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僕を成すもの

会えるの?

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 結局家族三人で過ごす年末年始は、年越しと年始のお参りを終えてしまえば何をするという事もない。生活基盤がこちらに無いせいで、僕は至って手持ち無沙汰で暇を持て余していた。

 そんな時に掛かってきた電話は先輩からのものだった。

「あけおめ。ああ、昨日の元旦にも言ったな。なぁ、陽太いつぐらいに戻る予定なんだ?俺、陽太が足りないんだが。」

 いきなりのデレに、僕はあたふたとリビングのソファから立ち上がって玄関に続く廊下に出た。チラッと僕を見た両親の視線がマジで居た堪れない。考えれば恋人がいると言ってしまった手前、別にコソコソする必要もないのだけど。
 

 「陽太?何か言え。」

「先輩…!ちょっと今親が側に居たので場所を変えたんです。」

「ああ、そういう事?俺と付き合ってるって言ってないのか?言えば良いのに。」

 僕は先輩のその言葉に胸を弾ませて笑みを浮かべた。

「親戚の集まりでうっかり恋人がいるって口は滑らしちゃいましたけど…。あの、要件は何ですか?」

「だからこっちに戻るのはいつかって聞きたかったんだ。もう十日以上だ。…陽太は俺に会いたくない?」


 妙に甘い口調でそうやって囁く先輩の声に耳がくすぐられて、僕はドクリと胸が鳴った。

「…会いたいです。流石に僕も暇すぎて。こっちが地元って訳でもないので誰かと会うという事も無いですし。」

 そこまで言って、僕はナンパされて友達になったオメガの溝渕君の事を思い浮かべた。一瞬彼なら喜んで会ってくれそうな気がしたけれど、流石に三が日に約束するのは気が引ける。

「…俺、そっちに遊びに行こうかな。ゆっくり観光した事ないし、今なら陽太も居るし?温泉取るか?泊まりはダメ?」


 先輩の言葉に僕は目を見開いた。ああ、先輩が会いにきてくれる?そうだったらどんなに良いか。

「…特に用もないから大丈夫だと思います。あの、先輩と一緒に戻りたいから、それで日程調整しませんか?」

「良いぜ。じゃあ決まったら教えて。飛行機と宿を押さえるから。」

 ウキウキする様なお泊まりデートの約束をしたせいで、僕は嬉しさが顔に出てたんだろう。リビングに戻ると両親が意味深に目配せしてる。

「…あのさ、特に何がある訳じゃないなら、明後日の四日に戻ろうと思うんだけど。先輩がこっちに観光がてら迎えに来てくれるって言うから、一緒に回ろうと思って。」


 「あら、良いじゃない。一陽太が人で行動するよりこっちも安心だわ。」

「ここは地元って訳じゃないからな。陽太も暇でしょうがないだろう。私も四日から仕事始めだし、いいんじゃないかな。」

 特に詮索される様な事もなく、両親はあっさりと承諾してくれた。先輩の事は聞きたいだろうけれど、敢えて放っておいてくれてるのか両親はそれ以上僕に聞いてくる事もなかった。

『若いうちの恋愛のひとつや二つ…』

 啓介叔父さんの言葉が不意に思い浮かんで、僕は先輩とのこの恋がいつかは消えてしまうひとつなのかと視線を落とした。


 「陽太がお付き合いしてる先輩さん?に会ってみたい気もするけど、高校の先輩なんでしょう?だったら見知らぬ相手って訳でもなさそうだし、陽太はしっかりしてるから心配してないわ。

