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王都
王都入場
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結果的に僕の危惧は問題なかった。それよりも奥から獣人騎士のお偉方がやって来て、緊張を滲ませながらパーカスに最敬礼した事にビックリしてしまった。パーカスはこっそりため息をつきながらお偉方に耳打ちすると、無事乗り合い鳥車は王都の門の中へ入る事が出来た。
同席の若者達は僕らを目を丸くして見つめていたけれど、今度はなぜかひと言も口を利かなかった。僕はさっきの獣人騎士のお偉方の対応を思い出してパーカスに尋ねた。
「ぱーかちゅ、ちゃっきのちと、ちりあい?」
するとパーカスは降りる準備をしながら、肩をすくめた。
「まぁ、昔の教え子という感じじゃな。ほれ、私は長生きじゃからの。そろそろ停車場じゃ。ここからはのんびり歩いて行こうかの。」
人が多いという理由で、僕は相変わらずパーカスに抱っこされて街を歩き進んだ。さすが王都は獣人だけじゃなく、ちらほら竜人も見かける。彼らは一様にパーカスに目をやると少し驚いた表情で目を見開いた後、腕の中の僕に気づくと口までポカンと開けるのがまるで同じ反応で、いい加減僕も飽きて来た。
「ぱーかちゅ、ゆぅーめいじん?」
僕がパーカスの肩に掴まりながら尋ねると、パーカスはニヤリと不敵な笑みを浮かべて首を傾げた。
「どうじゃろうな。隠居した私の事などとっくに忘れてしまったじゃろう。」
僕はパーカスを埴輪目でジトっと見つめながら、絶対嘘だと思っていた。同時にこれだけパーカスが有名だとすると、僕の事も噂されるのではないかと不意に心細さが襲って来た。僕は人体実験の対象になりたくないんだけど!
そう考えると周囲を見るのも怖い気がして、パーカスの肩に頭を押し付けて小さく丸まった。少しでも目立たない様にしよう。そんな僕たちに誰かが声を掛けてきた。
「パーカス殿、遠路はるばる王都への帰還喜ばしく存じ上げます。」
ん?何処かで聞いた様な声だな…。恐る恐る顔を上げて声の方を見ると、そこには数人の騎士達がいた。そして声を掛けてきた竜人の騎士には見覚えがあった。
「…おかちのちと。」
僕は知った顔の、しかも珍しいお菓子を送ってくれる青い髪の竜人の騎士を目の前にして、正直ホッとした。少なくとも王都に顔見知りが居る事に気づいたからだ。
僕は思わずお菓子の美味しさも思い出して、にんまり微笑んでしまった。すると目が合った青い髪の騎士は、瞳の色を目まぐるしく変化させた。一瞬虹色に見えたけれど気のせいだろうか。それからどこか苦しげな表情で口を一文字に結ぶと、大きく深呼吸して僕からパーカスに目を移して掠れた声で言った。
「これからどちらへいらっしゃいますか。明日以降で結構ですので、是非王宮へ顔を出して欲しいとの王よりの依頼がございます。…幼い養い子をお連れですので、私共も是非護衛も兼ねてお供いたします。」
うん?護衛?そういえばあの時も、虎獣人のロバートが護衛してくれたね。ここは子供が拐われたりする危険な世界なんだろうか。僕が眉間を顰めて考え込んで居ると、パーカスの苛立った声がした。
「全く、大袈裟にも程がある。王に伝えよ。しばらくは参らぬと。私もあれこれ忙しいのじゃ。塔の長老に先に会う約束があるからの。」
塔の長老?はて、初耳だけど、なんかファンタジー色が増してきた!僕は自分が狙われているのかもしれないという、さっきまでの考えを放り出してパーカスに尋ねた。
「ちょうろー?ぱーかちゅ、だれ?ぼく、いきゅ!あちた?」
するとパーカスは見るからにしまったという表情で僕を見た。あ、もしかしてこっそり行くつもりだったのだろうか。僕は眉間に皺を寄せてパーカスをじっと見た。
「あー!?ぱーかちゅ、ぼく、いっちょいく!じぇったい!」
