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僕は幼児
熊さんに出会った
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結局、人間がこの世界には居ないのか、知られていないのかどちらかみたいだった。年寄りは物知りと決まっている事を考えると、パーカスが知らないという事はこの世界には人間が居ない事になるのかな。
僕は考え出すのも怖い気がして、これ以上その事について考えるのは止めた。しかしパーカスの頭にあんな角が生えていたなんて全然気づかなかった。2mはありそうな体格だからちびちびな僕が見えなかったのもしょうがないか。
いや、そんな事よりどうして僕の目が緑色なんだろう。黒髪には違和感はなかったけれど、あの緑の瞳は反則だ。僕じゃないみたいだ。どこかで見た様な顔だから、もしかしたら僕の幼い頃の顔と同じなのかもしれない。
客観的に見て普通の幼児だと思うから、周囲があんなに可愛いと盛り上がるのはやっぱり理解できないな。…まぁ、幼児という存在が物珍しいだけなんだろう。
パーカスの腕の中でそんな事を考えながら、買い物を終えた僕たちがあのダチョウもどき怪鳥バッシュの所まで戻ってくると、バッシュが水気たっぷりのトマトの様なものを食べている最中なのに気がついた。
「悪いな、こいつの気が立ってたから、ちょっとエサで機嫌とってたんだ。おお、隠者様か。あんたがバッシュに乗って街に来るとは珍しいな。いつもなら自分で飛んでくるのになぁ。」
近くの小屋の様な場所から大柄な獣人がそう言いながらのそりと姿を現した。丸い耳がついているけど、なんの獣人だろう。僕は尻尾を探したけれど、全然見えなかった。そうか、熊さんか。
熊獣人はパーカスの足元に下ろされた僕を見て、わかりやすく目を見張った。流石に僕も皆が同じ反応をするので慣れてきた。僕は用心してバッシュから嘴が届かない距離に離れると、バッシュの食べているトマトの様なものを指差してパーカスに尋ねた。
「あえ、ぼくたべらえう?」
実は連れ回されたせいで喉が渇いていた。バッシュの食べているトマトもどきが凄く美味しそうに見えたんだ。すると熊さんが笑い出した。
「おいおい、あれを横取りしたら折角機嫌が良くなったバッシュがヘソを曲げるぞ?なんだ坊主、喉でも渇いたのか?トメトメは俺たちの口には合わないぞ?そうだちょうど良いものがあった。ちょっと待ってろ。」
そう言うと熊さんは小屋の中へ戻って行った。
「テディ、喉が渇いたのか。気がつかなくて済まなかったのう。ダダ鳥屋が何か持って来たぞ?ああ、あれならテディが気に入りそうだの。」
僕は期待を込めた眼差しを熊さんに向けた。何か美味しい飲み物でも持って来てくれたのかもしれない。けれども僕の目に映ったのはメロンサイズの真っ赤な丸い果物の様なものだった。ただ、白いポツポツが表面に浮き出ていて、どう考えても食べるな危険のオーラを出していた。
眉を顰めた僕の目の前にしゃがんだ熊さんが腰からナイフを取り出すと、その毒々しい丸いものの上部をサックリ切った。切れ目から見えたのは波打つ水分だった。しかも薄いピンク色で何だか美味しそうに見える。
流石に幼児の僕が持って飲むのは無理そうだと思ったのか、熊さんが僕の口元にそれを突き出した。甘い匂いに誘われた僕は、外見の毒々しさをすっかり記憶から飛ばして、切り口の縁に口をつけるとコクコクと飲んだ。
ああ、これってスイカジュースだ。少し甘みが薄いけど、その分ゴクゴク飲める。僕は夢中になって飲んだけど、直ぐにお腹いっぱいになってしまった。まったく幼児の胃袋は小さいのにも程がある。もう飲まないと思ったのか、まだなみなみと残っているスイカジュースを熊さんが一瞬で飲み干してしまった。
まだもう少し飲みたかった僕は、ショックで思わず叫んだ。
「あ゛あーっ!ぼくのちゅいか!」
