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成長期?
癒しの副産物
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最近の僕の楽しみは、この家の湖に続く広い庭で育てている家庭菜園だ。僕の人生は考えることが多過ぎて、ただ目の前の事に向き合っていればいい単純作業に何処かしら癒しを感じていた。
僕は三つ並んだミルの頭をポンポンと叩きながら声を掛けていた。
「なんか、ここが合うのかな?ずいぶん大きくなるのが早い気がするね。気に入ったの?」
僕は一人だったけど、緑色の目をぱちぱちする魔物のミルには思わず声を掛けてしまうのも致し方ない。
僕が以前どうしてこのミルを怖いと思っていたのか、今では不思議に思うくらいだ。それくらいミルはお世話をすると懐くことがわかってきた。
こうして撫でるだけで成長が早まるし、撫でるときは目を細めて気持ち良さげにする。瞼が下から競り上がってくるのはちょっと怖いけど、触り心地はお餅みたいで癒される。
とは言え三つのミルのドリンクを消費するには、僕とパーカスだけでは役不足だった。ダグラスがどうして三つも植えていったのかは分からないけど、見る度に加速度的に大きくなっていく事に不安を感じていた。
「ねぇ、パーカス。ミルが馬鹿みたいに大きくなってるけど…。」
夕食時にミルを飲みながらパーカスに言うと、パーカスは目を見開いて僕に尋ねた。
「…ダグラスがアレを植えていってから、まだ二月も経っておらんぞ?成熟するのには早いじゃろう?」
僕は肩をすくめて呟いた。
「まぁね。でも三つも植えてあったらどうしたって飲みきれなくて育つんじゃ無いのかな。ダグラスに相談した方がいいかな?ひとつのミルの膜が結構薄くなってる気がするんだけど。
以前辺境の家の庭先で子供が産まれたのって、本当にレアなんでしょ?普通は薄くなった膜からミルが漏れて弱ってしまうって聞いたよ?そうなったら可哀想だよね。」
パーカスはクスクス笑って僕を楽しげに見つめた。
「あんなに怖がってたのに、今やテディはミルの立派な主人じゃのう。ダグラスにブレーベルに来た際に寄って見てもらうよう連絡しておこう。」
僕はパーカスに揶揄われたのをスルーして、なるべく早くに来て貰う方がいいねと話した。まったくミルを怖がっていたのはチビの僕だってのに。
翌朝、ブレートさんのお屋敷の侍女たちが手伝いにくる日だったので、僕は空の瓶にミルを採取して渡そうと朝イチで庭に向かった。グリーンアイタイプのミルは高価なので、侍女たちにあげるととても喜ぶんだ。美容にも効くらしいし。
庭に出ると、手前のミルの丸い頭が二つ見えた。二つ…。僕はあのトラウマの光景が脳裏に過ぎって、慌てて家に戻るとパーカスを呼び立てた。
「パーカス!パーカス来て!」
顔を洗っていたパーカスが何事かと、慌てた様子で布を手に顔を出した。
「何事じゃ!?」
僕は眉を顰めて庭の方を指さすと、パーカスに言った。
「…ダグラスが間に合わなかったみたい。一番奥の大きなやつがこっちから見えないんだ。」
パーカスは首を傾げた。
「…見に行ったわけじゃ無いのかの?」
僕は口を尖らせた。
「だって万が一子供が産まれたら、怖いでしょ?小さい白いのがいっぱい転がってるのを見るのは苦手なんだよね…。」
クスクス笑うパーカスの後ろを付いていきながら、僕は萎んだミルを見るのと、子供がぎっしり産まれてるのを見るのと、一体どちらがマシだろうと考えていた。
結論が出る前に、僕の目に大福が地面一面にぎっしり並んでいるのが見えて、僕はゾッとして変な声を出しながら玄関に駆け戻った。庭先でパーカスがさっきよりも声を立てて笑いながら僕に叫んだ。
「ダグラスがここに三つも植えていったのは、きっとこれを狙ってたんじゃ。テディの側だと、ミルが繁殖すると思ったんじゃろうて。ははは。」
僕はミルの子供たちが居る地面が目に入らない場所まで近づくと、顔を顰めてパーカスに瓶を差し出して呼びかけた。
「僕そこに行くの無理だからね!これやって!」
パーカスの連絡を受けて、午後一番でダグラスが意気揚々とやって来た。
