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限定成長de学院生活

関心の的

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 「困ったなぁ。着替えが無いや。」

隣の席の馬獣人のシンディと、前の席の獅子獣人のゲオルグら数人に誘われて、僕は昼食を食べるためにランチルームに連れて行かれた。

バイキング形式の食事は好きなだけ皿に取れるので、多過ぎずに助かった。どう考えても皆と比べると少食な僕だ。テーブルに向かいながら、午後は剣の授業があるとゲオルグに言われて僕は困ってしまった。

ゲオルグは僕をチラッと見下ろすと、シンディに尋ねた。

「シンディ、サイズの小さい着替え調達できないか?流石に俺らのじゃ無理だ。」



 シンディは僕をマジマジと見つめると、テーブルに皿を置くなり手をワキワキさせながら、満面の笑みを浮かべて僕に近づいて来た。

「ちょっと触らせて?実際どれくらい細いのか触ってみないと、誰のを借りていいか分からないもの。」

僕は手が皿で塞がっていて、逃れるタイミングを失ってしまった。気がつけばシンディに腰を両手で掴まれていた。

「ちょ、ふふっ!くすぐったいって、あ、やめてっ!」

シンディの鼻息が妙に荒い気がするけど、彼女はにっこり微笑んで言った。

「んー、本当ディーって可愛いわよね?大体分かったから、後で孔雀辺りにスペアの騎士服借りてくるわ。彼女なら背は高くても細いから合いそう。」


 思いっきりセクハラされた気がしないでも無いけど、僕はお願いしますと、ようやくテーブルに皿を置いてひと心地ついた。目の前のゲオルグが、眉を顰めてニヤついているシンディを睨んでいる。

「ディー、気をつけろ?シンディは草食だが、肉食だ。」

するとシンディはニッコリ微笑んで、フォークに人参のグラッセを刺して口に放り込んだ。

「私は可愛いものが好きなだけよ。ディーは可愛いだけじゃ無くて、サラサラの髪も綺麗だし、ぱっちりした緑色の瞳も素敵だし、何よりなんて言うか、とっても良い匂いがするわ。仲良くしてね?ディー。」

僕は男なのに女子からこんなに可愛いと言われて、嬉しいような悲しいような複雑な気持ちで苦笑いを浮かべた。


 「それよりさっきのディーの詩は、あれは何をテーマにしたものなんだ?」

そうゲオルグに聞かれて、僕は昼前に参加出来た授業を思い出した。いきなり詩の創作の授業だった。また随分とピンポイントだと思ったのだけど、先生曰くは、立派な詩が書けないと、社交で軽んじられると言う話だった。

教養とかその手の話なのだろうか。貴族やそれに準ずる階級の子供たちが多いって事なのかな。僕はこの世界の詩が一体どんなものか分からなかったので、先生の詩を参考に適当に作った。


 皆の詩が次々に発表されて行く中、どう考えても僕の詩は斬新すぎる気がした。と言うか、皆の詩が恋の歌ばかりだったから、僕の詩はそぐわない気がしたんだ。

書き直そうとしていたら、先生が僕にも発表を求めたので、しょうがなく適当に書いた詩をお披露目する羽目になってしまった。

シンディがウットリとしながら僕の詩を暗唱した。

「『今か今かと白を切り裂くのを待つ日々の、太陽と月の巡りに足跡深くなり、ついにはそれを心飛び跳ねて見たりか』ロマンチックな感じよね?白を切り裂くって、やっぱりそう言う意味なんでしょ?」


 いやいやどう言う意味なの?僕はミルの事をちょっと詩的に書いてみただけなのに、先生が絶賛してくれちゃったから、魔物のミルの事だって言えなくなっちゃったんだよ。

僕はミートボール風の肉団子をフォークに刺して口に放り込むと、皆の視線が僕の言葉を待っているのを感じて、諦めて言った。

「シンディ、良く暗記したね…。言っとくけど、その詩のテーマはミルだよ。だから全然ロマンチックじゃ無いんだ。」


 僕の返事に、同じテーブルについていたクラスメイトたちが顔を見合わせて、それから戸惑う様な表情を浮かべた。するとゲオルグが眉を顰めて尋ねて来た。あれ、シンディが口をパカンと開けてるよ。

