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僕を成すもの
お試し同棲
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目が覚めると、隣に先輩が長い睫毛の影を頬に落として眠っている。僕はこれから暫く一緒に生活するのかと、くすぐったい気持ちになって先輩の整った鼻筋を指でゆっくりなぞった。
彫りの深い骨格の先輩は、顔の骨ばった感触も自分とは違う。僕が先輩の顔をなぞるのにすっかり夢中になっていると、不意に身体を引き寄せられた。
「先輩!ごめんなさい、起こしちゃいましたか?」
すると先輩は眠そうな声でまだ目を閉じたまま呟いた。
「いや、起きれない。そうやって撫でられてると、なんか目が開かないんだ。案外気持ちいいんだな。まるで猫になった気分だ。」
僕はクスクス笑うと、先輩の唇に軽く触れ合わせて腕を解いた。
「じゃあ目が覚めるように何か淹れましょうか?何が良い?」
「アールグレイ…。」
先輩は案外朝は紅茶派なのだと微笑んで、僕はベッドを軋ませると足元に落ちている風呂上がりに履いた下着に足を突っ込んだ。それから先輩の用意してくれたもふもふのスリッパで洗面所へ向かうと、簡単に身支度してキッチンへと足を向けた。
セントラルヒーティングのこのマンションは、どんなに外が寒くても部屋の中は常春のようだ。だから僕は先輩から借りたTシャツと下着が、この家で過ごすいつものスタイルだった。とは言え生活するとなると下にも履く必要があるな。
僕は小さく欠伸をすると電気ポットをセットして棚からアールグレイの紅茶缶を選んだ。先輩の家にはずらっと色々な銘柄の茶葉が並んでいて、その種類は台湾茶まであって、先輩の普段見せない趣味人の一面も垣間見れる。
「陽太の方がこういうのこだわりそうだがな。」
一度その事について話した時に先輩にそう言われたけれど、僕の言い分を聞いて貰えるとしたら、こうした茶葉を集めるのは結構お金が掛かるって事だ。
僕はバイトもたまにやる程度だし、オメガになってしまったせいでますますそんな余裕は無いなと肩をすくめた。
「良い匂いだ。」
洗面所から上半身裸で薄手のスエットを履いた先輩が、のそりと現れて僕の後ろに立った。
「火傷しますよ?」
マグカップに注いだ一つを先輩に渡すと、先輩は僕の手を引いてソファへと向かう。二人用のダイニングに座るとばかり思っていた僕は、ローテーブルにカップを置くと先輩の隣に腰を下ろした。
「陽太、朝の挨拶だ。さぁ、どうぞ。」
そう言って楽しそうに両手を広げて僕がキスするのを待っている。
「…もう。おはようございます、先輩。」
そう言って先輩に抱きついて唇を合わせると、先輩はニヤリと笑ってから僕の顎を掴んだ。
「駄目だな、もう一回。先輩は止めるって約束しただろう?」
僕は自分の顔が赤くなっているのを自覚しながら、小さな声で呟いた。
「おはよう、省吾くん。」
僕の呼びかけに満足した先輩が、ようやくマグカップに手を伸ばして美味しそうに紅茶を一口飲んだ。それからボサノバを部屋の天井に設置されたスピーカーから流した。
以前お邪魔していた時はクラシックが多かったけれど、僕がカフェ音楽が好きだと言ってからこんな風に趣向を変えてくれる。
「省吾くんって見かけよりもずっとセンス良いですよね…。あ、センス悪そうとか言うんじゃ無くて、あまりこんな風に拘らないかと思ってたから。」
先輩はニヤリと笑って僕の肩に頭をくっ付けると、眠そうな声で呟いた。
「葉月ほどじゃ無いけどな。あいつのこだわりは凄いぜ。ああ、眠い…。」
僕が紅茶を飲み終わるまで先輩を肩に乗せておくと、先輩はすっかり寝息を立てている。先輩は桐生グループのアルファだから、本当は年末年始は挨拶回りやらで忙しかったのかも知れない。僕の帰省先へ行くために相当やりくりしたのだろう。
