竜の国の人間様

コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26

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 相変わらず捕らわれた捕虜の様にガタイの良い二人に挟まれて、僕は逃げ出す事も出来ずにどこまで今回の事を話すべきか考えていた。しかしそんな思慮はシンディという予想を超えて来る相手によって簡単に吹き飛ばされた。

「それで?発情期の相手は誰なの?ロバート様?でもロバート様は最近このブレーベルの街にはいないよね。帰って来たって話も聞かないし。

 別に隠す様な事ではないんだし、教えてよ。もし知りたければ、私の初めての発情期の話してあげるからさぁ。」


 身も蓋もない真っ直ぐな問い掛けに僕はすっかり動揺してしまった。どう返すのが正解か戸惑っていると、ゲオルグがため息をついて軋む様な声を出した。

「やっぱり、そうなのか…。ワンチャン、俺に依頼が来るのかと待ってたんだが。俺も知りたい。いや、知らない方がいいのか…?」

 最後は何だか自問自答する様に声が小さくなったゲオルグを呆れた様に見ていたシンディが、僕にちゃんと話す様にせっついて来る。

 僕は諦めて少しだけ情報を開示することにした。


 「二人は知らない相手だと思う。たまたまこっちに来ていた前からの知り合いの竜人だから。」

 途端に僕の頭越しにシンディとゲオルグがヒソヒソと情報交換して、僕の相手を推測している。いや、全部聞こえてるけど。しかもなんかすぐバレてる感じなのはなんで?

 僕の顔を見下ろした二人が顔を見合わせて頷くと、シンディが代表して呟いた。

「はー、そうなんだ。パーカス様繋がりなのかな。それにしてもディーって凄いよね。あの青龍一族の後継者であるバルト様が相手だなんて。でも本当にどんな関係なの?」


 僕こそ二人がバルトさんの事を知っていた事に少し驚いて、小さな声で尋ねた。

「何でバルトさんの事知ってるの?王国騎士団なのはそうだけど、こっちにはあまり来ないでしょ?」

 するとゲオルグがむすっとした顔をして、不機嫌さを隠そうともせず呟いた。

「王国騎士団を目指す者だったら、知るべき竜人の名家だからだ。青龍に限らず、パーカス様の黒龍、騎士団長の白龍、そして赤龍、緑龍、それらの一族は代々優秀な騎士を生み出している。

 だから名家と目されるのだろうけど。しかし青龍とはね。冷酷な一族として有名な竜人を、パーカス様がディーに近づけた事に驚いてるよ、俺は。」


 僕は随分な言われようのバルト様を庇いたくなって口を尖らせた。

「確かに初めて会った時は随分酷い竜人だと僕も思ったけど、それから僕に色々貢いでくれて優しくしてくれたんだ。冷酷だなんてとんでもないよ?」

 あれ、もしかして僕って王都のお菓子ですっかり絆された感じ?僕が眉を顰めていると、ゲオルグがため息をついた。

「…そうか、あのちっちゃいディーの時から手懐けられてたとしたら、流石に俺の出る幕は無いな。パーカス様もディーを任せるくらいだから、噂と違って冷酷でもないのか?」


 僕に酷い事を言った最初の出会いの時に、泣きじゃくる僕を慰めながらパーカスが『青龍の一族は心を失った』とバルトさんを責めていたのが不意に記憶から甦って、僕はハッとして顔を上げた。

 ああ、確かに僕を切りつけた鋭い言葉は冷酷と言われてもおかしくない。今のバルトさんからは想像もつかないけれど、一体何が彼をそうしていたんだろう。僕はバルトさんの事も、ゲオルグ達が当然の様に知っている事も、まるで知らない事に気づいてしまった。


 「僕って何も知らないんだな。その、パーカス含め龍族の名家がどこだとか、そんな誰でも知っている事も全然知らない。そっちの方が問題なのかな。」

 僕がそう呟くと、シンディが足をバタバタ動かしながら言った。

「別に知らなくて良いんじゃない?ディーが先入観無しで付き合ってくれてるから、私たちも助かってる面もあるからね。それと一緒でしょ。案外そう言ったものに縛られるもんよ。」

