竜の国の人間様

コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26

文字の大きさ
71 / 217
ちっちゃな身体じゃ物足りない?

消息不明

しおりを挟む
 朝から酷い騒ぎだった。あのパーカスと砦所属の王国騎士がニ名ほど、朝になっても森から戻ってこなかったのだから当然と言えばそうだ。僕は大人しく朝食を食べながら、ジェシーのお父さんの所に来る大人達の会話を盗み聞いた。

 どうも何の手掛かりも無いみたいだった。あのパーカスが消息不明になるなんて、ありえない事だ。だから皆途方に暮れている。ジェシーのお母さんは心配そうな表情を時折見せながらも、僕の前では明るい声を出していつも通りに振る舞っていた。


 「テディ、お腹はいっぱいになったかしら。良かったわ、隠者様がテディの荷物を置いて行ってくれて。着替えとか分かるかしら?」

 僕は余計な事を言わずに荷物を受け取ると、中にあるものを確認した。突発的な事が起きても大丈夫な様に、準備万端だった。僕は大丈夫だと頷くと、ジェシーの部屋へとジェシーと二人で荷物を運んだ。

 ジェシーの部屋で、僕は自分の大きな服を取り出してベッドに放ると、ダグラスに会う必要があると思った。きっとダグラスも報告を受けて対処に忙しいだろう。でも捜索に僕も連れて行くべきなんだ。その話を直接しなくては。


 ジェシーを驚かせてしまうけど、躊躇している時間は無い。僕はお気に入りのミニリュックの二重底から薬を出すと、一粒口に放り込んだ。直ぐにムズムズした身体の変化を感じて、僕は慌ててパジャマを脱ぎながらジェシーに言った。

「じぇちー、ぼくね、塔の長老から時々薬を飲めって言われてるんだ。だからびっくりしないでね。」

 口が回る様になったのと同時に目線が高くなって、目を丸くしたジェシーが僕を見上げている。

「僕、魔素が身体に溜まりすぎちゃうみたいで、たまにこうして大きくならないといけないんだ。この事は他の人には内緒にしてね?」


 コクコクと頷くジェシーににっこり笑って、僕はベッドの上の服を急いで着ると、荷物の中から靴を取り出して履いた。長い髪はしょうがないので部屋にあった紐でククった。それから迷ったけれど、ジェシーに頼んだ。

「ジェシーのお父さんとお母さんを説得する時間は無いんだ。だから、僕は直接パーカスを助けるためにダグラスに話をつけに行くよ。だからもしお父さん達に僕のことを聞かれたら、大きくなって出て行ったって言っておいてくれる?もし必要ならダグラスに聞いて欲しいって、伝えておいて?お願いね、ジェシー。」


 僕はジェシーが親に問い詰められて大変な事になる気がしたけど、もう後は任せて窓を乗り越えて庭に降り立った。それから戸惑いながら僕を見送るジェシーの視線を感じながら走り出した。

 ダグラスのいそうな場所は、やっぱり森の入り口だろう。ここからは少しあるけれど、決して遠い訳ではない。何といっても辺境の街はそう広いわけでも無いんだから。

 息を切らして走っていると、僕を見て驚いた表情の領民とすれ違った。確かに長い黒髪を振り乱して走る得体の知れない人物がいたら驚くだろう。ここは何と言っても住民同士知り合いばかりの狭い町なんだから。


 森の入り口まで到着すると、案の定ダグラスが数人の領民と、ひと目で偉い騎士と分かる人物に囲まれて話し合っていた。

「ダグラス!」

 僕がそう呼びかけると、驚いた顔でダグラスは目を見開いた。それから慌てて彼らの中から抜け出して僕のところへやって来て、声を潜めて問いかけて来た。

「…テディ!一体どうしてその姿…。まさか。ダメだ、絶対にダメだぞ。」

 僕が何も言わないうちに反対されてしまった。まったく、ダグラスの勘の良さはピカイチだよ。僕は苦笑すると、それでも真顔になってダグラスに言った。


 「ダグラスは知らないかもしれないけど、僕の魔法適性は想像以上だよ。もしこの中でパーカスの元に辿り着けるとしたら、僕に一番チャンスがあると思う。むしろ闇雲に森に入って魔物に出くわして時間を無駄にしちゃダメだ。

 あのパーカスが森から出てこないのは、それなりに大きな危機があったと言う事でしょう?僕はお父さんを助けるよ。息子なんだから。」

 僕の真剣な言葉に、ダグラスは眉間の皺を深くしたけれど、ため息をついて言った。


 「…何か秘策があるのか?ここから半刻ほど森に入った所でパーカス殿は西に道を逸れたんだ。何か聞こえた様だと戻ってきた領民が言っていた。それを確認しに行った様だ。パーカス殿が無視できないその音の正体も分からないのが現状だ。

