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騒めき

辺境の町

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 僕にはやるべき事があった。実際にはバタバタして後回しになってしまったという事もあるけれど、話をつけなくちゃいけない。いつもなら長老の薬が切れているのにも関わらず、僕は高等学院の次の週になっても大きなディーのままだった。

僕が今は戻らない方がいいと思っているせいなのかな。僕は自分のことなのにハッキリしない事に苦笑して歩き続けた。

この身体の時は、パーカスに頼んで僕はこの街の中を自由に歩ける。何となくパーカスのところの縁戚だと思われてる様で、町の人もチラッと僕を見るくらいだ。


 前方にジェシーのお兄ちゃんが友達と歩いてくるのが見えて、僕は思わず声を掛けた。

「お兄ちゃん!こんにちは…。」

ジェシーのお兄ちゃんのびっくりした顔を見て、僕はマズったと気がついた。大きな僕とお兄ちゃんは一度も話したことが無い。ジェシーとは変幻した時に見られてるけど。

「あの、誰かと勘違いしていませんか?」

お兄ちゃんは少し顔を赤らめながら、優しい笑顔を浮かべた。


 僕は慌てて笑って誤魔化すと、ジェシーと会いたいけれど何処にいるか知っているかと尋ねた。するとお兄ちゃんは納得した様に大きく頷いた。

「ああ、テディのお知り合いですか?あの子とよく似てますね。ジェシーはさっきまで一緒でしたけど、多分広場に居ると思います。呼んできましょうか?」

相変わらずそつのないお兄ちゃんの振る舞いに、僕はにっこり笑って自分で探しに行くと言って別れた。

『…誰?凄い綺麗な人だ。』


 隣にいたお兄ちゃんの友達が囁く声が聞こえてきたけれど、僕は眉を上げて苦笑した。綺麗って…、どうも僕とこの世界の認識は違うみたいだ。まぁマッチョな男じゃないからそっちの括りにはなってしまうのかもしれないけどね。

広場に到着して見回していると、まるでかつてのお兄ちゃんの様に、ジェシーが俊敏に木を登り下りしているのが見えた。丁度木から飛び降りたジェシーが僕に気がついて、ハッとした様に立ちすくんだ。


 「ジェシー!ちょっと話さない?」

僕が少し大きな声でそう呼び掛けると、周囲の子供達が一斉に僕とジェシーを交互に見た。あらら、妙に注目を浴びてるな。何か言われながら、ジェシーが走って僕のところまでやって来た。

ジェシーは僕の側に来るとじっと僕を見上げて黙りこくっている。

「ジェシー、体調はどう?すっかり良くなったみたいだね。」


 僕がそう言うと、ジェシーは周囲をチラッと見ると僕と手を繋いで、広場の側の細道へと歩き出した。

「何処に行くの?ジェシー。」

ジェシーは振り返りもせずにぶっきらぼうに言った。

「秘密基地。」

まるで子供らしいその言葉に僕は微笑んで、周囲を眺めてついて行った。少し細い野道を登っていくと目の前に岩肌の露出した場所に出て、そこの隙間へとジェシーが潜って行った。


 「ジェシー、僕も入れるかな。ちょっと狭そうだけど。」

するとジェシーは顔を顰めると、横の岩を押した。すると壁に思えていた場所が少し動いて僕も通れるくらいの場所になった。

「へぇ、凄いね。本物の秘密基地だ。かっこいい。」

僕が周囲をキョロキョロしながらジェシーに言うと、ジェシーは座り心地の良さそうな岩の台に僕を座らせて目の前に立った。


 「お前、テディだろ?一体どういう事なんだ。あの時は町中が大騒ぎだったから、うちの親にテディのお迎えが来て連れて行ったって誤魔化したから何とかなったけど。…まぁ俺もあの後色々あったから。寝込んだ時はありがとな。助かった。」

僕の握手でジェシーが魔素症から回復した事を言っているのだと分かって、僕はにっこり笑った。

「ううん、僕も魔素が溜まりがちだから、分かるよ。あれから何ともない?」

ジェシーが頷くのを見つめながら、僕は何から話せばいいか迷っていた。


 「テディはもうチビにならないのか?俺の前にその姿で来たって事はそういう事なんだろう?一体どっちのテディがお前なんだよ。」

少し拗ねた様子のジェシーの尻尾が、くたりと地面に落ちるのを目の端に入れながら僕は答えた。

「どっちも僕だよ。なぜか分からないけど、僕は気がついたらちっちゃなテディだったんだ。でも小さいと僕の心もちっさな僕になってたよ。だからジェシーの知ってる僕はありのままだよ。

ただ、これからも小さくなるかって聞かれたら、分からないんだ。今も本当は小さくなる時期なんだけど、ならないから。変だよね、僕。ジェシーにしてみれば怖いくらいおかしな生き物だよね?」


 するとジェシーは鼻を鳴らして僕を見た。

「そうやってバカみたいにブツブツ言ってるのは大きくなっても変わんねぇな、テディは。俺よりデカくなってるのは気に入らないけど、テディは大きくてもチビでも俺には関係ない。ただのテディだ。そうだろ?」

僕は思わず嬉しくなってジェシーを抱き寄せた。ジェシーはやめろとか言ってたけど、口元はニヤけていたから本当に嫌なわけじゃないんだろう。


 「良かった。ジェシーに怖がられたらどうしようかって思ってたから。これからも仲良くしてくれる?ジェシー。」

するとジェシーは僕を見上げて肩をすくめた。

「テディは俺様の子分だからな。仲良くしてやる。」

僕は相変わらずの俺様発言にクスクス笑うと、周囲を見回して尋ねた。

「ねぇ、ここってジェシーが見つけたの?誰にも見つからなさそうな場所だね。さっき外から見た時、ただの岩壁にしか見えなかったもの。」


 するとジェシーはニヤリと笑って得意げに言った。

「だろう?ここを知ってるのは兄ちゃんだけだ。でも最近は身体が大きくなって入れなくなって来た。それに勉強が忙しいからあまり遊べないし。

俺も王国騎士団に入るには魔法ばかり出来ても駄目だって、兄ちゃんに言われたんだ。テディは知ってるか?」

僕は首を振った。この国のその手のシステムはよく知らない。5歳のジェシーより僕の方が焦らないといけないくらいなのに。僕はため息をついた。


 「ジェシーってしっかりしてるんだね。僕よりちゃんと考えてるみたい。」

ジェシーは呆れた様に出口に向かうと、僕を先に通しながらブツブツ言った。

「…テディは大きくなっても全然しっかりしないんだな。俺様は心配だよ。たまにはチビになってた方が良いんじゃないか?…俺もその方がいいよ。」

最後は小さな声だけど、ジェシーが小さな僕を望んでいるのが分かって、僕はジェシーに手を伸ばして言った。


 「ジェシー、僕は僕だよ。どんな姿になろうともね。ジェシーの仲良しのテディだ。」

黙って僕の手を握った小さなジェシーの手は、それでも僕の手よりは硬くてしっかりしていた。僕はジェシーの手があっという間に僕を追い越してしまいそうだとため息をついて、少し機嫌を直したジェシーを見つめて言った。

「ね、広場のお店でお肉食べようよ。僕が奢ってあげるよ。ジェシーが大きくなったら、僕に奢り返してね?約束だよ?」








 
















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