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バース性の先にあるもの

本能のままに※

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 僕は必死だった。何がどうしたのか整理がつかないまま、先輩にここまで連れて来てもらった。あの誠が僕を噛もうとしていた事は今は冷静に受け止める暇がない。僕は先輩を帰さないことに必死になっていたのだから。

 先輩は僕を置いてけぼりにするつもりだと、その言動で分かった。それが先輩なりの誠実な対応だということも理解したけれど、僕はそうして欲しくなかった。


 自分が泣いている事にも気付けずに、僕は先輩の手を掴んで離さなかった。

「お願い…、僕を置いていかないで!」

 もうぐしゃぐしゃだった。この身体を這い回るような迫り上がってくる欲望や、このまま僕から離れた先輩がもう二度と目の前に現れない恐怖さえ感じて、僕は必死に縋った。


 「…陽太。何も泣かなくても良いだろう?直ぐに薬が効いてくるんだから…。俺だってお前を抱きたい。だけどヒートのお前に付け込むのは違うだろう?俺は決めたんだ。もうこれ以上お前を傷つけないって。」

「先輩が僕を見捨てて行ったら、もっと傷つくとか考えない…?」

 僕が捨て鉢な気持ちでそう言うと、先輩は顔を曇らせて顔を背けた。

「…見捨てるわけじゃない。お前を大事にしようと思っただけだ。」


 完全に拗れてしまった。僕は先輩がやっぱり忘れられなくて、でもヒートの相手に中川くんを選んでしまったビッチだ。先輩にしてみれば何を言っているのかと呆れ返るのも無理はない。

 実際僕の抑制剤も効いて来た様で、少しはっきりして来た頭を動かして僕は唇を動かした。

「…分かった。先輩は自分で正しいと思う事をすれば良い。だったら僕は先輩じゃない誰かをここに呼ぶ。…弦太とか?もうネックガードが違うんだから中川くんでも良いかもしれないよね?」


 目の前の先輩が一気に怖い顔をして僕を睨みつけている。だけど僕はもうやけっぱちだった。

「…陽太、何を言ってるのか分かってるのか?」

「…僕は本気だよ。…先輩が僕を置き去りにするなら、もう何だって関係ないんだ。僕は結局ずっと先輩に囚われて、切り離せない。だから先輩から僕を憎んで、捨ててよ。だったら僕も先輩から解放されるかもしれないでしょ…。」

 自分でも支離滅裂な事を言っているのは感じていたけれど、止められなかった。


 今この場面が僕と先輩との最後の場面なのだと、僕は何処か冷静に傍観していた。終わり。僕の初恋は死んだ。

 先輩が立ち上がってゆっくり玄関へ向かうのをもう見たくなくて、僕はドサリと壁際に向いて、零れ落ちる涙の温度を感じていた。それから玄関がカチリと鳴るのを耳で拾って、先輩が出て行ったのだと声を上げて泣いた。

 ベッドが軋む音がして、僕はハッとして目を見開いた。


 「…子供みたいに泣くなって。あんな事言わせたかった訳じゃない。俺が陽太を大事にしようとするとどうも上手くいかないな。陽太が俺に囚われているのなら、俺もすっかり同じなんだ。

 こんなのは初めてでどうも下手打って、結局お前をそんな風に泣かせてるし…。」

 先輩の掠れた声を信じられない気持ちで聞きながら、僕は自分の肩を先輩の手が撫でるのを感じた。ああ、僕の欲しいものが伝わってくる。そして大事だからこそ躊躇う気持ちも。


 僕は先輩の手に自分の手を重ねて、もう逃したくないと掴んだ。

「先輩、僕の側にいてくれる?」

 肩がくるりとひっくり返されて仰向けになった僕に、先輩が見たことのない優しい笑みを浮かべて顔を近づけた。

「ああ。…側にいるよ。」

 重なるその唇は懐かしくもあり、初めての様な感じもする。でもそう感じたのは最初の数秒で、僕は直ぐに膨れ上がる興奮に翻弄されていた。先輩の匂いに包まれて身体が震える。


