竜の国の人間様

コプラ

文字の大きさ
上 下
206 / 207
人間の魔法使い

魔鳥狩りピクニック

しおりを挟む
 「おい、テディ!また魔鳥の触手に捕まるんじゃ無いぞ?」

 そう言って面白そうにニヤニヤしているダグラスを睨んで、僕は口を尖らせた。

「もうそんなやわじゃ無いよ。それに僕は今日はファルコンと一緒に皆を応援するんだから。ダグラスもゲオンを連れて来たら良かったのに。もう人型になったんでしょ?」

 するとダグラスは顔を顰めて肩をすくめた。

「俺の信用が無くてな。赤ん坊はまだチビ過ぎてシャルは身動き取れないし、だったらゲオンだけでも一緒に連れてくって言ったんだが。シャルの許可は下りなかったなぁ。ゲオンは目を離すとどっか行っちまうからしょうがないんだ。」

「まぁ、だったら魔鳥パーティで沢山食べさせてあげよう。僕もゲオンとベビーちゃんに会いたいし。ほら、準備出来たみたいだよ。」


 ダグラスが慌てて皆の所へ向かうのを眺めながら、僕とファルコンは結界の中に居た。ファルコンは飛んでしまうのでドーム型に念入りに結界を張ってある。万が一魔鳥の側にファルコンが飛んで行かない様に念には念を入れたんだ。主にパーカスが。

 池が良く見える少し高台になっている草っ原の上で、敷物を敷いて僕とファルコンはのんびり男達の魔鳥狩りを眺めていた。

 パーカスの望み通り、今回は家族で近場の池に魔鳥狩りピクニックと洒落込んだはずだったけれど、話を聞きつけたダグラスがゲオンのために参加して来た。ちびっ子は魔鳥が大好物だからね。


 見た目綺麗な白鳥もどきの背中から黒い触手がニョロニョロと伸びるのを眉を顰めて眺めながら、僕はすっかりお座りの出来る様になったファルコンの側に肘をついて横になっていた。

 ファルコンは敷物の側に生えている柔らかな草をブチブチ引きちぎっては、口に入れて苦々しい顔をしている。その度に口を拭ってあげていたけれど、草むしりは気に入ったのかしつこく続けていた。


 「ファルコンは大きくなったら草むしりのプロになりそうだね。でもその頃にはやりたく無くなっちゃうか。」

 僕がそう言うと、ファルコンは僕そっくりの明るい緑色の目をこちらに向けて、手に握った草を横になった僕の顔に振りかけた。

「うわっ。まま、草だらけ!」

 僕がそう言ってファルコンを捕まえると、ファルコンはキャッキャッと楽しげに僕から逃れようと仰け反った。ひとしきりファルコンをくすぐって遊んでいると、ファルコンが動きを止めて池とは反対の方角へ目を向けた。

「なぁに?何か居たの?」


 僕も一緒になってファルコンの見ている方を眺めると、草地の先の岩場に何か動くものがいた気がする。ファルコンは興奮した様子で、あうあう言いながらそっちばかり見て行こうとしている。

「ファルコン、結界の中からは出られないんだよ。パーカスがえげつない魔法陣を使ってたからね?」

 祖父愛の結晶とも言えるこの結界は、流石に僕も解除する気になれなかった。結界の中なら大丈夫かと、僕はファルコンから手を離して好きな様にさせた。しかしあの岩場に動いたものは何だったのかな。


 ファルコンが結界に遮られて文句を言っているのを見下ろしながら、僕は背伸びして岩場の方をじっと見た。やっぱり何かいる気がする。この竜の国には大抵の生き物は竜人や獣人、さもなければ魔物やそれに類するものだ。あの有益なひとつ目のミルだって魔物を飼い慣らしただけだ。

 だから動くものは魔物だと用心するのが普通なんだ。

 けれど岩場の側から見え隠れしたそれに、僕は一瞬で笑みを浮かべてしまった。わた虫だ。ふわふわしたその毛並みの感触が蘇る。小さな身体の頃にわた虫捕りに勤しんだのは楽しい思い出だった。


 「ファルコン、わた虫捕りに行こうか?」

 何処かに勝手に飛んで行かない様にファルコンが着ているベストにロープを付けると、それを僕の腰の金具に留めた。取り敢えずこれで迷子にはならないだろう。

 ずっしりしたファルコンをウエストポーチを兼ねた抱っこバックの上に乗せて抱えると、杖を結界になぞる様にして自分サイズの切れ目を作って抜け出た。部分的に切り取っても魔方陣が崩壊しないのがさすがだ。


 陣地より少し高い岩場目指して歩いて行くと、ふわふわした金色のワタ毛が見えた。

「ファルコン、金のわた虫だなんて珍しいよ!結構カラフルなものも多いけど、金色は見た事がないな。」

 ファルコンが嬉しがって僕のウエストポーチの上で立ち上がろうとするのを押し留めようとした時、目の端の金のわた毛が急に大きくなった。ハッとしてそちらに目をやると、その金のふわふわなものは大きな二つの目を持つ何かだった。


 子供が両手で持てるくらいのわた虫と違って、そのふわふわした魔物の様なものは二回りほど大きい。まるでバスケットボールサイズのわた虫もどきはグニャリと形を変えて細くなるとこちらに向かって来た。

