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人間の魔法使い
魔鳥狩りピクニック
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「おい、テディ!また魔鳥の触手に捕まるんじゃ無いぞ?」
そう言って面白そうにニヤニヤしているダグラスを睨んで、僕は口を尖らせた。
「もうそんなやわじゃ無いよ。それに僕は今日はファルコンと一緒に皆を応援するんだから。ダグラスもゲオンを連れて来たら良かったのに。もう人型になったんでしょ?」
するとダグラスは顔を顰めて肩をすくめた。
「俺の信用が無くてな。赤ん坊はまだチビ過ぎてシャルは身動き取れないし、だったらゲオンだけでも一緒に連れてくって言ったんだが。シャルの許可は下りなかったなぁ。ゲオンは目を離すとどっか行っちまうからしょうがないんだ。」
「まぁ、だったら魔鳥パーティで沢山食べさせてあげよう。僕もゲオンとベビーちゃんに会いたいし。ほら、準備出来たみたいだよ。」
ダグラスが慌てて皆の所へ向かうのを眺めながら、僕とファルコンは結界の中に居た。ファルコンは飛んでしまうのでドーム型に念入りに結界を張ってある。万が一魔鳥の側にファルコンが飛んで行かない様に念には念を入れたんだ。主にパーカスが。
池が良く見える少し高台になっている草っ原の上で、敷物を敷いて僕とファルコンはのんびり男達の魔鳥狩りを眺めていた。
パーカスの望み通り、今回は家族で近場の池に魔鳥狩りピクニックと洒落込んだはずだったけれど、話を聞きつけたダグラスがゲオンのために参加して来た。ちびっ子は魔鳥が大好物だからね。
見た目綺麗な白鳥もどきの背中から黒い触手がニョロニョロと伸びるのを眉を顰めて眺めながら、僕はすっかりお座りの出来る様になったファルコンの側に肘をついて横になっていた。
ファルコンは敷物の側に生えている柔らかな草をブチブチ引きちぎっては、口に入れて苦々しい顔をしている。その度に口を拭ってあげていたけれど、草むしりは気に入ったのかしつこく続けていた。
「ファルコンは大きくなったら草むしりのプロになりそうだね。でもその頃にはやりたく無くなっちゃうか。」
僕がそう言うと、ファルコンは僕そっくりの明るい緑色の目をこちらに向けて、手に握った草を横になった僕の顔に振りかけた。
「うわっ。まま、草だらけ!」
僕がそう言ってファルコンを捕まえると、ファルコンはキャッキャッと楽しげに僕から逃れようと仰け反った。ひとしきりファルコンをくすぐって遊んでいると、ファルコンが動きを止めて池とは反対の方角へ目を向けた。
「なぁに?何か居たの?」
僕も一緒になってファルコンの見ている方を眺めると、草地の先の岩場に何か動くものがいた気がする。ファルコンは興奮した様子で、あうあう言いながらそっちばかり見て行こうとしている。
「ファルコン、結界の中からは出られないんだよ。パーカスがえげつない魔法陣を使ってたからね?」
祖父愛の結晶とも言えるこの結界は、流石に僕も解除する気になれなかった。結界の中なら大丈夫かと、僕はファルコンから手を離して好きな様にさせた。しかしあの岩場に動いたものは何だったのかな。
ファルコンが結界に遮られて文句を言っているのを見下ろしながら、僕は背伸びして岩場の方をじっと見た。やっぱり何かいる気がする。この竜の国には大抵の生き物は竜人や獣人、さもなければ魔物やそれに類するものだ。あの有益なひとつ目のミルだって魔物を飼い慣らしただけだ。
