竜の国の人間様

コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26

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学生の本分

トレーニング

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 僕は家の中を見回した。何処で筋トレするのがベストだろうか。ここの応接室は広いけれど、大きな家具があちこちにあって重くて動かせない。やっぱりそうなると僕の部屋が良いかな。このお屋敷は領主の特別なお客様用だけあって、個室も広々としている。

 僕の部屋もベッドが二台置けそうなほどのゆとりがある。丁度厚めの敷物があるから、寝転んでも痛くはなさそう。そうと決まれば僕はゲオルグが到着する迄に部屋を整えることにした。

 最近は僕らが出かけている午前中に、ブレート様の所から侍女が派遣されて細々とした生活を整えてくれるので、随分と楽になった。


 自分の部屋に入ると、僕は敷物の上で寝転がった。二人両手を広げて寝転がるのはギリギリかな…。とは言え荷物も少ないから、がらんとした部屋は運動するのにはうってつけだ。僕はベッドだけ整えると、キッチンに行って運動用にドリンクを調合していた。

 丁度その時、家のベルが鳴ったので、僕は慌てて玄関に急いだ。

「いらっしゃい、ゲオルグ!わざわざ来てくれてありがとう。何か飲む?」

 僕がそう言いながら先に立って歩き出すと、ゲオルグが妙な沈黙だ。振り返って首を傾げると、ゲオルグが気まずげに僕から目を逸らした。


 「お茶は飲んで来たから良い。…その、それでやるのか?」

 ゲオルグは僕の着ている衣装を指差した。運動用に僕が身につけていたのは、ローズさんに作って貰った大きめなタンクトップ型トップスだ。少し首周りがパカパカするのは伸縮性に欠けるから仕方がない。

 ボトムスはやっぱり同じ様なフワッとした薄手のもので、ジョギングパンツの様に短い。僕は腕をぐるぐる回して笑った。

「うん、これが一番動かしやすいかなって思って。おかしいかなぁ。」


 ゲオルグは一瞬の間の後、大丈夫だって言ったけど、僕の腿をじっと見てたから、もしかしてあまりにも貧弱な身体を見てギョッとしたのかもしれない。まぁ今はそうでも、いずれはムキムキの筋の浮き出るマッチョ脚になる筈だからね!

 僕は早速自室へとゲオルグを連れて行った。ゲオルグは部屋を覗いて、また身体を強張らせた。

「…ここでやるのか?」

 僕は他に何が必要かと考えながら、窓際の足元に置いてあるちょっとした重い棒を持ち上げた。

「そこそこ広さがいるでしょ?ね、これ使えそう?僕これ持ってたまに鍛えてるんだ。」



 するとため息をついたゲオルグが、背中に背負ったリュックをドサリと床に下ろした。随分と重々しい音がしたけど、あんなのを背負ってきたのかな。

 ゲオルグは僕の持っている重い棒より、もっと軽そうなものを幾つかリュックから取り出して床に置いた。

「いきなり重いもので訓練するよりは、段々と負荷をかけた方が良いんだ。俺はもうこれ使わないからディーにやるよ。」

 僕は興味津々に近づくと、ゲオルグから渡された重い棒を持ち上げた。パーカスから貰った僕の持っているものより、少し軽いので簡単に持ち上がる。今持っているものはせいぜい5回でギブアップしていたので、これなら20回ぐらい出来るかもしれない。


