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衝撃
長老の宣告
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「ほうほう、驚きじゃ。しばらく見ないうちに、パーカスの愛し子は随分の変容をした様じゃのう。…妊娠出来そうなくらいに豊穣の種子が成熟し掛かっているのには気づいていたが、確かに新たな命を感じるのう。」
挨拶で立っていた僕の全身を探る様に見つめた後、長老はそう言った。
長老の宣告にショックを受けた僕は、思わずソファにへたり込んだ。
シャルの様に自分から望んだわけでもなく、いつか未来にそうなるかもしれないとぼんやりと感じていただけの、まるで覚悟のない僕にとっては、長老のその言葉で動揺しない訳もなかった。
「…という事は、やはりテディは妊娠しておるという事なのかのう?長老は成熟に気づいていたと仰ったが、一体いつ頃の話ですじゃ。」
パーカスは眉を顰めて緊張を滲ませた口調で長老に尋ねた。確かに長老は僕に身籠る土壌がある事に気づいていたと言った。僕はハッとしてパーカスに釣られる様に長老の言葉を待った。
すると長老は片眉を持ち上げて首を傾げた。
「はて、なぜお主らがそれを知らぬのじゃ?望んでそうしたのじゃろう?入学式にそちと顔を合わせた時には、その兆候は感じられたがのう。もしかして知らなかったのかの?」
僕とパーカスは顔を見合わせた。身体の変化については心当たりがあり過ぎた。ここ数年、魔素を取り込んでも全然足りなかった事、そして魔力の増大とバランスの悪さだ。
魔力が増えるのは成長と実力だと思っていたのだけど、違ったのだろうか。
「確かにテディは身体に見合わぬ大食漢じゃ。魔素もいつも足りてなかった感じじゃった。豊穣の種子が成熟するには時間が掛かるのは魔素を必要とするのも理由じゃ。
しかし一体いつテディが種子を取り込んだと言うのじゃろう。…神殿に行った訳でもないのじゃろう?」
パーカスにそう言われて、僕はブンブンと首を振った。まだ学生なのに愛人が居るからってそんな無謀な事する訳ない。すると長老が声を掛けてきた。
「なんじゃ、其方たちは知らんかったのか?それに、そちからは常に龍神の気配はあるのじゃから、植えつけたのも龍神様以外はないじゃろうて。」
僕は困惑して思わず呟いた。
「…メダが姿を消してからしばらくして、ブルーベルの高等学院へ入学したのが4年前だとすると、その間に身体が変えられたって事なの?なぜメダはその事を僕に話さなかったんだろう。
メダの性格なら絶対に言いそうなのに。」
パーカスは心配そうに僕に言った。
「テディ、龍神様と最後に話した時に、何かそれらしき事を言ってなかったかのう?」
そう言われて、僕は記憶を引っ張り出した。メダの住むあの場所で最後に話をした時に、メダは何て言っていただろう。僕はぼんやりとその時にメダの話した言葉を思い出していた。
『…人間の子よ。我に会う日を楽しみにしておけ。お前が十分に成熟した暁には、我はお前の前に現れるだろうよ。』『…まったく人間というのは自分の身体の変化にも鈍感だとみえる…』
あの時は僕の寿命の話だとばかり思っていたけれど、別の意味もあったとしたら…。長老とパーカスにメダに言われた事を伝えると、二人は顔を見合わせて頷いた。
「やはりのう。となると、龍神様は近いうちに姿を現す事になるかもしれぬの。何とも面倒な事じゃ。龍神様では厄介者扱いするわけにもいかぬからのう。」
いつも周囲を振り回してばかりの、どちらかと言うと厄介者である長老がそんな事を言うので、どっちもどっちだと少し笑えたけれど、状況は全然笑えなかった。
僕はどうも妊娠してるみたいだし、メダがいつ現れてもおかしくないらしいし、やっぱり僕は妊娠してる!妊娠!ああ、僕には今の状況は一人で抱えきれない…!
