竜の国の人間様

コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26

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限定成長de学院生活

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 僕は目の前で顰めっ面をしているロバートの顔を見つめながら、後ろで僕が来るのを待っているゲオルグとシンディを感じた。僕はロバートだけに聞こえるように言った。

「あの、ここでは話せなくて。良かったら夜ブレート様のお屋敷に来てください。今夜は食事の約束をしてるので…。話しておきますから…。」

 そうコソコソと早口で言うと、返事も待たずにゲオルグ達の所へ走って行った。何か言いたげなロバートを一時的に回避だ。結局、ロバートには全部言う事になりそうなんだけど。パーカスに怒られちゃうかな。ああ、頭痛いよ。


 「やっぱりロバート様と知り合いなんだ、ディー。」

 そうシンディに言われて、僕は誤魔化し笑いに徹した。するとゲオルグが振り返って言った。

「まだロバート様がこっち見てるぞ…。虎獣人のロバート様はこのブレーベルの騎士団の中では一、二を争う実力者だ。あの若さで凄いよ。魔剣が使える様になれば、王国騎士団にもなれるだろうし。俺も最終的には王国騎士団の一員になろうと思ってる。」

 
 僕は以前パーカスが、魔物に向けて剣から稲妻の様な光を飛び散らしたのを思い出した。あれが魔剣かな。確かにパーカスの様に魔力が強ければ、単純に切り刻むより威力は大きいだろう。

 ロバートはまだ魔剣の扱いが未熟って事なのかな。強そうなのに。僕は顔を上げてゲオルグに尋ねた。

「ね、魔剣って訓練すれば誰でも扱えるものなの?」

 シンディが相変わらず僕と手を繋ぎながら、にっこり笑って答えた。


 「そうだね。ディーみたいに力が無くても、魔力次第では魔剣を扱うことは出来るけど。そうは言っても魔剣自体が結構な重さだからね?普通の獣人は魔素のあるものをせっせと摂取して魔力コントロールを高めたりと、地道な努力が必要かな。

 何、ディーは王国騎士団に入りたいの?」

 僕は薄く笑って肩をすくめた。シンディの顔が笑っちゃってるじゃないか。言っとくけど僕はまだ実質3歳だからね。今は仮の姿だから非力なのはしょうがないんだ。

 でも魔力が関係するとなれば、力だけでゴリ押しが必要じゃ無くなるかもね。


 「ディー、こっちだ。シンディ、ディーを女子の更衣室へ連れて行こうとするなよ。」

 僕は慌てて悪戯っぽく笑うシンディの手を振り解いて、ゲオルグと更衣室へ入って行った。もう着替え終わった男子がガヤガヤと出て来た。

「ゲオルグ、見学生を襲うなよ。」

 そう揶揄う声に顔を顰めたゲオルグが、喉の奥で唸った気がした。途端に逃げる様に立ち去る男子達の後ろ姿を見送りながら、僕はゲオルグに尋ねた。


 「今、何かしたの?」

 するとゲオルグは僕を黙って見つめると、何もしていないとボソリと呟いて先に更衣室へと入って行った。まだ数人がのんびり着替えていたけれど、ゲオルグの顔を見ると、急に動きが速くなった。何だかゲオルグって皆から怖がられてる?

 そんな事を考えながら、僕はすっかり汗のひいた騎士服を脱ぎ始めた。下履きとぴっちりしたアンダーウェアになると、身体に張り付くアンダーウェアに眉を顰めた。着る時も大変だったから、これは最初からゲオルグ辺りに脱がせてもらった方が良いかもしれない。


 筋肉の乗った上半身裸のゲオルグをじっとりと妬ましい気持ちで見つめながら、僕は脱ぐのを手伝って欲しいと頼んだ。ゲオルグは一瞬変な間があったけれど、頷いて僕のウエストに指を掛けた。