 「なるほどね。これなら回数が出来て、達成感があるかもしれない。ありがとう、ゲオルグ。じゃあ早速何からする?」

 ゲオルグは上着を椅子に放ると、柔らかそうなシャツになった。運動あれでするのかな。まぁ運動するのは僕だから監督のゲオルグは関係ないのかも。

「ディー、身体を作るにはまずは柔軟性が必要だ。解さないと身体を痛めることもあるからな。」

 そうゲオルグに言われて、僕は顔を顰めた。柔軟?僕が苦手な言葉だな。僕は口を尖らせて言った。

「あー、僕身体硬いよ?」


 床に座らせられて、僕はゲオルグと向き合って脚を開いて手と手を引っ張りあった。

「ぐっ、ぎぁ!も、むりっ!」

 顔を顰めたゲオルグがボソリとまだ全然引っ張ってないってブツブツ言うけど、獣人は柔軟性も凄いみたいだ。まぁそうじゃなくちゃ、あんなに身体が動かないよね…。

 僕の様子を見ていたゲオルグが手を離して、今度は後ろからゆっくり押してくれた。うーん、さっきよりはマシだけど、息が出来ない…。


「ぷはっ!ゲオルグ、ぎぶ!」

 ゲオルグは頭を掻いて僕を見下ろすと、苦笑した。

「ディーは想像以上に運動に向いてないな。いっそそのままでも良いんじゃないのか?別に困らないだろう?」

 僕はゲオルグを睨み上げて言った。

「僕だって凄いとこあるんだ。見てて。あ、足押さえて!」

 僕は腹筋を見せつけることにした。頑張れば10回以上出来るんだ。この前なんて15回出来た。僕はニヤリと笑うと足首を押さえるゲオルグに向かって身体を持ち上げた。


 「…12、13、…14、んっ!15!、ぐっ、16、…17、あぁっん、もう無理!」

 ゲオルグが数えてくれても良いのに、なんか黙りこくって僕を凝視している。数えてくれてたら、多分三回ぐらい余計に出来たのに。とは言え17回出来たんだから御の字だ。僕はご機嫌にゲオルグに笑いかけた。

「ゲオルグに押さえてもらったせいか、17回も出来て最高記録だよ!ゲオルグは何回ぐらい出来る?」

 僕がそう尋ねると、ぼんやりと僕を見つめていたゲオルグはハッとした様に言った。

「ん?あー、結構沢山出来るかな…。次、何するかな…。もう少し身体を柔らかくした方が良いんだけど。」


 僕はハッと思いついてニンマリ笑った。ブリッジだ。あれなら一気に全身が柔らかくなるはずだ。僕は床に寝そべると、僕を見下ろすゲオルグに言った。

「ね、これ知ってる?ゲオルグ出来る?」

 ゲオルグの返事も待たずに僕は身体を持ち上げた。あれ?上手く出来ない。僕の脳内では完璧なブリッジのイメージが出来ているのに…。それでも何とかしてようやくそれらしきポーズが出来た。

 足元に仁王立ちしたゲオルグに僕は崩れ落ちながら尋ねた。


 「はぁっ!あぶなっ!…どう?出来てたでしょ?あー疲れた!ゲオルグ今の出来る?やってみて?」

 僕が仰向けになって、息を整えながらゲオルグに頼んだ。するとゲオルグがドサリと僕の側に座り込むと、額に指を押し付けて考え込んでいた。

「…ちょっと今は出来ないな。あのさ、今の学校で絶対やるなよ?絶対。」

 僕は首を傾げた。そんなに酷い状態だっただろうか。最後はちゃんとアーチになった気がしたのに。


 「上手く出来てなかった?」

 ゲオルグは僕と目を合わせると苦笑して、僕の手を取って立ち上がらせた。

「上手く出来過ぎって言うか。まぁとにかくあれは人前でやったらダメだ。そうだ、そろそろ始めるぞ?まずそこの渡した棒を両手に持って…。」

 それから僕らは重りを使った筋トレや、腹筋や背筋、体幹トレーニング的なバランスなどをゲオルグに教えてもらいながらやった。ゲオルグが馬鹿みたいに簡単そうにお手本を見せるから、僕はその度にふらついたりして全然上手くいかない。


 「まったく、ゲオルグは可愛げが無いよね。僕が無力過ぎるのか、ゲオルグが凄すぎるのか、まぁどっちもだろうけど。でも段々慣れてきた気がするから、指導して貰って正解だったよ。ね?」

 僕が息を整えながら床に座り込んでボヤくと、まったく息が切れてないゲオルグが僕を見下ろして肩をすくめた。

「ディーはそもそも、筋肉が付きにくいんじゃないのか?今ぐらいの年齢だったら誰だってもう少し筋肉質だ。そう言う体質だと思って無理しない方が良い。…それにディーはその柔らかい身体が魅力の一つだろう?」


 僕は自分の服を捲り上げて、胸を撫でて言った。

「もう少し硬い胸筋欲しいよ。これじゃムチムチだ。」

 あれ、ゲオルグが急いで部屋を出て行っちゃったけど、なんだろ。僕は床にもう一度寝転がってぼんやり窓から見える空をながめた。そうは言っても運動の後のこの解放感は気分が良いね。

 今度はいつにしようかな。




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