竜の国の人間様

コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26

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トラブルメーカー

では、もふります

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 「テディ、今夜私はブレーベルの森へ行くからの、先に寝てなさい。」

 そうパーカスに言われて、僕は思わず目を見張った。いったい何事なんだろう。するとパーカスはブレーベルの街の奥の夜の森で見つけたいものがあると言った。

「この季節になると、特別なキノコが発生するのじゃよ。それは夜になるとぼんやりと光るのでな、夜の方が見つけやすいのじゃ。」

 僕が思わず美味しいのかと尋ねると、パーカスとブレートさんは顔を見合わせて笑った。


 「食べ物ではなく、嗜好品じゃな。我々竜人の好むものじゃ。乾かして刻んだものをチップにして燻して楽しむのじゃ。」

 ふーん、なんか怪しいマッシュルームみたいだな。僕は肩をすくめて頷くとチラッとロバートを見て言った。

「分かった。じゃあ僕ロバートと留守番してるよ。どうせ連れて行ってくれないんでしょ?」

 困った様に笑うパーカスは明らかにソワソワしていた。どんだけそのマッシュルームが好きなんだろ。僕はブレートさんと二人ではしゃぎながら出掛けていくパーカスを見送った。

 あの年でソワソワしちゃって、なんか笑っちゃう。ふふ。


 談話室のソファに寝転がって地図を眺めていた僕が欠伸を連発していたら、ロバートが僕から地図を取り上げて見下ろした。

「テディは明日も早いんだろう?そろそろ寝支度をした方がいい。」

 ロバートにそう言われて、僕は渋々立ち上がった。決まりきった事をやるのはどうも面倒くさい。パーカスが居ないから余計にだらけてしまう。

 僕は部屋に向かいながら、そう言えばと立ち止まった。


 「ね、これから例のアレ、させてくれる?」

 すると分かりやすくロバートが固まった。恐る恐る僕から視線を外しながら尋ねてくる。

「…獣化するってことか?」

 僕はにっこり笑うと、手をワキワキさせながら頷いた。

「そう!きっと撫でたら気持ち良さそうだよね?ちょっとだけで良いからさ、ね?ふふ、じゃあ急いで湯浴みしちゃうから、終わる頃に僕の部屋に来てね!」


 僕はそれだけ言うと走って部屋に戻った。やったー!最近ジェシーをモフり足りないから、楽しみ過ぎる!僕はさっきまでの眠気は吹き飛んで、鼻歌混じりにサクサク湯浴みを終えた。

 髪を拭きながらベッドに座って待っていると、扉がノックされた。僕がドアを開けると、ロバートも湯浴みを終えてきたのか髪を濡らして騎士服ではないシャツを着て立っていた。


 こんなにラフな服装のロバートは初めて見る気がする。なるほど見目良い男は着る服を選ばないのか。僕は動こうとしないロバートを部屋に入れると、ベッドに飛び乗った。

 あれ?どうしてドアから動こうとしないんだろう。僕はロバートに頼んだ。

「ね、獣化してベッドに横になる?それともベッドに横になって獣化する?…まさか、このベッドじゃ小さいとか!?」

 僕は虎のサイズ感を思い浮かべて青くなった。ただでさえガタイのいいロバートだもの、獣化したら普通の虎よりも大きい可能性はあるよね!

 
 ゆっくり近づきながらロバートは咳払いして言った。

「じゃあ、ベッドの上でゆっくり獣化した方が良いだろう?いきなり獣化したら怖いかもしれないから。…服が破れると後が困るからとりあえず脱いでも良いか?」

 僕は頷きながらロバートの言った言葉を頭の中で繰り返していた。裸になる?ああ、確かにジェシーも獣化すると服は脱げちゃってたな。あれは服の方が大きかったから。

 でもロバートは破れちゃうの?まぁ獣化したら自分で脱げないからね?でもベッドで人型のロバートが裸になるのは何か不味い気がする。何でかと言われると説明が難しいけど。


 「ちょ、ちょっと待って!あのね、僕ロバートの裸見ない方がいいと思うの。その、恥ずかしいでしょ?」

 するとロバートはクスッと笑って言った。

「俺は恥ずかしくはないよ。…テディが恥ずかしいならそっぽ向いててくれればいい。」

 僕は首を傾げた。一体誰が恥ずかしいんだろう。ロバートは恥ずかしくない。じゃあ僕は?僕も多分恥ずかしくない。僕は一人解決すると、ベッドに座って頷いた。


 「オッケー!じゃあ脱いで!」

 ちょっと目を見開いたロバートがため息をついてシャツのボタンを外した。指が動くたびに鍛えられた胸板が現れる。何だか見てはいけないものを見てるようで気まずい。でも見ちゃうけどね!

