竜の国の人間様

コプラ

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王立学校

ジョッシュside彼と弟

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 急に家に招待する予定は無かった。けれどもオフホワイトのローブを着て背中に黒髪を揺らすディーを見たら、自然通せんぼする様にして口をついて出たのは自分でも予想していない言葉だった。

 私を見上げる明るい緑色の瞳は、どこかで見た様な既視感があったけれど、目を逸らすことなど出来なくなった。


 パーカス様のご子息であるディー ブラックは魅力的だった。ぱっと見はとても同い年の23歳には思えない、まだ高等学院生と言われても全然違和感のない可愛い顔つきだ。けれど話しをすると妙に大人びていて、時折色っぽい表情が見え隠れして目が離せなくなる。

 それに彼は何者なんだろう。パーカス様のご子息なのだから竜人なのだろうけれど、私の知っている竜人とはまるで似つかない。角もなければ、男女問わず竜人にありがちな、それっぽさが全く感じられなかった。

 もちろん獣人ではないのは間違いない。私は家の鳥車に向かいながら、周囲の赤や黒のローブの奴らが不躾ぶしつけな視線を送って来るのを感じていた。

 …明日は俺から情報を得ようとあいつらが押しかけるのが見える様だ。


 魔法科の学生は、元々魔力が強い家系の狐族や鳥族の者が輩出される事が今までは多かった。けれどもここ数年の魔力増強ミルのお陰で、上手く魔力を増した学生が魔法科を目指す事が増えた。

 もっともそれは騎士科や私の専攻である総合科を目指す者も同様に魔力を増やしているので、魔法科は更にそれを上回る実力の持ち主という事だ。そう考えるとディーは相当な魔法の使い手という事なんだろう。


 あまり抵抗もなく家に一緒に行くと頷いてくれて、私は一気に気分が上がった。ジャックが決め手になったのは否めないが、これで私はディーの友人枠に入るのは決まった様なものだ。

 しかし単独ダダ鳥で学校に来ていたとは思わなかった。騎士科でもあるまいし、ディーの雰囲気からして鳥車で送迎されるのが当たり前だと思っていたからだ。

 思わず父上のディーを評する言葉『庇護欲のわく風貌なのに勇猛果敢な所がある』が頭に浮かんできた。あれは本当のことなのかもしれない。私はますます彼に興味が湧いて来て、同級生の中で一番にお近づきになれた事によくやったと自分を褒めたいくらいだった。


 けれど目を見開いたジャックを無邪気に抱きしめたディーを見て、どこか嫉妬めいた気持ちが湧き上がって来たのは我ながら簡単すぎると苦笑する羽目になった。

 私が思うよりディーはジャックと仲良しだった様子で、明らかに私とは別の顔を見せていた。

 ところが意外だったのはジャックの方で、ディーの砕けた対応に戸惑っている様子だった。とは言え顔を赤くして喜んでいるのは確かだったけど。まったく。


 「ジャック!それにしてもすっかり見違えたね。ジャックは元々賢くて親切な子供だったけど、今もそれは変わらなく見えるよ。」

 そう言ってジャックと繋いだ手を離そうとしないので、ジャックはドギマギとしながらもクスクス笑って言った。

「ディーお兄さん、お兄さんも相変わらずですね。やっぱりテディによく似てるし。あの、テディって今どこにいるんですか?僕てっきり王都にいるのかと思って、去年上京した時に探したんですが見当たらなくって。学年も違うからかと思ってたんですが…。」


 するとディーは困った表情をして言い淀んだ。

「あー、テディ?ローズ様のところかな。…今度連れて行ってあげるよ。僕も最近上京したばかりだから…。」

 …ジャックの言うテディという少年がパーカス様の娘であるローズ様のところにいるという事は、やはりパーカス様の関係者なのは間違い無いだろう。息子は二人居たのだろうか。養子の線を考えると何人居たところで問題もある訳では無い。

