竜の国の人間様

コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26

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僕の居場所

ポーション下さい

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 パーカスの腕の中から下ろしてもらった僕は、ウキウキしながら自分で歩き出した。熊獣人のダグラスの家は、お屋敷という方が合っている。実はあまり信じていなかったんだけど、このお屋敷を眺めると、ダグラスがこの辺境の街の領主と言うのも信憑性が出て来た。

 あの大きな街のブレーベルの領主、竜人のブレートさんのお屋敷とは方向性の違う、けれども豪勢な屋敷だ。気取った所は無いけれど、細かなところまで素材の良さが全体を上品にしている。ダグラスのくせに。

 確かにダグラスはやり手の実業家だけど、かなりのお金持ちなんだろうな。


 僕がそんな下世話な事を考えながらキョロキョロしていると、面倒見の良さそうな爺やと婆やが迎えてくれた。ダグラスに丁寧な物言いをしているので、執事的な役回りの獣人かな。角がクルクル回ってるから彼らは羊獣人かもしれない。

 二人とも僕に目をやると、途端に顔を皺にして嬉しそうに言った。

「ダグラス様、とうとう噂の可愛い子を連れて来てくださったのですね。坊やこちらへいらっしゃいな。美味しいおやつをあげましょうね。あらワタ虫。それは帰るまでこちらで預かっておきましょうね。」


 ダグラスは呆れた様に二人を眺めて、これから薬師に会うのだと言った。おやつは近くのテラスへ運びますと、婆やは奥へ引っ込んだ。僕らはダグラスに引き連れられて、薬師の仕事部屋へと到着した。

 想像では何か実験室の様なイメージだったけれど、実際は色々な薬草と魔石、そして金属製のすり鉢の様なボウルがあるだけだった。ダグラスがパーカスに、棚に並んだピンク色の液体の入ったガラス瓶を一本渡すと、パーカスが僕の方を向いて言った。


 「テディ、これを飲みなさい。」

 僕はいかにもなポーションを見つめながら考えていた。

「ぱーかちゅ、こえ、おとなもころももいっちょ?」

 するとパーカスは頷いた。

「ああ、身体に合った効き方をするのじゃよ。もし効かなければ大人はもう一本飲むかもしれんな。テディはこれ一本でスッキリ治るじゃろう。早めに傷が治りそうでよかったわい。」


 僕は飲み過ぎ注意は無さそうだと思いながら、パーカスが僕の口元に運んでくれたポーションをコクコクと喉に流し込んだ。ふむ、不味くはない。と言うかあまり味がしない。本当に効き目があるのかな、これ。

 飲み終わって少しすると、あの虫に咬まれた場所がムズムズして来た。

「ぱーかちゅ!なんか、かゆぃ!かいちぇ!」

 僕の短い手じゃ上手く掻けない。僕が肩を動かしながら首を捻って痒みの発生するそこを見ようとしたけれど、上手くいかない。するとパーカスが僕のブラウスを脱がして、その場所を見てくれた。


 「ほお、テディ。すっかり傷が治ってるぞ?少し赤みがあるだけじゃ。よく効いたようじゃのう。」

 確かにあんなにズキズキしたはずなのに、痒かったアトは痛みを感じなくなっていた。あれほどの痒みも瞬間的なもので、今は治っている。凄い!ポーションって最高だなぁ。もうちょっと苦いとかの方がご利益を感じそうだけど、飲みやすくて効きも良いって本当ポーションさまさまだ。

「ぽーちょん、ちゅごいねー?しゃる、のまちぇてぇ?」

 僕のその言葉を皮切りに、ダグラスが慌てて薬師に虹色魔石でポーションを作る様に頼んでいた。魔石を見て目を見開いた薬師が、緊張した様子で魔法陣の上のすり鉢の中に虹色魔石を置くとブツブツと何か唱えた。途端にドロリと魔石が溶けた。

 薬師が薬草の粉を何種類か入れると、柔らかな金色になった液体が出来上がった。トロリとしたその液体は、水が加えられて三本の瓶に分けて詰められると、ぎゅっと蓋がされてほのかに光るポーションが出来上がった。