「…良いか、引っ張るからな。踏ん張れよ?」

 そう言われて、僕は奥歯を噛み締めて足を踏ん張った。ぐいっと上に引っ張られてスッポンと脱げたものの、勢い余ってゲオルグに引き寄せられてぶつかってしまった。

 ガタイの良いゲオルグに抱き止められて思わず笑っていると、ゲオルグが僕をぎゅっと抱きしめて言った。


 「ディーは心配になるくらい無防備だな。…それとも粉かけてるのか?」

 粉かけるって何?僕がゲオルグの胸筋に顔をくっつけている事に気づいて慌てて離れると、ゲオルグがニヤリと笑って言った。

「ディーなら、俺のハーレムに入れてやっても良いぜ。」

 僕は揶揄われた事にドギマギして、口を尖らせて言った。

「粉かけるって何さ。それにハーレム?ゲオルグは子どものくせに随分とませてるんだね。生意気だな。」


 僕がそうブツブツ言いながら着替え終わると、とっくに着替え終わっていたゲオルグが、僕を何とも言えない眼差しで見つめながら待っていてくれた。

「お前って、掴みどころがないな。それに俺のこと怖がらないだろう?…変わってるって言われないか?」

 僕はやっぱりゲオルグは仲間外れになっているんだと思って、少し哀れみの眼差しを向けて言った。

「ゲオルグはもうちょっと愛想良く笑ったらどう?本当は面倒見がいいんだからさぁ。誤解されてるんじゃないの?」

 僕がそう言うと、そう言う事じゃないとかブツブツ言いながら先に立って歩き出した。僕は慌てて追いかけながら、騎士服を貸してくれた孔雀族のシンディの友人に、何かお礼をしなくちゃとため息をついた。



 
 「…と言う事で、今夜ロバートがここに来ると思う。」

 ブレートさんのお屋敷に戻った僕がパーカスにそう言うと、パーカスは眉を顰めて言った。

「今日騎士団へ顔を出したら、道理でロバートが居なかった訳だ。所用かと思っていたのじゃが、何と高等学院の指導へ出向いていたとは。バルト同様やはりあの夜会の夜、テディが成長した姿を見られていた訳じゃの?」

 僕は肩をすくめた。

「そうみたいだね。まぁ、だからってどうって事もないけどね。こんなの一時的だし。バレたらバレたで、どっかチビじゃ行けない場所へ遊びに連れて行って貰っても良いし。

 それはそうと、今日魔剣の話を聞いたんだ。僕は普通の剣は重くて厳しいんだけど、魔剣なら魔力で何とかなるかなって思ったんだけど、パーカスはどう思う?」


 するとパーカスは呆れた様に僕に言った。

「魔剣も結局剣を自在に使えてからの話じゃからの。まぁテディ用の軽いモノを用意して試してみても面白いかもしれんのう。その、ゲオルグは獅子族なのじゃろう。騎士団にも1人おるが、もしかして縁戚かもしれん。獅子族もそう滅多にいない種族じゃからな。」

 そうパーカスが話していると、ブレートさんが談話室へ疲れた様子で入って来た。

「まったくこき使われたわ。…今獅子族の話をしてたかな?この街の獅子族と言えばアトラス家だが、確かに騎士団に長男がいて、次男と末っ子の長女が学生じゃな。そうか、今年次男は高等学院へ上がったか。」


 僕はブレートさんの話を聞きながら、ふと気になった事があった。パーカスも気づいたのか、含み笑いをしながら僕に言った。

「その末っ子はもうテディと面識があるかもしれんの。テディは覚えておるじゃろ?」

 僕は顔を顰めて頷くと、話が見えなくてキョトンとしているブレートさんに説明した。

「前に乗り合いで一緒になったんですけど、一方的に僕に難癖つけて来た女の子が獅子族でした。本当にゲオルグの妹なのかな…。ゲオルグはぶっきらぼうだけど、案外親切な奴でしたよ?あんな妹が居たらゲオルグも大変でしょうね!」

 僕はあの時の腹立たしい気持ちを思い出して、思わず口調がキツくなってしまった。そんな僕をパーカスとブレートさんが面白そうに見ていたけれど、今夜はそれどころじゃないロバートという関門を突破しなくちゃなんだよ。

 丁度その時、ロバートの到着を執事が告げた。取り敢えず僕は黙秘しようかな…。




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