「俺様の予想が大当たりだって?ミルの繁殖が難しくてなぁ。特にグリーンアイタイプは、成功率ゼロなんだ。前回の事もあるからな、テディの側で育てたらいけると思ったんだが、こんなに早く結果が出るとは予想も出来なかったぞ!?」
喜色満面でそう言いながら、ダグラスはブルさんと庭を見に行った。すると、興奮した様にダグラスが僕らに呼びかけた。
「テディ!これ見たか?もしかしたら進化系かもしれないぞ?」
僕が腕を組んで玄関から微動だにしないのを見て、ダグラスは大福をひとつ手の上に掬うとこちらにやって来た。
「まったく。本当にテディはアレが駄目なんだな。ほれ、見てみろ。」
僕はダグラスの大きな手のひらにちょこんと乗った、大福にしか見えないミルを見つめた。じっと見たけれど、何がどう違うかなんて全然分からない。僕が首を傾げると、ダグラスは眉を上げて言った。
「お前の目は役立たずだな?ほら、普通のミルは真っ白だが、これはぼんやり透けて中の色がついてるだろ?少し黄色味が掛かって見える。あれか。テディは龍神憑きだから、きっと前回より効能が上がったのかもしれんな。
育たない事には分からんが、ミルを収穫するのが待ちきれないぜ。まぁとにかく感謝するぜ?お礼は何でも言ってくれ。大概の事は叶えられると思うぜ?」
僕はご機嫌なダグラスにすっかり利用された事に面白くなかったけれど、こうなってしまっては繁殖したミルの子供をお引き取り願うしか方法は無かった。
「じゃあ僕の友達や関係各位にひとつづつ贈っておいてくれる?あー、ロバートとバルトさんはどうしよう。贈っても困るかな?」
ダグラスはニヤリと笑って言った。
「なるほど。愛人に贈り物をするのは良い心がけだな?とは言え騎士団で自分のミルを育てるのは難しいな。じゃあ、こうしよう。王都にある俺の店で、この特別なミルをいつでも飲める会員に登録するとしよう。」
ダグラスに二人が愛人呼ばわりされた事に顔が赤くなるのを感じながら、何も気づかないふりで質問した。
「王都にそんな店があるの?」
ダグラスはそんな僕を見透かした様に、ニタリと笑った。
「ああ、少し前にグリーンアイタイプのミルを会員が簡単に飲める店を作ったんだ。魔力を増やしたい者だけじゃなく、最近は美容にも良い事が分かって引っ張りだこでな。
家で育てるには高価だし、案外難しい魔物だからな、ミルは。会員制にしたら大当たりで、毎日常連が押しかけてるんだ。このミルは何て呼ぶかな。テディが名前付けるか?」
僕はダグラスの手のひらの上の白あん大福にしか見えないミルを見つめて呟いた。
「白あん。白あんが分かりやすいよ。」
ダグラスは眉を顰めて聞き返した。
「シロアン?どんな意味だ?」
僕は口の中に唾液を感じながら、呟いた。
「…特別で美味しいって意味だよ。」
「シロアンタイプか。何か洒落た名前だな。よし、名前も決まったし、大事に育てる事にするか。じゃあ、愛人達には特別な会員カードを作って贈らせて貰うぜ。勿論テディからと書き添えてな?」
ダグラスがチラッと僕の後ろを見て、眉を上げた。
「隠者様、そんな顔をするな。それより、隠者様の関係へは配らなくてもいいのか?」
僕はパーカスに今のやり取りを聞かれていたのだと一瞬顔を引き攣らせたけれど、ダグラスにローズさんの所へ贈るように頼んだ。美容にも効くなら、贈らなかったら暴れそうだ。
僕は普通に見えるように顔を作りながらパーカスに尋ねた。
「騎士団長とか、王様、気は進まないけど長老とか、そこら辺に贈る必要あるかな?一応新種のミルかもしれないし。」
するとパーカスは顔を顰めて言った。
「王だけで良いじゃろう。というか、ダグラスも王には元々献上はするつもりだったのじゃろう?」
ダグラスは頷いて、手の中のミルを指で優しく撫でながら言った。
「ああ。あんまり俺ばっかり商売上手だと他の奴らの嫉妬が怖いからな。王様を味方にするのも商売の一手よ。」
僕はダグラスの言い草に苦笑して、以前会った時の王様を思い出していた。人間の登場がこの世界の波乱の原因だとは思ってないと納得はしてくれてはいたけど、まぁ、僕はあまりお近づきにはなりたくは無いな。
メダと繋がっている僕に期待されても、メダは深い眠りについてしまったんだから。うん、王宮とは離れていよう。出来るだけ!
☆いつも読んでいただきありがとうございます♡
連載中のBL作品、『お隣さんは僕のまたたび~拗らせ両片思いの功罪』が完結しました!