だから動くものは魔物だと用心するのが普通なんだ。
けれど岩場の側から見え隠れしたそれに、僕は一瞬で笑みを浮かべてしまった。わた虫だ。ふわふわしたその毛並みの感触が蘇る。小さな身体の頃にわた虫捕りに勤しんだのは楽しい思い出だった。
「ファルコン、わた虫捕りに行こうか?」
何処かに勝手に飛んで行かない様にファルコンが着ているベストにロープを付けると、それを僕の腰の金具に留めた。取り敢えずこれで迷子にはならないだろう。
ずっしりしたファルコンをウエストポーチを兼ねた抱っこバックの上に乗せて抱えると、杖を結界になぞる様にして自分サイズの切れ目を作って抜け出た。部分的に切り取っても魔方陣が崩壊しないのがさすがだ。
陣地より少し高い岩場目指して歩いて行くと、ふわふわした金色のワタ毛が見えた。
「ファルコン、金のわた虫だなんて珍しいよ!結構カラフルなものも多いけど、金色は見た事がないな。」
ファルコンが嬉しがって僕のウエストポーチの上で立ち上がろうとするのを押し留めようとした時、目の端の金のわた毛が急に大きくなった。ハッとしてそちらに目をやると、その金のふわふわなものは大きな二つの目を持つ何かだった。
子供が両手で持てるくらいのわた虫と違って、そのふわふわした魔物の様なものは二回りほど大きい。まるでバスケットボールサイズのわた虫もどきはグニャリと形を変えて細くなるとこちらに向かって来た。
丸い大きな目がミルを初めて見た時を思い出させて、僕は悲鳴をあげてファルコンを抱えて結界まで駆け降りた。
ところが今や蛇の様に細く変化したものは、まるで僕らを追い越す勢いで並走している。いや、追い越している。思わず立ち止まると、それは勢いよく結界に激突した。
それから時間を掛けてそれは形を元の丸みを帯びた形状に戻すと、僕らに見向きもせずに結界の周囲をウロウロと転がった。
用心深く杖を構えた僕とファルコンはその変なものに目を奪われながら、結界の中に入りたがるそれをじっと見張りながら声を張り上げた。
「誰か~!変なものが居るから来て~!」「てぇ~!」
僕らがそう声を掛ける必要はなかったかもしれない。既にバルトとロバート、そしてパーカスはこちらへ急ぎ走って来ていた。
「どうしたんだ!あんな悲鳴をあげて!」
ロバートの問いに、そう言えばそうだったと誤魔化し笑いしながら、僕は結界の側を転がるふわふわしたわた虫もどきを指さした。
「あれ!あれって何!?」
ロバートとバルトはじっと見つめるばかりでそれが何かはわからない様だった。一瞬遅れて辿り着いたパーカスが、僕達の視線を辿って目を見開いた。
「おお、わたわたじゃないか。何とも珍しい。私もアレを見たのはかれこれ300年前じゃぞ。」
そう言うと、パーカスはツカツカと近づいてわた虫もどきを片手で掬った。さっきまで丸かったそれはパーカスの手のひらの上でグニャリと形を変えてまるでマフラーの様に垂れ下がった。
「昔は時々見かけたものじゃが、最近はとんと見なくなった。ほれ、これは形が自在じゃから首に巻いたりして暖を取る事ができるのじゃよ。」
そう言うとパーカスはそれを首にスルリと巻きつけた。ギョロついた二つの目がなければそこそこ豪華な毛皮のマフラーに見えないこともない。しかも形に従って目の大きさが変わっている様に見えるけど、そんな事ある?
