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竜人の養い子
お疲れ様でちた
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僕は今、パーカスの手の中に握られて空を飛んでいる。はたから見れば、ドラゴンに攫われた幼児にしか見えないだろう。いや、実際に僕もこの現実に只々度肝を抜かれていて、何も考えられないんだ。
パーカスの指?鉤爪の間から見える眼下の光景は、街に出かけた時にダダ鳥のバッシュと一緒に駆け抜けた山なんだろう。パーカスは疲れたからと、さっさと帰ることにしたらしかった。
目の前でドラゴンというか大きな黒い竜に変化した時は、開いた口が塞がらなかった。熊獣人のダグラスが以前パーカスに『いつもなら飛んでくる』って言ったのは、この事だったのだと妙に納得した。
【テディ、私の手の中に入るのじゃ。】
そう頭の中に響く声に追い立てられて、僕は竜の手の上に乗り上がった。するとそっと握られて、まるで僕専用の檻の様だと思った次の瞬間、ブワッと舞い上がった土埃と一緒に僕は空に浮かび上がっていた。
少し離れた場所に集まっている獣人達が、僕らに手を振ってくれている。彼らにとってはパーカスのこの姿は見慣れた物なんだろう。
僕が驚きに慣れて、この空中飛行を楽しみ始めた頃、切り取った様な野原にポツンと建っている、見慣れたパーカスの家が目に飛び込んできた。こうしてみるとこの家の場所は妙に違和感がある。自然の中に突然現れたという感じだ。
上から見下ろすとあの高い柵はぼんやりと滲む様に見えた。なぜくっきり見えないんだろうか。僕が目を擦ったその時、大きな羽ばたきの音が響いて、ゆっくりと、いや、体感的にはジェットコースターの落下のスピードだったけど、地面が近づいてきた。
思わずぎゅっと目を瞑っていた僕の頭の中に心配そうなパーカスの声が響いた。
【大丈夫か?テディ。歩けそうか?】
気が付けば地面につけた竜の手がゆっくりと開いて、僕は少しふらつく身体でしゃがみ込んだまま、這う様にパーカスの鉤爪の上を滑り降りた。パーカスが座り込んだ僕と十分な距離を取って離れると、パーカスはあっという間に竜から人型になった。
それはジェシーの猫から人型になった時と同じ、僕には驚くべき変容だった。しかもパーカスは変容しても全裸では無かった。最初に見た時の様に、まるで仙人の様だと思ったあの姿だった。
「…ぱーかちゅ、ちゅごい!くおいりゅう!かこいい!」
自分の中で消化しきれない出来事が起こると、言えることなど大して無い。僕はパーカスの顔に疲れが見えたのに気づくと、家を指差して言った。
「ぱーかちゅ、ちゅかれた、ねー?ねんねちゅるねー?」
するとパーカスは面白そうに笑って僕を抱き上げると家に入って行った。僕は湯浴みにパーカスを押し込むと、台所へ行って足元の籠の中から直ぐに食べられそうな果物を選んで、背伸びしてテーブルに並べた。
他に僕の出来そうな事は…。僕は棚に置いてある綺麗な箱の中から、王都からの定期便、木の実のパウンドケーキを取り出すと、それもテーブルに置いた。あのケーキはカロリーが高そうだから、良い食事代わりになるだろう。
「テディ、食事の用意をしてくれたのかの?ありがとう。」
長いガウンの様な服を着たパーカスが髪を濡らして戻って来た。パーカスは葡萄酒をゴブレットに注ぐと、僕の木のコップにミルを汲んでくれた。
それから保管箱から取り出した魔肉の燻製をナイフで何枚かそぎ落とすと皿に並べた。ついでにケーキを切って、僕にも木の皿に載せてくれた。僕は昨日食べたけどね。でも美味しいからまた食べても良いよ。
僕が並べた果物をひとつ持ち上げると、ニヤリと笑って言った。
「これはテディの好きなノラの実だけど私が食べてもいいのかの?」
僕はコクリと頷いて言った。
「ちょれ、げんきもりもり、なりゅ。ぱーかちゅたべりゅ。」
アイスクリーム味の木の実は僕の大好物だけど、あの濃厚さは栄養満点だと感じた。疲れたパーカスが食べる方が良い。するとパーカスはにっこり微笑んで言った。
「ありがとう、テディ。でもこの木の実は中々手に入らないのじゃよ。これが最後のひとつじゃが…。フォホホ、では半分こしようかの?」
僕は最後のひとつと聞いて、思わずじっとノラの実を見てしまった。口から涎を垂らしている僕を見て、笑いが止まらないパーカスに結局半分こしてもらった僕は、コントロールできないこの身体に辱められている。
しかしノラの実は一体何処に行けば手に入るのかな?
