後天性オメガの僕、セフレアルファから逃げてます

コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26

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オメガの日常

意外な人

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 PCのバッテリー交換から戻って来た僕は、大学の敷地内に意外な人物が居るのに目を奪われた。

「…葉月さん?」

 丁度帰るところだったらしい葉月さんは、僕を見て明るい笑顔を浮かべて手を上げた。

「やぁ。田中君に会えるとかラッキーだな。学部聞いておけば良かったなって思ってたんだ。ああ、別にストーカーじゃないぜ?知り合いが居るからちょっと寄っただけなんだ。今から講義?」

 僕はバックを指差して頷いた。

「PCのバッテリー交換だけしておこうと行ってきた所なんです。あの、先日は本当にありがとうございました。後から随分図々しかったんじゃないかって心配になってしまって。結局カフェでもお支払いして貰っちゃって、ありがとうございました。」


 「いーの、いーのそれくらい。アルファの存在意義なんてお金ありきなんだから。田中君はオメガなんだから、アルファに甘えてれば良いんだって。」

 葉月さんの言葉に、僕は少し胸が痛くなった。 

「…オメガだからって、そんな風に特別扱いされるのはあまり好きじゃないです。それにアルファ以前に葉月さんは困っていた見知らぬ僕の助けになってくれたでしょう?僕はバース性じゃない本質的な所を見たいし、見てもらいたいって…。」

 そこまで言って、僕は先輩が望んでいた事はまさにこの事だったのだと思い出していた。ベータの時には分かったつもりでいて、全然分かってなかった事だ。


 すると葉月さんは僕の頭を撫でてニコリとすると、耳に唇を近づけて言った。

「…本当に君ってオメガ?そんな風に考えるオメガってあんまり俺の周囲には居ないからねぇ。ますます興味湧いちゃったな。ね、今度二人でお出かけしない?もしかして貢ぎものが重い恋人未満の彼が煩いかな?」

「…実は僕失恋したばかりで、そういう事をあまり考えられないんです。気をもたせる様な事はしたくないんですけどあまり上手くいかなくて。その場の空気に流されてしまって嫌になります。」


 全然関係のない第三者のせいか、それともこの人懐っこい雰囲気のせいなのか、僕は葉月さんに言わなくても良い事を喋ってしまっている。目の前の葉月さんは僕を面白そうに見つめている。

「真面目だね、田中君は。オメガなら沢山恋をして運命の番を見つけようとか思わない?」

「…運命の番。葉月さんは探してるんですか、運命を。」

 すると葉月さんは困った様に僕を見つめた。


 「一本やられたな。俺は運命なんて信じてないのに、田中君にそんな事言うのは矛盾してるよね。まぁアルファの口説き文句みたいなものなんだ。運命の番ってセリフは。

 まぁ、深刻に考えないでまた一緒に買い物でもしようよ。俺はオメガを着飾るのが好きだからさ。田中君は磨きがいがありそうだし。俺が一流のオメガにしてあげるよ?もしそうして欲しかったら連絡して?これ、連絡先。読み込みキーは今日の日付にしておくよ。待ってるから。じゃあ、また!」


 僕が困るくらいしつこくする事も無く、葉月さんは僕の手にプライベートな名刺を一枚残して去っていった。そのスマートさに僕は完全に舌を巻いた。

 弦太ならそれが遊び人のアルファのやり方だと言うかもしれないけれど、葉月さんに限って言えば全然作為的なものなど感じない。一枚も二枚も上手だと言う事なのだろう。



 「陽太!」

 理工学部の入り口のカフェで弦太に声を掛けられた僕は、目を丸くして次の瞬間笑ってしまった。丁度お説教しそうな弦太の事を考えていたせいで、何処か後ろめたい。

「どうしたの?あ、もしかして連絡くれてた?」

 ポケットからスマホを取り出そうとした僕に、近づいてきた弦太はさりげなく僕の肩に手を回して歩き出した。

「いや、びっくりさせようと思って連絡して無かった。良かったよ、会えて。俺も大会続きで全然時間取れなかったから、陽太の顔見たかっただけ。まだ授業ある?」


 「ちょっと調べ物があるけど、図書センターに一緒に行く?直ぐに終わるから。あ、部外者は入れないかもしれないな。」

「良いよ、近くで待ってるから。それかカフェで何か食べてても良いし。」

 僕はスマホの時計を見て、弦太に30分後にカフェで待ち合わせしようと言った。弦太は妙に素直に頷くと肩から手を離して僕を見送った。いつもならセンターまで着いてきそうだと思いつつも急いでいた僕は、その違和感を忘れてしまった。