 丸い大きな目がミルを初めて見た時を思い出させて、僕は悲鳴をあげてファルコンを抱えて結界まで駆け降りた。

 ところが今や蛇の様に細く変化したものは、まるで僕らを追い越す勢いで並走している。いや、追い越している。思わず立ち止まると、それは勢いよく結界に激突した。

 それから時間を掛けてそれは形を元の丸みを帯びた形状に戻すと、僕らに見向きもせずに結界の周囲をウロウロと転がった。


 用心深く杖を構えた僕とファルコンはその変なものに目を奪われながら、結界の中に入りたがるそれをじっと見張りながら声を張り上げた。

「誰か~!変なものが居るから来て~!」「てぇ~!」

 僕らがそう声を掛ける必要はなかったかもしれない。既にバルトとロバート、そしてパーカスはこちらへ急ぎ走って来ていた。

「どうしたんだ!あんな悲鳴をあげて!」

 ロバートの問いに、そう言えばそうだったと誤魔化し笑いしながら、僕は結界の側を転がるふわふわしたわた虫もどきを指さした。

「あれ!あれって何!?」


 ロバートとバルトはじっと見つめるばかりでそれが何かはわからない様だった。一瞬遅れて辿り着いたパーカスが、僕達の視線を辿って目を見開いた。

「おお、わたわたじゃないか。何とも珍しい。私もアレを見たのはかれこれ300年前じゃぞ。」

 そう言うと、パーカスはツカツカと近づいてわた虫もどきを片手で掬った。さっきまで丸かったそれはパーカスの手のひらの上でグニャリと形を変えてまるでマフラーの様に垂れ下がった。


 「昔は時々見かけたものじゃが、最近はとんと見なくなった。ほれ、これは形が自在じゃから首に巻いたりして暖を取る事ができるのじゃよ。」

 そう言うとパーカスはそれを首にスルリと巻きつけた。ギョロついた二つの目がなければそこそこ豪華な毛皮のマフラーに見えないこともない。しかも形に従って目の大きさが変わっている様に見えるけど、そんな事ある?

「パーカス殿、首を絞めませんか!?」

 バルトがそう心配すると、パーカスは面白そうに笑って言った。

「これはそんな怖いもんじゃない。確か好物は果実じゃったな。ほれ、あの敷物の上の果実が食べたくて転がって来たのじゃろう。」


 さっきファルコンとダラダラしていた敷物の上に、僕の食べかけの果実が転がっていた。パーカスが結界をヒョイと潜って、その果実を拾うと、首に巻き付いたマフラーはスルリと今度は果実に巻き付いた。

 ふわふわして見えないけれど、シャクシャク音がするので食べてるみたいだ。

「これは魔物ですか?こんなに大人しいのにどうして見掛けないんでしょう。」

 バルトの問いに、パーカスは顔を顰めた。


 「大人しいから他の魔物に食べられてしまうのじゃろう。ペットとして流行ったこともあったが、繁殖が不明でどんどん数が減ったのよ。ここらには果実はないからこやつは痩せっぽっちじゃ。

 テディ、ファルコンのペットにしたらどうじゃの?なかなか可愛い魔物じゃぞ。ローズも幼い頃に飼っておったわ。」

 僕たちがパーカスの腕の中で丸くなって動かなくなったわたわたを見つめていると、ダグラスが息を切らせて遅ればせながらやって来た。

「なんだなんだ、皆んなして集まってどうしたって?あれ隠者様、そんなデカいわた虫何処で拾ったんです?」







しおりを挟む
感想 114

あなたにおすすめの小説

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

【BL】婚約破棄で『不能男』認定された公爵に憑依したから、やり返すことにした。~計画で元婚約者の相手を狙ったら溺愛された~

楠ノ木雫
BL
 俺が憑依したのは、容姿端麗で由緒正しい公爵家の当主だった。憑依する前日、婚約者に婚約破棄をされ『不能男認定』をされた、クズ公爵に。  これから俺がこの公爵として生きていくことになっしまったが、流石の俺も『不能男』にはキレたため、元婚約者に仕返しをする事を決意する。  計画のために、元婚約者の今の婚約者、第二皇子を狙うが……  ※以前作ったものを改稿しBL版にリメイクしました。  ※他のサイトにも投稿しています。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたアルフォン伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 アルフォンのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

運命を変えるために良い子を目指したら、ハイスペ従者に溺愛されました

十夜 篁
BL
 初めて会った家族や使用人に『バケモノ』として扱われ、傷ついたユーリ(5歳)は、階段から落ちたことがきっかけで神様に出会った。 そして、神様から教えてもらった未来はとんでもないものだった…。 「えぇ!僕、16歳で死んじゃうの!? しかも、死ぬまでずっと1人ぼっちだなんて…」 ユーリは神様からもらったチートスキルを活かして未来を変えることを決意! 「いい子になってみんなに愛してもらえるように頑張ります!」  まずユーリは、1番近くにいてくれる従者のアルバートと仲良くなろうとするが…? 「ユーリ様を害する者は、すべて私が排除しましょう」 「うぇ!?は、排除はしなくていいよ!!」 健気に頑張るご主人様に、ハイスペ従者の溺愛が急成長中!? そんなユーリの周りにはいつの間にか人が集まり…。 《これは、1人ぼっちになった少年が、温かい居場所を見つけ、運命を変えるまでの物語》

処理中です...