結局早目の夕食を終えた僕らは、早々に寝床についた。パーカスも竜人と言えどもご老体だから、久しぶりの大捕物にお疲れだったのだろう。いびきをかきはじめた。
流石に煩くて、僕はベッドからゴソゴソと滑り降りると毛布を片手に談話室のソファに転がった。外はすっかり暗くなっていた。ぼんやりしながら何気なく真っ暗な外を眺めていると、だんだん目が慣れて外の景色がうっすらと見える様になった。
すると家を囲む柵から何かぼんやりしたものが放出されていていて、それがドームの様にこの家全体を覆っている様に感じた。その時、何かが近づいてくる気配に気がついた。
僕は緊張してそれが何なのか知ろうと目を凝らした。何かヤバいものだったら疲れたパーカスを起こさないといけない。それは遠くに感じたけれど、不意に地上へ降り立った気がした。今、空から降りて来た?鳥だろうか。
でもそれはゆっくりと時間を掛けて柵のそばまで近づいた。その時僕はすっかり暗闇に慣れた目で、それが何か分かってしまった。あの人だ。二つの半月が朧げに照らしたのは青い髪の竜人の騎士だった。
何で定期便のあの人が?僕は起き上がるとゆっくりと窓辺に近づいた。
パーカスの指?鉤爪の間から見える眼下の光景は、街に出かけた時にダダ鳥のバッシュと一緒に駆け抜けた山なんだろう。パーカスは疲れたからと、さっさと帰ることにしたらしかった。
目の前でドラゴンというか大きな黒い竜に変化した時は、開いた口が塞がらなかった。熊獣人のダグラスが以前パーカスに『いつもなら飛んでくる』って言ったのは、この事だったのだと妙に納得した。
【テディ、私の手の中に入るのじゃ。】
そう頭の中に響く声に追い立てられて、僕は竜の手の上に乗り上がった。するとそっと握られて、まるで僕専用の檻の様だと思った次の瞬間、ブワッと舞い上がった土埃と一緒に僕は空に浮かび上がっていた。
少し離れた場所に集まっている獣人達が、僕らに手を振ってくれている。彼らにとってはパーカスのこの姿は見慣れた物なんだろう。
僕が驚きに慣れて、この空中飛行を楽しみ始めた頃、切り取った様な野原にポツンと建っている、見慣れたパーカスの家が目に飛び込んできた。こうしてみるとこの家の場所は妙に違和感がある。自然の中に突然現れたという感じだ。
上から見下ろすとあの高い柵はぼんやりと滲む様に見えた。なぜくっきり見えないんだろうか。僕が目を擦ったその時、大きな羽ばたきの音が響いて、ゆっくりと、いや、体感的にはジェットコースターの落下のスピードだったけど、地面が近づいてきた。
思わずぎゅっと目を瞑っていた僕の頭の中に心配そうなパーカスの声が響いた。
【大丈夫か?テディ。歩けそうか?】
気が付けば地面につけた竜の手がゆっくりと開いて、僕は少しふらつく身体でしゃがみ込んだまま、這う様にパーカスの鉤爪の上を滑り降りた。パーカスが座り込んだ僕と十分な距離を取って離れると、パーカスはあっという間に竜から人型になった。
それはジェシーの猫から人型になった時と同じ、僕には驚くべき変容だった。しかもパーカスは変容しても全裸では無かった。最初に見た時の様に、まるで仙人の様だと思ったあの姿だった。
「…ぱーかちゅ、ちゅごい!くおいりゅう!かこいい!」
