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僕らの未来

嬉しい囲い込み

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 「本当、陽太君はこの手の服が似合うわね。限定版の色があって良かったわ。ねぇ、もう一軒だけ回りましょうよ。そしたら美味しいご飯ご馳走してあげるわ。」

「おば様、あんまりはしゃぐと省吾に怒られますよ。今日だってこっそり陽太君を連れ出してるんですから。」

 エネルギーの塊の様な省吾くんのお母様と、なぜか葉月さんと僕は、一緒に高級ブランドショップを練り歩いていた。

「あら、省吾は陽太君と結婚するために自ら修行に明け暮れていて時間が無いんだから、その分私が接待してあげなくっちゃ。陽太君は私とお買い物はあまり好きじゃないかしら。」


 僕は何処か省吾くんの面影を感じる、いや強引さではまるでそっくりな桐生グループの大株主の一人である将来のお義母様に微笑んで首を振った。

 「いいえ。でもこんなに沢山買ってもらったら申し訳ないです。お昼は僕にご馳走させて下さい。」

 すると荷物持ちと化した葉月さんが横から口を挟んだ。

「この人お金は売るほど持ってるんだから、使わせてやってよ。それも桐生グループの仕事の一つみたいなものだからさ。おば様、陽太君は真っ当な人間ですから、あまり無理言っちゃだめですよ。

 僕も荷物持ちで疲れたのでいい加減ご飯にしましょう。良い店知ってるのでそこでご馳走しますよ。陽太君にはこっそり二人の時に奢って貰うよ。あいつを出し抜くのは、それはそれで面白いからさ。」


 「…そう言えばそうね、十分歩いたかしら。陽太君にご馳走になりたかったけど、葉月さんがあの子を揶揄うのは面白そうだわ。じゃあ陽太君、今度葉月さんにご馳走してあげて?ほほほ。」

 ご機嫌な様子の省吾くんのお母様が道路の後ろを見ると、いつの間にか黒塗りの高級車が近づいていた。

 葉月さんが駆け寄ると白い手袋をつけた運転手がトランクを開けて二人で買い物袋を押し込んでいる。僕も慌てて手に持っていた紙袋をひとつ車に預けようと歩き出そうとした。


 するとお義母様は僕を引き留めてにっこり笑みを浮かべて言った。

「それは食事中に一緒に開けてみましょうよ。付けたところが見たいわ。」

 実は省吾くんのお母様と葉月さんに会って早々に、お母様から手渡された小さな紙袋だった。どう考えてもジュエリーの類いに思えるので、見るのが怖いくらいだ。

 僕は誤魔化す様に微笑むと、この御婦人には逆らえる気がしないと小さくため息をついた。


 正式に婚約が決まる前から、こうして僕は機会がある毎に省吾くんのお母様に囚われて何かと行動を共にしていた。僕と一緒の時間を奪われた省吾くんが怒ってクレームを入れてからは、しばらくお誘いも止まっていた。

 けれどここ最近は後継者修行が忙しくなった省吾くんを良い事に、今回は葉月さんをダシにしてお義母様とショッピングデートをしている。

 この猪突猛進タイプの、ある意味裏表の無い御婦人は、義理の親である前に非常に好ましい人物だと僕は感じていた。省吾くんと僕の取り合いにならない限りは、僕に色々してあげたいという気持ちが伝わって来て正直ありがたい。


 三人で葉月さんのお気に入りのイタリアンの店に入って奥まったテーブルに腰を落ち着けると、省吾くんのお母様は流石に疲れを見せてほうっと息をついた。

「さっきまでまだまだ余裕だと思ってたのに、こうして座ってしまえば流石に疲れを感じるわね。もう歳かしら。」

 すると葉月さんがクスクス笑いながら、お義母さんの手を優しく叩いて言った。

「おば様にそんな弱音を吐かれたら、何か起きるのかとゾッとしますよ。充分余裕だったでしょうに。僕が疲れて根を上げたせいでこうして休憩を取ってもらったくらいですしね。」


 いつ見ても、葉月さんが他人を嫌な気持ちにさせない言葉の選び方に僕は感服してしまう。どちらかと言うと言葉足らずの省吾くんの親友だと言う事を考えると、葉月さんが甘やかしたから省吾くんがあんな風になったのではないかと思ってしまう程だ。

