竜の国の人間様

コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26

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ちっちゃな身体じゃ物足りない?

王都からの調査隊

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 「パーカス、無事だったか!王都以来だが、無事で何よりだ。いやはや死の沼が発生するなど、中々の大事。ましてパーカスが死の沼に囚われたと聞いて、王の動揺もあって、私も急ぎ駆けつけた具合だ。

 しかし死の沼から生還するとは、さすがお主だな。あれは未だ解明されていない悪夢の一つだ。詳しい状況を是非聞かせてくれ。」


 そう親しげな様子でパーカスに声を掛けて来たのは、白髪とは違う真っ白な髪の、金属が溶けた様な瞳の逞しい竜人だった。歳の頃は見かけ的にパーカスと似たり寄ったりだけど、実際の所、竜人の年齢なんて全然分からないや。

 僕がパーカスに抱っこされてマジマジと白い竜人を見つめていると、不意に視線が僕を捉えた。瞳がドロリと金属が溶けるような色味に変えるのに見入って居ると、少し驚いた様にその瞳が見開かれた。


 「…パーカス、話には聞いていたが随分幼な子なのだな。しかしそうして居ると、成る程王都への上京を拒む理由も理解出来る。庇護欲の湧く幼な子はこの平和な地方でのんびりと育てたい所だろう。

 だが、ここ最近この付近は平和とは言えない事ばかりだ。伝説の魔物の出現や、大型魔物の出没数の増加、そしてトドメとばかりに死の沼ときた。…これが何を意味して居るのかは知らんが、調査は必要だ。危惧に過ぎなければ良いがな。」


 僕は大人しくしていたけれど、流石に目の前の竜人が誰なのか気になった。普段パーカスに、こんな物言いをする様な相手は居ない。パーカスと同等、あるいはそれ以上の立場にある相手っぽいな。

 僕が気になって二人の顔を交互に見つめて居ると、パーカスがそんな僕に苦笑して言った。

「心配して駆けつけてくれたのか、それとも調査以上の真の目的があって来たのか、それはともかく死の沼からの生還を果たした私に聞きたいことはあるのじゃろう。

 テディ、この男はガリバー王国の王国騎士団のオリック団長だ。私とは昔馴染みでの、なかなか食えぬ男よ。オリック、この子は私の息子のテディじゃよ。賢くて可愛い子じゃ。」


 そう言って僕に騎士団長を紹介してくれた。成る程そう言われてみれば、妙に納得してしまうオーラがある。この国の軍部のトップと言う事なんだろう。僕はお行儀良くパーカスの腕の中から、頭を下げた。

「こにちは。遠い所をよくいらっちゃいまちた。」

 オリック騎士団長は眉を上げて、口元を緩めてニンマリとした。うーん、なかなか食えない御仁だな。何を考えて居るのか分からないぞ?


 でもさっき騎士団長は、気になる事を言ってたな。この付近は平和じゃなくなったって。確かに色々な事が起きたけど、それってこの異世界でもレアな事なのかな。僕には何が普通なのか分からないから判断がつかないけどね。

 それより、死の沼ってそんなに大ごとな現象だったんだ。と言う事は、普通は死んじゃう所だったって事なのかな?良かった、パーカス達を早く見つけてあげられて!


 騎士団長と話しながら屋敷の中へ歩き戻るパーカスに抱っこされながら、僕はそんな事を考えていたんだけど、ふと肩越しに騎士団長について歩く、青と赤の二人の竜の騎士と目が合った。

 僕はそっと手のひらをひらつかせて、二人に合図した。バルトさんと、調子の良い赤い竜人さん。今のタイミングは仕事中なんだろうから、私語厳禁なんだろう。僕の気遣いに、二人はにっこりして頷いた。やっぱりそうだったか。良かった、迂闊に声を掛けなくて。