10万字、68話のそこそこ読み応えのあるものになりました。
幼馴染への恋心を拗らせて、とんでもない方向へ走りがちな小悪魔的主人公を楽しんでいただければ幸いです。
よろしくお願いします。
僕は三つ並んだミルの頭をポンポンと叩きながら声を掛けていた。
「なんか、ここが合うのかな?ずいぶん大きくなるのが早い気がするね。気に入ったの?」
僕は一人だったけど、緑色の目をぱちぱちする魔物のミルには思わず声を掛けてしまうのも致し方ない。
僕が以前どうしてこのミルを怖いと思っていたのか、今では不思議に思うくらいだ。それくらいミルはお世話をすると懐くことがわかってきた。
こうして撫でるだけで成長が早まるし、撫でるときは目を細めて気持ち良さげにする。瞼が下から競り上がってくるのはちょっと怖いけど、触り心地はお餅みたいで癒される。
とは言え三つのミルのドリンクを消費するには、僕とパーカスだけでは役不足だった。ダグラスがどうして三つも植えていったのかは分からないけど、見る度に加速度的に大きくなっていく事に不安を感じていた。
「ねぇ、パーカス。ミルが馬鹿みたいに大きくなってるけど…。」
夕食時にミルを飲みながらパーカスに言うと、パーカスは目を見開いて僕に尋ねた。
「…ダグラスがアレを植えていってから、まだ二月も経っておらんぞ?成熟するのには早いじゃろう?」
僕は肩をすくめて呟いた。
「まぁね。でも三つも植えてあったらどうしたって飲みきれなくて育つんじゃ無いのかな。ダグラスに相談した方がいいかな?ひとつのミルの膜が結構薄くなってる気がするんだけど。
以前辺境の家の庭先で子供が産まれたのって、本当にレアなんでしょ?普通は薄くなった膜からミルが漏れて弱ってしまうって聞いたよ?そうなったら可哀想だよね。」
パーカスはクスクス笑って僕を楽しげに見つめた。
「あんなに怖がってたのに、今やテディはミルの立派な主人じゃのう。ダグラスにブレーベルに来た際に寄って見てもらうよう連絡しておこう。」
僕はパーカスに揶揄われたのをスルーして、なるべく早くに来て貰う方がいいねと話した。まったくミルを怖がっていたのはチビの僕だってのに。
翌朝、ブレートさんのお屋敷の侍女たちが手伝いにくる日だったので、僕は空の瓶にミルを採取して渡そうと朝イチで庭に向かった。グリーンアイタイプのミルは高価なので、侍女たちにあげるととても喜ぶんだ。美容にも効くらしいし。
庭に出ると、手前のミルの丸い頭が二つ見えた。二つ…。僕はあのトラウマの光景が脳裏に過ぎって、慌てて家に戻るとパーカスを呼び立てた。
「パーカス!パーカス来て!」
顔を洗っていたパーカスが何事かと、慌てた様子で布を手に顔を出した。
「何事じゃ!?」
僕は眉を顰めて庭の方を指さすと、パーカスに言った。
「…ダグラスが間に合わなかったみたい。一番奥の大きなやつがこっちから見えないんだ。」
パーカスは首を傾げた。
「…見に行ったわけじゃ無いのかの?」
僕は口を尖らせた。
「だって万が一子供が産まれたら、怖いでしょ?小さい白いのがいっぱい転がってるのを見るのは苦手なんだよね…。」
クスクス笑うパーカスの後ろを付いていきながら、僕は萎んだミルを見るのと、子供がぎっしり産まれてるのを見るのと、一体どちらがマシだろうと考えていた。
結論が出る前に、僕の目に大福が地面一面にぎっしり並んでいるのが見えて、僕はゾッとして変な声を出しながら玄関に駆け戻った。庭先でパーカスがさっきよりも声を立てて笑いながら僕に叫んだ。
「ダグラスがここに三つも植えていったのは、きっとこれを狙ってたんじゃ。テディの側だと、ミルが繁殖すると思ったんじゃろうて。ははは。」
僕はミルの子供たちが居る地面が目に入らない場所まで近づくと、顔を顰めてパーカスに瓶を差し出して呼びかけた。
「僕そこに行くの無理だからね!これやって!」
パーカスの連絡を受けて、午後一番でダグラスが意気揚々とやって来た。
「俺様の予想が大当たりだって?ミルの繁殖が難しくてなぁ。特にグリーンアイタイプは、成功率ゼロなんだ。前回の事もあるからな、テディの側で育てたらいけると思ったんだが、こんなに早く結果が出るとは予想も出来なかったぞ!?」
喜色満面でそう言いながら、ダグラスはブルさんと庭を見に行った。すると、興奮した様にダグラスが僕らに呼びかけた。