「…ミルって、あの魔物のミルか?」

僕は頷くと、パンが硬すぎると顔を顰めながら解説した。


 「うん。あのミル。僕の家の庭にミルが居てね?ちっちゃな頃から育ててるんだけど、あれってかなり大きくならないと目を開けないんだよ。で毎日いつ開くのかなって見に行くものだから足跡がミルの側に着いちゃってね。

それでとうとうある日ミルの目が開いたんだけど、よく考えたら僕あのひとつ目が怖くって。見た途端びっくりして飛び上がって逃げ出したって話を詩にしただけなんだ。

ふふふ、先生が素晴らしい恋の詩だって言ってくれたから、今更ミルの事なんですって言えなくって。内緒にしてね?」


 するとゲオルグたちは咳払いをしながら、笑いを堪えている。あからさまに笑わないのは育ちが良いのかな。シンディはショックを受けた様子で、僕を悲しげに見つめながら口や手は休みなしに動いている。めちゃくちゃ食べるな。

「すげぇ。俺も今度その手で行こう。いつも愛の詩を書くのかったるかったんだ。流石にネタも尽きてきたし。ディー、お前最高だな。俺、アガードだ。」

そう身を乗り出して僕に言って来たのは、ゲオルグの隣に座った耳の尖った男子だった。丸い耳が覗いた、金混じりの茶色い長めの髪を無造作になでつけているゲオルグとは対照的に、銀髪混じりの短髪を逆立てている。フサフサの尻尾を盛んに動かしてるから、犬系かな、ふふ。


 結局、愛の詩には困っていると言う皆の愚痴の言い合いを、僕は楽しく聞きながらランチタイムは終了した。午後の授業が始まる前に、シンディが僕に手渡してくれたのは騎士服の様なワンセットだった。女性ものも、男性ものも、そこまで違いが無いらしくて、あるとすれば種族の体型の違いらしい。

僕は有り難くそれを受け取ると、男子ばかりの更衣室でそれを着替えた。初めて着る騎士服は、妙にぴっちりとした伸びの良いネット状のアンダーウェアを着る。僕はゲオルグを参考に上半身裸になると、それを頭から被った。

腕を入れたは良いけれど、そこから身動き出来なくなった。ぴっちりにも程がある。それともサイズが合わないのかな。


 僕がもがいていると、隣で着替えていた多分ゲオルグがグイと引っ張り下ろしてくれて、ようやく顔が出た。サイズは合ってないわけじゃないみたいだけど、僕に力が無いだけなのかな…。

ゲオルグの身体に張り付いた網状のアンダーウェアを眺めながら、僕は首を傾げた。

「ねぇ、この服ってどんな意味があるのかな。汗を吸収するわけでも無さそうだし、スケスケだし。」

そう言ってチラチラと僕の方を見てくる他のクラスメイトの視線を気にしていると、ゲオルグが顰めっ面して言った。

「さっさと上着着ろよ。…目に毒だ。これは万が一剣先が身体に触れても切れないようにする為のものだ。こう見えて簡単に破れたりしない。」
 

 僕はゲオルグに急き立てられるままに、慌てて騎士服を着込んだ。少し胸周りが余るけど、身体に沿って中々のフィット感だ。お尻に尻尾穴があるのは不可抗力だけど、流石に文句は言えない。上着で隠れると良いな…。

僕とゲオルグ達が連れだって更衣室を出て競技場へ向かうと、大きく手を振りながらシンディが待っていた。

「…あいつがあんな馬鹿みたいにはしゃぐの見た事ないぜ。」

僕が笑って手を振り返すと、ゲオルグがやっぱり眉を顰めて僕を見下ろした。あれ?もしかしてゲオルグってシンディに気があるのかな?僕ってお邪魔虫?ふふ。








 




















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