口に合う食べ物を盗られた恨みで大きな声を出してしまった。思わず口を両手で塞ぐと、熊さんがガハハと笑いながら僕の頭を撫でた。
「悪かったな、坊主。スイスイならまだ沢山あるから持って帰るか?隠者様、三つくらいなら持って帰れるだろう?随分気に入った様だ。この可愛こちゃんに家で飲ませてやってくれよ。」
そう言うと小屋から三つほどネットの様なものに入れてぶら下げて来た。僕は思わず満面の笑みで両手を伸ばしてネットごと受け取った。いや、勿論持ち上げるのは無理だったけども。
「ちゅいちゅい。ちゅいちゅいおいしーね?あー、ありがとごじゃいまちゅ。」
そう言って頭を下げると、熊さんはまた楽しげに笑ってパーカスに言った。
「隠者様、こいつはご機嫌な可愛こちゃんだが、こんなちいせぇ人型は見た事ねぇな。名前はなんて言うんだ?」
それから僕たちはバッシュがトメトメを食べ終わるまで、熊さんと話をした。なんでもバッシュはダダ鳥と言って、遠くに早く行きたい時に使用する移動手段らしい。この街のダダ鳥は熊さんの所有で、パーカスがバッシュを専有で借りているそうだ。さしずめ熊さんはレンタカー会社を経営しているみたいなものだな。
熊さんはやり手らしく農場経営もしている様で、スイカジュースのスイスイやバッシュの好物のトマトもどきのトメトメなど色々作っているらしい。僕がじっと熊さんの話を頷きながら聞いていると、熊さんが笑って僕に尋ねた。
「お前さんは農場に興味があるのか?今度、隠者様に連れて来てもらえ。美味しいものが沢山あるからな。」
僕は来た時と同じ様にパーカスに括り付けられると、熊さんに見送られて来た時より少しゆっくりのペースで走り出すバッシュに乗った。景色を楽しもうと思っていたのに、結局揺さぶられてぐっすり眠ってしまったけどね。
しかも次の朝、僕は眠る前に二度とスイスイは飲まないと決意する羽目になった。
僕は、僕は…、おねしょしてしまったんだ!お尻の冷たさに気づいて朝起きた時の衝撃ですっかり青ざめた僕は、パーカスが慰めてくれればくれる程、涙目で唇を噛み締める事になった。
このちびちびな身体は、全然僕の思い通りにならないよ!
僕は考え出すのも怖い気がして、これ以上その事について考えるのは止めた。しかしパーカスの頭にあんな角が生えていたなんて全然気づかなかった。2mはありそうな体格だからちびちびな僕が見えなかったのもしょうがないか。
いや、そんな事よりどうして僕の目が緑色なんだろう。黒髪には違和感はなかったけれど、あの緑の瞳は反則だ。僕じゃないみたいだ。どこかで見た様な顔だから、もしかしたら僕の幼い頃の顔と同じなのかもしれない。
客観的に見て普通の幼児だと思うから、周囲があんなに可愛いと盛り上がるのはやっぱり理解できないな。…まぁ、幼児という存在が物珍しいだけなんだろう。
パーカスの腕の中でそんな事を考えながら、買い物を終えた僕たちがあのダチョウもどき怪鳥バッシュの所まで戻ってくると、バッシュが水気たっぷりのトマトの様なものを食べている最中なのに気がついた。
「悪いな、こいつの気が立ってたから、ちょっとエサで機嫌とってたんだ。おお、隠者様か。あんたがバッシュに乗って街に来るとは珍しいな。いつもなら自分で飛んでくるのになぁ。」
近くの小屋の様な場所から大柄な獣人がそう言いながらのそりと姿を現した。丸い耳がついているけど、なんの獣人だろう。僕は尻尾を探したけれど、全然見えなかった。そうか、熊さんか。
熊獣人はパーカスの足元に下ろされた僕を見て、わかりやすく目を見張った。流石に僕も皆が同じ反応をするので慣れてきた。僕は用心してバッシュから嘴が届かない距離に離れると、バッシュの食べているトマトの様なものを指差してパーカスに尋ねた。
「あえ、ぼくたべらえう?」
実は連れ回されたせいで喉が渇いていた。バッシュの食べているトマトもどきが凄く美味しそうに見えたんだ。すると熊さんが笑い出した。