 ロバートは見事な三角形の身体だった。腰が細いから余計に贅肉の無さが引き立つ。僕は思わずじっと見つめてしまった。僕もあのくらいの身体になれるかな。んー、多分無理だよね。


 ぼんやりとそんな事を考えていると、ロバートが俯いてズボンの紐を外し始めた。これから下を脱ぐんだ。それって全裸だよね。あれ?大事なところも見えちゃうけど、良いのかな。やっぱり恥ずかしいのは僕なのかな。

 僕は腰のくびれと盛り上がる腰回りの筋肉を見て、何だかドキドキしてきた。これってストリップだよ!僕はパッと顔を逸らしてロバートに言った。

「…やっぱり僕は見ない方が良いみたい。裸になったら、ベッドに横になってシーツ被って!」


 ロバートの掠れたようなクスクス笑いに、僕は口を尖らせた。大人って何かやだ。絶対ロバートだって恥ずかしいはずなのに、先に恥ずかしがった方が負けなんだ。

 ベッドが軋む音がして、バサリとシーツが剥がされた。ロバートは準備万端だ。僕はホッとして振り返った。

 ロバートが横になって僕をじっと見つめている。…何か記憶を引っ掻くこの状況。ロバートが水色の瞳をきらめかして微笑んだ。


 「テディは本当に考え無しだ。でもまぁここまで来たら、俺も撫でてもらいたいね。しかし獣化するなんて本当何年ぶりだろう。」

 そんな事を言うと目を閉じてグッと大きく背伸びした。みるみるロバートの手がもふもふしてきたと思ったら、首や胸がフサフサの白っぽい毛皮に変化した。

 そして思ったより黒のコントラストが弱い、オレンジ色の強い虎模様になった。最後にぶるっと顔を振ると毛深い顔が虎顔になっていた。ああ、本当に虎獣人なんだ。


 僕の想像より少し大きなオレンジめいた虎は、グルルと低い音を喉から響かせた。僕は恐る恐る近寄ると片手でゆっくりと首から背中を撫でた。ああ、すごくしっとりしてる。

 硬い毛と柔らかな毛の両方を手の中に感じて、僕は何度もマッサージする様に撫でた。手の肉球を優しく押し込むと、気持ち良いのかグルグルと喉を鳴らす。


 この獰猛そのものの虎がロバートなんてちょっと信じられないな。僕はひと通り優しく撫でると、今度は気持ち良さげなところを強めにマッサージした。身体が大きいから、僕は全身運動になって少し汗をかいた。

 ロバート虎のほっぺたの毛皮を引っ張ると、為されるがままになって目を閉じている。ふふ、やっぱり虎も猫ちゃんと同じだな。僕は首にぎゅっと抱きつくと、大きなもふもふを堪能した。


 噛まない安全な虎と戯れる事ができるなんて最高なんだけど。僕はついでとばかりロバートの口の中の牙を指でなぞった。鋭い牙は噛まれたらさぞかし痛いだろうけど、絶対にそんな事が無いって知ってるのも不思議な感じだ。

 それに指を時々舐める大きな舌がザラザラして結構痛い。確か猫科は毛繕いのために舌がザラついてるって聞いた事があるけど、確かにこれならちょっとしたブラシがわりになるかもしれない。


 僕はすっかりマッサージに夢中になってしまって、気がついた時には疲れてしまった。ロバート虎の喉元に寄り掛かって欠伸をすると、ふわふわの毛皮に埋もれて目を閉じた。

 ああ、最高…。もふもふってめちゃくちゃ癒されるよ。僕はそのまま微笑みながら、ロバートの機嫌の良さげな喉元の音を聞きながら睡魔に引き摺り込まれて行った。














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