 親がしゃしゃり出るのも違う気もするしね?私も学生時代、親には彼氏のことは内緒にしてたわ。ふふ、懐かしいわ。」

 僕がしっかりしているかは置いておいて、親が余計な干渉をしないつもりでいる事を知って僕はにっこり微笑んだ。

「ありがとう。じゃあ、明日荷物まとめるから持ってくものとかあるなら言ってね。」

 急にアレはどうだと母さん達が話し始めたのを機に、僕は先輩にメッセージを送った。まるで待っていたかの様にすぐに返事が来て、僕は四日が一気に楽しみになった。


 
 「田中君!あけましておめでとう!」

 午後イチに到着する先輩を待つ間、僕は溝渕君と午前中カフェでお茶している。

「良かった、もう一度会えて。もう帰るの?もう少しこっちに居ればいいのに。」

 相変わらず人懐っこい笑みを浮かべて綺麗な眼差しを緩める溝渕君に少し見惚れて、僕は笑い返した。

「…彼氏が迎えに来てくれるって言うから、頼むことにしたんだ。」

 顔がニヤけないようにするのが大変だ。


 溝渕君は目をキラキラさせて破顔した。

「うわ、マジでぇ?田中君の彼氏ってどんなタイプなんだろ。想像つかないな。迎えに来るくらいだから凄い優しいんだろうね!?」

「ふふ。どうかな。ちょっと俺様かも。」

 ますます目を見開いた溝渕君は。楽しそうに僕に顔を寄せて言った。

「…えっちだ!いいなぁ、優しくて俺様彼氏。田中君にそんな顔させるくらいだからきっと甘やかしてくれるんだろうね。俺の婚約者とは大違いだ。」

 あっという間に口を尖らせて表情を曇らせる溝渕君に、僕は何気ない風で探りを入れた。


 「あのさ、これは僕が受けた二人の印象だけどね?溝渕君ってあの人のこと好きなんでしょう?それに僕はあの人も溝渕君が可愛くて堪らないって印象を受けたけどね。」

 僕がそう言うと、溝渕君はみるみる首から白い肌を赤らめて誤魔化すように耳に長い髪を掛けた。

「…大和さんが俺の事可愛いって思ってるって?ほんとにそう思った?」

「うん、溝渕君を見つめる眼差しが愛しいって言ってたよ。」


 思わず可愛く照れる溝渕君にニヤニヤして言うと、溝渕君は嬉しさを隠して僕を睨んだ。

「あー、面白がってるし!…でもさ、俺たちは政略結婚の相手なんだから、そんなのちょっと信じられないよ。」

 僕は溝渕君が素直になれないのは全てその言葉で自分を縛っているせいだと気がついた。それは以前の『先輩のセフレ』と言う言葉で自分を縛っていたあの頃を思い出して、思わず真剣に溝渕君を見つめた。

「溝渕君、僕も以前自分が傷つきたくないばかりに、言い訳じみた言葉で自分を縛っていたんだ。そのせいで自分の本当の気持ちも、相手が寄せてくれてる真心も無視して切り裂く結果になったんだ。

 だから溝渕君には一度許嫁って事から離れて、ただの自分と彼、それだけで見た方がいいよ。そうしないと、大好きな彼を失ってしまうかもしれないよ?」


 溝渕君は落ち着かない様子で手元のココアをスプーンで掻き混ぜて、ポツリと呟いた。

「…田中君は大好きな人を失ったの?」

 僕はにっこり微笑んだ。

「…僕はずっと被害者ぶってたんだ。だから彼に愛想を突かれてやっと僕の方がずっと酷い事をしてたって気づいて…。色々あってもうダメだと思ったけど、ちゃんと向き合って気持ちを伝えたんだ。

 結局彼が僕よりよっぽど懐が大きな人間だったって訳。だから溝渕君も彼が好きなら素直になって欲しいなって。

 あー、余計なお世話だってのは重々承知してるんだけどね!」


 溝渕君はにっこりと恥ずかしげに微笑んだ。ああ、綺麗な子だな、本当に。

「…田中君に会えて本当に良かったよ。俺、こんな風に色々心配してくれる友達居ないから。それにそのアドバイス、結構刺さったし?ふふふ。」

「僕も男のオメガの友達は初めてだから、溝渕君に声掛けてもらって本当に良かったよ。もし僕の方に来る機会があったら案内するからね?連絡してね。」

 すると溝渕君はニンマリして言った。

「俺、実は進学が決まってる大学がそっちなんだ。残念ながら田中君とは違う大学だけど。だから大学進学の際はまた仲良くしてね!」
















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