 シンディが言う台詞とは思えなくて、僕は思わずクスクス笑った。


 「ふふ。シンディが何かに縛られてるのって、想像出来ないけど。」

 するとゲオルグが僕の肩に手を回して言った。

「まぁ、こんなんだけど、シンディも色々苦労してるんだ。父方の祖父さんのところは厳しいからな。学校でこんな感じなのも反動なんじゃないか?俺も確かにディーから誰でも無い扱いをされる度に、新鮮なのは間違い無いからな。

 …時々ちょっとは影響されてくれとは思わない事も無いけど。」

 そう言ってゲオルグが何気に僕の頬にキスするから、僕は目をパチクリしてしまった。


 「あ!何しちゃってるのさ!私もディーを可愛がりたい!あ、ちょっと待ってよ!」

 僕は身の危険を感じて慌てて立ち上がると、笑いながらシンディから逃れた。シンディは加減しないから、大抵の可愛がりは僕が悲鳴を上げる事に決まってるからだ。

 僕がそう言うと、シンディはニヤリと笑って言った。

「そりゃディーのおチビちゃんの時の話でしょう?流石に目の前の色っぽいディーを潰すのは無理よぉ。だから安心して可愛がらせて?」

 僕とシンディがそんな事を言いながらふざけてると、ゲオルグも呆れた様に立ち上がって言った。


 「時間切れだ。取り敢えずディーは発情期を無事終えたって事で話は終わりだ。しかし相手は誰なのか詮索が入るに違いないぞ?青龍の騎士だなんて知れたら、これはこれで酷い騒ぎになりそうだ。

 …シンディ、他言無用だぞ?」

 僕とゲオルグがシンディを見つめると、シンディが自信満々に胸を叩いて言った。

「任せといて!ディーのお相手がまさかの青龍の騎士だなんて、こんな大ニュース言えるわけないじゃん?口が堅い私に任せておいてよ。」


 …何だろう、こうして張り切っているシンディを見ると不安が押し寄せて来るのは。僕とゲオルグは思わず顔を見合わせた。うん、感じるのは一緒だね。

 取り敢えずシンディに念押しして、僕らは秘密の会談を終わりにしたんだ。

 そしてしばらくは僕が周囲の視線を感じながらも、時間の経過と共に皆の僕のお相手への関心が薄れていくのを感じていた。バルトさん自身も忙しかった様で、再会したのは王都へ帰京する間際に屋敷を訪れて挨拶に来た時だった。


 「テディ…。すっかり調子は良いみたいだね。あれから気になっていたんだが、案件が詰まっていて抜け出せずにいたんだ。それに…。」

 そう言って、後ろに立つパーカスに気まずげに目をやった。パーカスは僕の隣に立つと、口を開いた。

「時間はあるのか?テディ、彼と話がしたいのなら、こんな玄関先で立ち話も何だから入ってもらいなさい。私は買い忘れた物があるから、ちょっと買い物に行って来る。直ぐに戻るがの。」

 分かりやすく空気を読んだパーカスがチラッとバルトさんに何か話すと出て行った。


 でも二人きりにされても何だか居心地は良く無い。僕もどんな顔をしてバルトさんと向かい合って良いか、まだ決めかねているんだ。

「…友達に僕の相手がバルトさんだってバレちゃったんだ。バルトさんがこの街に来てる事って、結構情報が回ってたみたいで。僕って、バルトさんの事ほとんど知らないね。

 青龍が名家だとか、それを言ったらパーカスの黒龍だって名家みたいだけど、そんな事全然知らなかった。僕が知っているのは、バルトさんがいつも僕に優しくしてくれるってことだけだよ。」

 
 そう言いながら先に立って歩いていると、不意に後ろから抱きすくめられた。僕を包みこむ様な大きな身体は、ハッとするほど熱い。

「テディは私が何者であるかなど気にしない。私はテディといると脈々と繋がる冷酷な青龍の血を忘れることが出来るんだ。私の中にあった、温かな心を感じて、自分でもそれに驚くほどだ。

 私はただの竜人の男として、テディの側にいたいと願っているんだ。それは叶えられない願いなんだろうか。」

 そう耳元で囁かれて、僕はバルトさんの言葉以上の苦悩を感じた。僕は彼に何て返事をしたら良いんだろうと、胸の鼓動を激しく打たせていた。




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