「テディ!これ見たか?もしかしたら進化系かもしれないぞ?」
僕が腕を組んで玄関から微動だにしないのを見て、ダグラスは大福をひとつ手の上に掬うとこちらにやって来た。
「まったく。本当にテディはアレが駄目なんだな。ほれ、見てみろ。」
僕はダグラスの大きな手のひらにちょこんと乗った、大福にしか見えないミルを見つめた。じっと見たけれど、何がどう違うかなんて全然分からない。僕が首を傾げると、ダグラスは眉を上げて言った。
「お前の目は役立たずだな?ほら、普通のミルは真っ白だが、これはぼんやり透けて中の色がついてるだろ?少し黄色味が掛かって見える。あれか。テディは龍神憑きだから、きっと前回より効能が上がったのかもしれんな。
育たない事には分からんが、ミルを収穫するのが待ちきれないぜ。まぁとにかく感謝するぜ?お礼は何でも言ってくれ。大概の事は叶えられると思うぜ?」
僕はご機嫌なダグラスにすっかり利用された事に面白くなかったけれど、こうなってしまっては繁殖したミルの子供をお引き取り願うしか方法は無かった。
「じゃあ僕の友達や関係各位にひとつづつ贈っておいてくれる?あー、ロバートとバルトさんはどうしよう。贈っても困るかな?」
ダグラスはニヤリと笑って言った。
「なるほど。愛人に贈り物をするのは良い心がけだな?とは言え騎士団で自分のミルを育てるのは難しいな。じゃあ、こうしよう。王都にある俺の店で、この特別なミルをいつでも飲める会員に登録するとしよう。」
ダグラスに二人が愛人呼ばわりされた事に顔が赤くなるのを感じながら、何も気づかないふりで質問した。
「王都にそんな店があるの?」
ダグラスはそんな僕を見透かした様に、ニタリと笑った。
「ああ、少し前にグリーンアイタイプのミルを会員が簡単に飲める店を作ったんだ。魔力を増やしたい者だけじゃなく、最近は美容にも良い事が分かって引っ張りだこでな。
家で育てるには高価だし、案外難しい魔物だからな、ミルは。会員制にしたら大当たりで、毎日常連が押しかけてるんだ。このミルは何て呼ぶかな。テディが名前付けるか?」
僕はダグラスの手のひらの上の白あん大福にしか見えないミルを見つめて呟いた。
「白あん。白あんが分かりやすいよ。」
ダグラスは眉を顰めて聞き返した。
「シロアン?どんな意味だ?」
僕は口の中に唾液を感じながら、呟いた。
「…特別で美味しいって意味だよ。」
「シロアンタイプか。何か洒落た名前だな。よし、名前も決まったし、大事に育てる事にするか。じゃあ、愛人達には特別な会員カードを作って贈らせて貰うぜ。勿論テディからと書き添えてな?」
ダグラスがチラッと僕の後ろを見て、眉を上げた。
「隠者様、そんな顔をするな。それより、隠者様の関係へは配らなくてもいいのか?」
僕はパーカスに今のやり取りを聞かれていたのだと一瞬顔を引き攣らせたけれど、ダグラスにローズさんの所へ贈るように頼んだ。美容にも効くなら、贈らなかったら暴れそうだ。
僕は普通に見えるように顔を作りながらパーカスに尋ねた。
「騎士団長とか、王様、気は進まないけど長老とか、そこら辺に贈る必要あるかな?一応新種のミルかもしれないし。」
するとパーカスは顔を顰めて言った。
「王だけで良いじゃろう。というか、ダグラスも王には元々献上はするつもりだったのじゃろう?」
ダグラスは頷いて、手の中のミルを指で優しく撫でながら言った。
「ああ。あんまり俺ばっかり商売上手だと他の奴らの嫉妬が怖いからな。王様を味方にするのも商売の一手よ。」
僕はダグラスの言い草に苦笑して、以前会った時の王様を思い出していた。人間の登場がこの世界の波乱の原因だとは思ってないと納得はしてくれてはいたけど、まぁ、僕はあまりお近づきにはなりたくは無いな。
メダと繋がっている僕に期待されても、メダは深い眠りについてしまったんだから。うん、王宮とは離れていよう。出来るだけ!
☆いつも読んでいただきありがとうございます♡
連載中のBL作品、『お隣さんは僕のまたたび~拗らせ両片思いの功罪』が完結しました!
10万字、68話のそこそこ読み応えのあるものになりました。
幼馴染への恋心を拗らせて、とんでもない方向へ走りがちな小悪魔的主人公を楽しんでいただければ幸いです。
よろしくお願いします。
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