 「いや、流石に緊張しました。こんな貴重な魔石で失敗は出来ませんからね。でもこれはよく効きますよ。さぁシャル様に飲ませてあげて下さい。」

 そう、尻尾のふさふさな多分狐族の薬師が言うと、ダグラスは慌てて三本のポーションが入った箱を持って部屋を出て行った。僕はそんなダグラスを見送りながら、珍しい薬師の道具、今は光っていない魔法陣を見に近づいた。

「こえ、ピカピカちてた。まほうちん?ぬにょ?」

 近くで見ると、その魔法陣はしっかりした布の様なものに描かれていた。


 薬師のおじさんは僕を見てにっこりすると、すり鉢を綺麗に拭き取りながら話してくれた。

「そうです。これは特殊な繊維で織った布に魔法陣を写したものです。私の様にあちこちで薬師の仕事をする者には欠かせない道具なのですよ。幼な子のあなたには光って見えましたか?魔法の感受性が高いのかもしれませんね。」

 そう言うと、パーカスをチラッと見上げた。パーカスは咳払いをすると、丁度婆やがテラスに用意してくれたおやつを食べようと僕の手を繋いで歩き出した。


 僕はもっと異世界ファンタジーの薬師さんの話を聞きたかったけれど、何となくパーカスがあまり快く思っていない気がしたので、諦めておやつを食べた。

 婆やの出してくれたおやつは、初めて食べる物だった。餅っぽい、ほんのり甘くて伸びるそれは、口の中でふわりと蕩けた。

「こえ、にゃに?ぼく、ちゅき!」

 すると婆やがニコニコして言った。

「まぁまぁ、これはミルを使ったおやつ、コロロですよ。ココの実を粉にしたもので練って作るんです。」


 なるほど、ミルク味の求肥という感じ?僕がもう一つ手に取って伸びる感触を楽しんでいると、パーカスが言った。

「コロロは普段中々お目に掛かれないのう。この様によく伸びる上手いコロロを作れる者が少ないからの。ダグラスは婆やが居て幸せ者じゃ。」

 僕はパーカスの言葉を聞いて、婆やに言った。

「ぼく、ちゅくる!こんろ、にゃらう!」

 すると、婆やと薬師さんは小さな子供の冗談だと思ったのか楽しげに笑ったけれど、パーカスは僕をジトリと見た。そう、僕はこの幼児としてコロロ作りを習うなんて、ひと言も言ってないからね?

 身体を大きくした時に習いに来よう。ふふふ、餅もどきがこの世界で食べられるならどんな手も使うよ。


 暫くすると爺やが僕たちの所にやって来て、薬師さんを呼びに来た。シャルの診察をするみたいだ。シャルは元気になったんだろうか。

 僕とパーカスがテラスから見える、色鮮やかな花々の咲き誇る見晴らしの良い庭を眺めていると、ダグラスとシャルがやって来た。以前より少し痩せたシャルは、それでもポーションが効いたのか顔色が良くて、表情も穏やかだった。

「しゃる!げんきなっちゃ!?」

 ソファにゆったりと座ったシャルの側に、僕が思わず立ち上がって寄っていくと、シャルは僕の顔を見下ろして微笑んだ。

「テディありがとう。テディの虹色魔石を私のためにくれたと聞いて、どんなに有り難かったか。今は久しぶりに良い気分なんだ。凄い効果だよ。これもテディのおかげだね。」


 何だか以前より壮絶というくらい美人に拍車が掛かったシャルに微笑まれて、僕は思わずぼーっと見惚れてしまった。丸い耳が、美しい金色のサラリとした髪から覗いてるのがギャップ萌えだ。

「…しゃる、きえい。」

 僕が思わずそう言うと、シャルの隣に座ったダグラスが僕を膝の上に抱き上げて、顔を覗き込んで言った。

「テディ、ありがとな。こんなに顔色の良いシャルは久しぶりだ。俺も心配で眠れなかったんだ。ははは、シャルが綺麗なのは前からだが、最近は確かにもっと綺麗だ。テディも見る目があるな!」


 耳元でドラ声を捲し立てられた僕は顔を顰めると、ダグラスの腕からイヤイヤと逃れて、膝からスルリと降りてパーカスの所まで戻った。

「ぱーかちゅ、らっこ。だぐらちゅ、うるちゃい。」

 僕が両耳に手を当てて首を振ると、なぜか皆が可笑しそうに笑った。いや、マジで声デカいし。パーカスの方がマシだし。ねぇ?



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