「パーカス殿、首を絞めませんか!?」
バルトがそう心配すると、パーカスは面白そうに笑って言った。
「これはそんな怖いもんじゃない。確か好物は果実じゃったな。ほれ、あの敷物の上の果実が食べたくて転がって来たのじゃろう。」
さっきファルコンとダラダラしていた敷物の上に、僕の食べかけの果実が転がっていた。パーカスが結界をヒョイと潜って、その果実を拾うと、首に巻き付いたマフラーはスルリと今度は果実に巻き付いた。
ふわふわして見えないけれど、シャクシャク音がするので食べてるみたいだ。
「これは魔物ですか?こんなに大人しいのにどうして見掛けないんでしょう。」
バルトの問いに、パーカスは顔を顰めた。
「大人しいから他の魔物に食べられてしまうのじゃろう。ペットとして流行ったこともあったが、繁殖が不明でどんどん数が減ったのよ。ここらには果実はないからこやつは痩せっぽっちじゃ。
テディ、ファルコンのペットにしたらどうじゃの?なかなか可愛い魔物じゃぞ。ローズも幼い頃に飼っておったわ。」
僕たちがパーカスの腕の中で丸くなって動かなくなったわたわたを見つめていると、ダグラスが息を切らせて遅ればせながらやって来た。
「なんだなんだ、皆んなして集まってどうしたって?あれ隠者様、そんなデカいわた虫何処で拾ったんです?」
そう言って面白そうにニヤニヤしているダグラスを睨んで、僕は口を尖らせた。
「もうそんなやわじゃ無いよ。それに僕は今日はファルコンと一緒に皆を応援するんだから。ダグラスもゲオンを連れて来たら良かったのに。もう人型になったんでしょ?」
するとダグラスは顔を顰めて肩をすくめた。
「俺の信用が無くてな。赤ん坊はまだチビ過ぎてシャルは身動き取れないし、だったらゲオンだけでも一緒に連れてくって言ったんだが。シャルの許可は下りなかったなぁ。ゲオンは目を離すとどっか行っちまうからしょうがないんだ。」
「まぁ、だったら魔鳥パーティで沢山食べさせてあげよう。僕もゲオンとベビーちゃんに会いたいし。ほら、準備出来たみたいだよ。」
ダグラスが慌てて皆の所へ向かうのを眺めながら、僕とファルコンは結界の中に居た。ファルコンは飛んでしまうのでドーム型に念入りに結界を張ってある。万が一魔鳥の側にファルコンが飛んで行かない様に念には念を入れたんだ。主にパーカスが。
池が良く見える少し高台になっている草っ原の上で、敷物を敷いて僕とファルコンはのんびり男達の魔鳥狩りを眺めていた。
パーカスの望み通り、今回は家族で近場の池に魔鳥狩りピクニックと洒落込んだはずだったけれど、話を聞きつけたダグラスがゲオンのために参加して来た。ちびっ子は魔鳥が大好物だからね。
見た目綺麗な白鳥もどきの背中から黒い触手がニョロニョロと伸びるのを眉を顰めて眺めながら、僕はすっかりお座りの出来る様になったファルコンの側に肘をついて横になっていた。
ファルコンは敷物の側に生えている柔らかな草をブチブチ引きちぎっては、口に入れて苦々しい顔をしている。その度に口を拭ってあげていたけれど、草むしりは気に入ったのかしつこく続けていた。
「ファルコンは大きくなったら草むしりのプロになりそうだね。でもその頃にはやりたく無くなっちゃうか。」
僕がそう言うと、ファルコンは僕そっくりの明るい緑色の目をこちらに向けて、手に握った草を横になった僕の顔に振りかけた。
「うわっ。まま、草だらけ!」
僕がそう言ってファルコンを捕まえると、ファルコンはキャッキャッと楽しげに僕から逃れようと仰け反った。ひとしきりファルコンをくすぐって遊んでいると、ファルコンが動きを止めて池とは反対の方角へ目を向けた。
「なぁに?何か居たの?」
僕も一緒になってファルコンの見ている方を眺めると、草地の先の岩場に何か動くものがいた気がする。ファルコンは興奮した様子で、あうあう言いながらそっちばかり見て行こうとしている。
「ファルコン、結界の中からは出られないんだよ。パーカスがえげつない魔法陣を使ってたからね?」
祖父愛の結晶とも言えるこの結界は、流石に僕も解除する気になれなかった。結界の中なら大丈夫かと、僕はファルコンから手を離して好きな様にさせた。しかしあの岩場に動いたものは何だったのかな。
ファルコンが結界に遮られて文句を言っているのを見下ろしながら、僕は背伸びして岩場の方をじっと見た。やっぱり何かいる気がする。この竜の国には大抵の生き物は竜人や獣人、さもなければ魔物やそれに類するものだ。あの有益なひとつ目のミルだって魔物を飼い慣らしただけだ。
だから動くものは魔物だと用心するのが普通なんだ。
