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関係の修復※

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 大学のカフェで、悲鳴に似た騒めきの中心に桐生先輩がいた。実はとっくに先輩が居ることには気づいていた。アルファっぽい綺麗な女子と一緒に居るのを見て胸がぎゅっと締め付けられたせいで、あまりそっちを見ない様にしていたくらいだ。

 けれど先輩の頭から水が滴っているのを見て、僕は反射的に周囲から遠巻きにされている先輩のところに駆けつけていた。手持ちのハンドタオルは直ぐにびっしょりになってしまって、どうしたものかと途方に暮れてしまった。

 けれどぼんやりと見捨てられた様な眼差しの先輩と目を合わせて直ぐに、僕は自分の家に来ないかと口走っていた。


 すると先輩は急に僕を先導する勢いで歩き出した。多分びしょ濡れでどうしようもなかったのだろうし、こんな場面では僕に頼る他なかったんだろう。

 僕たちは特に会話をするという訳でもなく、15分ほど歩いてようやくマンションに辿り着いた。流石に初秋の今は、水に濡れたままの先輩の身体はかなり冷え切っている気がする。

 慌てた僕は鍵をガチャガチャ言わせて先輩を家に入れた。


 途端に掬い上げる様に抱き寄せられて、僕は口にひんやりした先輩の唇を感じた。以前は何となく避けて来たその最後の砦は、脆くも崩れ落ちてしまった。

 人生初めてのキスが冷たい唇に自分の体温を奪われていくだなんて、まるでゾンビ映画さながらだと僕も先輩にされるがままそんな頓珍漢な事をぼんやり思っていた。

 
 「陽太、温めて…。」

 先輩の切羽詰まった様子に、僕はそれでも少し抵抗した。濡れて張り付いたシャツを急いで脱がせると、先輩にもズボンを脱ぐ様に頼んだ。

「僕、用意が無いから…。一緒にシャワー浴びますから。」

 眉を顰めて駄々っ子の様に首を振る先輩を何とかなだめて、僕は先輩を何とか浴室に押し込んだ。

「何、あれ…。」


 混乱した僕の呟きは直ぐに浴室から伸びて来る先輩の腕に遮られて、結局熱いシャワーを一緒に浴びせられて服ごとびっしょりになりながら、僕の身体を這い回る先輩の手を止めることは出来なかった。

 二人で足元の濡れた服を踏みながら、僕の胸は先輩にしゃぶられて甘噛みされた。久しぶりの、ましてこんな野獣の様な触れ合いに興奮しないわけはなくて、僕は自分の喘ぎ声を何処か他人事の様に聞いた。


 先輩は足元の服を掴むと浴槽に放り込んで、後ろから抱き寄せる様にして僕を解し始めた。いつも自分でやるそれは妙に羞恥心を煽って、そして先輩に快感を煽られて欲望は増した。

 「狭くなってるな…。…してないのか?」

 先輩に耳元でそう囁かれて、僕は内臓を撫でられるその甘美な感覚に呻きながら、声を絞り出した。

「してない…。先輩以外にそんな人いないから…!」


 耳元で舌打ちした先輩は風呂場に置いてあるジェルをどぷっと僕の中に押し込むと、指を増やして何度も何度も抉った。僕はシャワーフックに掴まりながら、膝をガクガクさせてその快感に耐えた。
 
 だからとうとう先輩が馴染ませる様に挿れて来た時、僕は声も出なくて一気に張り詰めてしまった。先輩の存在が直に感じられて、僕はシャワーの水音なのか、二人の立てるいやらしい音なのか判断できずに、只々その絶頂を味わった。


 呻きながら腰を奮い立たせる先輩のせいで、ますます僕は息を詰めて意識も朦朧としてしまっていた。

 先輩の指が僕の口の中にはいってきて、僕はようやく溺れ掛かった動物の様に息を吹き返した。それから先輩の押し付ける様な生温かい吐き出しが僕を濡らして、キツく閉じた目を思わず開いた。

 うそ、生でした…?