 「抑制剤が効かないのか…?」

 先輩も顔を赤らめて息を切らしながら呟くのを、僕はやっぱり笑みを浮かべて答えた。

「効いてたよ。さっきまで。でも嬉しくて…。」

 僕は先輩の首に手を回して強請るように唇を押し付けた。その甘い味をもっと僕に染み渡らせて欲しい。すっかり張り詰めた身体を押し付ければ、先輩は余裕のない表情で僕の服を脱がせ始めた。


 「…くそ、余裕なんかないぞ。」

 そうぶつぶつ言いながら、自分の服も手早く脱ぎ散らかす。僕の雫の落ちる股間を食い入る様に見つめながら、先輩は素っ裸になって自分の猛り切った股間を宥める様にしごいた。

「痛…。やばいな。陽太は普段遠慮がちなフェロモンのくせに、ヒートの時は凶暴だな。」

 自分の事など分からないけど、僕は脚を広げて疼いて堪らない自分のその窄みを何度か指で撫でた。ああ、こんな恥ずかしい格好を見せたい訳じゃないのに指が止まらない。


 「自分で脚広げてて。」

 そう言うと先輩は、僕の臍に向かって張り付くそれを舌を伸ばして舐り始めた。それと同時にすっかり濡れた後ろの窄みに、馴染ませる様に指を挿れて動かし始めた。

「ああっ!駄目っ、どうにかなっちゃうっ!」

 その衝撃をどう言葉にしたら良いか分からなかった。自分でも先輩の指をぎゅっと締め付けている気がしたし、でもそれは自分ではコントロール出来ない。


 先輩が掠れ声で何か言っていたけれど、僕は自分の身体に翻弄されて声を張り上げる事しか出来ない。

「先輩、もう挿れて…!苦しい…。」

 快感で苦しいと言うのは初めてでは無かったけれど、ヒートのこれは怖いくらいの気持ち良さだ。いっそ弾けてこの苦しさから逃れたいと思った。

「俺も限界だ。…挿れるぞ。」

 先輩のその言葉に僕は正直安堵したのだけど、それは僕がヒートと言うものを知らなかったせいだ。


 先輩のそれが僕の中を割り開いて奥まで進んだ時、僕はヒクヒクと身体を強張らせて解放された。けれどそれは一瞬で、そこから始まる先輩の動きに息が止まりそうな快感を畳み掛けられていた。

 煮えつく様なその熱さの中で、僕は先輩を文字通り貪った。その時に感じたのは何だっただろう。オメガのヒートはまるで熱帯のジャングルに潜む食虫花みたいだと。僕のフェロモンは先輩を食い尽くす。


 「中に出すぞ…!」

 ぐりぐりと押し付ける様に奥に先輩の大きなそれを突き入れられて、僕は目の前が白く瞬いた。ああ、こんなのは知らない…!

 先輩の白濁が僕の中に吐き出されているのをその激しさとリズムで感じながら、僕はすっかり多幸感に浸っていた。…もうこれ以上のものは要らない。

「…大丈夫か。」

 熱い身体と、汗ばんだ肌、むせ返る良い匂いを纏って、先輩は僕を抱き寄せて呟いた。僕はすっかり疲れ果てている筈なのに、何処かすっきりした気分で先輩の上にのし掛かった。


 「…気持ち良くて死ぬかと思ったのに、さっきより良い気分…。」

 先輩は何処か揶揄うような表情を浮かべて、見下ろす僕の頬を指の腹で撫でた。

「…そんな風に無邪気な陽太の顔を見たのは久しぶりだ。それにいつの間にそんなに綺麗になったんだ?」

 僕は先輩にそんな風に口説かれた事などなかったせいで、顔がじわじわと熱くなる。思わず唇を尖らせて顔を逸らすと、先輩が僕の顔を両手で挟んで目を合わさせた。

「…好きだ。たぶん高校のあのプールサイドで陽太を見た時から、俺はお前を好きだったのかもしれない。」

 僕は自分でも泣いているのか、笑っているのかもう分からなかった。ただ、先輩が微笑んで僕を見つめているのを鼻を啜って見返す事しか出来なかった。


























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