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デビュタント
戸惑い
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オレンジゴールドと言うべき王族ならではの髪色を肩で切り揃えた、ゴードン様より少し細身ながらバランスの良いスタイルの第三王子が、私をじっと見つめながら有無を言わせない口調でパートナーを交代しようと言ってきた。
殿下のトパーズ色の瞳が身体に食い込む様で、妙な胸騒ぎにドキドキしてしまった。流石にゴードン様も殿下にこう提案されたら無視できないだろう。そう思ってゴードン様の顔を見上げると、私の腰に回したゴードン様の手に少し力がこもった気がした。
「殿下、今夜はチェルシー嬢の父君であるブライデン伯爵から全てを任されておりますので、私の一存では判断出来かねます。それに社交界デビュー1日目の令嬢には、殿下のダンスパートナーになるのは荷が重いのではありませんか?
公爵家のローズ嬢の様に王族との接点もありませんから。」
当然ゴードン様が私を第三王子に引き渡すと思っていたので、その返しには驚いてしまった。それにその言い方ではゴードン様のお立場が悪くなるのではないかしら。お兄様のお話では女癖が悪いだけでなく、中々難の有る性格だと話していた様な気がするもの。
それにローズ様の表情が何となく怖い。表情には出してないけれど、王子にこんな風に放り出されたらあまり良い気分ではないわね。
けれども第三王子はニヤリと笑って声を顰めた。
「なるほど。ブライデン伯爵のところのご令嬢だったのか。あそこの兄弟が鋼の護りで我々を寄せ付けなかったのは、まさにこの目の前のご令嬢だったわけだね。
だったら余計にダンスはして貰わないと。あいつらの慌てた顔が見たいからね。チェルシー嬢、どうか君の兄上達から虐められた哀れな男のために、一曲踊ってはくれないかな?」
お兄様達まで引き合いに出されては、流石に私も断ることなど出来なかった。ゴードン様もこれ以上殿下と揉めてはお立場が悪くなるだろう。私はスルリとゴードン様の腕から手を引き抜くと、第三王子が差し出した手のひらに手を乗せて微笑んだ。
ああ、上手く笑えていると良いけど。
「お兄様達が殿下にどの様な虐めをしていたのか、お聞きしないといけませんわね?」
満足気にゴードン様にウインクした第三王子が、機嫌良くホールに私をリードして連れられていくのを感じて、私は内心色々な意味でドキドキしながらなる様になれと思いつつ向き合った。
周囲の貴族達が心なしか注目している気がするのは気のせいではないだろう。
「はは、ゴードンにあんな顔をさせる事が出来るとはね。君は案外大物かもしれない。実はここだけの話、パートナーを交代したがっていたのはローズの方なのさ。私はまあ、当て馬だ。王族を当て馬にするとは、ローズは怖い女だろう?
私は小さい頃からローズとは幼馴染みたいなものだったからね、まあ願いは叶えてやりたかったのさ。ところで君はゴードンとは何か約束でもある身なのかい?」
二人きりになるとぐっと気さくに声をかけて来た殿下に戸惑いながら、私達は後からホールにダンスのために入って来たゴードン様とローズ様を見つめた。
こうして遠目で見るとゴードン様が漆黒の貴公子と呼ばれる理由が分かった。独特の存在感がそう二つ名を与えているのだ。
一方ローズ様もさすが公爵家出身だけあって、美しい淡い金髪と緋色に近いトパーズ色の瞳が髪に飾った赤い髪飾りの装飾を引き立てていた。そして赤いレースが白いドレスを彩って豪華さを増していた。
そう、二人で並んでいると何とも迫力があった。
「ね、案外あの二人はお似合いだろう?もし君がゴードンに焦がれているとしたら悪い事をしてしまったかもしれないが…。」
その殿下の言葉に我に返った私は、思わず首を振って言った。
「いいえ、ゴードン様は単にお兄様のお友達と言うだけですから。それよりお兄様達が殿下に意地悪していたと言うお話を聞かせてください。まったく、困ったものだわ。」
すると殿下は音楽に乗って踊りながらクスクス笑った。
「ああ、本当に虐められたのさ。私は女性の取り巻きが少ないという訳じゃないんだ。それは王族という色のステイタスでもあるだろうし、私自身の魅力のせいもあるだろうし、もともと女性は大好きだからね。
そんな私にあいつらが自慢の妹の話をするものだから、興味を持つのは当然だろう?けれども、私が君の事を尋ねようとすると、ジロリと睨んで言うのさ。
『取っ替え引っ替えご令嬢とお付き合いする殿下には紹介出来ません』てね?酷い言い草だろう?」
私は少し呆れてしまった。お兄様の言った事は間違いではないし、あまりにもあっけらかんと自分の女癖の悪さを告白する殿下も軽すぎる。でも王族のお立場ゆえに、わざとそう振る舞っているのかもしれないという気もした。
「…殿下はご令嬢達が本気になってしまわない様に、あえて浮ついた行動をしている様ですわね?大勢の中の一人だと思って殿下のお側にいるのなら、多くの望みは持ちませんから。」
すると第三王子はグイっと私を引き寄せて、瞳の中の虹彩が見えるくらい顔を寄せると囁いた。
「…面白くないね。私はそんなに分かりやすかったかな?君は確かにあいつらが隠していただけの事はあるね。さて、この生意気な小娘をどうしてやろうか。」
殿下の眼差しがまったく冗談めいてないので、私は今更ながら王族というものの恐ろしさをじわじわと感じ始めていた。もしかして不敬の罪で牢に入れられたりするのかしら!
