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学生の本分

登校再開

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 念の為1日家で過ごした後、僕はパーカスのお許しも出て高等学院へ登校を再開する事にした。すっかり体調も良くて、身支度中に覗く鏡に映る自分の姿はいつも通りだ。

顔色も良くて、朝なのに随分と目が開いてる気がする。すっかり見慣れた緑色の瞳もいつになく明るく透明感さえ感じられる。体調は万全だな。

僕は大きく伸びをすると、制服を身につけた。ジャケットの下のブラウスは自由なので、僕は手持ちのブラウスを選んで着ている。気に入っていたシンプルなものはキツくなってしまったので、今ピッタリなものは襟がヒラヒラしたリボンタイプのデザインばかりだ。

パーカスに頼んでシンプルなものを新しく作って貰おうと考えながら上から黒いパイピングの青いジャケットを羽織った。


 「テディ、準備も出来た様じゃな。顔色も良いが…。」

部屋から出てきた僕を見て、パーカスが少し戸惑った様にじっと見つめてきた。何だろう。僕はテーブルにつくと、魔素の多い食品が並ぶ食卓を眺めながら言った。

「ね、パーカス。以前好きだったシンプルな制服用のシャツがキツくなっちゃったんだ。だからまた作ってくれない?」

パーカスはお茶を飲みながら、頷いて言った。

「ああ、その方が良いかも知れぬな。いや、そんな事をしても今のテディには関係ないかも知れぬがのう。」

パーカスのボヤキに首を傾げながら、僕は口の中に朝食を送り込んだ。しかしめちゃくちゃお腹が空く。発情期中は食欲が落ちていたので、その反動かもしれない。


 僕はハッとして顔を上げた。

「ね、もしかして僕痩せた?あ、でもシャツはきついから痩せたって事はないのかな?」

するとパーカスが僕をジロジロ見つめて言った。

「…骨格が成長したのだろうて。キツくなったのはそのせいじゃな。痩せたと言われれば、以前の少しぽちゃっとしていた顔つきから、引き締まった様には見えるの。大人っぽくなったのはその通りじゃから、発情期のせいじゃろう。」



 朝のパーカスの言葉をそうなんだと思いつつ、自分では鏡を見ても多少スッキリした位にしか思えなかったその変化は、周囲の獣人達の方が敏感に感じる様だった。

「おはよう、ディー。」

登校中に後ろから来たクラスメイトが僕に挨拶をしてくれたけれど、僕の顔を見るなりボンヤリと僕を凝視してくる。

「おはよう、久しぶり。」

僕が微笑んでそう挨拶を返せば、ハッとして戸惑いながら赤らむと言う始末だ。そんなクラスメイト四人程と歩いていると、シンディが後ろから追いついて来た。


 「おっはよー!ディー。休んでて寂しかったよ!もうすっかりいい…の。」

僕が振り返って微笑むと、シンディがギョッとした様に僕をマジマジと見た。またこれか。そんなに見栄えが変化したのかと顔を顰めると、シンディが僕の手を引っ張って急ぎ足で歩き出した。

『やばいヤバイ!これは威力あり過ぎだよ。早く教室に入らないと、えらい事になっちゃうよ!』

またもやシンディが暴走してる。こうなったシンディを止める方がエネルギーを使うので、僕は引っ張られるまま、小走りで教室まで連れて行かれてしまった。


 「シンディ、何なのさ。朝から走らされてダルいんだけど。」

僕が少し肩で息をしてシンディに文句を言うと、まったく息を乱さないシンディが僕を席まで連れて行って言った。

「相変わらずディーは自分の事となると自覚がないんだから。…見た目が随分と変わったの、気づかない?」

席に座った僕は、その事かと首を傾げてシンディを見上げた。

「ああ、ちょっと引き締まったって事?今日は調子良くて目が開いてるなとは思うけどね。パーカス曰くは大人っぽくなったって。やっぱり誰が見てもそう感じる?」


 シンディは僕を眉を顰めて見下ろしながらボソリと呟いた。

「大人っぽくなった…。そんな生優しい言葉で片付けられるのかな。ね、もしかしてディーって発情期誰かと過ごした?」

ギョッとする事を聞いてくるシンディに、思わず顔が熱くなるのを感じた僕は、誤魔化す様に前を向いた。

「…本当なのか、それ。」

いつの間に来ていたのか、ゲオルグが僕の席の前に立っていた。いくらこの二人にでも、そんなプライバシーな事をこんな公の場所で言うわけない。僕は表情に出さない様に気をつけながら誤魔化す事にした。


