全然考えてないでしょ?私もそうだったから。でも企業研究はやっておいた方がいいよ。私たち大学生ってさ、全然ものを知らないって言うか。

世の中色んな仕事があるんだなって、リアルに理解し始めるって感じだから。皆が知ってる会社だからって良い会社って訳でもないし、知られてないけどめちゃくちゃ良い会社もあるからさ。

私はIT系だから内定も早かったけど、業種で全然決まる時期も違うから。分かる範囲だったら教えてあげるからID交換する?」


 俺は有り難く清水さんと連絡先を交換した。基本あまりIDを教え合う方じゃないが、今回は別だ。悠太にも色々教えてあげたいからな。

そんな事を考えながら、疲れた身体を引き摺って一人暮らしのマンションに戻った。玄関を開けた瞬間、いつもと違う匂いがした。ああ、悠太の匂いか?

俺は口元に笑みを浮かべながら、ひと目で見渡せるワンルームを眺めた。悠太が居ないせいで何か物足りない気がする。


 コンビニで買ってきた時間的に品薄で選びようがない、量だけは美点の弁当をスマホを片手に食べていると、ピコンと悠太からメッセージが届いた。

[バイト終わった?お疲れ様。昨日は色々ありがとう。明日はゼミで会えるね。おやすみ。]

たわいもないメッセージだけど、妙に嬉しい。

[今帰って来たところ。家入ったら、悠太の匂いしてちょっと嬉しかった。]

メッセージを送ってから我に返った。何か俺キモくね?

しばらく経ってからピコンと表示されたのは、溶け出したキャラのスタンプだ。照れてんのか?とは言え、俺も自分の送ったメッセージを改めて読むと、もう完全にバカップルのあれだ。


 その時清水先輩からメッセージが届いた。

[清水です。よろしく。]

何ともシンプルな男気のあるメッセージだ。見た目は綺麗系女子なのにな。俺は清水先輩らしいなと思いながら同じ様なメッセージを送った。

もうすっかり遅くなっていたので、俺は寝支度に忙しくて結局スマホは朝まで見なかった。だから朝アラームで起こされてスマホを手にした時に、清水先輩から就活のやり方のメッセージが送られて来ていたのを見て、有難いけどマメすぎるなと正直思った。

気を遣わせて、かえって迷惑だったかもしれないって。


 大学のカフェテリアに早めに来ていた俺は、側に立った人を見て驚いた。清水先輩だ。四年生はほとんど授業が無いって聞いてたけど、それでも前期は必修があるんだろうか。

「こんにちは。これからゼミ?私はゼミがないから、その分授業受けなくちゃいけなくて。卒業できなかったら洒落にならないからね。」

俺たちが話していると、カフェテリアの入り口に悠太が姿を現した。俺は手を上げて悠太に合図すると、カフェオレを手に立ち上がった。


 「友達?…可愛い子だね。」

清水先輩にそう言われて、すっかり気をよくした俺は、近づいてくる悠太が確かに今日も可愛いと思わず口元を緩めた。

「あいつ、それ気にしてるから本人には言わないでやって下さい。でも実際可愛いですよね。」

悠太は俺の隣に居る清水先輩を見てから、戸惑う様に俺を見た。俺は就活のアドバイスを貰ってるバイト先の先輩なんだと悠太に紹介した。

これで悠太も先輩から直接話が聞けるな。俺は気楽にそんな事を考えてたんだけど、話はそう簡単ではなかったんだ。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

ふつつかものですが鬼上司に溺愛されてます

松本尚生
BL
「お早うございます!」 「何だ、その斬新な髪型は!」 翔太の席の向こうから鋭い声が飛んできた。係長の西川行人だ。 慌てん坊でうっかりミスの多い「俺」は、今日も時間ギリギリに職場に滑り込むと、寝グセが跳ねているのを鬼上司に厳しく叱責されてーー。新人営業をビシビシしごき倒す係長は、ひと足先に事務所を出ると、俺の部屋で飯を作って俺の帰りを待っている。鬼上司に甘々に溺愛される日々。「俺」は幸せになれるのか!? 俺―翔太と、鬼上司―ユキさんと、彼らを取り巻くクセの強い面々。斜陽企業の生き残りを賭けて駆け回る、「俺」たちの働きぶりにも注目してください。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

幼馴染がいじめるのは俺だ!

むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに... 「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」 「はっ...ぁ??」 好きな奴って俺じゃないの___!? ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子 ーーーーーー 主人公 いじめられっ子 小鳥遊洸人 タカナシ ヒロト 小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。 姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。 高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、 脳破壊。 千透星への恋心を自覚する。 幼馴染 いじめっ子 神宮寺 千透星 ジングウジ チトセ 小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。 美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている) 転校生の須藤千尋が初恋である

兄弟カフェ 〜僕達の関係は誰にも邪魔できない〜

紅夜チャンプル
BL
ある街にイケメン兄弟が経営するお洒落なカフェ「セプタンブル」がある。真面目で優しい兄の碧人(あおと)、明るく爽やかな弟の健人(けんと)。2人は今日も多くの女性客に素敵なひとときを提供する。 ただし‥‥家に帰った2人の本当の姿はお互いを愛し、甘い時間を過ごす兄弟であった。お店では「兄貴」「健人」と呼び合うのに対し、家では「あお兄」「ケン」と呼んでぎゅっと抱き合って眠りにつく。 そんな2人の前に現れたのは、大学生の幸成(ゆきなり)。純粋そうな彼との出会いにより兄弟の関係は‥‥?

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

入社1ヶ月のワンコ系男子が、知らずのうちに射止めたのはイケメン社長!?

monteri
BL
CM制作会社の新入社員、藤白純太は入社1ヶ月で教育係の先輩が過労で倒れたため、特別なクライアントの担当を引き継ぐことになる。 そのクライアントは、女子禁制ミーハー厳禁の芸能事務所だった。 主人公の無知で純なところに、翻弄されたり、骨抜きにされるイケメン社長と、何も知らない純太がドキドキするお話です。 ※今回の表紙はAI生成です ※小説家になろうにも公開してます

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

処理中です...