背後からクスクス笑う声が聞こえて、僕とパーカスはすっかり騎士達の事を忘れていた事に気づいた。青い騎士は唇を食いしばっていたけれど、後ろの獣人の騎士達は堪えきれずにむせこんでいた。
きっと僕の舌たらずな言い方を笑ったんだ。僕は羞恥心と悔しさでますます意固地になった。こうなったら、絶対塔の長老なるお爺さんに会いにいくもんね。
するとパーカスは諦めたように僕の背中を撫でながら言った。
「テディ、そう怒るな。しょうがない。連れて行く気は無かったが、こうなっては一緒に行くしかないのう。…それより、そう何人も一緒にゾロゾロ歩かれたら、こっちも窮屈で敵わん。…護衛は一人だけで結構じゃ。さて、行かせてもらうぞ。」
そう言ってさっさと歩き出した。僕はパーカスの肩越しに後ろの三人の騎士を眺めていたけれど、青い騎士が慌てて僕らの後を追って来た。
「おかちのちと、きちゃよ?」
僕が小声でパーカスに教えると、パーカスはやっぱり不機嫌な声で呟いた。
「…だろうて。テディ、絵本を譲ってくれたのは護衛をしてくれるバルトじゃよ。礼を言っておきなさい。」
僕は目を見開いた。まさかニコリともしないで後ろから着いてくる竜人の騎士が、あの絵本を譲ってくれたなんて考えもしなかった。確かに本の中の紋章の様なものは青い龍のモチーフだった。あれが家紋だとすれば、随分貴重な本だったんじゃないだろうか。
「…ばるとしゃん、えほんちょ、おいちいおかち、ありがとうごじゃいまちた。ぼく、えほん、よめる、なったの!」
側に来た青い騎士にそう声をかけると、真剣に僕の言葉を解読していたバルトさんは酷く嬉しげに僕に笑いかけて言った。
「…喜んでもらえて良かった。テディは文字がもう読めるのかい?それは凄い。あの絵本は私も気に入って大事にしていたものなんだよ。また今度別の絵本もあげよう。」
ん?なんか人が変わった様に表情が緩むのを見て、僕はこの竜人は掴みどころがないなと思った。でも僕にこれまで色々貢いでくれているのは確かだし、よっぽど最初に会った時の僕への態度を反省してるのかと、それはそれで申し訳ない気持ちになった。
「ばるとしゃんとぼく、もうなかよち、ねー?」
そう僕が言うと、バルトさんは目尻を赤くして黙って頷いた。嬉しそうだ。もしかしてこの強面の騎士は、僕の信奉者になったのでは?ああ、可愛いって罪だ…!そう思ってほくそ笑んでいると、パーカスが咳払いしたので僕はパーカスの顔を覗き込んだ。
「…テディ、何か食べるか?何が良いかの?」
農家でパンケーキを山の様に食べたから、まだそんなにお腹空いてないけど…。僕はやれやれと思いながらパーカスの好きそうな魔肉料理を言った。ああ、でも急に僕もお腹空いてきちゃった。王都の料理はきっと凄く美味しいんじゃ無いかな?楽しみ!
同席の若者達は僕らを目を丸くして見つめていたけれど、今度はなぜかひと言も口を利かなかった。僕はさっきの獣人騎士のお偉方の対応を思い出してパーカスに尋ねた。
「ぱーかちゅ、ちゃっきのちと、ちりあい?」
するとパーカスは降りる準備をしながら、肩をすくめた。
「まぁ、昔の教え子という感じじゃな。ほれ、私は長生きじゃからの。そろそろ停車場じゃ。ここからはのんびり歩いて行こうかの。」
人が多いという理由で、僕は相変わらずパーカスに抱っこされて街を歩き進んだ。さすが王都は獣人だけじゃなく、ちらほら竜人も見かける。彼らは一様にパーカスに目をやると少し驚いた表情で目を見開いた後、腕の中の僕に気づくと口までポカンと開けるのがまるで同じ反応で、いい加減僕も飽きて来た。
「ぱーかちゅ、ゆぅーめいじん?」
僕がパーカスの肩に掴まりながら尋ねると、パーカスはニヤリと不敵な笑みを浮かべて首を傾げた。
「どうじゃろうな。隠居した私の事などとっくに忘れてしまったじゃろう。」
僕はパーカスを埴輪目でジトっと見つめながら、絶対嘘だと思っていた。同時にこれだけパーカスが有名だとすると、僕の事も噂されるのではないかと不意に心細さが襲って来た。僕は人体実験の対象になりたくないんだけど!