 弦太は陽太が急いで建物のエレベーターに乗り込むのを見送ると、足元に落ちた名刺の様なものを拾い上げた。陽太がスマホを取り出した時にポケットから落ちたそれを、なぜか足元に隠す様にしてしまったのは何故だったのか。

 けれどいかにも遊び人のアルファが配っていそうな洒落たプラスチックのカードだったので、自分の勘の良さに肩をすくめた。

「葉月…。苗字も無いのか?それともこれが苗字?でもこれ、誰にでも配る様なやつじゃ無いな。」


 自分でも経験のあるこの手のカードは、IDばやりの今だからこそ特別なものだ。シリアルナンバーも振ってある上に、秘密のキーも必要だろう。どうしてこんな手の込んだものを陽太が持っているんだ。

「…桐生先輩?いや、元々いくらでも連絡してたからこんなものは必要ないはずだし、そもそも名前も違う。じゃあ一体誰だ。いずれにせよアルファには間違いない。」

 思わず顰めっ面になりながら、弦太はアメリカンクラブハウスサンドイッチとカフェオレをトレーに載せると、会計を済ませてドサリとテーブルに座った。


 テーブルの上の黒光りするカードを睨みつける様に食べていると、誰かがテーブルの側に立った。見るからにオメガの女子が笑顔を浮かべながらも、弦太を品定めする様に見ている。

「あまり見ない顔ですね。ここの学生じゃないんでしょう?」

 弦太はカードをサッとポケットに入れると、カフェオレをひと口飲んで答えた。

「ええ。人を待ってるんで。」

「この大学の友達?アルファかしら。あなたみたいなタイプは理工学部には珍しいから思わず声を掛けちゃったの。ご迷惑だった?」


 面倒くさいタイプに絡まれたと、返事をしなくて済む様に弦太はサンドイッチを口に頬張った。こんな風に声を掛けられるのは珍しくない。自分の大学では人間関係が固まってきたせいで、早々声を掛けられる事も減ってはきていたものの、入学時は酷いものだった。

 腕時計をチラ見して、まだ陽太が来る時間じゃない事を確認した弦太は、目の前の女子から陽太の大学生活を聞き取る事にした。

「良かったら席どうぞ。俺もここの学生で知りたいことがあるから。君、田中陽太って知ってる?」


 途端に苦虫を噛み潰した表情を浮かべたオメガの女子は、腕を組んで弦太を睨みつけた。

「貴方もあの冴えない子が気になる訳?それとも知り合いか何か?どうしてあの子ばかりそうやってアルファが気にするのかしら。」

「…中川と仲が良いって聞いたからどんな子かなって思っただけ。」

 怪しむ眼差しを向けられつつ、不自然に話を振ってしまった事を今更取り返せないと弦太は誤魔化す様に笑顔を向けた。

「もしかして中川くんと友達なの?だったら彼に忠告してあげて欲しいわ。あのビッチなベータと付き合うのはやめなさいって。田中って、経済学部のアルファとも関係してたって話よ。中川くんはあの弱々しい見かけに騙されてるのよ。」


 目の前の女子に事実だとしても酷い言われようの田中を庇いたくなる気持ちを抑えて、弦太は尋ねた。

「そうなんだ。やっぱり中川と田中って奴、付き合ってるんだね?」

「エコ贔屓してるだけよ!でもメンバーが田中に絡んだら口きいてくれなくなったのはそうだけど。あいつマジでウザい。きっと中川君に泣きついたに違いないわ。」

「…そう。ありがとう色々教えてくれて。ああそうだ。田中は俺の大事な人だから、もう絡むとかマジでやめろ。分かった?あんたの顔覚えたから。」

 顔を強張らせた女子を置き去りに、弦太はトレーを持ってカウンターに下げた。


 …中川か。やっぱり顔見ておきたいな。



















 
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