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僕のセフレ※

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 スマホが光って、僕はドキリとしながら画面を覗き込んだ。大抵木曜日の夜が先輩の呼び出し日だからだ。案の定メッセージがひと言流れて来た。

 [今夜19時、どう?」

 僕はその短いメッセージにいつもどう返して良いか迷って、結局同じ言葉を打ち込む。

 [はい]

 この短いメッセージには僕の色々な気持ちが込められているけれど、この都合の良い関係を壊す気がしてそれ以上打ち込むこともできない。本当は何てメッセージを返すのが正解なんだろう。

 [待ってます][早く来てください][もう来ないで][この関係はいつまで]

 どれも僕の頭の中で先輩と約束するとぐるぐる回るメッセージだ。でも決して送ることも無いと自分で分かってるメッセージ。



 マンションの玄関がこうも狭くなるかといちいち驚く先輩の体格の良さに、僕はいつも笑ってしまう。そして僕を見下ろす涼やかな眼差しに心臓はドキドキして、身体も強張る。

 気持ちが漏れ出すのに怯えて、僕は感情を押し殺して口を開いた。

「…シャワーどうぞ。僕はもう済ませたから。」

 先輩が反応する前に気のないフリできびすを返して、先に部屋に戻るのが僕の精一杯の強がりだった。そんな僕の気持ちなど多分どうでも良いと考えている先輩が、どんな眼差しで僕を見つめているのか知りたくもなかった。


 バスタオルで明るい短髪を拭きながら、先輩は僕のベッドルームへ勝手に入って行く。

「なぁ、何か飲み物ない?流石に暑くて喉乾いたわ。」

 そう言いながら、先輩はドサリとベッドに座った。先輩の均整の取れた惚れ惚れする様な全裸を横目に、僕は冷蔵庫から先輩用に買っておいた外国産のミネラルウォーターを取り出した。


 こんな風に先輩の機嫌を無意識に取ってしまう自分が哀れなものだと苦笑する。僕と先輩は都合の良いセフレ同士というのに、全然対等ではないんだ。気まぐれに僕を食い散らかす先輩と、それを密かに願う僕と。

 「ああ、サンキュ。陽太もこれ好きなんだな。俺もこれの口当たりが一番好きなんだ。」

 僕はこんな気取った水は全然好きじゃないと喉まで出かかった言葉を飲み込んで、自分も一緒に値段ばかり気になる高い水を飲み込んだ。


 「お前って、本当余計な事言わないよな。何か欲しいもの強請るとかもないし。でも身体の相性は良いだろ?いつもお前も楽しんでるし。ていうか、お前は…。

 まぁ良いや。じゃあ、しよっか。週末は気が張ることがあるから発散しておきたいんだよ。他のやつじゃ面倒な事ばかりだ。」

 そう言って笑う先輩に、僕は利用されていると分かっていても正直嬉しくなってしまう。自分でも本当バカだと思うけど、アルファである初恋の先輩と寝ることは、自信の無い僕にとっては自己肯定感を高める必要悪だった。


 先輩の股間が大きくなり始めたのを目に入れて、僕はさっきまで考えていたしょうもないあれこれをさっさと手放した。どんなに自分に言い訳しても、僕はどんな形でも先輩が欲しい。

 そして先輩は僕に欲情する。それは僕の自尊心を保った。


 「ほら、さっさと脱いで。大好きな胸じっくりされたいだろ?」

 まるで先輩の声に誘導される様に、僕は不自然にならない様にTシャツを脱ぐ。続いてズボン、下着も。先輩は僕が鏡の前で何度も色っぽく脱ぐ練習をしてることなど知りもしない。

 だからギラつく眼差しで見つめられると、少し可笑しくなってしまう。本当は先輩が僕を食い散らかしてるんじゃなくて、僕が先輩を喰らってるのかもしれないって。どっちが捕食者なんだろうか。


 普段論理的に考えるのが得意なはずなのに、先輩との関係はいつもあっちこっちに浮き足だって結論が出ない。冷静になれない僕がやっぱり負けなのだろうか。

 全裸の僕を嬉しげに引っ張り込んでベッドに転がした先輩は、僕の身体をゆっくりと撫でて呟いた。

「俺、お前の身体結構好きなんだ。手触りも良いし、なんて言うか吸い付く感じがさ。それにお前セックス好きだしな。感度の良いやつと寝るのは楽しいだろ?」


 先輩に触れられているだけで体温が上がるのを自覚して、僕は息を浅くした。すっかり起き上がった僕の股間を焦らす様に撫でながら、先輩は僕の胸に舌を這わした。

「あ…!っん、あぁ…。」

「…声我慢するなよ。敏感なのが興奮するんだからさ。」

 先輩の手の中でぬめりを増した自分の簡単さに羞恥心を感じながらも、攻められている胸の先端から伝わる快感の渦にすっかり巻き取られている。


 「まだ逝くなよ?」

 そう言った先輩が起き上がって、慣れた様子でベッドサイドの引き出しからジェルとゴムを取り出した。僕は起き上がって先輩の股間に手を伸ばすと、その逞しさを堪能した。ああ、最初は苦しく感じるけど、最後にはコレで狂った様にがってしまう美しくも凶悪なモノ。

 僕は先輩に執着してるんじゃなくて、コレに執着してるのかな。それだったらどんなに救いがあるだろう。僕はすっかり自分の気持ちに迷子になりながら、屈み込んで先輩のそれを咥えた。


 「…俺よりお前の方、ほぐしたほうがいいんじゃないか?サイズ的に。」

 そう言いながらも先輩は僕の好きにさせて、気持ち良さげにため息を吐いた。僕は口の中が痺れるくらい何度も口の中でそれを往復させた。さっきよりも張り詰めているのを感じて、嬉しくなるくらい僕は…。

 「はぁ、陽太それ以上はヤバいって。無駄撃ちさせるつもりか?」


 引き剥がされた僕は、先輩の白濁を飲みたかったのかもしれない。キスをしない代わりにそれが欲しかったのかも。

「…解してあるから、もう挿れて…。」

 そう言って先輩の上に膝立ちになると、先輩は手早くゴムをつけてジェルを垂らした。僕の中に仕込んでおいた固形のそれはもう溶け出して腿を伝っていく。
  
 「準備がいいな。まるでこうしてるとオメガみたいだ。」


 その言葉に絡め取られる様に、僕は自分がオメガだったのなら先輩に本気になって貰えたのだろうかと悲しみさえ覚えて、自分から猛々しいそれを受け入れた。

「…う、ん。おおき…い。」

「…クク、ここまでにしたのは陽太だろうに。…抜くか?」

 僕は首を振って先輩のそれを奥まで呑み込んだ。ああ、セフレなら早く僕を逝かせてよ。




















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