 アルファが生でしないのは公然の事実だった。それはアルファの精子たねを不特定多数から守る為でもあると噂で聞いた事があった。そんな事をぼんやり考えていると、先輩自身が僕の中から出ていくのを感じた。

 僕は内腿に一緒にダラリと液体が滴るのを感じながら、肩で息を整えてそっと振り返った。

 先輩は僕のうなじに額をつけて息を整えていたけれど、僕に視線を絡ませて顔を近づけて来た。もう一度、僕は先輩と唇を合わせていた。

 ああ、やっぱりキスしてる…。


 身体ごと回転させられた僕は、何を考えているのか分からない先輩の細めた色っぽい眼差しを見つめて呟いた。

「もう無理。立ってられない…。」

 先輩は周囲を見回して手早くシャワーで僕の中を掻き出すと、自分もざっとシャワーを浴び直して先に出た。

「じゃあ、次はベッドだ。」

 先輩にタオルで拭かれて引き立てられていく僕は、繋がれた手をぼんやり見つめていた。何か色々おかしな事ばかりだ。いくらここしばらくしてないからって、こんな風にされたら色々期待してしまう。


 ベッドに寝かされた僕は、のしかかって来る先輩の股間がまるで萎えていない事に、恐ろしささえ感じた。

「…先輩?あの、手加減して下さいね…。」

 するとクスッと楽しげに笑った先輩は、僕の腿を持ち上げてその付け根にある窄みの縁を撫でて呟いた。

「陽太は自分で自覚ないかもしれないけどな、手加減できない様に煽ってるのは陽太なんだぞ。お前は言葉よりも身体の方が饒舌だから…。」

 思いもしない事を言われたけれど、それ以上考えるより先に僕は先輩の愛撫に溺れた。もう今は何も考えずにあるがままにお互いを味わいたかった。




 「…大丈夫か?ちょっと俺もタガが外れて無理させたよな。何か必要なものあるか?」

 いつもなら、終わった後は身支度してあっさり部屋を出ていく先輩は、一向に出ていく気配が無かった。動けずにベッドに転がった僕はしょうがなしに引き出しを指さして鎮痛剤を出してくれる様に頼んだ。

 先輩は手にした薬の箱をじっと見つめて僕を見た。

「…いつも飲んでたのか?」

 こんな事は知られたくは無かったけれど、もうすでに腰が痛み始めていた僕は平気そうな顔をしながら微笑んだ。


 「…時々。先輩激しいから腰とかやばい時があって。僕も最中はすっかり忘れてるから、後でちょっと痛いなって。」

 黙りこくった先輩は冷蔵庫から水を出すと僕に薬と一緒に手渡した。

「独りよがりだな、俺は。陽太はどう考えても俺より華奢だ。…しかも少し痩せたか?色も白くなって。確かに男は女と比べたら骨格的にも頑丈だからって、遠慮が無くなってた。

 …悪かったな。今度は気をつける。」


 この会わなかった三週間で何か先輩が変わった気がして、僕は先輩をじっと見つめた。何が違う?そう、キスもしたし。

「…先輩どうしてキスしたんですか。僕、先輩はセフレにキスしないんだと思ってました。」

 すると部屋の床にあぐらをかいた桐生先輩は短い髪をガシガシと掻いて、上目遣いで僕を見て呟いた。

「別に決めていた訳じゃ無い。どっちかと言うと陽太がセフレの俺とはキスしたくないだろうと思ってただけだ。…そうじゃないんだろ?」

 僕はドキドキ鳴る心臓を意識しながら、先輩の涼やかな眼差しと目を合わせて小さく囁いた。


 「僕、先輩とキスするのは嫌ではないです。むしろ好きって言うか…。」

 先輩はふっと笑みを浮かべると、伸び上がってベッドに横たわる僕に顔を寄せて言った。

「そうなのか?じゃあ、陽太からキスしたらいい。ほら。」

 僕にはこれ以上は無理だった。顔を熱くした僕に先輩からこんな風に攻められたら頭が沸騰してしまう。僕が何も言えずに固まっていると、先輩は楽しげに笑って僕に唇をぴとりと触れ合わせた。

…ほんと、何これ。
 












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