先輩をもっと寝かせておいて上げたくて、僕の腿に頭をそっと置いた。時間的にはもう朝とは言えない時間だったので、僕は持ってくる荷物をスマホにメモ書きしながら、先輩が起きるのを待った。
「…寝ちまった。悪い、脚痺れたか?」
先輩がのそりと起き上がると、僕はゆっくり立ち上がって言った。
「もうちょっとしたらお昼がてら荷物を取りに行こうって思ったんですけど、…省吾くんはそれで良い?」
どうしても先輩には丁寧に喋ってしまって、それを不満に思う先輩の視線に耐えられずに最後はラフに喋るハメになってしまう。先輩は先輩だから、急には変えられないよ。
「ああ、良いぜ。しかし着替えを持ってこないと、陽太の格好は目に毒だ。いつまでも部屋の中に閉じ込めておきたくなる。」
そんな風に本気か嘘かわからない事を言われながら、僕はキャリーバックから洗濯してある着替えを引っ張り出すと先輩にちょっかいだされる前に着替えた。
着替える僕を見てる楽しそうな先輩の目がギラギラしてきて、怖いようなドキドキする様なスリル満点さはきっと今だけだと思うけれど、こんな事にもワクワクするのが二人暮らしなのかな。
結局自分のマンションから手早く部屋から必要なモノをキャリーバックに詰め替えて車のトランクに放り込むと、先輩は何処か目的地を目指して車を走らせた。
「省吾くん、どこでランチ?」
「あんまりデートしてないからな。ちょっとそれっぽいところでどうかなと思ったんだ。」
先輩と一緒ならどこでも大丈夫だったけれど、確かにデートと言えるお出かけは数える程度だ。セフレの時は皆無だし、付き合ってからも部屋に篭ることが多かった。
僕は先輩の気遣いが嬉しくて、海に続くエリアに車が停まった時は思わず上京したての大学生の様に周囲を見渡した。
ひときわおしゃれなお店が集まっている界隈を手を繋ぎながら歩くと、ちゃんと恋人をしてるみたいで口元が緩む。
「いつでも行けると思うと案外来ないものですよね。僕初めて来ました。地方の人間の方がきっと来てますよ。」
僕が年明けの明るい笑顔を交わす若者の賑わいを眺めながらそう呟くと、先輩も僕の耳元で呟いた。
「ああ、そうかも知れないな。二年前はたまに来てたが、最近は全然だ。でも雰囲気は良いからな。陽太もこういう開放的な場所は好きそうだし。…気に入ったか?」
先輩が僕の言葉を待っている気がして、僕は微笑んで頷いた。
「正直僕は省吾くんと一緒なら屋台のラーメン屋でも十分美味しく感じると思うけど、こんな場所で省吾くんを自慢して歩けるのも悪く無いと思う。ふふ、案外僕も虚栄心があるみたい。」
先輩は片眉をあげると、僕の腰を引き寄せてピッタリくっついて歩き出した。
「俺は陽太が他のアルファに盗み見られるのは心配が募るけどな。まぁ陽太が自慢できる彼氏になれる様に頑張るよ、マジで。葉月に言われたんだ。陽太は良い子なんだから、俺の無神経さで傷つけるなってさ。
陽太も言ってくれよ?流石に俺もエスパーにはなれないからな?」
僕と先輩がこうしていられる今は、思い返すと結局のところ素直な気持ちをぶつけ合ったからだ。拗れたのは必要な事まで言わない僕のせいでもある。僕は先輩を見上げて目を合わせると口を開いた。
「じゃあ、言いますけど、どこでも良いからお店入りたい!もうお腹が減って死にそう!」
先輩は目を見開いた次の瞬間声を立てて笑うと、近くの店の扉を開けて僕を先に入らせた。
「大喰らいの陽太くん、気の済むまで食べなさい。そのために俺の財布はあるんだからな?」
★気分転換に書いた6話程度の短編を昨日から公開開始しました。
【深窓令嬢シリルの秘密】です!
貴族風異世界での女装男子と幼馴染の溺愛BLです。思いの外デロ甘になってきました❣️溺愛好きの方、是非覗いてみてください💕
毎日8時更新です~☺️よろしくお願いします!