けれど岩場の側から見え隠れしたそれに、僕は一瞬で笑みを浮かべてしまった。わた虫だ。ふわふわしたその毛並みの感触が蘇る。小さな身体の頃にわた虫捕りに勤しんだのは楽しい思い出だった。
「ファルコン、わた虫捕りに行こうか?」
何処かに勝手に飛んで行かない様にファルコンが着ているベストにロープを付けると、それを僕の腰の金具に留めた。取り敢えずこれで迷子にはならないだろう。
ずっしりしたファルコンをウエストポーチを兼ねた抱っこバックの上に乗せて抱えると、杖を結界になぞる様にして自分サイズの切れ目を作って抜け出た。部分的に切り取っても魔方陣が崩壊しないのがさすがだ。
陣地より少し高い岩場目指して歩いて行くと、ふわふわした金色のワタ毛が見えた。
「ファルコン、金のわた虫だなんて珍しいよ!結構カラフルなものも多いけど、金色は見た事がないな。」
ファルコンが嬉しがって僕のウエストポーチの上で立ち上がろうとするのを押し留めようとした時、目の端の金のわた毛が急に大きくなった。ハッとしてそちらに目をやると、その金のふわふわなものは大きな二つの目を持つ何かだった。
子供が両手で持てるくらいのわた虫と違って、そのふわふわした魔物の様なものは二回りほど大きい。まるでバスケットボールサイズのわた虫もどきはグニャリと形を変えて細くなるとこちらに向かって来た。
丸い大きな目がミルを初めて見た時を思い出させて、僕は悲鳴をあげてファルコンを抱えて結界まで駆け降りた。
ところが今や蛇の様に細く変化したものは、まるで僕らを追い越す勢いで並走している。いや、追い越している。思わず立ち止まると、それは勢いよく結界に激突した。
それから時間を掛けてそれは形を元の丸みを帯びた形状に戻すと、僕らに見向きもせずに結界の周囲をウロウロと転がった。
用心深く杖を構えた僕とファルコンはその変なものに目を奪われながら、結界の中に入りたがるそれをじっと見張りながら声を張り上げた。
「誰か~!変なものが居るから来て~!」「てぇ~!」
僕らがそう声を掛ける必要はなかったかもしれない。既にバルトとロバート、そしてパーカスはこちらへ急ぎ走って来ていた。
「どうしたんだ!あんな悲鳴をあげて!」
ロバートの問いに、そう言えばそうだったと誤魔化し笑いしながら、僕は結界の側を転がるふわふわしたわた虫もどきを指さした。
「あれ!あれって何!?」
ロバートとバルトはじっと見つめるばかりでそれが何かはわからない様だった。一瞬遅れて辿り着いたパーカスが、僕達の視線を辿って目を見開いた。
「おお、わたわたじゃないか。何とも珍しい。私もアレを見たのはかれこれ300年前じゃぞ。」
そう言うと、パーカスはツカツカと近づいてわた虫もどきを片手で掬った。さっきまで丸かったそれはパーカスの手のひらの上でグニャリと形を変えてまるでマフラーの様に垂れ下がった。
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そう言うとパーカスはそれを首にスルリと巻きつけた。ギョロついた二つの目がなければそこそこ豪華な毛皮のマフラーに見えないこともない。しかも形に従って目の大きさが変わっている様に見えるけど、そんな事ある?
「パーカス殿、首を絞めませんか!?」
バルトがそう心配すると、パーカスは面白そうに笑って言った。
「これはそんな怖いもんじゃない。確か好物は果実じゃったな。ほれ、あの敷物の上の果実が食べたくて転がって来たのじゃろう。」
さっきファルコンとダラダラしていた敷物の上に、僕の食べかけの果実が転がっていた。パーカスが結界をヒョイと潜って、その果実を拾うと、首に巻き付いたマフラーはスルリと今度は果実に巻き付いた。
ふわふわして見えないけれど、シャクシャク音がするので食べてるみたいだ。
「これは魔物ですか?こんなに大人しいのにどうして見掛けないんでしょう。」
バルトの問いに、パーカスは顔を顰めた。
「大人しいから他の魔物に食べられてしまうのじゃろう。ペットとして流行ったこともあったが、繁殖が不明でどんどん数が減ったのよ。ここらには果実はないからこやつは痩せっぽっちじゃ。
テディ、ファルコンのペットにしたらどうじゃの?なかなか可愛い魔物じゃぞ。ローズも幼い頃に飼っておったわ。」
僕たちがパーカスの腕の中で丸くなって動かなくなったわたわたを見つめていると、ダグラスが息を切らせて遅ればせながらやって来た。
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