 「随分と詮索するんだね。僕の発情期は皆のとは少し違うの知ってるでしょ?ほら、そろそろ授業始まるよ。」

僕がそう言うと、納得しない表情の二人はガタガタと席についた。周囲のクラスメイトもこちらを見つめながらヒソヒソと成り行きを見守っている。ああ、何か発情期が終わってホッとしたのに、今度はまた違った意味で注目されるのかな。

僕が大人の階段を登った事がそんなに意味のある事なら、最初から教えて欲しかったけど。

そう思いながら、僕は僕の少し前に発情期を起こしていたクラスメイトを探して見つめた。窓際の彼は周囲のクラスメイトと後ろを向いて話していたけれど、確かに以前とは雰囲気が違っている。何て言って良い分からないけど、垢抜けた感じ?

僕もあんな風になったって事なのかな。


 授業が終わる度に、あまり普段絡まないクラスメイトが僕にわざわざ話しかけに来る現象が二度ほど起きてから、周囲がザワザワするのにゲオルグが我慢できなくなったのか、喉の奥で唸り声の様なものを立てて怖い顔で睨み始めた。

途端に蜘蛛の子を散らす様にクラスメイトが距離を取ったので、僕はクスクス笑ってゲオルグに言った。

「ゲオルグのそれ、何なの?獅子族って全く俺様なんだから。」

僕がそう言うと、シンディが呆れた様にゲオルグを見つめて言った。

「それ教室で繰り出すとか、不味いでしょ。威圧はほどほどにしなくちゃ。流石の私でも一瞬ブルってきたよ。…ディーには全然効かないのは何でだろうね。気づいてもいないんだから。」




 「ちょっと話あるから、これから裏庭のベンチに行こう。流石にあの部屋は封印されたからな。何処かゆっくり出来る教室があると良いんだが、シンディ知らないか?」

食後に席を立って歩き出しながら、ゲオルグが言っているのが祭壇のあった場所の事なのだと分かって、僕は随分とその出来事が昔の様に感じられると思った。メダを引っ張り出したのが遥か昔のことみたいだ。今は居ないけど、いずれ僕の人生にメダはまた姿を見せるんだろうな。

僕がそんな事を考え込みながら黙っていると、シンディがいきなり僕に抱きついた。僕の髪に顔を押し付けてスリスリしてくる。いやそれより胸が顔に当たって、息が!


 「はぁ、マジでめちゃくちゃ色っぽい!あ、ゲオルグやめてって。私の癒しなのに!はーん、自分は手を出せないからって嫉妬は見苦しいよ!?」

僕とシンディを引き剥がしたゲオルグが、苛立った様に僕らを見て言った。

「シンディ、ディーがお前の胸で窒息寸前だ。ちょっとは考えろ!ディーももう少し警戒心というものを持てよ。」

え?僕も怒られてるの?解せない…。僕は口を尖らせてボヤいた。

「シンディの行動なんて予測不可能じゃない?それに息が出来るなら、別に僕は友達にハグされるのは嫌いじゃないけどね。」

 
 ニヤニヤするシンディと黙りこくったゲオルグに、僕は肩をすくめてまた歩き出した。周囲の視線も痛いから、確かにひと気のない静かな場所でゆっくりしたくなって来た。

それにしても、この目立つ二人と一緒にいるとは言え、いつにも増してこの注目度は何なんだろう。僕は纏わりつく視線を気にしない様にしようと思いつつ、もう一度小さくため息をついた。



 








 
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