彫りの深い骨格の先輩は、顔の骨ばった感触も自分とは違う。僕が先輩の顔をなぞるのにすっかり夢中になっていると、不意に身体を引き寄せられた。
「先輩!ごめんなさい、起こしちゃいましたか?」
すると先輩は眠そうな声でまだ目を閉じたまま呟いた。
「いや、起きれない。そうやって撫でられてると、なんか目が開かないんだ。案外気持ちいいんだな。まるで猫になった気分だ。」
僕はクスクス笑うと、先輩の唇に軽く触れ合わせて腕を解いた。
「じゃあ目が覚めるように何か淹れましょうか?何が良い?」
「アールグレイ…。」
先輩は案外朝は紅茶派なのだと微笑んで、僕はベッドを軋ませると足元に落ちている風呂上がりに履いた下着に足を突っ込んだ。それから先輩の用意してくれたもふもふのスリッパで洗面所へ向かうと、簡単に身支度してキッチンへと足を向けた。
セントラルヒーティングのこのマンションは、どんなに外が寒くても部屋の中は常春のようだ。だから僕は先輩から借りたTシャツと下着が、この家で過ごすいつものスタイルだった。とは言え生活するとなると下にも履く必要があるな。
僕は小さく欠伸をすると電気ポットをセットして棚からアールグレイの紅茶缶を選んだ。先輩の家にはずらっと色々な銘柄の茶葉が並んでいて、その種類は台湾茶まであって、先輩の普段見せない趣味人の一面も垣間見れる。
「陽太の方がこういうのこだわりそうだがな。」
一度その事について話した時に先輩にそう言われたけれど、僕の言い分を聞いて貰えるとしたら、こうした茶葉を集めるのは結構お金が掛かるって事だ。
僕はバイトもたまにやる程度だし、オメガになってしまったせいでますますそんな余裕は無いなと肩をすくめた。
「良い匂いだ。」
洗面所から上半身裸で薄手のスエットを履いた先輩が、のそりと現れて僕の後ろに立った。
「火傷しますよ?」
マグカップに注いだ一つを先輩に渡すと、先輩は僕の手を引いてソファへと向かう。二人用のダイニングに座るとばかり思っていた僕は、ローテーブルにカップを置くと先輩の隣に腰を下ろした。
「陽太、朝の挨拶だ。さぁ、どうぞ。」
そう言って楽しそうに両手を広げて僕がキスするのを待っている。
「…もう。おはようございます、先輩。」
そう言って先輩に抱きついて唇を合わせると、先輩はニヤリと笑ってから僕の顎を掴んだ。
「駄目だな、もう一回。先輩は止めるって約束しただろう?」
僕は自分の顔が赤くなっているのを自覚しながら、小さな声で呟いた。
「おはよう、省吾くん。」
僕の呼びかけに満足した先輩が、ようやくマグカップに手を伸ばして美味しそうに紅茶を一口飲んだ。それからボサノバを部屋の天井に設置されたスピーカーから流した。
以前お邪魔していた時はクラシックが多かったけれど、僕がカフェ音楽が好きだと言ってからこんな風に趣向を変えてくれる。
「省吾くんって見かけよりもずっとセンス良いですよね…。あ、センス悪そうとか言うんじゃ無くて、あまりこんな風に拘らないかと思ってたから。」
先輩はニヤリと笑って僕の肩に頭をくっ付けると、眠そうな声で呟いた。
「葉月ほどじゃ無いけどな。あいつのこだわりは凄いぜ。ああ、眠い…。」
僕が紅茶を飲み終わるまで先輩を肩に乗せておくと、先輩はすっかり寝息を立てている。先輩は桐生グループのアルファだから、本当は年末年始は挨拶回りやらで忙しかったのかも知れない。僕の帰省先へ行くために相当やりくりしたのだろう。
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先輩が僕の言葉を待っている気がして、僕は微笑んで頷いた。
「正直僕は省吾くんと一緒なら屋台のラーメン屋でも十分美味しく感じると思うけど、こんな場所で省吾くんを自慢して歩けるのも悪く無いと思う。ふふ、案外僕も虚栄心があるみたい。」
先輩は片眉をあげると、僕の腰を引き寄せてピッタリくっついて歩き出した。
「俺は陽太が他のアルファに盗み見られるのは心配が募るけどな。まぁ陽太が自慢できる彼氏になれる様に頑張るよ、マジで。葉月に言われたんだ。陽太は良い子なんだから、俺の無神経さで傷つけるなってさ。
陽太も言ってくれよ?流石に俺もエスパーにはなれないからな?」
僕と先輩がこうしていられる今は、思い返すと結局のところ素直な気持ちをぶつけ合ったからだ。拗れたのは必要な事まで言わない僕のせいでもある。僕は先輩を見上げて目を合わせると口を開いた。
「じゃあ、言いますけど、どこでも良いからお店入りたい!もうお腹が減って死にそう!」
先輩は目を見開いた次の瞬間声を立てて笑うと、近くの店の扉を開けて僕を先に入らせた。
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