 屋敷の中に入ると、僕は床に下ろしてもらってパタパタとパーカス達から離れた。これからきっとお仕事の話があるんだろうから、僕は一人でワタ虫と遊んでいようかな。

 そう思ってダグラスに案内されて大人達が別室へ向かうのを見送った。部屋には挨拶を終えたシャルが、やっぱり僕と同じ様に部屋に残った。

「テディ、何か飲む?」

 僕はまだお腹いっぱいだったので、首を振るとシャルに尋ねた。


 「しゃるは、いっちょに話聞いたりちなくていいの?」

 するとシャルは苦笑して言った。

「私は一介の地方騎士の身だからね。しかも今回の件に参加していたわけでも無いし、状況は又聞きしたくらいしか知らない。どちらかと言うとテディの方が良く知って居るんじゃ無いの?

 …パーカス殿はテディを表に出したくは無いだろうけど、今回はそうも言ってられないかもしれないね。何と言っても砦の王国騎士団の警備隊長が同行してただろう?テディが成し遂げた事を見ていた訳だから。」


 ん?そう言えば、僕は森の中でちびっちゃくなったってパーカス言ってなかったかな。と言う事は身体が変幻したのも見られてしまったって事なの?わーどうしよう。秘密が秘密じゃなくなっちゃう。

 あ、でも長老のせいにすれば良いのかな。そう、僕が人間だから変幻する訳じゃなくて、長老の薬物のせいだから!ふふ、困った時は長老に押し付けちゃえ。何たって長老は多分僕が思うに、王様の次くらいに偉いんじゃないかな。

 僕はそう考えると途端に心配もなくなって、シャルに死の沼について聞く余裕も出て来た。

「ね、しゃる。ちの沼って、とくべちゅ?んー、めっちゃにない事?」


 シャルは僕をソファの隣に座らせると、そっと抱き寄せて優しい声で話し始めた。

「私も子供の頃に両親から読んでもらった本にその話が書いてあった。だから今回の事が起きるまで、本の中のおとぎ話だと思っていたんだ。まさか本当に存在する話だなんて思いもしなかったよ。

 とは言えダグラス曰く、実際に死の沼が確認されたのは150年も前の事だったらしいよ。その時は発見も遅れてかなりの数の獣人が犠牲になったんじゃないかって話だった。実際は周辺で行方不明になってしまった獣人を数えただけだから、本当の所は分からない。

 まぁ、ともかく一度入ってしまえば抜け出せないと言う面では恐ろしい場所だよね。」


 僕は眉を顰めて頷いた。確かにズブズブと時間と共に埋もれていくのは恐ろしい。あの森の死の沼は一見すると乾いた空き地にしか見えなかった。僕だって、砦のおじさん騎士が手を引っ張って止めてくれなければズブっていただろう。

 もしそうなっていたら、僕はパーカス達を見殺しにする事になっていたかもしれない。本当に紙一重だったのだと、急に恐ろしさが襲って来た。

 そんな僕をシャルは心配そうな顔で覗き込んで、僕の顔を撫でた。

「…テディ、大丈夫?酷い顔をしてる。怖くなった?私にも覚えがあるけれど、後から本当の所が見えて恐怖を感じる事があるよね。でも今は何の心配も要らないんだから大丈夫だよ?」


 僕は優しいシャルの声と手のひらに慰められて、目を閉じて呟いた。

「ぼくが怖くなっちゃのは、もちぼくが、ちの沼にはまっちゃちぇたら、ぱーかちゅを助けられなかっちゃなって。たちゅけられるのに、手が届かないっちぇ、ちゅごく怖い。でちょ?」

 シャルは僕の頭に優しくキスして言った。

「そうだね。以前ダグラスが同じ事を言ってた気がする。私が無茶したせいで、酷く怒られたんだ。テディは全くこんなに可愛らしいのに、一人前だね。パーカス殿も自慢の息子だと思ってるだろうね。」


 「おいおい、またちびっこは俺のシャルとイチャついてるんか。」



 
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