 実際朝一で周辺を探したが何も手掛かりは得られなかった。森の道は一晩で余程の足跡でない限り消えてしまうからな。」

 ダグラスの教えてくれた状況に、僕もまた眉を顰めた。パーカスが無視出来なかった音の正体、それが今回の消息不明の原因だろう。突発的に事故や事件が起きたに違いない。


 「ダグラス、僕は魔力を見ることが出来るんだ。だから魔物を避けて行くこともできるし、パーカスの放った魔力は感じ取れると思う。捜索隊の目になるよ。一緒に行く。」

 ダグラスに連れられて捜索隊に合流すると、ザワザワと驚いた様子の屈強な獣人達の視線が集まった。目の前の騎士はもしかしたらジャックのお父さんかもしれない。白い飾り羽根が耳の下にチラリと見えている。

「警備隊長、この子はパーカス殿の縁戚の子だ。成りは小さいが、魔力はパーカス譲りだ。」

 僕はジャックのお父さんに反対されたら終わりだと、ダグラスを遮って言った。


 「僕ならパーカスの居所を突き止めることが出来ますよ。後、捜索隊が無駄な魔物にも遭遇しない様に誘導できます。取り敢えずパーカスや騎士達の元に駆けつけるのが一番優先されますよね。反対されようが、僕は行きます。

 あ、そうだ。ダグラス、一番軽い魔剣手に入らないかな。流石に僕も丸腰はちょっとね。」

 そう僕がダグラスに尋ねていると、警備隊長であるジャックのお父さんが、腰に刺した鞘に入った細い剣を僕に差し出した。

「君の様な若すぎる子供を連れて行くのは気が進まないが、君は役に立ちそうだ。これは接近戦用の予備の様なものだが、これを渡しておく。…魔力を帯びさせなければ、ただの細い剣でしかない。分かったか?」

 
 僕は有り難く警備隊長から細いコンパクトな剣を受け取ると、ダグラスが誰かに取ってこさせたベルトを付けて腰に刺した。僕が参加することに眉を顰めた獣人もいたけれど、流石に警備隊長が許可した事に異議を唱える者はいない様だった。

「俺は領主だから行けないが、彼らを絶対連れ帰ってくれ。…ディー、怪我するなよ。パーカスが悲しむ。」

 そう言ってダグラス達が見送る中、僕は先頭の中年の砦の騎士の後について森に入った。捜索隊は少数精鋭なのか、騎士が隊長含む三名、辺境の強者が二名、そして僕の合わせて六名だった。


 「お嬢ちゃん、本当に一緒に来るのかい?」

 そう心配そうに犬系騎士に尋ねられて、僕はニヤリと笑った。ここでビクついている姿を見せたら、あっという間に置いていかれるだろう。

「ふふ、僕は坊ちゃんですよ。もっともパーカスの縁戚だから期待して下さいね。左方向に小型の魔物が一頭。右寄りのルートを取りましょう。少しでも早く辿り着いた方が良い気がするんです。」

 僕は何となく、この森の入り口で感じたその感覚に気が焦っていた。早く彼らの元に辿り着かなければならない。僕の中でその声が騒がしく走り回っている様だった。


 



しおりを挟む
感想 119

あなたにおすすめの小説

愛を知らない少年たちの番物語。

あゆみん
BL
親から愛されることなく育った不憫な三兄弟が異世界で番に待ち焦がれた獣たちから愛を注がれ、一途な愛に戸惑いながらも幸せになる物語。 *触れ合いシーンは★マークをつけます。

【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件

表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。 病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。 この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。 しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。 ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。 強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。 これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。 甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。 本編完結しました。 続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください

ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。 「付き合おうって言ったのは凪だよね」 あの流れで本気だとは思わないだろおおお。 凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

ざこてん〜初期雑魚モンスターに転生した俺は、勇者にテイムしてもらう〜

キノア9g
BL
「俺の血を啜るとは……それほど俺を愛しているのか?」 (いえ、ただの生存戦略です!!) 【元社畜の雑魚モンスター(うさぎ)】×【勘違い独占欲勇者】 生き残るために媚びを売ったら、最強の勇者に溺愛されました。 ブラック企業で過労死した俺が転生したのは、RPGの最弱モンスター『ダーク・ラビット(黒うさぎ)』だった。 のんびり草を食んでいたある日、目の前に現れたのはゲーム最強の勇者・アレクセイ。 「経験値」として狩られる!と焦った俺は、生き残るために咄嗟の機転で彼と『従魔契約』を結ぶことに成功する。 「殺さないでくれ!」という一心で、傷口を舐めて契約しただけなのに……。 「魔物の分際で、俺にこれほど情熱的な求愛をするとは」 なぜか勇者様、俺のことを「自分に惚れ込んでいる健気な相棒」だと盛大に勘違い!? 勘違いされたまま、勇者の膝の上で可愛がられる日々。 捨てられないために必死で「有能なペット」を演じていたら、勇者の魔力を受けすぎて、なんと人間の姿に進化してしまい――!? 「もう使い魔の枠には収まらない。俺のすべてはお前のものだ」 ま、待ってください勇者様、愛が重すぎます! 元社畜の生存本能が生んだ、すれ違いと溺愛の異世界BLファンタジー!

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)

九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。 半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。 そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。 これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。 注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。 *ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)

処理中です...