「おいおい、あれを横取りしたら折角機嫌が良くなったバッシュがヘソを曲げるぞ?なんだ坊主、喉でも渇いたのか?トメトメは俺たちの口には合わないぞ?そうだちょうど良いものがあった。ちょっと待ってろ。」
そう言うと熊さんは小屋の中へ戻って行った。
「テディ、喉が渇いたのか。気がつかなくて済まなかったのう。ダダ鳥屋が何か持って来たぞ?ああ、あれならテディが気に入りそうだの。」
僕は期待を込めた眼差しを熊さんに向けた。何か美味しい飲み物でも持って来てくれたのかもしれない。けれども僕の目に映ったのはメロンサイズの真っ赤な丸い果物の様なものだった。ただ、白いポツポツが表面に浮き出ていて、どう考えても食べるな危険のオーラを出していた。
眉を顰めた僕の目の前にしゃがんだ熊さんが腰からナイフを取り出すと、その毒々しい丸いものの上部をサックリ切った。切れ目から見えたのは波打つ水分だった。しかも薄いピンク色で何だか美味しそうに見える。
流石に幼児の僕が持って飲むのは無理そうだと思ったのか、熊さんが僕の口元にそれを突き出した。甘い匂いに誘われた僕は、外見の毒々しさをすっかり記憶から飛ばして、切り口の縁に口をつけるとコクコクと飲んだ。
ああ、これってスイカジュースだ。少し甘みが薄いけど、その分ゴクゴク飲める。僕は夢中になって飲んだけど、直ぐにお腹いっぱいになってしまった。まったく幼児の胃袋は小さいのにも程がある。もう飲まないと思ったのか、まだなみなみと残っているスイカジュースを熊さんが一瞬で飲み干してしまった。
まだもう少し飲みたかった僕は、ショックで思わず叫んだ。
「あ゛あーっ!ぼくのちゅいか!」
口に合う食べ物を盗られた恨みで大きな声を出してしまった。思わず口を両手で塞ぐと、熊さんがガハハと笑いながら僕の頭を撫でた。
「悪かったな、坊主。スイスイならまだ沢山あるから持って帰るか?隠者様、三つくらいなら持って帰れるだろう?随分気に入った様だ。この可愛こちゃんに家で飲ませてやってくれよ。」
そう言うと小屋から三つほどネットの様なものに入れてぶら下げて来た。僕は思わず満面の笑みで両手を伸ばしてネットごと受け取った。いや、勿論持ち上げるのは無理だったけども。
「ちゅいちゅい。ちゅいちゅいおいしーね?あー、ありがとごじゃいまちゅ。」
そう言って頭を下げると、熊さんはまた楽しげに笑ってパーカスに言った。
「隠者様、こいつはご機嫌な可愛こちゃんだが、こんなちいせぇ人型は見た事ねぇな。名前はなんて言うんだ?」
それから僕たちはバッシュがトメトメを食べ終わるまで、熊さんと話をした。なんでもバッシュはダダ鳥と言って、遠くに早く行きたい時に使用する移動手段らしい。この街のダダ鳥は熊さんの所有で、パーカスがバッシュを専有で借りているそうだ。さしずめ熊さんはレンタカー会社を経営しているみたいなものだな。
熊さんはやり手らしく農場経営もしている様で、スイカジュースのスイスイやバッシュの好物のトマトもどきのトメトメなど色々作っているらしい。僕がじっと熊さんの話を頷きながら聞いていると、熊さんが笑って僕に尋ねた。
「お前さんは農場に興味があるのか?今度、隠者様に連れて来てもらえ。美味しいものが沢山あるからな。」
僕は来た時と同じ様にパーカスに括り付けられると、熊さんに見送られて来た時より少しゆっくりのペースで走り出すバッシュに乗った。景色を楽しもうと思っていたのに、結局揺さぶられてぐっすり眠ってしまったけどね。
しかも次の朝、僕は眠る前に二度とスイスイは飲まないと決意する羽目になった。
僕は、僕は…、おねしょしてしまったんだ!お尻の冷たさに気づいて朝起きた時の衝撃ですっかり青ざめた僕は、パーカスが慰めてくれればくれる程、涙目で唇を噛み締める事になった。
このちびちびな身体は、全然僕の思い通りにならないよ!
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