よっぽど酷い顔をしていたのだろう。パーカスが僕を子供の様に膝に抱き上げて寄りかからせてくれた。
「私もショックを受けたのじゃ。テディは尚更じゃろう。まして予想もしない身体の変化じゃ。赤子はいずれ生まれてくるのじゃろう?赤子が生まれる事は喜びじゃ。まして父親だと思われる面々は喜色満面じゃろう事は予想がつく。
問題は以前テディが教えてくれた事じゃ。人間の赤ん坊は我らより大きく産まれるのじゃろう?もしそうだとすると、それはテディの命さえ脅かすのではないかの?」
僕は身体に響くパーカスの声を聞きながら黙っていた。
人間の男が妊娠する事例など知るわけ無いのだから、僕に言える事などない。でも僕にはひとつ予感があった。きっと僕から生まれる赤ん坊は人間の赤ん坊じゃないかって。人外の赤ん坊を僕が産む事が出来るイメージが湧かなかった。
だから僕はここでダメージを喰らってる場合じゃないと口を引き結んで顔を上げた。
「長老、今まで人間がこの世界で赤ん坊を産んだ事はあるのですか?」
それから長老があの塔の図書室番である亀獣人のタートルに探させたけれど、結局迷いびとである人間が赤ん坊を産んだかどうかは記録に無かった。それは今のこの世界に人間ぽい遺伝子が残っていない事からも、相当薄まってしまったか、人間族自体が産まれていないのか、産めなかったのか、いずれかだと推測できた。
それに記憶を辿れば、パーカスに以前見せて貰った人間の残した唯一の古い手紙には、幸せに生活していると言う文面があったけれど、子供のことについては触れられていなかった。
僕が考え込んでいると、パーカスが僕の手をぎゅっと握って微笑んだ。
「テディは迷い人の中でも特別なのじゃ。龍神様に愛されし者じゃからのう。龍神様もいずれ近いうちに現れるかもしれぬし、テディの生活ももっと違って来るじゃろうから、色々と準備しなくてはならぬな。
私も全面的にテディを支えるから、今は無理かもしれぬがテディはあまり思い悩まずにのう?…もっとも、私を押しのけて煩く騒ぎ立てる面々に苦労させられそうじゃ。」
ロバートとバルトさんの顔が浮かんで、それこそパーカスの言った状況が目に浮かぶ気がして、僕は思わずクスッと笑ってしまった。
「…ともかく切羽詰まった状況になるまで、僕は学校生活を送るつもりだよ。思いがけない状況ではあったけれど、僕の精神安定上、普段通りの生活を続ける方が良い気がするから。
パーカス、協力してくれる?」
優しく頷いたパーカスが膝の上の僕の背中を撫でてくれて、僕はすっかり小さな子供の気持ちになっていたと我に返った。
のそのそと膝から降りると、目の前の長老がしわがれた声を立てて機嫌よく笑った。
「まったく、人間というものは愛らしいものじゃ。さて、わしも人間の妊夫には俄然興味が湧いてきたの。今まで忙しくて王立学校に顔を出せなかったが、これからはこまめに顔を出すことにしようぞ。
とは言え、今のそちは魔素もバランスが崩れまくっておる。確か妊娠初期は皆が通る道じゃが、慣れるまでしばらく大人しくしておく方が良いぞ?わしの記憶はあまりにも遠くてすっかり忘れてしもうたが、誰か詳しい者は側におるかのう?
…ああ、パーカスの娘っ子がおったろう。あの者に色々任せてはどうじゃ。」
長老が珍しく優しい事を言ったと思ったら、ローズさんの事を持ち出してきた。僕とパーカスは思わず顔を見合わせて苦笑した。どう考えてもローズさんにかき乱される日常が思い浮かぶ。
「…まぁ、その事はおいおい考えるとして、確かにテディには休息が必要そうじゃ。それにあ奴らにこの事を話さなくてはならぬからのう。大騒ぎになるのが目に見えて少し気が重いのう。」
パーカスのぼやきに少し笑いながら、僕は自分の考えもしなかった人生に少しため息をついた。でもきっとパーカスや、ローズさん、それに僕の大事な彼らが僕を支えてくれるよね?うん、絶対!頼む!ふう…。
とは言え不安に感じていた事がハッキリして、僕は何処か安堵したせいか急激に眠気が襲ってきた。ああ、本当ずっと眠っていたいよ…。
★『イバラの鎖』義兄弟の絡まった愛憎BL毎日更新中です♥️
義兄上の居る王都へ行く(本編)までに、結構とんでもない状況になってしまいました。美しき主人公が周囲をドロつかせてますので🤭、お好きな方は是非読んでみてください😊
よろしくお願いします♪
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パーカスは眉を顰めて緊張を滲ませた口調で長老に尋ねた。確かに長老は僕に身籠る土壌がある事に気づいていたと言った。僕はハッとしてパーカスに釣られる様に長老の言葉を待った。
すると長老は片眉を持ち上げて首を傾げた。
「はて、なぜお主らがそれを知らぬのじゃ?望んでそうしたのじゃろう?入学式にそちと顔を合わせた時には、その兆候は感じられたがのう。もしかして知らなかったのかの?」
僕とパーカスは顔を見合わせた。身体の変化については心当たりがあり過ぎた。ここ数年、魔素を取り込んでも全然足りなかった事、そして魔力の増大とバランスの悪さだ。
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「確かにテディは身体に見合わぬ大食漢じゃ。魔素もいつも足りてなかった感じじゃった。豊穣の種子が成熟するには時間が掛かるのは魔素を必要とするのも理由じゃ。
しかし一体いつテディが種子を取り込んだと言うのじゃろう。…神殿に行った訳でもないのじゃろう?」
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僕は困惑して思わず呟いた。
「…メダが姿を消してからしばらくして、ブルーベルの高等学院へ入学したのが4年前だとすると、その間に身体が変えられたって事なの?なぜメダはその事を僕に話さなかったんだろう。
メダの性格なら絶対に言いそうなのに。」
パーカスは心配そうに僕に言った。
「テディ、龍神様と最後に話した時に、何かそれらしき事を言ってなかったかのう?」
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