竜の国の人間様

コプラ

文字の大きさ
上 下
60 / 207
限定成長de学院生活

剣の授業

しおりを挟む
 僕は集まった生徒達の前に立ち塞がるロバートから、落ち着き無く目を逸らした。やばい、めちゃくちゃ見てくる。何でロバートが学校に居るのさ。ロバートは先生に声を掛けられて、ハッとした様に気を取り直すと咳払いした。体格は良いけど、見た感じ年嵩の老先生が集まった生徒達に声を掛けた。

「今日もこの領内の騎士団からお二人、剣術の指導に助っ人として来てくれた。前回も来て貰ったが良い機会なので、騎士希望者は彼らに色々聞いてみてはどうかね。では、お二人ともよろしく頼みます。」


 先生の言葉に、ロバートともう一人の猫科的獣人、ジャンがそれぞれ自己紹介した。領内での騎士の仕事などをざっくり僕らに説明すると、ロバートが僕の方を見つめながら言った。

「今日は軽く打ち合いをしましょう。経験者は私たちが相手をします。未経験者、及び初心者はそちらの人形で型の稽古をして下さい。…後で指導に行きます。」

僕はロバートがすっかり僕をロックオンした事に気がついて、あの夜会の夜にやっぱり見られていたのだと思った。まぁ、パーカスもロバートは気づくかもしれないって言ってたけどね。


 とは言え、騒ぎになるのは困るな。そんな事を考えながら、僕はすっかりボディガードの様になってしまったシンディとゲオルグに首を傾げて尋ねた。

「二人は剣術は経験あるの?」

するとゲオルグが腰に刺した剣を叩いて言った。

「ああ、俺は騎士になりたいからな。小さい頃から訓練しているんだ。」

ぽいわ…。剣を持つ姿が様になっているもんね。僕がシンディの方を見ると、シンディはにっこり微笑んで言った。

「私は今日初心者よ?まさか、お尻に穴の空いたディーを一人放って置けるわけないでしょ!」


 僕はシンディの言い草に、恥ずかしさより面白過ぎて、思わず吹き出してしまった。

「ふっ、シンディ、誰でもお尻に穴は空いてるでしょ?ふふふ、あー可笑しい。」

そんな僕にゲオルグとシンディがなぜか困った様に顔を見合わせていた。僕が眉を上げて二人を見つめると、ゲオルグが肩をすくめて言った。

「…確かに、俺も初心者になった方が安心な気がして来たけど、流石に無理だろうな。シンディ、ディーを頼むな。」


 何だか保護者の様な事を言って、ゲオルグはロバートの居る、経験者のグループへ歩き去った。そんな彼の後ろ姿を僕とシンディで見送りながら、シンディがボソッと呟いた。

「ゲオルグがこんな風に誰かに干渉するなんて事、あんまり見た事ないんだけど。まぁ、ディーならしょうがないわね?可愛いだけじゃなくて、放っておいたら危なっかしいんだもん。じゃあ、あっちに行きましょ。ほら、皆待ってるわ。」

そう言いながら、僕の手を掴んで歩きだした。イケメン女子のシンディは僕より10cmほど背も高いし、バランスの良い筋肉質の身体は僕より立派だ。しかも腰に剣もぶら下げているから、本当は経験者なんだろう。


 僕の面倒を見てくれているシンディに、僕は手をぎゅっと握ってニッコリ笑って言った。

「シンディ、ありがとう。急に見学に来た様な僕の面倒を見てくれて。凄い嬉しいよ。」

すると、シンディは僕をじっと見つめると、大きくため息をついて言った。

「あー、本当食べちゃいたいくらい可愛い!でも何て言うか庇護欲の方が強いのよねぇ。ゲオルグはどうか知らないけどね?」

そう言えばシンディは草食だけど肉食なんだっけ。でも今の言い方からすると、僕にはそっちの食指は湧かないってことかな。はは。…くそ、どうもこの異世界では、マッチョでない僕は可愛い止まり。分かってたけど、何か男として悲しい…。


 初心者グループに到着すると、未経験の男子も数人居てホッとした。先生がシンディを見て眉を上げたけど、僕の側に立っているのを見ると何も言わなかった。僕のお世話係として、今回は見逃してくれたっぽい。

「では皆、そこから重過ぎない剣を選んで一列に並びなさい。まず、前回にやった型の復習をしよう。シンディ、見学の彼の面倒を見てくれるか。」

僕はシンディに言われるままに、細身の長い剣を選んで列に並んだ。シンディは面倒見が良いのか、他の初心者にも剣の持ち方を教えてあげてた。本当イケメン女子だ。心なしか、シンディに注がれる女の子達の眼差しが熱い気がして来た。