「葉月さんは相変わらず人を良い気分にさせること。貴方がお家の事業を継いでも何の不安も無いわねぇ。陽太君、省吾はお家ではどうなのかしら。急に仕事に追い立てられて泣きが入っているのではなくて?」


 お義母様の言う事は全然遠からずな先輩の甘えっぷりを思い出して、顔が熱くなるのを自覚しながら顔の前で手を振った。

「あんなに真剣に取り組んでいる先輩は僕も知りません。確かに帰るなりヘロヘロな感じはしますけど。でも別の意味で心が熱いと言うか、スイッチが入ってるって感じます。」

 僕の言葉を拾う様に、葉月さんが呆れた様に笑った。

「はは、スイッチか。確かにそうかも。俺もあんなに真剣な省吾は初めて見た。やっぱり陽太君との未来が掛かってくると思ったら本気にならざるを得ないからね。」


 省吾くんのお母さんは、少し考え込む様子でテーブルの真ん中のフラワーベースを見つめると、おもむろに僕の方を見て言った。

「…感謝してるわ、陽太君。正直桐生グループを省吾に任せるのは無理だと思っていたの。そもそも本人にやる気も感じられなかったし、重責は身に染みて知っていたから。桐生とは本人の資質に合った仕事をさせようと話し合っていたくらいある意味諦めていたのね。

 そしたら急に婚約したい相手がいるって言い出したと思ったら、後継者修行に参戦したいとまで言い出して。全部貴方の力なんだって会ってみて直ぐに分かったわ。

 一緒に居る相手次第でここまで変われるって事が嬉しい驚きだったの。貴方は省吾の人生の要なのね。」


 僕は省吾くんのお母様にそこまで言われて、何処か感動さえ覚えた。僕はただ大好きな先輩の側にいたいと願っただけだけれど、それがこうして何か未来に繋がっていくとしたら、そんなに嬉しい事はない。

 そしてこの真っ直ぐな愛する人の母親と言う特別な女性に、言葉にして認めてもらえた事にも。…なんか泣きそう。

「…ありがとうございます。全部省吾くんの力です。僕がした事なんて、側にいる事だけですから。」


 僕を優しく見つめるお義母様がもう一度微笑むと、思い出した様子で目を大きく見開いて明るく言った。

「ああ、そうだわ。今日渡したあのプレゼント開けてみて頂戴な。私からの婚約記念よ。まだ学生の陽太君に邪魔にならない何かをと思って、葉月さんと一緒に選んだ物なのよ。

 葉月さんがあまり大袈裟なのは陽太君も付けづらいだろうって言うから、随分あゝでもないこうでも無いって考えたのよ。気に入って貰えたら嬉しいわ。」


 思いがけないプレゼントに、紙袋から戸惑いつつ少し重量のある四角い化粧箱を取り出した。美しく装飾された箱は僕でも知る有名なブランドの物だ。

 恐る恐る蓋を開くと、そこにはシンプルながら洗練された腕時計が入っていた。

 流石に僕でもこの時計が恐ろしく値段の張るものだというのは分かる。思わず息を呑んで見つめていると、僕を心配そうにみていたお義母様が呟いた。


 「気に入らなかったかしら…。」

 僕はハッと顔を上げて首を忙しく振ると、慌てて弁解した。

「いいえ、凄く素敵だなって見惚れていたんです。ありがとうございます。流石に僕にもこの時計の価値は分かりますけど、だからこそ簡単に頂いてしまって良いのかと迷ってしまいます。」

「ふふ、良かったわ。その表情を見れば気に入ってくれてる事くらいは分かるもの。省吾にはまだ貴方にこんなものは自力であげられないでしょうから、これはある意味挑戦状の様なものなのよ。

 悔しかったら稼げる様になりなさいって。」


 僕はキョトンとしてご機嫌なお義母様から葉月さんに視線を移した。すると葉月さんは肩をすくめて僕に言った。

「結局似たもの親子なんだ、ここは。怖いくらい息子のスイッチの押し方を分かってるんだ。まったく怖い御婦人だよ。おば様、省吾の愚痴を聞くのは私の役目って事なんですね。

 ああ、陽太君は貰えるものは受け取って置けばいいよ。大事な相手に貢ぎ体質なのは、これまた親子で一緒だからね。」

 …なんか今夜これを見た省吾くんがどう反応するのか怖い気がして来たよ。






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【内気な僕と大人の彼とのマッチングアプリ】です。
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早速のお気に入り150ごえありがとうございます😊
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