自分の中で消化しきれない出来事が起こると、言えることなど大して無い。僕はパーカスの顔に疲れが見えたのに気づくと、家を指差して言った。
「ぱーかちゅ、ちゅかれた、ねー?ねんねちゅるねー?」
するとパーカスは面白そうに笑って僕を抱き上げると家に入って行った。僕は湯浴みにパーカスを押し込むと、台所へ行って足元の籠の中から直ぐに食べられそうな果物を選んで、背伸びしてテーブルに並べた。
他に僕の出来そうな事は…。僕は棚に置いてある綺麗な箱の中から、王都からの定期便、木の実のパウンドケーキを取り出すと、それもテーブルに置いた。あのケーキはカロリーが高そうだから、良い食事代わりになるだろう。
「テディ、食事の用意をしてくれたのかの?ありがとう。」
長いガウンの様な服を着たパーカスが髪を濡らして戻って来た。パーカスは葡萄酒をゴブレットに注ぐと、僕の木のコップにミルを汲んでくれた。
それから保管箱から取り出した魔肉の燻製をナイフで何枚かそぎ落とすと皿に並べた。ついでにケーキを切って、僕にも木の皿に載せてくれた。僕は昨日食べたけどね。でも美味しいからまた食べても良いよ。
僕が並べた果物をひとつ持ち上げると、ニヤリと笑って言った。
「これはテディの好きなノラの実だけど私が食べてもいいのかの?」
僕はコクリと頷いて言った。
「ちょれ、げんきもりもり、なりゅ。ぱーかちゅたべりゅ。」
アイスクリーム味の木の実は僕の大好物だけど、あの濃厚さは栄養満点だと感じた。疲れたパーカスが食べる方が良い。するとパーカスはにっこり微笑んで言った。
「ありがとう、テディ。でもこの木の実は中々手に入らないのじゃよ。これが最後のひとつじゃが…。フォホホ、では半分こしようかの?」
僕は最後のひとつと聞いて、思わずじっとノラの実を見てしまった。口から涎を垂らしている僕を見て、笑いが止まらないパーカスに結局半分こしてもらった僕は、コントロールできないこの身体に辱められている。
しかしノラの実は一体何処に行けば手に入るのかな?
結局早目の夕食を終えた僕らは、早々に寝床についた。パーカスも竜人と言えどもご老体だから、久しぶりの大捕物にお疲れだったのだろう。いびきをかきはじめた。
流石に煩くて、僕はベッドからゴソゴソと滑り降りると毛布を片手に談話室のソファに転がった。外はすっかり暗くなっていた。ぼんやりしながら何気なく真っ暗な外を眺めていると、だんだん目が慣れて外の景色がうっすらと見える様になった。
すると家を囲む柵から何かぼんやりしたものが放出されていていて、それがドームの様にこの家全体を覆っている様に感じた。その時、何かが近づいてくる気配に気がついた。
僕は緊張してそれが何なのか知ろうと目を凝らした。何かヤバいものだったら疲れたパーカスを起こさないといけない。それは遠くに感じたけれど、不意に地上へ降り立った気がした。今、空から降りて来た?鳥だろうか。
でもそれはゆっくりと時間を掛けて柵のそばまで近づいた。その時僕はすっかり暗闇に慣れた目で、それが何か分かってしまった。あの人だ。二つの半月が朧げに照らしたのは青い髪の竜人の騎士だった。
何で定期便のあの人が?僕は起き上がるとゆっくりと窓辺に近づいた。
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