「それよりジャックの事聞かせて?僕もブレーベルを拠点にしてたから、辺境でも時々しか顔を合わせなかったでしょ?今って12歳とすれば王都の初等学校へ行ってるって事?」


 そんな話をしながらディーとジャックは手を繋ぎながら談話室へ歩き出してしまった。私は一人放って置かれて、目をしばたくとあわてて二人の後を追った。しょうがない。私は先日会ったばかりなのだから。

「ジャックとこんなに仲良しだったとは知らなかったよ、ディー。」

 従者にお茶の指示を出して二人に追いついた私がそう言うと、ディーはニッコリ笑って言った。

「ふふ、ジョッシュを蚊帳の外に置いてごめん。つい懐かしくて。ジャックはいつも礼儀正しくて面倒見が良い子だったから、僕大好きだったんだ。でもジョッシュがジャックの兄上だって言うのは何となく通じるものがあるよ。

 君と知り合いになれて良かった。」


 そう言われてしまえば悪い気はしない。私達はお茶を飲みながら王立学校の話をした。

「へぇ、総合科の寮生活は半年もあるんだ。魔法科は三ヶ月だけど。ね、ところで総合科ってどんな専攻なの?僕、ほとんど王立学校の事知らなくって。寮生活ってのも今日初めて聞いたくらいなんだ。」

 私は魔法に特化した者なら、確かに迷う事なく専攻を決めるかもしれないと考えながら、好奇心で煌めくディーの綺麗な瞳を見つめて答えた。


 「ああ、魔法科の専攻者はそう言うものかもしれないね。総合科ってのは要は騎士科の要素を持ちつつ、王宮の仕事や、領地経営、起業などの勉強も合わせてする専攻なんだ。うちは父上を見ればわかる様に代々騎士の家だけど、私は王宮での仕事にも関心があるから総合にしたんだ。

 兄上は騎士科に進んだから、何も皆で騎士になる必要も無いかと思ってね。」

 するとディーの隣に座って黙って聞いていたジャックが、ディーに説明した。

「狼族の兄上は王国騎士団の騎士見習いを始めているんだ。」

 ディーは少し考え込みながら呟いた。


 「お母様は狼族なんだね。僕の知っている白鷹族は血統主義ぽかったから、てっきりジャック達もそうかと思ってたよ。」

 ディーの言葉で、私は自分達のいけすかない親戚を思い出した。

「ディーの知り合いって誰だろ。白鷹族ってディーの言う通り血統主義が多くて、お陰でコミニティーが狭いんだ。父上はどちらかと言うと白鷹族の異端なタイプだから。母上も騎士科だったんだよ。」


 ディーは白鷹族の事情に頷きながら、思い出す様に顔を顰めて言った。

「塔に居た白鷹族の人は結構権力者っぽかったけど、僕は苦手だな、あの人。」

 私はジャックと顔を見合わせて苦笑した。

「…ポウラの一族だね。あそこはちょっと白鷹族の中でも際立って凄い感じだから。気位が高いって言うか。確か私の専攻にもいるんじゃないかな。まだ卒業してはいない気がするけど。

 あまり付き合いはないから、顔を見たら挨拶する程度だけどね。」


 ポウラの一族は私たちの様に異種族と婚姻を結ぶのを嫌って来た家だ。でも最近は血縁関係が濃くなってしまったので他にも目を向け始めた話を聞いている。それでも力のある名家を狙っているだろう事は考えなくても分かる気がした。

 めんどくさい家なので、私達一家はあまり関わり合いにならない様に気をつけているくらいだった。

「…そうなの。色々あるんだね。でも血統主義って他でも聞いた事があるよ。本人が望んでいない場合は息苦しいだろうね…。僕には関係なくって良かったよ。

 ところで寮生活ってどんな感じか知ってる?何か持って行った方がいいものがあれば教えてくれない?」


 










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