そう考えると周囲を見るのも怖い気がして、パーカスの肩に頭を押し付けて小さく丸まった。少しでも目立たない様にしよう。そんな僕たちに誰かが声を掛けてきた。
「パーカス殿、遠路はるばる王都への帰還喜ばしく存じ上げます。」
ん?何処かで聞いた様な声だな…。恐る恐る顔を上げて声の方を見ると、そこには数人の騎士達がいた。そして声を掛けてきた竜人の騎士には見覚えがあった。
「…おかちのちと。」
僕は知った顔の、しかも珍しいお菓子を送ってくれる青い髪の竜人の騎士を目の前にして、正直ホッとした。少なくとも王都に顔見知りが居る事に気づいたからだ。
僕は思わずお菓子の美味しさも思い出して、にんまり微笑んでしまった。すると目が合った青い髪の騎士は、瞳の色を目まぐるしく変化させた。一瞬虹色に見えたけれど気のせいだろうか。それからどこか苦しげな表情で口を一文字に結ぶと、大きく深呼吸して僕からパーカスに目を移して掠れた声で言った。
「これからどちらへいらっしゃいますか。明日以降で結構ですので、是非王宮へ顔を出して欲しいとの王よりの依頼がございます。…幼い養い子をお連れですので、私共も是非護衛も兼ねてお供いたします。」
うん?護衛?そういえばあの時も、虎獣人のロバートが護衛してくれたね。ここは子供が拐われたりする危険な世界なんだろうか。僕が眉間を顰めて考え込んで居ると、パーカスの苛立った声がした。
「全く、大袈裟にも程がある。王に伝えよ。しばらくは参らぬと。私もあれこれ忙しいのじゃ。塔の長老に先に会う約束があるからの。」
塔の長老?はて、初耳だけど、なんかファンタジー色が増してきた!僕は自分が狙われているのかもしれないという、さっきまでの考えを放り出してパーカスに尋ねた。
「ちょうろー?ぱーかちゅ、だれ?ぼく、いきゅ!あちた?」
するとパーカスは見るからにしまったという表情で僕を見た。あ、もしかしてこっそり行くつもりだったのだろうか。僕は眉間に皺を寄せてパーカスをじっと見た。
「あー!?ぱーかちゅ、ぼく、いっちょいく!じぇったい!」
背後からクスクス笑う声が聞こえて、僕とパーカスはすっかり騎士達の事を忘れていた事に気づいた。青い騎士は唇を食いしばっていたけれど、後ろの獣人の騎士達は堪えきれずにむせこんでいた。
きっと僕の舌たらずな言い方を笑ったんだ。僕は羞恥心と悔しさでますます意固地になった。こうなったら、絶対塔の長老なるお爺さんに会いにいくもんね。
するとパーカスは諦めたように僕の背中を撫でながら言った。
「テディ、そう怒るな。しょうがない。連れて行く気は無かったが、こうなっては一緒に行くしかないのう。…それより、そう何人も一緒にゾロゾロ歩かれたら、こっちも窮屈で敵わん。…護衛は一人だけで結構じゃ。さて、行かせてもらうぞ。」
そう言ってさっさと歩き出した。僕はパーカスの肩越しに後ろの三人の騎士を眺めていたけれど、青い騎士が慌てて僕らの後を追って来た。
「おかちのちと、きちゃよ?」
僕が小声でパーカスに教えると、パーカスはやっぱり不機嫌な声で呟いた。
「…だろうて。テディ、絵本を譲ってくれたのは護衛をしてくれるバルトじゃよ。礼を言っておきなさい。」
僕は目を見開いた。まさかニコリともしないで後ろから着いてくる竜人の騎士が、あの絵本を譲ってくれたなんて考えもしなかった。確かに本の中の紋章の様なものは青い龍のモチーフだった。あれが家紋だとすれば、随分貴重な本だったんじゃないだろうか。
「…ばるとしゃん、えほんちょ、おいちいおかち、ありがとうごじゃいまちた。ぼく、えほん、よめる、なったの!」
側に来た青い騎士にそう声をかけると、真剣に僕の言葉を解読していたバルトさんは酷く嬉しげに僕に笑いかけて言った。
「…喜んでもらえて良かった。テディは文字がもう読めるのかい?それは凄い。あの絵本は私も気に入って大事にしていたものなんだよ。また今度別の絵本もあげよう。」
ん?なんか人が変わった様に表情が緩むのを見て、僕はこの竜人は掴みどころがないなと思った。でも僕にこれまで色々貢いでくれているのは確かだし、よっぽど最初に会った時の僕への態度を反省してるのかと、それはそれで申し訳ない気持ちになった。
「ばるとしゃんとぼく、もうなかよち、ねー?」
そう僕が言うと、バルトさんは目尻を赤くして黙って頷いた。嬉しそうだ。もしかしてこの強面の騎士は、僕の信奉者になったのでは?ああ、可愛いって罪だ…!そう思ってほくそ笑んでいると、パーカスが咳払いしたので僕はパーカスの顔を覗き込んだ。
「…テディ、何か食べるか?何が良いかの?」
農家でパンケーキを山の様に食べたから、まだそんなにお腹空いてないけど…。僕はやれやれと思いながらパーカスの好きそうな魔肉料理を言った。ああ、でも急に僕もお腹空いてきちゃった。王都の料理はきっと凄く美味しいんじゃ無いかな?楽しみ!
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