殿下のトパーズ色の瞳が身体に食い込む様で、妙な胸騒ぎにドキドキしてしまった。流石にゴードン様も殿下にこう提案されたら無視できないだろう。そう思ってゴードン様の顔を見上げると、私の腰に回したゴードン様の手に少し力がこもった気がした。
「殿下、今夜はチェルシー嬢の父君であるブライデン伯爵から全てを任されておりますので、私の一存では判断出来かねます。それに社交界デビュー1日目の令嬢には、殿下のダンスパートナーになるのは荷が重いのではありませんか?
公爵家のローズ嬢の様に王族との接点もありませんから。」
当然ゴードン様が私を第三王子に引き渡すと思っていたので、その返しには驚いてしまった。それにその言い方ではゴードン様のお立場が悪くなるのではないかしら。お兄様のお話では女癖が悪いだけでなく、中々難の有る性格だと話していた様な気がするもの。
それにローズ様の表情が何となく怖い。表情には出してないけれど、王子にこんな風に放り出されたらあまり良い気分ではないわね。
けれども第三王子はニヤリと笑って声を顰めた。
「なるほど。ブライデン伯爵のところのご令嬢だったのか。あそこの兄弟が鋼の護りで我々を寄せ付けなかったのは、まさにこの目の前のご令嬢だったわけだね。
だったら余計にダンスはして貰わないと。あいつらの慌てた顔が見たいからね。チェルシー嬢、どうか君の兄上達から虐められた哀れな男のために、一曲踊ってはくれないかな?」
お兄様達まで引き合いに出されては、流石に私も断ることなど出来なかった。ゴードン様もこれ以上殿下と揉めてはお立場が悪くなるだろう。私はスルリとゴードン様の腕から手を引き抜くと、第三王子が差し出した手のひらに手を乗せて微笑んだ。
ああ、上手く笑えていると良いけど。
「お兄様達が殿下にどの様な虐めをしていたのか、お聞きしないといけませんわね?」
満足気にゴードン様にウインクした第三王子が、機嫌良くホールに私をリードして連れられていくのを感じて、私は内心色々な意味でドキドキしながらなる様になれと思いつつ向き合った。
周囲の貴族達が心なしか注目している気がするのは気のせいではないだろう。
「はは、ゴードンにあんな顔をさせる事が出来るとはね。君は案外大物かもしれない。実はここだけの話、パートナーを交代したがっていたのはローズの方なのさ。私はまあ、当て馬だ。王族を当て馬にするとは、ローズは怖い女だろう?
私は小さい頃からローズとは幼馴染みたいなものだったからね、まあ願いは叶えてやりたかったのさ。ところで君はゴードンとは何か約束でもある身なのかい?」
二人きりになるとぐっと気さくに声をかけて来た殿下に戸惑いながら、私達は後からホールにダンスのために入って来たゴードン様とローズ様を見つめた。
こうして遠目で見るとゴードン様が漆黒の貴公子と呼ばれる理由が分かった。独特の存在感がそう二つ名を与えているのだ。
一方ローズ様もさすが公爵家出身だけあって、美しい淡い金髪と緋色に近いトパーズ色の瞳が髪に飾った赤い髪飾りの装飾を引き立てていた。そして赤いレースが白いドレスを彩って豪華さを増していた。
そう、二人で並んでいると何とも迫力があった。
「ね、案外あの二人はお似合いだろう?もし君がゴードンに焦がれているとしたら悪い事をしてしまったかもしれないが…。」
その殿下の言葉に我に返った私は、思わず首を振って言った。
「いいえ、ゴードン様は単にお兄様のお友達と言うだけですから。それよりお兄様達が殿下に意地悪していたと言うお話を聞かせてください。まったく、困ったものだわ。」
すると殿下は音楽に乗って踊りながらクスクス笑った。
「ああ、本当に虐められたのさ。私は女性の取り巻きが少ないという訳じゃないんだ。それは王族という色のステイタスでもあるだろうし、私自身の魅力のせいもあるだろうし、もともと女性は大好きだからね。
そんな私にあいつらが自慢の妹の話をするものだから、興味を持つのは当然だろう?けれども、私が君の事を尋ねようとすると、ジロリと睨んで言うのさ。
『取っ替え引っ替えご令嬢とお付き合いする殿下には紹介出来ません』てね?酷い言い草だろう?」
私は少し呆れてしまった。お兄様の言った事は間違いではないし、あまりにもあっけらかんと自分の女癖の悪さを告白する殿下も軽すぎる。でも王族のお立場ゆえに、わざとそう振る舞っているのかもしれないという気もした。
「…殿下はご令嬢達が本気になってしまわない様に、あえて浮ついた行動をしている様ですわね?大勢の中の一人だと思って殿下のお側にいるのなら、多くの望みは持ちませんから。」
すると第三王子はグイっと私を引き寄せて、瞳の中の虹彩が見えるくらい顔を寄せると囁いた。
「…面白くないね。私はそんなに分かりやすかったかな?君は確かにあいつらが隠していただけの事はあるね。さて、この生意気な小娘をどうしてやろうか。」
殿下の眼差しがまったく冗談めいてないので、私は今更ながら王族というものの恐ろしさをじわじわと感じ始めていた。もしかして不敬の罪で牢に入れられたりするのかしら!
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