 「ディー、風を切る感じで、身体の重心を移動させて威力を乗せて。そう、その調子。」

すっかりシンディが皆の見本の動きをしていて、先生は任せてしまったみたいだ。イケメン女子かっこよ過ぎだろ。僕は剣を振り回すと言う、正に異世界モードのイベントにすっかりご機嫌だった。

しかしよちよちテディから張りぼてディークになった僕は、鍛錬しているわけでもないので、筋肉なんて最低限しか無かった。あっという間に剣が恐ろしい勢いで重く感じ始めて、僕は何度目かに剣を地面に取り落としてしまった。


 地面に転がった剣を見つめながら、僕は情けなさに何だか泣けて来た。結局僕は獣人みたいにマッチョになれない、ヒョロヒョロの人間なんだ。

丁度僕の剣を拾う逞しい手が見えて、僕はハッとして顔を上げた。虎獣人のロバートが何を考えているのか分からない金色の眼差しを向けながら僕に剣を手渡して言った。

「初めて剣を持つと、誰でも慣れなくて力が抜けるんだ。案外剣は重いからね。見学者なんだってね、君の名前は…。」


 僕は慌ててお礼を言うと名前を名乗った。

「ディーク ブラック?君は僕の知っている人にとても良く似てるね。…さぁ、お喋りが過ぎたね。シンディ、今日はあっちの組じゃないのかい?ディーのガード?…穴?」

目を見開いたロバートが、みるみる険しい顔をして僕を見た。それからシンディに何か呟くと、経験者グループの方へと戻って行った。

「ロバート様は、一体何でこっちにわざわざ来たのかしら。ディー、もしかして知り合いなの?何かディーをあっちに絶対連れて来ちゃダメだって言われたんだけど。まぁ、ディーの可愛いお尻が穴から見えてるから、私もあっちの野獣だらけの所へは連れて行く気はないけどね?」


 みんなしてお尻の穴って言うけど、僕下履きくらい履いてるよ。それに言うほど見えないと思うけどね。僕は肩をすくめて、ロバートが初心者は剣ぐらい落とすと言う言葉を慰めにして、もう一度やる気を出した。

結局それから藁のようなもので作った人型に皆で順番に剣を打ち込んだけれど、案外女子達の方が怖いくらい強い打ちおろしだったよ。

僕は思わず初心者の男子達と顔を見合わせて苦笑いした程だ。最後にシンディが美しい剣捌きで、人型を粉々にしたのを黄色い声援と共に、ゾッとしながら眺めていた。シンディってめちゃくちゃ強いじゃん!あんな粉々になる!?


 最後に全員で集まって、ロバート達に挨拶して解散になった。今日の授業はこれで終わりだと聞いて、僕は思わずホッとして更衣室へ向かおうと歩き出した。

「ディーク、ちょっと良いかな。聞きたいことがあるんだ。」

そう後ろから声を掛けられて、僕はギクリと振り返った。案の定、ロバートが腕を組んで僕をじっと見ていた。…これは想定外の展開だ。僕、どうしよう!

























しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

義弟の婚約者が私の婚約者の番でした

五珠 izumi
ファンタジー
「ー…姉さん…ごめん…」 金の髪に碧瞳の美しい私の義弟が、一筋の涙を流しながら言った。 自分も辛いだろうに、この優しい義弟は、こんな時にも私を気遣ってくれているのだ。 視界の先には 私の婚約者と義弟の婚約者が見つめ合っている姿があった。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

もふもふ相棒と異世界で新生活!! 神の愛し子? そんなことは知りません!!

ありぽん
ファンタジー
[第3回次世代ファンタジーカップエントリー] 特別賞受賞 書籍化決定!! 応援くださった皆様、ありがとうございます!! 望月奏(中学1年生)は、ある日車に撥ねられそうになっていた子犬を庇い、命を落としてしまう。 そして気づけば奏の前には白く輝く玉がふわふわと浮いていて。光り輝く玉は何と神様。 神様によれば、今回奏が死んだのは、神様のせいだったらしく。 そこで奏は神様のお詫びとして、新しい世界で生きることに。 これは自分では規格外ではないと思っている奏が、規格外の力でもふもふ相棒と、 たくさんのもふもふ達と楽しく幸せに暮らす物語。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。

石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。 雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。 一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。 ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。 その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。 愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

処理中です...