純血の転校生〜僕には誰も必要ない

コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26

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戸惑い

祖父の願い

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 「地元に近い街にも寮生活ができる学校はあるでしょ!?」

 セデアスがそう主張しても、育ての親である祖父はガンとして首を縦に振らなかった。

「マリアが亡くなった今、私がどうこうできるものじゃない。ここにセスを留め置いていたのは、病床のマリアが理由だった訳じゃからな。今はその理由も無くなった。

 お前の亡き父親の意向通り、セスは少し遅れたがあの学園へ転入する必要があるのじゃ。」


 セデアスことセスはひと月前に亡くなった、母親がわりの祖母のマリアを想って顔を曇らせた。セスにとって赤ん坊の頃に亡くなった父親と、生存も分からない産みの母親は記憶にも残らない存在で、生まれ育った辺境の祖父母の家が自分のルーツだった。

 けれど何くれと世話を焼いてくれていたマリアが二年前に病気になってから、祖父母はセスに全寮制のアリステ学園への入学をしきりに勧めてきた。


 セスは勉強が出来る方ではあったので、下級学校の卒業生対象の統一試験で名門アリステ学園への入学資格は手にしていた。けれど母親とも言うべき病気の祖母を置いて、遠く離れた王都へ進学する気にはなれなかった。

 祖母の看病をしながら地元の上級学校に家から通い始めたものの、日に日に成長著しい周囲の同級生達が小柄なままのセスを軽んじるのは、祖父にとって懸念の材料になっているのは感じていた。

 
 「…頭脳より腕力が評価されがちなここに居ても、お前の居心地は悪くなるばかりじゃろう。いっそ前に彼方へ移動する方が問題が起きなくて済むと思うのじゃ。

 それにお前の実力ではあの学園が相応しい。今の学校でお前が自分の力を控えている理由を考えてみなさい。」

 そう問われて唇を噛み締める、明るい茶色の髪を日に透かしながら、物憂くエメラルド色の瞳を眼鏡の奥で瞬かせている義孫の姿を見つめながら、祖父ケドアス デザイアは密かにため息をついた。
 


 独り立ちしていた息子であるオビアスが、ある日身重の女性、セリアンヌを連れてきたのは今から18年前だった。結婚する前に不始末をしたのかと怒ったケドアスに、息子は真剣な眼差しで呟いた。

「父さん、よく聞いてくれ。彼女は純血の人間だ。彼女を閉じ込められた檻の様な場所から連れ出したのは、彼女の希望と俺の一存だ。純血を守るためにどんな事もする彼らの元に、彼女を残して置けなかった。

 …俺は彼女を愛している。」


 父であるケドアスは、純血の人間の意味することに眉を顰めて息子に尋ねた。

「…まさかそんな事がありえるのか?古来より純血主義である吸血族でさえその血を濁らせていると言うのに、虚弱な人間がそれを守れるとは到底思えないが。」

 息子は何を想像したのか顔を歪ませて呟いた。


 「俺は純血主義とやらには反吐が出るし、俺の関係のないところでやる分には勝手にしろと思う。だが、彼女の人生を潰す様なやり方は気に入らない。

 だからこうして連れ出したんだ。俺の子でなくとも、彼女の子供であればどんな子でも俺は愛する。

 幸いにも母親は純血なのだから、子供の成長と共に身の振り方は教えられるだろう。純血の人間は、限りその存在を埋没出来ると彼女は話していた。

 …彼女を見たか?えも言われぬオーラだろう?あれは俺と出会って開いたせいだ。俺が彼女を見つけるまで、彼女はその他大勢と同じに埋もれていた。まぁ美しさでは目立っていたが、今の様では無かったんだ。

 なぁ父さん、純血の人間が、なぜ血の濃い俺たちにとって脅威なのか身を持って知ったよ。俺は目を逸らせなかった。彼女無しではもう自分の人生など失ったと同じだ。」


 そう言って嬉しげに笑う、先祖返りとでも言うべき人虎族の特徴の濃いオビアスの逞しい姿を、父であるケドアスは時々思い出していた。

 結局オビアスはそのセリアンヌのために自らの命までも犠牲にすることになったのだが、生きていたとしても彼女を失ってしまってはあの笑顔を二度と見せることなど無かったに違いない。


 「この可愛い赤ん坊が年頃になって開く前に、俺の母校へ入学させなくちゃならんな。少なくともあそこなら人間の純血だとしてもまともな学生生活を送れるだろう。ここら辺じゃ野蛮極まりないからな。ははは。」

「…私もそうだった様に、純血の人間は簡単には開かないの。開けば幸福になれるのは分かっているけれど、開かない事がこの子を守る事も事実だわ。

 …この子に私の様な幸いが訪れます様に。そして私達の幸福がいつまでも続きます様に。」


 楽観的な息子の隣で、美しくも儚げなセリアンヌは、憂いを滲ませた赤ん坊そっくりの美しいエメラルド色の瞳を揺らした。

 美しい赤ん坊が生まれて賑やかな中、祖父母になったケドアスとマリアは、セリアンヌの憂いが大袈裟な気がして苦笑し合った。

 幸福しかない目の前の光景がそう時を経ないうちに脆くも壊れるのを、二人がまざまざと思い知らされる羽目になるなど、その時は想像もしなかったのだ。

 








 


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